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音が消えた日。

    こたろうが息を引き取った日。
    昼間の私はとても冷静でした。
    涙は溢れていましたが、その前にやらなければいけない事があります。

    まず真っ先にしたのは、こたろうの目を閉じること
    そして夏場だったので、体をしっかりと冷やすことです。

    寝てるだけよね?って錯覚してしまうぐらい
    穏やかな顔をしてたんですよね。
    まだ息があるんじゃないか?って思うぐらいに
    寝てるだけにしか見えなくて…
    けど、呼吸はないんです。
    どんなに注意深く見てもピクリとも動かないんです。

    頭では分かってるんですよ。
    もうこたろうの命は旅立ったことを…けどね、わたしに
    見えてる光景は寝てるだけにしか見えないんですよ。
    どうしてもね、どうしても寝てるだけにしか見えないんです。

    けど頭では分かっているので、しっかりと体を冷やしたり
    娘が拭いてくれたおかげで綺麗ではありましたが
    もう1度顔や体を拭いたりしてるんですよ。
    「息してくれないかな…」って思いながら…

    「こた、よくここまで生きたね、大好きだよ
    置いていかないでよ、まだ一緒にいたいよ。
    起きてほしいな、もう無理なのは分かってるけど
    それでもこた起きてほしいな」
    そう話しかけながら、体を拭いたりしていました。

    こたろうを大切にしてくれた友人たちへの連絡や
    火葬のことを前もってその時に
    慌ててしまわないように決めていたので
    連絡をしたりなど、わたしは最期までしっかりと
    こたろうを見送る義務があります。
    最期までしっかりとやりたかったんです。

    一通り終わった後、やっぱり何度見ても
    寝てるだけにしか見えないんです。

    いつも通り夕方に寝てるだけじゃん!って思うんです。
    けど、こたろうの体からは体温が消え
    生きてることなんてないって分かるのに。
    分かっているのに受け入れられないまま
    いつも通り、家族にご飯を作り
    いつも通り、夜が来て
    今までこたろうのどんなささいな音にでも反応できるように
    あまりテレビは見ないようにしてました。
    見てたとしても、朝のニュースぐらいで
    後は携帯で小さな音でyoutubeを見てました。

    ふっとね、気がついたんです。
    音が消えたって。

    こたろうが寝てる寝息。
    こたろうが起きた時に、足をパタパタするので
    それの擦れる布の音。
    こたろうのあくび。
    起こしてくれと訴える声。
    車椅子に乗る音。
    車椅子の軋み音。
    回転するタイヤの音。
    水をあげようと動くわたしの足音。
    水を飲む音。
    ご飯を食べる音。
    オムツを変える音。
    「こたは今日もかわいいねー」という私の声と
    抱きしめる音。

    当たり前にあって
    色んな音に囲まれて
    当たり前に過ごしていたのに
    その全ての音が消えて
    とても冷たく、静かな夜がきました。

    その事に気がついた時に
    今までの人生の中で味わったことのない
    感情の波に飲まれて
    わたしは自分を抑えることができなかったです。

    悲しい、辛い。
    こたろうを返して欲しい。
    置いていかれた。
    こたろうがいなくなってしまった。
    寂しい、どうしよう、こたろう。
    どうして、どうして。
    置いていかないで。
    そばからいなくならいでよ。
    目をあけてよ。
    こたろう、置いていかないで…

    そんな負の感情に飲まれて
    泣いても泣いても、涙は止まらず。
    こんなに苦しいなんて知らなかった。
    こんなに心が痛むなんて知らなかった。

    泣きじゃくってるわたしの横で
    こたろうは穏やかな顔のままなんですよ。
    わたしがこんなに苦しんでるのにですよ?
    なのに、いつも通り寝てるだけにしか見えないなんて…

    「なんなのっそんな顔してさ。むかつく。
    死んでも可愛いと思えるなんてむかつく。
    こたろう、愛してるよ、いつだって可愛いね。」

    目から入ってくる光景で理解はできているんです。
    現実に起こってることに対して理解はできます。
    理解はできても追いつかないです。

    正しい事実は、「こたろうが亡くなったこと」これのみです。

    でも、わたしはそこを分かっていても
    分からないんですよね。
    しっかりとわたしが最期の世話までしているんです。
    自らの意思で。
    それでも、言葉にするのは難しいですが
    嘘であって欲しい。夢であって欲しい。
    現実じゃないで欲しい。こんな現実知らない。
    わたしにはこんな現実はいらない。
    いやだよ。こたろうがいない世界なんて。
    感情はぐちゃぐちゃで、自分で制御するなんて無理でした。

    この日も変わらず同じ布団で一緒に過ごしました。
    人間うとうとしちゃうもので、ちょっとうとうとしてた頃
    「ぐぅ〜」
    こたろうから聞こえたんです。

    反射的に思ったのは「え?こた?!息した?!」です。
    けどすぐに、そんな事じゃないのは分かります。
    体内に溜まったガスが出ただけの音だなんてことは分かります。

    分かっていても、頭では理解できていても
    どうしても希望を持ちたくなる。
    どうしても息するんじゃないかって希望を持ちたくなる。

    自分で何度も何度も触って、抱きしめて
    生きていない事を知っているのに…

    感情の波に飲まれて、苦しんでいたら
    あっとゆーまに夜が明けて朝が来ました。

    ほんと、憎たらしい。
    時間ってやつは止まって欲しいって願っても
    勝手にすぎていくんだから。

    朝になっても、こたろうはいつも通り寝てるだけにしか見えなくて。
    まだ頭も体も混乱していて。

    すっかり冷えた体を抱きしめながら
    「こた、朝がきちゃったよ。おはよう。
    いつもみたいに、今日は公園いけるかな?
    まずは水飲んで、ご飯食べてからにしよっか。
    そんな会話ももうさせてくれないんだね。」

    日常にあった、全てが当たり前だった。
    朝のこたろうとの会話も。
    あぁ、本当に、こたろうの音が消えてしまったんだなって。
    愛おしかったすべての日常が。
    当たり前だったこたろうとの日々が、静かに消えていく朝を迎えました。


     
     

    sao

     
     
    私とこたろうギンとの物語。 しば犬の介護生活のリアルと その後のペットロスについて。

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