
ダンジョン第2階層:【実録】「99%の絶望」を反転させる遠隔詠唱。不器用な泥臭き『本音(アナログ)』の魔法〈前編〉
前回の物語はこちら👇️👇️👇️
01:強制ログアウト〈休職〉
「……おい、いつまで燃えカスを見つめている ワン」
「自分のステータスが初期化されたからって、黄昏れている暇はないぞ」
夜のかもめ広場。
最強ギルド(外資系コンサル)のSランクのギルドカード(名刺)を、俺は業火に焚べた。
ただ、灰を見つめていた。
50歳にして辿り着いた虚像の栄光。
そして、呪縛(うつ病)による【強制ログアウト(休職)】という絶望。
脂汗を流し、すべてを失った。
座り込む俺の姿は、ひどく滑稽だろう。
『超高位魔法(AI)時代に立ち向かう魔法無効の物理刃(自分軸)だと大口を叩いた』
『貴様のその刃』
『ずいぶんと錆びついているようだな』
ツン(魔犬)が、呆れたように鼻を鳴らす。
『最強ギルド(大企業)のメッキの下』
『一番大切な原点の魔法を、すっかり忘れているんじゃないか ワン?』
『原点……?』
02:クロノス・ハウル〈幻影召喚〉
『そうだ ワン』
『これを見るがいい……!!』
ツンが前足で虚空を引っ掻くように振るう。
その瞬間。
呪文が夜気を裂いた。
「過去よ、吠えろ 【クロノス・ハウル(幻影召喚)】……!」

目の前の空間が、ぐにゃりと歪む。
光の粒子が集まる。
空中に半透明の巨大な四角い映像ウィンドウが浮かび上がった。
「な、なんだこの魔法は……」
「映像が、空中に……!?」
「貴様の錆びついた脳みそに直接、アーカイブ(過去の記憶の幻影)を再生して見せてやる ワン」
03:マッド・シーカー〈モブ冒険者〉

『見ろ』
『貴様がまだ大したスキルもなく、ただのMP(情熱)だけで魔境(ビジネス社会)を這いずり回っていた30歳』
『【マッド・シーカー〈モブ冒険者〉】の頃(2000年代初頭)だ』
『最適解(タイパ)なんて言葉すら知らなかった、泥にまみれた遠隔詠唱(電話営業)の日々を思い出せ』
空中の画面に映し出されていた。
それは間違いなく、俺だった。
まだ少しだけ髪の毛が残っていた頃の俺。
煌びやかな最強ギルドで高位魔導士を気取るずっと前。
泥臭く、必死に足掻いていた俺の姿。
そうだ。
俺の最初の武器。
それは果てしなく泥臭い「本音」だった。
04:コール・リジェクト〈強制切断〉
とある魔法習得の学校(資格学校)で、スキル布教の中堅魔導師(営業係長)をしていた。
冒険者たちに新たなジョブ(資格)の魅力を伝える。
スキル布教クエスト(新規開拓営業)だ。
手渡されたのは、通信魔導具(電話)と果てしなく続く標的クエストの束(顧客名簿)。
冒険者がその価値に気づかない魔法陣(スキル)の巻物(商材)。
声だけの魔法で丁寧に勧めていく。
だが、魔導具(受話器)に声を込めるたびに返ってくるのは、冷酷な拒絶だった。

「迷惑なので、二度と電話してこないでください!」
ガチャッ……。
ツーツーツー……。
一方的【コール・リジェクト〈強制切断〉】の音。
冷たい牢獄(オフィス)に虚しく響く。
鼓膜を刺す拒絶のダメージ。
俺のMPを確実に削り取っていく。
だが、無理もない。
見知らぬ者からの遠隔詠唱(電話営業)など、不気味な精神攻撃(呪詛)と同じなのだ。
100人に遠隔詠唱する。
やっと1人が話を聞いてくれるかどうか。
ドロップ率(成約率)は、わずか1%。
05:ノー・バリュー〈極限の非効率〉
現在、王都の最強ギルド(外資コンサル)に身を置くS級冒険者である。
当時の状況を魔導板(パソコン)で弾き出したなら、その『正解(ロジック)』は極めて冷酷なものになるだろう。
【ノー・バリュー〈極限の非効率〉】
工数の無駄だ。
そんなクエストは直ちに破棄すべし。
だが、その頃のモブだった俺。
そんなシステムの「正解」など知る由もない。
この1%を。
「たった1%しかない」と絶望するのではない。
「1%の確率で、誰かの人生を変えられる」
俺は信じていた。
泥水をすするような執念を燃やしたのだ。
06:アジャイル・レジリエンス〈絶望耐性〉
「ガチャ切り」
という即死級魔法を、1日何百回喰らおう。
俺には修羅場で鍛えたパッシブ・スキルがあった。
未来相場取引ギルド(先物会社)の遠隔詠唱(電話営業)の術式。
1,000人中1人のドロップ率をくぐり抜けて身につけた。
【アジャイル・レジリエンス〈絶望耐性〉】だ。
谷底よりも深い溝であるアダマンタイト(冥縛鋼)級のメンタル。
しかも、かなりのポジティブシンキング(能天気)。
「転ぶのは前に進んでいる証拠」
本気で言ってのける。
独房のような防音結界(ブース)の中。
俺は、ただ淡々と『魔法無効の物理刃』を研ぎ澄まし続けた。
そして、通信型魔導具(電話)をかけ続けた。
07:テレパシック・サーチ〈広域幻聴索敵〉
ある日の夕暮れ。
俺の遠隔詠唱(電話営業)が、一人の不定期クエスト女性冒険者(派遣社員のOL)に繋がった。

『はい……』
聞こえてきたのは、気だるく沈んだ声。
だが、俺の索敵スキル。
【テレパシック・サーチ〈広域幻聴索敵〉】
受話器越しの音情報だけで彼女の背後の空間を探知済みだった。
遠くで響く老いぼれ貴族(おじさん上司)の無神経な怒声。
カタカタと響く魔導具(キーボード)の音。
そして、彼女の小さいため息。

「こんなことを続けていても、何の意味もない……」
彼女は絶対的な上下関係の鎖に縛られていた。
諦めの呪いにかかっていたのであった。
よろず屋(コンビニ)の魔導書(女性情報誌)で見た上位女騎士(バリキャリ女性)に憧れた。
そして、なんとなく巻物(資料)を取り寄せただけだった。
「あ、資料請求しただけなんで……」
「結構です」
分厚い防壁。
※絶対拒絶の結界:心のシャッター。
冷ややかな拒絶。
通信は一方的に断たれた。
08:バグ・トラッカー〈弱点自動追尾〉
普通の冒険者(営業)なら、引き下がるだろう。
だが、俺の追尾スキル【バグ・トラッカー〈弱点自動追尾〉】は嗅ぎ分けていた。
彼女の言葉の裏にあった。
「現状をどうにかしたいという本音」を引き出せるのか。
あの老いぼれ貴族の怒声が、響く牢獄(オフィス)の中。
彼女が本音を言えるはずがない。
俺は、彼女が帰路につくタイミングを見計らった。
数時間後。
再び通信型魔導具(電話)から遠隔詠唱を放った。
「……はい」
街の喧騒と、疲労が滲む声。
今度は、あの忌まわしい怒声は聞こえない。
09:トゥルー・アンロック〈真実の心解錠〉
俺は量産型の幻惑魔法(マニュアル)を捨てた。
無骨な魂の言葉(本音)を選んだ。
ここからが俺の真骨頂。
遠隔・誘導系統の魔導【テレパシック・コマンド〈遠隔意識誘導〉】の詠唱だ。
魔導機構(システム)に任せるのは、標的リストだけ。
言霊と魔力(情熱:Soul)。
生身のすべてを注ぎ込む。
「夜分に申し訳ありません」
「先程は時間外討伐クエスト(残業)中に申し訳ございませんでした」
少しの沈黙。
俺は重い口を開く。

心を解きほぐす魔法【トゥルー・アンロック〈真実の心解錠〉】を込めて、問いかけた。
「今、何かに不満があるのではないですか?」
その一言。
彼女の固く閉ざされた心の扉の鍵穴に。
「カチッ」とハマった音が微かに聞こえた。
次回予告:【ダンジョン3階層】
誰もが超高位魔法(AI)の「正解っぽい仮面」を被る。
嫌われることを恐れて本音を飲み込む時代。
だが、薄っぺらい定型文では決して救えない魂がある。
心の奥底(コア)を溶かすのは、綺麗事や呪文じゃない。
泥臭く、不器用で、格好悪い「魂の血」を流した本音のアナログ魔法だけだ。
次回、『マスク・ブレイカー〈仮面看破〉』。
お前の胸の奥で錆びついた鎖、俺が断ち斬ってやる ワン!
【迷宮の深淵へようこそ】
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