メインコンテンツへスキップ
見出し画像

狼の守り人 #3つのお題に空想のひらめきを

    ​約1000字・ショートショート


    僕には、誰にも言えない秘密がある。

    感情が高ぶると、僕の影が狼の形に変わってしまうのだ。

    『守り人の血』。

    一族の年寄りはそう呼ぶけれど、僕にとっては不便きわまりない呪いでしかなかった。

    だから、なるべく感情を殺して、誰とも関わらないように生きてきた。

    あの日、雨のバス停で、クラスメートの愛里紗に会うまでは。  

    不意の雨に降られたのか、彼女は軒下で小さく肩をすくめていた。

    濡れた髪が、白い首筋にはりついている。毛先から滴る雨のひとしずくが、鎖骨のくぼみへと滑り落ちていく。

    影は僕の動揺をこれでもかと代弁するように、大きく、不格好に歪んだ。

    「あ、影、狼だ! かっこいい!」

    彼女が、弾んだ声を上げる。

    バレた。心臓が大きく跳ねる。

    「……怖くないのか。化け物みたいだろう」

    精一杯の拒絶を込めて言ったのに、彼女は「全然」と首を振った。

    「狼さんは寂しいのかな?」

    そう言って、彼女は僕の影をなでるように手を伸ばした。

    それからだ。愛里紗は毎日、僕に話しかけてくるようになった。

    彼女と話すと、僕の影は主人の意志を無視して、まるで犬が尻尾を振るように嬉々として揺れる。

    隠したくても、影はどこまでも正直だった。  

    ​夏祭りの夜。人混みの向こうで、酔っ払った男たちが愛里紗に絡んでいるのが見えた。

    「やめろ!」

    駆け寄った瞬間、胸の奥で熱いものが爆発した。

    怒りに呼応して影が膨れ上がり、巨大な狼となって壁に牙を剥く。

    男たちが腰を抜かして逃げていくのを見届けて、僕は自分の能力が恐ろしくなった。

    暴力的な力を見せて彼女を怖がらせてしまった。そう思って、その場から逃げ出そうとしたとき。

    「待って! 行かないで!」

    愛里紗が僕の背中にしがみついた。柔らかな体温が、シャツ越しに伝わってくる。

    「……怖かっただろ。こんな力」

    「違うよ。守ってくれたんでしょ? ありがとう、私の守り人さん」

    彼女の声は、どこまでも優しかった。背中から伝わる熱に、尖っていた影が、ゆっくりと丸くなっていく。

    僕は初めて、自分の中の狼と仲直りできた気がした。  

    ​それから。

    影の制御は前より上手くなったけれど、たまに感情が溢れてしまうことがある。

    「あ、また尻尾振ってる!」

    隣で笑う彼女を見て、僕の影は今日も嬉しそうに形を変える。

    この力は、大切な人を守るために与えられた、僕だけのギフトなのだ。


    画像
    にゃおおおおおおん


     
     
     
    ショートショートとか童話とか落語とか声劇台本とかジャンルにこだわらずいろいろ書いてる猫。

    あなたへのおすすめ