いかだでひとりでアメリカへ渡った少年の話。承認欲求の裏側。
娘が小学3年生の時の話だ。
娘が週末に旅行へ行くという話をしたら、クラスメートの男の子A君がこう言ったそうだ。
「俺なんか、この間、いかだでアメリカに1人で行ったんやで。家族にバレないように、夜中に家をこっそり抜け出した。途中、サメがいたけれど、槍で退治した。そして家族が朝起きる前にアメリカから家に帰ってきたんや。」
なんとも可愛らしい9才の男の子のヒーロー願望が映し出されたような言葉だ。
私はそれを聞いて、なんだかA君のことが、じんわり愛おしいような気持ちになった。
私が、その場にいたら、迷わず、
「すごいね!かっこいいね!」
と、A君に何度も言っていただろう。
だが、そのエピソードが事実だと信じるには無理がある事は、小学3年生の娘の目にも明らかだった。
「A君は、そんな嘘ばっかり言うから、いやだ。」
娘は、私にそう言って呆れた顔をして、少し怒っているようにも見えた。
まだ母性のかけらもない9才の女の子の発言は残酷なものだ。
その後、すぐに被せるように、別のクラスメイトの男の子B君が、こう言ったそうだ。
「俺なんか、毎週末ブラジルに行ってるんや。」
それを聞いて、私は思わず、爆笑しながらも、彼らのことが健気で可愛らしくて、なんだか温かい気持ちになった。
そのエピソードを早速、夫にも伝えてみた。
そして彼も私と同様、愛おしそうに
笑った。そして、
「可愛らしいな。だけどいくらなんでも話、盛りすぎやろ。」
と少しだけ、馬鹿にしたように言った。
その時、私は、夫の小さな頃のエピソードを思い出した。
彼は小学生の時、鯖が食べられることを担任の先生に褒められたことがとてもうれしかったそうだ。
その後、参観日の日に、好きな食べ物を発表する機会があって、そこで『鯖。』と答えた。
その後、家に帰ると、母親から『恥ずかしいから、もっと高級な食べ物を言いなさい。』と言われたそうだ。
その時、本当は『大きくなったら、大好きなチョコレートを、お腹いっぱい食べてやる』と思っていて、鯖はそこまで好きではなかったらしい。
また、ある日、彼は寒い日に半ズボンを履いていたことを担任の先生に、『強いね、元気でえらい。』と褒められたそうだ。
それからというもの、彼はどんなに寒い日でも、1年中半ズボンで 毎日登校した。そのせいで、夫に張り合って半ズボンで登校していたクラスメイトの1人の男の子が、肺炎で入院してしまったそうだ。
それだけ彼らは必死だったのだろう。
担任の先生の軽はずみな褒め言葉に罪があるのは、否めない。
だが、夫にもまた、AくんとB君と同じで『誰かに褒められたい認められたい』という純粋で強い気持ちがあったのだろう。
夫とそんな昔話に花を咲かせ、
「まあ子供だから、それが承認欲求だなんて分からないよね。」
と、2人ともなんだか大人ぶった口調で締めくくった。
その時、私の携帯の音が『ピロン』となった。
私のノートのフォロワーさんが1人増えたと言う通知だった。
確認すると、83人目のフォロワーさんだった。
私はすぐに目の前の夫に、興奮気味に言った。
「またフォロワーさん増えたよ。フォロワー100人ぐらいになったよ。
すごいでしょ!
ねえ。スキの数も最新記事、50くらい行きそうだよ。」
実際には現時点では、スキの数は35だった。いやいや、フォロワーもスキの数も、大分サバ読みすぎだな私。
「へー、すごいやん。」
夫の平坦な褒め方に、かなり不満な私だった。
『大人の承認欲求は、子供のように可愛いなんて思ってもらえないよね。』
『だけど、誰かに認められたいという気持ちは、何歳になってもみんなの中にあるものじゃないのかな。』
と、その時、私はふとそう思った。
もしも、だれかの承認欲求に気づいても、
『大人なのに自慢なんかして子供っぽいな。格好わるいな。恥ずかしいな。』
なんて、片付けてしまうのは寂しい気がする。
なぜなら、その裏には、きっとその人が一生懸命に頑張っている姿が隠れているに違いないから。
『あなたの認められたい気持ち、わかるよ。私もそうだよ。頑張ってるもんね。』
そう心の中で、お互いにそう愛しく思いあえたら、優しい世界が広がるのではないかなと、しみじみ思ったのだった。
夫の鯖の話を笑っていた私も、実は盛大にサバを読んでいたというお話でした。
★こちらの記事もおすすめ!
↓
