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◆第1話◆郚䞋は、蟞めるず決めた日から黙るのではない。黙った日から、䌚瀟を蟞め始めおいる

    この物語は党5話の連茉です。

    【1on1の定矩1on1ずは】
    郚䞋の成長を通じお成果を最倧化し、
    そのための次の最適行動を
    本人が意思決定できる状態を぀くる「堎」

    #創䜜倧賞2026 #ビゞネス郚門

    延べ10,000名以䞊の1on1実瞟ず、24幎にわたる組織マネゞメント経隓をもずに、組織開発・人材育成を支揎する1on1専門家、今竹英治です。珟堎で培った実践知を䜓系化し、䞊叞ず郚䞋の関係性を敎えながら、䞀人ひずりの成長ず組織成果を぀なぐ1on1マネゞメントを提䟛しおいたす。

    詳现は1on1専門家 今竹英治ぞ

    十六時過ぎ、䞭堂さんは埗意先である食品卞の担圓者から、電話で少し匷めの口調で玍期の確認をされおいたした。

    「今月䞭には、絶察に間に合わせおもらわないず困るんですよ」

    「はい、工堎偎には確認を取っおおりたすので、今週䞭に改めおご連絡いたしたす」

    電話を切ったあず、䞭堂さんは䞀瞬、隣の垭の先茩に盞談しようかず思いたした。工堎偎の生産ラむンの郜合で、今月䞭の玍品は正盎、五分五分だったからです。誰かに、この䞍安を話しおおきたい。そう思っお顔を䞊げたしたが、先茩は別の電話で忙しそうにしおいたした。

    ——たあ、倧䞈倫だろう。

    䞭堂さんはそう自分に蚀い聞かせお、パ゜コンの画面に向き盎りたした。この「たあ、倧䞈倫だろう」を、今日だけで䜕回蚀っただろうかず、ふず思いたした。数えおいたわけではありたせんが、癖のように、口の䞭で唱えおいた気がしたす。

    十八時四十分。フロアの照明は半分萜ちおいお、営業郚の島には䞭堂さんず森䞋さんの二人しか残っおいたせんでした。

    窓の倖はただ薄明るく、六月の倕方特有の、昌でも倜でもない光がブラむンドの隙間から差し蟌んでいたす。䞭堂さんはノヌトパ゜コンの画面を閉じかけた手を、途䞭で止めたした。

    「今日の1on1、始めたしょうか」

    森䞋さんがそう蚀っお、隣の䌚議宀の鍵を開けたした。䞭堂さんは怅子を匕きながら、頭の䞭で今週の数字を䞊べ盎しおいたした。新芏開拓は目暙の八割。既存顧客のフォロヌは滞りなく。特に問題はない、はずでした。

    䌚議宀に入るず、い぀もの䜍眮に座りたす。森䞋さんが手垳を開き、䞭堂さんもノヌトを開きたす。この儀匏めいた動䜜を、もう五幎近く繰り返しおきたした。

    「最近どう」

    森䞋さんの第䞀声は、い぀もこれでした。䞭堂さんは「特に問題ないです」ず答えたす。これも、い぀もの返事でした。

    「そう。じゃあ今週の商談から聞こうかな」

    䞭堂さんは先週蚪問した䞉件の商談に぀いお話し始めたした。䞀件は受泚確床が高く、䞀件は保留、䞀件は先方の担圓者が異動になり仕切り盎しになったこず。森䞋さんはうなずきながらメモを取りたす。

    「異動になった件、倧䞈倫」

    「はい、新しい担圓の方にはもう挚拶枈みです」

    「そっか。䞭堂さんはそういうずころ、本圓に早いよね」

    䞭堂さんは小さく頭を䞋げたした。耒められるこずには、もう慣れおいたす。慣れおいる、ずいう蚀葉が正しいのかどうか、自分でもよくわかりたせんでした。

    「あずさ、来月の目暙なんだけど」

    森䞋さんが手垳のペヌゞをめくりたす。䞭堂さんは背筋を少し䌞ばしたした。ここからが、い぀もの本題です。

    「新芏のリヌド、あず䞉件は積んでおきたいんだよね。䞭堂さんなら、いけるず思うんだけど」

    「はい、頑匵りたす」

    その蚀葉が口から出た瞬間、䞭堂さんは自分でも驚くくらい、䜕の抵抗もなく蚀えたこずに気づきたした。頑匵りたす。この五幎間、䜕床この蚀葉を口にしおきたでしょうか。数えたこずはありたせんが、少なくずも数癟回にはなるはずです。

    森䞋さんは満足そうにうなずき、手垳に䜕か䞀蚀メモを曞き加えたした。䞭堂さんには、それがどんな蚀葉なのか芋えたせんでした。

    「そういえば、さっき電話しおたよね。倧きい声、聞こえたけど」

    䞍意にそう聞かれお、䞭堂さんは䞀瞬、答えに詰たりたした。あの、玍期を巡る少し匷めのやり取りのこずです。

    「あ  倧䞈倫です。ちょっず玍期の件で確認が入っただけで」

    「ふうん、倧䞈倫そう」

    「はい、倧䞈倫です」

    森䞋さんは軜くうなずいお、それ以䞊は聞きたせんでした。䞭堂さんは、もう䞀蚀、続けようかどうか迷いたした。工堎のラむンの郜合で、今月䞭の玍品が五分五分だずいうこず。もし間に合わなければ、たた今日のような電話が続くかもしれないこず。話そうず思えば話せたはずです。けれど、口を開く前に、頭のどこかで別の声がしたした。

    ——今、それを話しおも、䜕が倉わるわけでもない。

    その声に抌されるように、䞭堂さんは䜕も蚀いたせんでした。森䞋さんは次の話題に移りたした。育䌑から埩垰したばかりの埌茩の話、来期の組織倉曎の噂、そんな雑談めいた話が続きたす。䞭堂さんは盞槌を打ちながら、頭の片隅で違うこずを考えおいたした。

    ——今、自分は䜕を考えおいただろう。

    䞀瞬前たで確かに䜕かを考えおいたはずなのに、それが䜕だったのか思い出せたせん。頑匵りたす、ず答えた瞬間に、自分の䞭の䜕かが静かに匕っ蟌んでいったような感芚がありたした。

    「じゃあ、今日はこんなずころで。䜕か聞いおおきたいこずある」

    森䞋さんが手垳を閉じかけたす。これも、い぀もの締めの蚀葉でした。䞭堂さんは「倧䞈倫です」ず答えかけお、なぜか䞀瞬、蚀葉が喉のずころで止たりたした。

    「  あ、いえ。倧䞈倫です」

    蚀い盎しお、笑顔を䜜りたした。森䞋さんは特に気に留めた様子もなく、「お疲れさた」ず蚀っお先に䌚議宀を出おいきたした。

    䞭堂さんは䞀人、䌚議宀に残りたした。ノヌトには、今日の商談の芁点が䞉行だけ曞かれおいたす。あずは癜玙でした。

    䞉十分の1on1で、自分は䜕を話しただろう。商談の進捗、来月の数字、それだけです。他に䜕か話したいこずがあったのか、そもそも話したいこずなどなかったのか、それすらもう刀然ずしたせん。

    ノヌトを閉じお、鞄にしたいたす。立ち䞊がっお䌚議宀を出るずき、ふず壁の時蚈が目に入りたした。十九時十分。1on1は、きっかり䞉十分で終わっおいたした。

    垰りの電車の䞭で、䞭堂さんはスマヌトフォンを芋るでもなく、窓の倖の流れる景色をがんやり眺めおいたした。

    さっきの䌚議宀でのやり取りが、頭の䞭で䜕床も再生されたす。䜕がひっかかっおいるのか、自分でもうたく蚀葉にできたせんでした。森䞋さんが悪いわけではない、ず思いたす。話は聞いおくれるし、無理な芁求をするタむプでもない。むしろ䞁寧な䞊叞だず、呚りからもそう蚀われおいたす。

    それなのに、あの䞉十分が終わったあず、い぀も同じ感芚が残りたす。䜕かを話したはずなのに、䜕も話しおいないような。盞談したはずなのに、盞談する前ず䜕も倉わっおいないような。

    ——「頑匵りたす」以倖に、自分は䜕を蚀っただろう。

    そう考えお、䞭堂さんは少し息が詰たるような感芚を芚えたした。

    同期の田村くんが半幎前に異動願いを出したずきのこずを思い出したす。田村くんも、1on1では特に䜕も問題を蚎えおいなかったはずでした。䞊叞は「たさか」ず驚いおいたした。䞭堂さんも、正盎、少し意倖でした。田村くんはい぀も「順調です」「倧䞈倫です」ず答えおいたからです。

    でも今、電車に揺られながら、䞭堂さんは思うのです。田村くんはあのずき、本圓に順調だったのだろうか。それずも、順調だず答えるこずが、いちばん早くその堎をやり過ごす方法だっただけなのだろうか。

    自分は今、田村くんずどれくらい違うのだろう。そう考えたずき、うたく違うず蚀い切れない自分に気づきたした。

    電車が倧きく揺れお、䞭堂さんは吊り革を握り盎したした。向かいの窓に、自分の顔ががんやり映っおいたす。疲れおいるようにも、そうでもないようにも芋える、い぀もの顔でした。

    入瀟したばかりの頃を思い出したす。あのころは、1on1で話したいこずが山ほどありたした。この商談のここが䞍安です、この進め方で合っおいるか自信がありたせん、正盎この目暙蚭定は厳しいず感じおいたす——そういう蚀葉が、聞かれる前から口を぀いお出おいたした。

    い぀からだろう、ず䞭堂さんは思いたす。い぀から、聞かれたこずにだけ、しかも聞かれた分だけ答えるようになったのだろう。

    はっきりずした境目は思い出せたせん。ただ、䜕床か「それは今考えるこずじゃないかな」ずやんわり流されたこずがあった気がしたす。䜕床か「䞭堂さんならそのくらい自分で刀断できるでしょ」ず蚀われたこずがあった気がしたす。䞀぀ひず぀は、責められるようなこずではありたせんでした。むしろ、信頌されおいる蚌拠なのかもしれない、ずそのずきは思っおいたした。

    でも、ず䞭堂さんは思いたす。あの「それは今考えるこずじゃないかな」を重ねた先に、今日の「特に問題ないです」があるのだずしたら。

    電車が駅に着き、扉が開きたす。降りる人、乗っおくる人の流れの䞭で、䞭堂さんは動かずに立っおいたした。次の駅で降りる自分の番たで、ただ少し時間がありたした。

    家に着いお、灯りを぀けないたた、しばらく玄関で立ち尜くしおいたした。

    なぜだかわからないけれど、今日の1on1のこずが頭から離れたせんでした。特別なこずは䜕も起きおいたせん。い぀も通りの䞉十分で、い぀も通りの䌚話をしお、い぀も通り「頑匵りたす」ず蚀っお終わっただけです。

    それなのに、䜕かが違いたした。

    䞭堂さんは灯りを぀けお、鞄からノヌトを取り出したした。䌚瀟で䜿っおいるものずは別の、私物のノヌトです。開いたペヌゞは、ほずんど癜玙でした。

    ペンを持っお、少し迷っおから、䞀行だけ曞きたした。

    「今日、䜕を話したか思い出せない」

    その䞀文を芋぀めながら、䞭堂さんは自分の䞭で䜕かが動き始めるのを感じおいたした。それは怒りでも、悲しみでもありたせんでした。もっず静かで、もっず確かな、䜕かぞの気づきに近いものでした。

    自分はこの五幎間、䜕を話しおきたのだろう。䜕を話さずにきたのだろう。そしおそれは、誰かに止められおいたからなのか、それずも自分自身が、話さないこずを遞び続けおきたからなのか。

    その問いに、ただ答えは出たせん。でも䞭堂さんは、初めおその問い自䜓から目をそらさずにいる自分に気づきたした。

    ノヌトを閉じ、鞄の䞭にしたわず、机の䞊に眮いたたたにしたした。明日も、この続きを曞く぀もりでした。

    怅子に座ったたた、䞭堂さんはしばらく倩井を芋䞊げおいたした。゚アコンの効いおいない郚屋の空気が、少しず぀重たくなっおいくのがわかりたす。窓を開けるず、遠くで電車の音がしお、すぐに消えたした。

    森䞋さんのこずを、嫌いなわけではありたせん。むしろ、いい䞊叞だず思っおいたす。無茶な指瀺もしないし、進捗もきちんず芋おくれたす。それでも、あの䞉十分の䞭で、自分の䞭にある本圓の䞍安や迷いを、䞀床も蚀葉にできたこずがない。それはなぜなのか、䞭堂さんにはただうたく説明できたせんでした。

    もしかしたら、ず䞭堂さんは思いたす。もしかしたら自分は、聞かれおいないから話さなかったのではなく、話しおも仕方がないず、どこかで決めおしたっおいたのかもしれたせん。それずも、話すこずでこの穏やかな関係が厩れるこずを、無意識に恐れおいたのかもしれたせん。

    どちらだずしおも、ず䞭堂さんは思いたした。このたた黙り続けおいたら、自分はきっず、田村くんず同じずころに行き着く。誰にも予兆を芋せないたた、ある日突然「蟞めたす」ずだけ告げる、あの静かな去り方に。

    䜕かが倉わったわけではありたせん。䌚瀟も、䞊叞も、仕事の内容も、䜕䞀぀倉わっおいたせん。

    けれど䞭堂さんの䞭で、今たで動かなかった䜕かが、静かに、けれど確かに、動き始めおいたした。

    明日、自分がどう動くのか。それはただ、䞭堂さん自身にもわかりたせん。ただ、このたた䜕も倉えずに「頑匵りたす」ず蚀い続けるこずだけは、もうできないだろうずいう予感だけが、はっきりずありたした。

    机の䞊のノヌトに、もう䞀床目を萜ずしたす。「今日、䜕を話したか思い出せない」ずいう䞀文の䞋に、䞭堂さんは新しく䞀行を加えたした。

    「次は、自分から話しおみる」

    曞き終えお、ペンを眮きたす。それが具䜓的に䜕を意味するのか、誰に、䜕を、どんな蚀葉で話すのか、ただ䜕も決たっおいたせんでした。それでも、曞いおしたったその䞀文を、消す぀もりはありたせんでした。

    灯りを消しお寝宀に向かう前に、䞭堂さんはもう䞀床だけ、机の䞊のノヌトを芋たした。明日の朝、もう䞀床これを開くだろうず、なぜか確信めいたものがありたした。

    窓の倖では、い぀もず同じ倜が続いおいたした。䜕も倉わっおいないはずのその景色が、今日だけは少しだけ違っお芋えたした。

    この物語は党5話の連茉です。


     
     
    䞊叞ず郚䞋の関係性を敎える1on1蚭蚈支揎の専門家。セコム27幎、珟堎・管理職・経営芖点で組織づくりを実践。珟堎起点の1on1、リヌダヌ育成、共創マネゞメントを通じお、倚様な人材が力を発揮し、䌁業が持続的に成長する仕組みづくりを支揎。今竹英治

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