
50代、熟年離婚したいけどお金が不安|離婚前に確認すべき経済シミュレーション
「離婚したい。でも、その後の生活が不安で…」
長年連れ添った夫との生活。もう限界だと思っています。
子どもも独立し、夫婦二人だけの時間が増えた今、「このまま人生を終えたくない」という思いが日に日に強くなる。でも、踏み出せない理由があります。それは「お金」です。
専業主婦だった、あるいはパートしかしてこなかった。離婚したら、どうやって生活していけばいいのか。老後の資金は足りるのか。年金だけで暮らしていけるのか——そんな不安が、離婚への一歩を躊躇させています。
しかし、厚生労働省のデータによれば、令和4年に同居期間が20年以上の夫婦が離婚した数は3万8990組で、全体の約22%を占めている状況です。熟年離婚は決して珍しいことではなく、多くの人が同じ不安を乗り越えて新しい人生を歩み始めているのです。
熟年離婚で最も重要なのは「事前の経済シミュレーション」です。きちんと計算し、準備すれば、経済的な不安は大幅に軽減できます。
この記事では、熟年離婚を考えているあなたが、離婚前に確認すべき経済シミュレーションの方法を、具体的にお伝えします。
まず知るべき現実—離婚後にいくら必要なのか
感情だけで離婚を決めてはいけません。まず、冷静に数字を見ていきましょう。
2021年の総務省統計局「家計調査年報」によると、単身世帯の消費支出は1カ月平均155,046円です。これを基に、60歳で熟年離婚した場合の生涯必要額を計算してみましょう。
60歳で離婚した場合の生涯必要額
男性の場合(平均寿命81歳まで):16万円×12ヶ月×21年=4,032万円
女性の場合(平均寿命87歳まで):16万円×12ヶ月×27年=5,184万円
この数字を見て、目の前が真っ暗になったかもしれません。さらに、高齢であることを踏まえると介護費用なども上乗せされてくるため、必要な生活費はもっと増えることになります。
しかし、慌てる必要はありません。これはあくまで「全額を一人で用意しなければならない」わけではないのです。
離婚でもらえる「4つのお金」を正確に把握する
熟年離婚では、配偶者から受け取れるお金があります。これを正確に把握することが、経済シミュレーションの第一歩です。
もらえるお金1:財産分与
離婚に限らないが、離婚の際は婚姻中に形成した資産から年金に至るまで、共有財産は原則として2分の1ずつ分割されます。
専業主婦だったあなたも、家事や育児で夫を支えることで財産形成に貢献しています。専業主婦である妻でも、夫が働ける環境を整え、家庭に貢献しているため、財産分与を受ける権利があります。
財産分与の対象となるのは以下の通りです。
預貯金(夫名義でも分割対象)
不動産(自宅、投資用物件など)
有価証券(株式、投資信託など)
自動車
退職金(すでに受け取っている場合、または受け取りが確実な場合)
生命保険の解約返戻金
重要なのは、熟年離婚の場合、通常の離婚と異なり、夫側にも妻側にも、離婚後の生活面での問題が生じる可能性があり、婚姻期間が長かったために、財産分与の対象となる財産が高額になりがちです。
たとえば、夫名義の預金が1000万円、自宅の価値が2000万円、退職金が2000万円ある場合、その半分の2500万円を受け取る権利があることになります。
もらえるお金2:年金分割
年金分割とは、離婚に際し、婚姻期間中に納付した厚生年金の保険料納付記録(標準報酬)を分割する制度です。
妻が専業主婦で、夫が厚生年金保険に加入している場合、妻は保険料を支払わなくても、国民年金の第3号被保険者として扱われます。離婚してしまうと、妻は国民年金だけになってしまうことから、年金分割により、婚姻中に夫が支払った厚生年金の保険料の2分の1を、妻が支払ったものとして扱うことになり、これを元に、将来妻の年金額が算定されます。
具体的な金額については、熟年離婚の場合、妻が貢献してきた期間が長くなることから、得られる金額が大きくなる傾向があります。年金分割による年金受給額の平均増加額は月3万円程度である一方、熟年離婚の場合は、月7万円程度も年金受給額が増えるケースがあります。
年額でいうと、熟年離婚する方が年金分割をしなければ、年間70万円程度にとどまる一方、年金分割を行うと年間150万円程度の年金を受給できるケースがあります。
ただし、重要な注意点があります。年金分割は、夫がもらえる年金の半額をまるまる妻がもらえるわけではありません。分割対象となるのは、厚生年金、いわゆる2階建て部分のみであり、基礎年金の部分は分けられません。また、婚姻期間中の年金だけが対象です。
一般的なサラリーマン家庭の場合、月数万円程度とみておいていいでしょう。
もらえるお金3:慰謝料
慰謝料は離婚に際して、一方が他方に与えた精神的苦痛に対して支払われる賠償金で、慰謝料が発生するのは不貞行為(浮気・不倫)だけではありません。DVやモラハラも離婚原因となりえ、慰謝料請求の対象になります。
ただし、熟年離婚の多くは性格の不一致や価値観の違いが理由であり、この場合、高額の慰謝料請求は難しくなります。
もらえるお金4:婚姻費用(別居中の生活費)
離婚が成立するまでの別居期間中、収入の多い方が少ない方に生活費を支払う義務があります。これを「婚姻費用」と言います。
別居してから離婚成立までの間、この婚姻費用を請求することで、当面の生活費を確保できます。
年金分割の具体的な手続きと注意点
年金分割は熟年離婚において非常に重要ですので、詳しく見ていきましょう。
年金分割の2つの方法
年金分割制度には、合意分割と3号分割があります。
合意分割とは、夫婦の合意または裁判所の手続きによって分割割合を決める方法です。按分割合は、夫婦の話し合いで決めることができますが、合意できない場合は、家庭裁判所に調停又は審判を申し立てて決めることができます。
3号分割とは、国民年金の第3号被保険者だった者からの請求により、相手側の厚生年金の保険料納付記録を2分の1ずつ分割する方法です。3号分割の特徴は、相手の同意なしで単独で分割を請求できることです。
ただし、3号分割の対象となるのは2008年4月以降の保険料のみです。熟年離婚の場合には、保険料の一部が分割の対象から外れてしまう可能性があるのです。そのため、結婚した時期次第では、合意分割によって2008年以前の保険料を含ませる旨の合意が重要となることもあります。
年金分割の金額を事前に調べる方法
熟年離婚をお考えの方にとって、年金分割は、老後の生活保障として重要になる可能性が高いため、正確な金額を離婚前から調べておくことが必須になります。
具体的には、以下の手順です。
「年金分割のための情報提供請求書」を年金事務所に提出し、「年金分割のための情報通知書」を取得します。
50歳以上の方で老齢年金の受給資格期間を満たしている方は、「年金分割を行った場合の年金見込額のお知らせ」も取得できます。
この手続きは、相手に知られることなく一人で行うことができます。
年金分割の期限
年金分割は、離婚から2年が経過すると請求できなくなります。離婚後は新生活で忙しく、つい忘れてしまうことがあるため、離婚前にきちんと準備しておくことが重要です。
離婚後の生活費シミュレーション—具体的な計算方法
では、実際にあなたの場合、離婚後の生活が成り立つのか、シミュレーションしてみましょう。
ステップ1:離婚後の月々の支出を計算する
離婚後の毎月の生活費として、以下の項目を具体的に書き出してください。
住居費(家賃、住宅ローン、管理費、固定資産税)
食費
水道・光熱費
通信費(スマホ・固定電話代、インターネット代)
医療費
保険料(健康保険、年金、生命保険、医療保険など)
雑費(被服費、交通費、交際費、美容院代など)
貯金
実家に戻る場合と、自分で新居を構える場合では、大きく金額が変わります。
ステップ2:離婚後の月々の収入を計算する
自分の仕事の収入(パート、正社員など)
年金(現時点での受給額または見込額)
年金分割による増加分
ステップ3:一時的に入ってくるお金を計算する
財産分与で受け取れる金額
慰謝料(該当する場合)
ステップ4:収支のバランスを確認する
月々の収入が支出を上回っているか確認します。不足する場合、以下の選択肢を検討します。
働く時間を増やす
支出を見直す(住居費を抑える、生活レベルを下げるなど)
財産分与で受け取ったお金を取り崩す
具体例:専業主婦Aさん(58歳)の場合
財産分与で受け取れる金額:1500万円(預金500万円、自宅売却分1000万円)
年金分割後の見込み年金額:月12万円(65歳から)
パートの収入:月8万円
月々の支出:15万円と想定すると、65歳までは月8万円の収入で月15万円の支出をまかなうため、月7万円の赤字。7年間で約600万円が必要。財産分与の1500万円から600万円を使い、残りは900万円。
65歳以降は年金12万円+パート8万円=月20万円の収入で、月15万円の支出なら月5万円の黒字。この黒字分と残りの900万円で老後を過ごす——このような計算ができます。
離婚前に準備すべき5つのこと
経済シミュレーションができたら、次は具体的な準備に入ります。
準備1:財産のリストアップを徹底的に行う
離婚を切り出すと、中には財産を隠す配偶者もいるため、夫婦で築き上げた財産は事前に調査しておくことをおすすめします。熟年離婚は共有財産が多く、財産分与で話し合いが難航する事例が多いといわれています。離婚を切り出す前に財産のリストアップと調査は念入りに行っておきましょう。
具体的には、以下を確認します。
すべての銀行口座の残高(通帳のコピーを取る)
証券口座の内容(株式、投資信託など)
不動産の評価額
生命保険の種類と解約返戻金
退職金の見込額
ローンや借金の有無と残高
準備2:離婚前から仕事を探しておく
熟年離婚後の生活費で困らないための対処法として、離婚前から仕事を探しておくことが重要です。結婚中仕事をしていなかった方はフルタイムの仕事に就き経済的な自立をしてから離婚すると経済的な不安が和らぎます。
50代での再就職は簡単ではありません。だからこそ、離婚前から動き出す必要があります。
準備3:住まいの確保
離婚後の住居を確保しておくことも重要です。実家に戻るのか、賃貸を借りるのか、自宅を財産分与で受け取るのか——住まいは生活費の大きな部分を占めるため、慎重に検討してください。
準備4:離婚条件の交渉を弁護士に依頼する
離婚条件の交渉を弁護士に依頼することも選択肢の一つです。特に、財産分与や年金分割について相手と意見が合わない場合、専門家の力を借りることで、あなたの権利を守ることができます。
準備5:子どもや家族への説明
熟年離婚では、成人した子どもがいることも多いでしょう。子どもたちにどう説明するか、事前に考えておくことも大切です。
「お金がないから離婚できない」は本当か
ここまで読んで、「やっぱり自分には無理かもしれない」と思った方もいるかもしれません。
しかし、考えてみてください。今のまま我慢して生き続けることと、経済的に少し厳しくても自由に生きることと、どちらがあなたにとって幸せでしょうか。
熟年離婚を考える際にもっとも気になることは経済的な問題です。しかし、これからのひとり暮らしでどの程度の生活費がかかるのか知ることは、老後の設計のためには大変重要です。
経済シミュレーションの目的は、「離婚を諦めさせること」ではありません。「現実を知り、準備すること」です。
実際、多くの人が経済的な不安を乗り越えて熟年離婚を実現し、「離婚してよかった」と感じています。重要なのは、感情だけで突き進むのではなく、冷静に数字を見て、準備することなのです。
今日からできる最初の一歩
熟年離婚を本気で考えているなら、今日から動き始めてください。
まず、以下の3つを今週中に行ってください。
家計簿をつける:現在の生活費を正確に把握します。1ヶ月間、すべての支出を記録してください。
財産のリストアップを始める:家にある通帳、保険証券、不動産の権利証——すべてをリストにします。
年金事務所に行く:「年金分割のための情報提供請求」を行い、年金分割でどれくらい増えるか確認してください。
この3つを行うだけで、あなたの経済状況が明確に見えてきます。
あなたの人生は、あなたが決める
50代での熟年離婚は、確かに経済的なリスクを伴います。
しかし、経済的な不安だけで、残りの人生を我慢して過ごすことが正しい選択でしょうか。人生は一度きりです。あと30年、40年と続く人生を、どう生きるかはあなたが決めることです。
熟年離婚の場合、長年にわたり夫婦で築いてきた財産の他、退職金や年金分割など、離婚後の生活設計に欠かせないお金が絡む問題が多くなります。第二の人生をスタートさせた後に「こんなはずじゃなかった」と後悔しないためにも、熟年離婚に関するお金について押さえておきたいポイントを理解することが重要です。
きちんと計算し、準備すれば、経済的な不安は大幅に軽減できます。そして、あなたが望む自由な人生を手に入れることができるのです。
まずは、勇気を出して最初の一歩を踏み出してください。必要なら、専門家に相談してください。あなたの人生は、あなた自身の手で変えることができます。
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