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はる恋愛相談所

    一昨日、友人のO君から連絡が来た。新しい彼女ができたらしい。

    ほぅ。よかったやん。(中指)

    そう思っていた翌日の夜、突然電話が鳴った。

    「彼女と別れたい。明日、相談に乗ってくれ」

    は?

    365日自宅警備員の俺は、即OKを出した。暇だからじゃない。
    友人だからだ。た、たぶん。

    会って話を聞いた。理由はプライバシーの関係で書けないが、
    端的に言えば、付き合ってから彼女が抱えているものを知らされて、
    それがどうしても無理だった、ということらしい。

    なぜ付き合ったの?。聞けば、モテたことのないO君が、
    ぐいぐい来る相手に言われるがまま頷いただけだった。

    俺ら27歳ぞ? と思いながら、それでも丁寧に話を聞いた。
    そして、付き合って一日で無理だと思うなら、
    その恋愛はたぶん厳しい、とだけ伝えた。

    しょうがない、はる恋愛相談所、頭フル回転。

    スペック

    念のためO君のスペックを並べておく。

    身長180、体型は細め、顔は普通、清潔感あり。
    正社員で安定して働いていて、車もある、一人暮らしもしている。
    優しいし、こっちのノリにも合わせてくれる。

    おかしなところもそれなりにある。だがトータルで見れば、
    悪くない物件だ。むしろ良い物件のはずだ。

    なのにモテない。なぜだ。


    ふと結婚相談所を調べた。入会金11万、月額2万。
    27歳の庶民には厳しい世界だ。そっと閉じた。


    まず、はる恋愛相談所はO君の良さについて考えた。


    O君の良さは、一緒に長くいるとどんどん面白みと、
    優しさを感じる。…..つまり湿布だ。

    これがO君の良さであり、悲劇のすべてを言い当ててる。

    考えてみてほしい。湿布を貼った瞬間、何も起きない。
    シュワッともしないし、効いてる感もない。
    栄養ドリンクなら飲んだ瞬間に「効いてる感じ」がするが、
    湿布にはそれがない。

    しかも一番厄介なのは、効いていることに本人すら気づかないことだ。
    気づくのはいつも後からだ。「あれ、いつの間にか痛くなくなってる」と。

    つまりO君の人間の魅力は、その場ですぐには出てこない。
    じわじわ良さが聞いてくる湿布タイプだ。

    これがO君だ。一緒に長くいて初めてじわじわ効いてくる男。
    だが、その「初めて」までたどり着く前に、全員が立ち去っていく男。
    マッチングアプリとは相性が物凄く悪いのだ。

    マッチングアプリというのは、要するに薬局の棚だ。

    棚に並んでいるのは、ほとんどが栄養ドリンクだ。
    パッケージが派手で、「効きます」と大声で叫んでいて、
    飲めばすぐシュワッとくる気がするやつ。
    プロフィール写真、身長、年収、気の利いた一言。


    全部「効いてる感」を演出するための表示。

    棚の前に立った人間は、数秒で判断する。当たり前だ。
    みんな自分の時間が惜しい。じっくり選んでいる余裕なんてない。だから「効いてる感」のあるものに手が伸びる。

    湿布は、この棚では勝てない。


    なぜなら湿布の価値は「効いてる感」ではなく「効くこと」そのものだからだ。そして「効くこと」は、時間をかけて使ってもらわなければ証明できない。棚の前の数秒では、何も伝わらない。

    O君が負けているんじゃない。
    湿布系男子が、栄養ドリンク系男子の棚に並ばされている。
    それだけの話だ。


    ここでもうひとつ、O君の中で別の問題もある。


    彼はあまりモテた記憶がないのだ….(ごめん、O君。)

    モテたことがない人間は、「選ばれる」経験がない。
    だから「選ぶ」筋肉が育っていない。


    初めてぐいぐい来られたとき、相手をちゃんと評価する前に流される。
    そして翌日、我に返って「無理だ」となる。

    ここに残酷な皮肉がある。

    本来、湿布系男子の人間こそ、時間をかけて相手を見極めたいはずだ。
    じっくり噛み合うかどうかを確かめたいタイプのはずだ。
    なのに、選ぶ筋肉がないせいで、誰よりも速攻で流され、誰よりも速攻で壊す。

    一番じっくり型のはずの男が、一番せっかちな結末を迎えている。


    湿布なのに、貼って一日で剥がした。

    なぜ、こんなことになったのか。

    昔は、遅効性の人間にもちゃんと居場所があった。職場、地元、部活、同じ店の常連。要するに「同じ顔と何度も会う場所」だ。

    そういう場所では、湿布は勝手に効いていった。
    誰も数秒で判断したりしない。
    毎日顔を合わせるうちに、「あの人、なんかいいな」がじわじわ滲んでくる。遅効性の価値が、放っておいても証明される構造があった。

    現代は、その「遅い場所」を片っ端から解体した。
    そして「一瞬で判定する市場」に置き換えた。

    アプリは出会いを効率化したと言う。だが効率化とは何か。
    速効性の指標だけ残して、遅効性を切り捨てること だ。

    だからO君の価値が消えたわけじゃない。価値を計測する場所のほうが、
    この世から消えたんだ。湿布が効かなくなったんじゃない。


    湿布を貼って待てる時間を、誰も持たなくなった。


    そもそもO君の遅効性が見えているのは、俺が友人だからだ。長い時間をかけて、こいつが効いてくるのを実際に体感したからだ。
    見ず知らずの他人に、O君をじっくり見極める義務なんてどこにもない。


    市場は冷たい。だが、別に間違ってはいない。
    みんな自分の人生が一回きりで、時間が惜しくて、だから速効性を求める。それを責める資格は、誰にもない。

    そしてもうひとつ。

    この相談に乗っている俺は、365日自宅警備員だ。
    スペックは 無職、生活保護、ブラックリスト…..はは。

    湿布系男子の価値を語っている人間が、プラセボ(偽薬)系男子。

    笑えるだろ。







     
     
    六畳一間の哲学者。 躁鬱・ADHD・ASD。 社会のレールからは外れてる20代後半 俺の哲学と屁理屈で、 刺さる人に刺さる哲学を 観測者は、たぶん俺だけ。 相棒の猫はシュレ。

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