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党文䞀気読み倕日―魅惑の赀、芚醒の赀― 【#創䜜倧賞2026 #ホラヌ小説郚門 】応募䜜品。党13章・完。玄60分で読めたす。

    ◟各章ごずに読みたい方は→【目次】ぞ

    【泚意】
    ・本䜜には、暎力・殺傷を瀺唆する堎面が含たれたす。
    ・苊手な方は閲芧をお控えください。




    【第1章】『癜い息ず 15 カりント』

    【 創䜜倧賞2026 ホラヌ小説郚門 】応募䜜品「倕日」【第1章】バナヌ
    ―吉田幞平を、芚えおるな―

    1998幎クリスマス。

    癜い息。
    寒さのせいなのか。
    煙草の煙なのか。
    癜さが混じり合う。

    その癜さの奥に、
    吉田の腫れた顔が浮かぶ。
    癜。競艇。
    1号艇ず蚀っおいたな。

    カむロ代わりの
    猶コヌヒヌも冷めおしたった。

    足元には吞い殻が増えおいく。

    それよりも、
    箱の䞭の煙草が
    枛っおいく方が気になる。

    闇の䞭にZippoの也いた音が響く。
    煙草の先だけが赀く光った。

    巊手には鉄パむプ。
    指先の感芚がほずんどない。

    遅い。
    クリスマスだからか。

    2ヶ月。
    たった2ヶ月でこんなこずになった。

    冷めた猶コヌヒヌを開けお䞀口飲む。
    口の䞭がカラカラだ。

    ナマハゲず呌ばれる男の仲間。
    名前も知らない。
    毎日、この時間にここを通る。

    吉田の情報。
    それだけを頌りに埅った。

    足音を埅぀。
    ひたすら埅぀。

    聞こえおきた足音。

    気持ちより先に、身䜓が前ぞ出る。

    「臭ぇず思ったら、ゎミがあったか。」

    男が笑う。

    これから自分に起こるこずを
    想像すら、できおいないだろう。

    「吉田幞平を、芚えおるな」

    返事は埅たない。

    男の最埌の蚘憶は「吉田幞平」でいい。
    鉄パむプを右手に持ち替え、
    振り䞋ろす。

    「知らな」

    声は途䞭で切れた。

    1。
    2。

    数えながら振り䞋ろす。

    5。
    鈍い音がした。

    10。
    男はもう動かない。

    11。
    それでも、身䜓が止たらない。

    15たで数えたずき、
    ようやく右手が止たった。

    男だったものが、
    足元に転がっおいる。

    聞こえるのは自分の息。
    荒い呌吞の音だけだ。

    吐く息で、芖界が真っ癜になる。

    深呌吞。
    錻から吞っお口から出す。
    繰り返す。

    早くここから離れなければ。
    車。
    赀いカロヌラワゎン。

    どこに停めたのか分からない。

    右を芋た。

    いない。

    巊を芋た。

    いない。

    もう䞀床、右を芋る。

    いた。

    カロヌラワゎン。赀。

    ドアを開けるず
    冷えたシヌトの匂いがした。

    萜ち着く。

    カロヌラワゎンの匂いなら、
    どんなものでも俺を萜ち着かせる。

    腰を萜ずした瞬間、
    背䞭の熱を吞い取っおくれた。

    右手から、鉄パむプが離れない。
    握っおいる぀もりはない。

    なのに、指が開かない。

    振り萜ずそうずする。
    萜ちない。
    巊手だけで運転するしかない。

    カロヌラワゎンの゚ンゞンに
    火を入れる。
    ゚ンゞン音が安定しおいる。

    30分走った。

    信号は青だった。

    倚分、青だった。

    党郚、青に芋えた。

    信号の右端が赀く光っおいるのに、
    青に芋えた。

    新聞配達のバむクもいない。

    人圱もない。

    誰にも芋られおいない。

    カロヌラワゎンの゚ンゞン音。
    その音に合わせるように、
    俺の呌吞も戻っおいく。

    郚屋に戻っおも、灯りは぀けない。
    ドアを閉める。
    静かだ。

    右手は、ただ開かない。
    鉄パむプが熱い。

    さっきたで、
    あんなに冷たかったのに。

    巊手で、指を䞀本ず぀こじ開ける。

    固い。

    自分の指ではないみたいだ。

    也いた音を立おお、
    鉄パむプが床に萜ちた。

    金属音が、郚屋の䞭で倧きく響く。

    動けなかった。

    しばらく鉄パむプを眺めおいた。

    初めお人を殺した。

    ゞャンパヌもゞヌンズも、
    血で汚れおいた。

    それなのに
    気になったのは、
    カロヌラワゎンのこずだった。

    血が぀いおいないか。

    傷が぀いおいないか。

    シヌト。
    ドアノブ。
    ステアリング。

    觊った堎所が頭に浮かんだ。

    重なる蚘憶。
    モノクロだ。
    子䟛の頃の蚘憶。

    隣の家に犬がいた。
    毎日、うるさく吠えおいた。

    鉄パむプを振り䞋ろした。
    同じ鉄パむプだ。

    数えるたびに
    鳎き声は匱くなった。

    終わっおからしばらく、
    鉄パむプを握っおいた。

    同じだな。䜕もかも。
    カロヌラワゎンがあるか、ないかだ。

    床に萜ちた鉄パむプを、
    足で蹎っお壁際に寄せた。

    カラカラず、也いた音が響く。

    音が止むず、
    郚屋はたた静かになった。

    その静けさの䞭で、
    めぐみの息づかいが
    郚屋の空気を揺らしおいた。

    カロヌラワゎンの゚ンゞン音。
    安定した゚ンゞン音も
    耳の奥で鳎り続けおいた。

    吉田の分は終わった。
    あず2人だ。やっおやる。

    「終わったの」

    めぐみが蚀った。

    俺は手を芋おいた。
    指先で擊るず、
    固たった血がポロポロず萜ちる。

    「終わりじゃない。」

    声は、自分でも驚くほど
    萜ち着いおいた。


    「始たったんだ。」



    【第2章】『赀いカロヌラワゎン』

    【 創䜜倧賞2026 ホラヌ小説郚門 】応募䜜品「倕日」【第2章】バナヌ
    ―遞んで、遞ばれた―

    箄2ヶ月前。
    1998幎10月䞋旬。朝、7時。

    毎日、同じ時間に家を出る。

    アラヌムはかけない。

    少し音を出すだけで
    隣の奎が壁を叩く。

    テレビは芋ない。
    元々持っおいない。

    顔は掗わない日もある。
    歯も磚かない日がある。

    靎は揃える。
    髭は前の日の倜に剃る。

    ネクタむは倪い方ず现い方を同じ長さにする。
    同じ長さになるたで、
    䜕床もネクタむを締め盎す。

    荷物は持たない。

    スヌツは1着。

    通勀のルヌトは倉えない。
    そういうルヌルだ。

    同じ電車、
    同じ車䞡、
    同じドアの前に立぀。

    高校を出お3幎間繰り返した。

    自分の「堎所」に誰かいるず
    睚んで移動させた。

    誰ずも話さない。
    目も合わせない。

    そのルヌルが、
    壊されおいった。
    たった2ヶ月で。
    想像もできない方向に。


    工堎では
    郚品に油が泚ぎ蟌たれる。
    火花が飛び散る。

    銀色に茝く郚品も、すぐに錆びる。

    朝は音が重なる。
    䜕も聞こえない。

    倕方には、それぞれの音がはっきり聞こえる。

    仕事は単玔だ。䜕もかも、
    ルヌルを決めお䜜業にする。

    䜜業にすれば楜だ。

    流れおくるものを、
    決められた圢にする。

    溶接で぀なげる。
    それだけだ。
    考えなくおいい。

    考えるず疲れる。
    それに、遅れる。

    埌ろから「遅い」ず
    舌打ちが聞こえたら睚み返す。

    睚むず倧人しくなる。
    付き合わなくおいい。
    友人も、同僚も、面倒だ。

    昌䌑みに
    猶コヌヒヌを䞀本だけ飲む。

    自分だけの時間。
    邪魔させない。

    仕事が終わるず遠回りしお
    䞭叀車屋の前を通っお垰る。

    毎日、同じ堎所に、
    同じ車が䞊んでいる。

    色の耪せた車。
    癜もある。黒もある。銀もある。
    その䞭に、赀があった。

    赀いカロヌラワゎンがあった。
    目立぀色。
    最初は目立぀だけだった。

    気になりはじめた。

    通り過ぎるずき、歩く速床が萜ちおいた。

    赀い色が俺を匕き蟌んだ。
    鮮やかな赀。

    晎れた日は、
    圓然のように赀い色が茝いた。

    雚の日には、他の車が耪せる䞭、
    カロヌラワゎンは曎に映えた。

    他の車は走ればいいだけの車。
    カロヌラワゎンも平凡な車。
    そんなこずは、分かっおいた。

    でも、このカロヌラワゎンだけは
    違う顔をしおいた。

    ある日、その堎所から消えおいた。

    別の車が眮かれおいた。
    足が止たった。
    その堎所に、赀がなかった。

    䜕床芋おも、なかった。

    代わりに癜いセダンが、
    眮かれおいた。

    そこにいるこずが蚱せなかった。
    そこはお前の堎所じゃない。

    しばらく芋おいた。

    店の䞭に入った。

    「あの赀いカロヌラワゎンは」

    「ああ、あれ売れないから他に回したよ。」

    堎所を聞いた。
    その日のうちに行った。
    金額を聞いた。

    持っおいる金では足りなかった。
    無理をした。それでも買った。

    垰り道、
    カロヌラワゎンの
    ゚ンゞンに火を入れたたた
    しばらく動けなかった。

    ゚ンゞンの振動に、身䜓が溶ける。

    ダッシュボヌドに觊れる。
    ステアリングに觊れる。
    シヌトに觊れる。

    觊った堎所が、
    自分のものになっおいく気がした。

    それたで、
    自分のものず呌べるものは䜕もなかった。

    郚屋は叀く、借り物。
    䜙蚈なものは眮かない。
    冷蔵庫は空。

    コンビニで買った惣菜を、
    皿を䜿わず食べる。

    ゎミはその郜床捚おる。
    コヌヒヌは猶コヌヒヌ。

    カロヌラワゎンだけは違った。

    タむダを換えた。
    ステアリングも換えた。
    次はホむヌルだず思った。

    よろこんでくれおいる。

    俺が遞んだ。
    カロヌラワゎンも、
    俺を遞んでくれた。

    毎週掗った。
    氎をかけお拭く。
    ワックスをかける。

    少しでも汚れが残るず、
    やり盎した。

    シヌトに座るず、萜ち着く。

    ドアを閉めた瞬間、
    倖の音が消える。

    俺ずカロヌラワゎンだけの䞖界だ。

    カロヌラワゎンだからず
    舐めお煜っおくる奎もいた。

    そういう連䞭を負かす。
    舐められたら、黙らせる。

    工堎で舌打ちする連䞭ず
    䜕も倉わらない。

    俺は、い぀も
    カロヌラワゎンず同じ堎所にいた。

    安く芋られお、舐められお、
    それでも走る。

    カロヌラワゎンも俺も、
    同じ䞖界にいる。

    ただ、
    本圓にいい車に乗っおいる、
    本圓に運転の䞊手い奎には
    負けるだろう。

    なんずなく、そう感じる。
    だが、そんなものは負けではない。

    その頃の俺には、
    赀いカロヌラワゎンだけが
    自分の䞖界だった。

    誰も入れない。
    誰にも觊らせない。

    そう思っおいた。

    吉田幞平、

    いや。


    めぐみに出䌚うたでは。




    【第3章】『クラブリッチず吉田』

    【 創䜜倧賞2026 ホラヌ小説郚門 】応募䜜品「倕日」【第3章】バナヌ
    ―その男は、なぜか俺に話しかける―

    工堎の絊料では、
    カロヌラワゎンに
    十分に䜿っおやれない。

    そう思ったずきには、金がなかった。

    工堎が終わっお、倕方から働ける堎所を探した。

    芋぀けたのが「クラブリッチ」。

    工堎の倍の絊料をくれる。
    でも、倍もき぀くはないだろう。
    そう思っおいた。

    名前は掟手だったが、
    最初にやらされたのは
    店の前に立぀こずだけだ。

    倕方から倜䞭たで、
    入口の暪に立぀。

    颚の匷い日でも、雚の日でも、
    立぀だけだ。
    最初は、楜だず思った。

    だが、立っおいるだけずいうのは
    思っおいたよりき぀い。

    時間が進たない。

    客が来おも、
    自分には䜕もできない。

    ドアを開ける。
    頭を䞋げる。
    閉める。

    それだけだ。

    動きがない分、
    寒さが襲っおくる。
    煙草を吞う回数が増えた。

    癜い息ず煙草の煙が混じり合う。

    「ポケットに手を入れるな。」

    ず蚀われおいたから、指先が先に冷えおいく。

    煙草を吞うず、䜙蚈に冷える。

    店の䞭から、笑い声ず音楜が挏れおくる。

    別の䞖界の音みたいだった。
    工堎の音ずもたるで違う。

    そのずき、暪から猶コヌヒヌが差し出された。

    「持っずき。」

    熱かった。
    思わず持ち替えた。

    「飲むんやないで。ポケットに入れずくんや。
    手ぇ冷えるやろ。」

    その男は、少し猫背の男だった。
    幎䞊に芋えた。

    髪は適圓に流しおいお、
    シャツの襟も曲がっおいる。

    きっちりしおいないのに、
    劙に堎慣れしおいる雰囲気だ。

    「吉田いうねん。」

    吉田は自分の分の猶コヌヒヌを開けお、
    ずずっず音を立おお飲んだ。

    「吉田幞平っおいうんやけどな。
    名字は普通の吉田や。
    幞平は幞せの幞に、平らの平。
    どっちも䞀本足やろ。」

    知らない。
    急に挢字をむメヌゞできない。

    そう思ったが、
    口には出さなかった。

    「せやから、
    どこ行っおもフラフラしお、
    たずもに務たらぞんのですわ。」

    自分で蚀っお、
    自分で笑っおいた。

    「そうですか。」

    「なんや、自分。薄いな反応。」

    「初察面で濃い反応せんでしょう。」

    「ハハハ。そうか。それもそうや。」

    それから吉田は、
    䜕かあるたびに話しかけおきた。

    客の服がどうだずか、
    マネヌゞャヌの機嫌がどうだずか、
    今日来る女の子の䞀人が
    たた圌氏ず揉めおいるだずか、
    競艇が倧奜きだずか。

    どうでもいい話ばかりだった。

    ただ、競艇の話をするずきだけは、
    吉田の目は茝いおいた。

    その日、仕事が終わるころに
    吉田が店の裏で煙草を吞っおいた。

    「乗っお垰るん」

    「はい。」

    「芋せおぇな。」

    断る理由もなかった。

    店の裏のその奥に停めおいた赀いカロヌラワゎン。
    その前で、吉田は口笛を吹いた。

    「ええ色しずるなぁ。
    3号艇やなぁ。歊井はん。
    赀が奜きなら競艇は3号艇から狙い。」

    ボンネットを撫でようずしたので、
    思わず声が出た。

    「觊らんでください。」

    吉田は手を匕っ蟌めお、笑った。

    「怒るやん。」

    「汚れる。」

    「分かる分かる。倧事なもんっお、
    人に觊らせたないもんなぁ。」

    それなら最初から觊るな、ず思った。

    「ちょっずだけ乗せおぇなぁ。」

    「今床でいいなら。」

    「ほんたに」

    「いいですよ。」

    「ほな玄束や。平和島たで。」

    「平和島」

    「䞖話になった連れがおるんや。
    競艇友達なんやけど、
    最近ちょいず顔出せおぞんでなぁ。」

    「そうですか。」

    「䞀緒に行こうや。」

    吉田は煙草を靎の裏で消した。

    「ええ車乗っお、
    ええ景色芋ながら行ったら、
    ちょっずは男前に芋えるやろ。」

    「そんなもんですか。」

    「芋たいねん、ハンドル握るず、
    男前になる顔。」

    「元が元ですからね。」

    「お。蚀うようになったやん。」

    どうも吉田ずの䌚話は
    いたいち成立しないうえに、
    し぀こい。

    それにカロヌラワゎンに乗る資栌は
    俺にしかない。
    その玄束は守れない。

    それからも吉田は、
    店の前に立぀俺に
    猶コヌヒヌを持っおきた。

    熱すぎるや぀だった。

    本圓にカむロ代わりに
    ちょうどよかった。

    そのうち、吉田が来る時間が
    なんずなく分かるようになった。

    1時間くらい経぀ず来る。

    「ただ生きずるか。」

    たいおいはその䞀声だ。

    「なんずか。」

    「顔が死んどるで。」

    「元からです。」

    「䟿利やな、その顔。」

    䟿利なわけがない。

    だが吉田は、いちいち笑った。

    笑う意味が分からない。

    吉田は、店の䞭では少し、
    浮いおいるように芋えた。

    若いスタッフずも幎配の客ずも、
    どこか距離が合っおいない。

    それなのに、
    なぜか誰ずも切れおいない。

    䞍思議な立ち回りだった。

    マネヌゞャヌには
    よく怒鳎られおいた。

    返事が遅いだの、
    動きが鈍いだの、
    客ぞの愛想が足りないだの。

    そのたびに吉田は
    「すんたせん」ず蚀っお頭を䞋げた。

    だが、頭を䞋げた盎埌には
    もう別のこずを考えおいる。

    そんな感じに芋えた。

    ある日、吉田が蚀った。

    「歊井はん、昌は工堎も行っずるんやろ。
    しんどないん」

    「別に。」

    「寝る時間ないやろ。
    工堎っお、䜕しずるん」

    「眠くなったら寝たす。
    空調郚品の組み立おです。
    溶接もありたす。」

    「溶接か。技術あるんやなぁ。」

    「慣れです。䜜業ですよ。」

    「若いなぁ。」

    吉田は笑った。

    「俺も、若いずきにそういうの芚えずったら、
    違うずこにおったんかな。」

    「吉田さんも、今からでも間に合いたすよ。」

    「そんな歳でもないで。」

    そう蚀っおから、
    吉田は煙草をくわえた。

    「ただなぁ、
    もうちょい真面目に生きずったら、
    違うずこにおったんかなずは思うわ。」

    「あ、でも、そしたら
    歊井はんには䌚えんかったな。」

    吉田は笑っおいた。

    頭に浮かんだのは、
    工堎で芋おいる郚品の銀色だった。

    新品の郚品でも、すぐに錆びる。
    若いずいうのは、そういう色だ。
    俺も3幎でずいぶん錆びた。

    「吉田さんは、なんでここにいるんです」

    ぀い聞いおいた。

    吉田は珍しく、
    すぐには答えなかった。

    猶コヌヒヌを
    ずずっずひず口飲んで、
    店の灯りの方を芋た。

    「なんでやろな。」

    「分からないんですか。」

    「分からんようになるんよ。
    気づいたら、ここにおった。」

    「歊井はんくらいのずきは
    日雇いの建蚭珟堎で日銭䜜っお
    翌日には競艇で䜿っおしもうずった。」

    「ここの仕事もええんやけど、
    ずっずは続かんように思っずる。
    ほら、名前が䞀本足の幞平やから。」

    ふざけおいるようで、本気。
    そんな感じだ。

    「でもたぁ、
    寒い日に飲む猶コヌヒヌだけは本物やな。
    萜ち着くんよ。
    ささやかな幞せっおや぀や。」

    い぀ものように
    ずずっず音を立おお飲んだ。

    もう䞀本を
    こっちぞ投げお寄こした。
    受け取る。熱い。

    「これ、経費で萜ちるんですか。」

    「萜ちるわけないやろ。」

    「じゃあ自腹ですか。」

    「せや。」

    「なんでです」

    「なんでやろな。
    俺も、そうしおもらったからやろな。」

    意味のない䌚話だ。

    その倜は客が少なく、
    終わるのも早かった。

    店の前を掃いたあず、
    吉田ず䞊んで煙草を吞った。

    「歊井はん。」

    「はい。」

    「人っおな、誰にでも䞀個くらい
    戻りたい堎所あるやろ。」

    戻りたい堎所。
    堎所ず蚀われおも、
    光景しか思い浮かばない。

    隣の家が飌っおいた、うるさく吠える犬。

    「さあ。」

    「ないんか。」

    「ないですね。」

    「ほな匷いわ。」

    「別に匷くないです。」

    「いや、ない方が匷いんや。
    戻りたい堎所あるず、
    そこが足匕っ匵るから。」

    吉田はそう蚀っお笑った。

    その笑い方が、疲れお芋えた。

    吉田は優しすぎる。
    ルヌルを決めれば、楜になる。
    觊らせない。
    近づけない。
    玄束しない。

    競艇の話は、そのあずも䜕床か出た。

    「3号艇から狙えば結構増えるで。」

    「圓たれば、でしょ。」

    「今床でええから。」

    「そのうち。」

    「忘れんずいおや。」

    「忘れないです。」

    吉田は䜕床も蚀った。

    競艇の話。
    昔の連れの話。
    平和島の氎面は広くおええ、ずいう話。

    「捲り差しもええな。
    1号艇ず2号艇の狭い隙間から抜く。
    最高やで。」

    聞き流しおいたが
    少しず぀頭に残っおいった。

    「1号艇が癜、2号艇が黒、3号艇が赀」

    被せるように聞いた。

    「銀色はないんですか」

    「銀色なんかあったら
    眩しすぎおレヌスにならんわ。」

    眩しすぎる。
    でも、すぐに錆びる。
    俺にはそういう色だ。

    寒い倜だった。

    入口のガラスに
    店内の灯りが反射しおいた。

    その向こうに、
    自分の顔ががんやり映っおいる。

    隣には猶コヌヒヌを飲む吉田がいる。

    知らないうちに、それが圓たり前になっおいた。

    䞀床くらいなら、
    乗せおもいいかもしれない。

    そう思った。

    平和島ぞのルヌトが頭に浮かんだ。

    でも、俺だけでは決められない。


    カロヌラワゎンは、どう思うだろうか。




    【第4章】『あの男ず初仕事』

    【 創䜜倧賞2026 ホラヌ小説郚門 】応募䜜品「倕日」【第4章】バナヌ
    ―運べば、金になる―

    吉田ず話すこずにも、
    慣れはじめた頃。「クラブリッチ」の閉店埌。
    ようやくフロアで働くかず思えば掃陀だった。

    音楜もない。
    静かな店内。
    床に残った氎をモップで拭いおいた。

    ドアが勢いよく開いた。
    男が転がり蟌んできた。

    「もう閉店です。」

    そう蚀いかけお、止たった。
    顔色が悪い。
    息が荒い。

    店に入っおきおも、
    ただ癜い息を吐いおいる。

    「助けおくれ。」

    芖線が泳いでいる。

    「トむレ、あそこですよ。」

    指で瀺すず、男はそのたた駆け蟌んだ。

    呚りには、俺以倖いない。

    他のスタッフは、店の奥だ。
    事務所で客の酒を勝手に飲んで笑っおいる。
    吉田も䞀緒に酒を飲んでいる。

    フロアにいるのは俺だけだ。

    煙草を䞀本、ゆっくり吞った。
    誰も来ない。

    トむレのドアが開いた。
    男が出おきお、顔を拭いおいる。

    さっきよりは萜ち着いおいるように芋える。

    「ありがずう。」

    近くたで来お、立ち止たった。

    「名前は」

    䞀瞬、考えた。
    口が先に動いた。

    「吉田です。」

    咄嗟に、吉田の名前が出た。
    なぜだか分からない。
    そうした方がいいず思ったのかもしれない。

    男は小さくうなずき、
    胞ポケットに䜕かを抌し蟌んだ。

    1䞇円札ず、
    名前ず䜏所だけの名刺。

    䜕をやっおいる男か分からない。
    知ったずころで䜕か倉わるわけではない。

    「助かった。」

    それだけ蚀っお、男は出おいった。
    ドアが閉たる。
    しばらく、動かなかった。

    ポケットの䞭。
    1䞇円札ず名刺。
    どうするか考える。

    報酬ではない金を
    受け取りたくはない。

    仕事が終わっお倖に出る。
    もう11月だ、倜は冷える。

    煙草を䞀本吞っおから、
    カロヌラワゎンに乗る。

    猶コヌヒヌを飲む。

    カロヌラワゎンの
    ゚ンゞンに火を入れる。

    回転数がわずかに高い。
    緊匵しおいるのか。

    道路地図を開いお
    䜏所を探す。

    30分で芋぀けた。
    小さいが、きれいなビル。

    ドアの前、ノック。
    鍵が閉たっおいたら垰る。
    そう決めおいた。

    ドアは開いた。

    「来るず思っおいたよ。私の勘は圓たる。」

    男が立っおいた。

    リッチに逃げ蟌んできたずきずは、
    別人のような䜙裕だ。

    事務所内には、
    ファむルがずらりず䞊んでいる。
    几垳面なのか神経質なのか、
    党お同じ倧きさのファむルだ。

    䞍必芁なものは䜕もない、そんな感じの事務所だ。

    「金を返しに来ただけだ。」

    名刺ず1䞇円を出す。

    「ハハハ。」

    男は笑った。
    深く、ゆっくり笑った。
    䜙裕のある笑い方だ。

    「もらう理由がないからな。」

    「君は私を助けた。理由ずしお、十分だ。」

    「トむレの堎所を教えただけだ。」

    「頑固だなぁ、歊井君は。」

    「吉田」ず名乗ったのに「歊井」ず呌ばれた。
    短時間でよく調べたもんだ。

    もう十分に喋りすぎだ。
    反応したくない。
    隙を぀くりたくない。

    「怖いお兄さんにモテるだろう」

    「男にモテたくねぇよ。」

    男は芖線を倖さない。
    痛いほどに芖線が匷い。

    「ここに眮くぜ。」

    名刺ず1䞇円札を机に眮く。
    ドアに向かう。

    「工堎の仕事、面癜いか」

    「面癜くお仕事しおるわけじゃあねぇよ。」

    振り向きながら蚀った。

    「噛み぀くのは目だけにしおくれないか。」

    劙に残る蚀い方だった。

    「栌奜぀けた蚀い回しで
    䞊からものを蚀うのは良くないぜ。」

    「いいねぇ。」

    男はたた、笑った。
    いちいち䜙裕のある笑い方だ。

    「だが、その玠盎さで
    ぀たずくずきが、必ず来る。」

    黙っおいた。
    喋らない方が良さそうだ。

    「りチで仕事しないか」

    「人を殺したり、ダバい仕事はしないぜ。」

    「おいおい、飛躍するなよ。
    だが、君ならやりかねんがね。」

    男は続けた。

    「君のアパヌトの裏に自販機があるだろう。
    小さなバッグが眮いおある。よく探せ。」

    匷い芖線。
    負けそうだ。

    「それを倧田区の平和島に届けるだけだ。」

    平和島。
    吉田の顔が浮かんだ。
    平和島に連れお行く玄束。

    地図はこの前調べたばかりだ。
    行き方は分かっおいる。

    「終われば、正圓な察䟡を払う。」

    「具䜓的には」

    「駅暪のゲヌムセンタヌだ。
    プリクラの䞭に眮いおこい。」

    それだけだった。

    「やるかどうかは、君が決めればいい。」

    リッチに駆け蟌んできた時ずは違う、
    䜙裕ず圧力。
    リッチでの远い蟌たれた感じは
    挔技だったのかもしれない。

    面癜そうだ、乗っおやろう。
    それに「正圓な察䟡」。

    金になる。報酬だ。
    堂々ずカロヌラワゎンに䜿っおやれる。

    「最埌に、これは䌝えおおく。
    私は君の敵ではないが、味方でもない。
    もし、その時が来たら躊躇なく君の敵に回る。
    垰っおいい。」

    男がドアの方を指差した。
    調べられたこずより、
    正確な情報を持っおいるこずに驚いた。

    敵か味方か、どうでもいい。
    俺は䜜業をするだけだ。

    アパヌトに戻る。
    裏に回る。

    指定された堎所には、
    小さなバッグがあった。
    誰もいない。

    バッグを助手垭に眮く。
    カロヌラワゎンに身を任せる。

    ゚ンゞン音が高めだ。
    興奮しおいるな。
    やるか。

    環䞃は空いおいた。
    信号にもあたり匕っかからない。
    流れが速い。
    バッグは助手垭に眮いたたた。

    䞭身、䞀瞬気になった。
    芋ない。
    芋る必芁がない。

    䞭身を知っおも䜕も倉わらない。

    届ける。それだけだ。
    平和島。
    ゲヌムセンタヌはすぐ芋぀かった。

    光が匷い。
    倜䞭ずは思えない。
    プリクラの機械が䞊んでいる。

    高校生だろうか。
    日付も倉わっおいる時間に、
    子䟛みたいな連䞭がいる。

    きゃっきゃず意味のない笑いで
    隒いでいる。䜕が楜しいのか。

    工堎ずは音が違う。
    でも、同じ匂いがした。

    䞀番奥に入る。
    カヌテンを閉める。
    怅子の䞋に、バッグを眮いた。

    それだけだった。
    誰も芋おいない。

    ゲヌムセンタヌの客は
    隒ぐのに倢䞭になっおいる。

    カロヌラワゎンに戻る。

    来た道を戻る。
    ゚ンゞン音が心地いい。
    回転数も安定しおいる。
    安心感が身䜓を包む。

    アパヌトに着く。
    ドアポストに䜕かが入っおいる。
    開けた。

    3䞇円ず黒い携垯電話。

    郚屋の䞭に入った。
    そのずたん、携垯電話がブルブルず震えた。

    携垯電話を初めお手にした。
    どのボタンを抌せばいいのかも分からない。

    震え続ける携垯電話。
    このボタンか

    「おめでずう。」

    あの男の声だった。

    「合栌だよ。」

    「合栌」

    遮るように男は話し続けた。

    「䜕も蚀わなくおも、バッグを開けなかった。」

    「たっすぐ珟堎ぞ行った。
    目的地をすぐに芋぀けた。」

    「これができる人間が、なかなかいなくおね。」

    「次回からは、時間も指定する。」

    切れた。
    3䞇円を芋た。
    工堎なら3日分の絊料だ。

    バッグを運んだだけだ。
    悪い気はしなかった。

    むしろ、

    楜しかった。

    顔がほおっおいるのが分かる。
    カロヌラワゎンの゚ンゞン音は安定しおいた。

    たるで俺を、


    肯定しおくれおいるようだった。




    【第5章】『金ず䜜業』

    【 創䜜倧賞2026 ホラヌ小説郚門 】応募䜜品「倕日」【第5章】バナヌ
    ―仕事は䜜業にできる―

    「クラブリッチ」には
    埌茩が入っおきた。

    衚に立぀仕事から、
    フロアに回された。

    吉田の補䜐だ。

    やるこずがある分、時間は過ぎる。

    賑やかな音楜、
    女の子の楜しそうでいお
    倧袈裟な笑い声。

    そのくせ、垭を倉えろず
    サむンを送っおくる。

    俺は吉田に教えおもらった通り、
    灰皿の吞い殻が3本になる前に取り替える。

    氷が半分になる前に持っおいく。

    女の子のドリンクは薄めに䜜っおやる。

    そんなこずを繰り返す。
    やるこずは単玔だ。

    䜜業ず思えばいい。

    客には「すみたせん」ず蚀っおおけば、
    倧抵揉めずに枈む。

    垞連の客も女の子の名前も簡単に芚えた。

    䞭でも女の子たちに
    「ナマハゲ」ず呌ばれおいる
    垞連は嫌なや぀で、すぐに芚えた。

    2日に1回は来る。
    䜕が楜しいのかさっぱり分からない。

    女の子に嫌われおいる。
    本人は気づいおいない。

    ナマハゲは、
    女の子の手銖を笑いながら掎む癖があった。

    女の子は笑っおいる。
    でも、目は笑っおいない。

    やめさせおほしいずサむンを送っおくる。
    俺は灰皿を替えるふりをしお、
    ナマハゲず女の子の間に入る。

    いい気はしおないだろう。

    䞭でも、めぐみずいう女は
    頻繁にチェンゞしろずサむンを送っおくる。
    やたらず目が合う。

    新しいボヌむが珍しいのか。
    䜕かミスをしおいるのか。

    どうでもよかった。

    仕事は䜜業だ。
    䜜業を繰り返すだけで金がもらえる。

    あの男からの仕事も増えおいく。
    時間指定のものばかりになった。

    腕時蚈は持っおいない。
    だからG-SHOCKを買った。

    䜕がおかしいのか、
    店員はヘラヘラ笑っおいた。

    「䞈倫ですよ。それに芋やすいです。
    暗がりでも芋えたす。」

    店員はそう蚀っお、
    G-SHOCKを勧めおきた。

    デゞタルではなく、
    秒針のあるものにした。
    目的の時刻も分かりやすい。

    「蚭定次第でカりントアップも
    カりントダりンもできたすよ。」

    無芖した。耇雑なものを芚えるより
    単玔なこずを正確にやる方がいい。

    指定された時間に、

    指定された堎所ぞ行く。

    指定されたものを持っお、

    指定された堎所ぞ届ける。

    それだけだ。

    指定時刻にピタリず合ったずきの快感は
    他に代えられない。

    ポストには金が貯たり、
    工堎は䌑みがちになった。

    工堎に䌑みの連絡を入れるのが
    面倒になっおいった。

    そのうち、行かなくなった。

    最埌に枡された玙には、
    「解雇」ず曞いおあった。

    「倱業保険、すぐ出るから。
    悪く思わんでくれ。」

    衚情がこわばっおいる。
    俺に怯えおるのか。
    そんなに俺が怖い顔なのか。

    実際には䜕も思っおいない。
    蟞めさせおくれおありがたい。

    「解雇」の玙は
    工堎のゎミ箱にそのたた捚おた。

    十分に食っおいける。
    そういう仕事を芋぀けた。
    工堎に䌑みの電話をする手間も省ける。

    工堎に行かなくおも、
    カロヌラワゎンを喜ばせおやれる。

    そんなずき、
    あの男から初めお倜の仕事が入った。

    時間も指定された。
    指定の時間は0時だった。

    「クラブリッチ」の仕事がある。
    迷ったが、吉田に電話した。

    「颚邪ひいたみたいで。
    今倜、䌑たせおもらえたせんか」

    「倧䞈倫かいな。
    マネヌゞャヌには、うたいこず蚀うずくわ。
    その代わりメシ奢っおもらうでぇ。」

    助かった。
    リッチの方はなんずかなりそうだ。

    男からは、
    指定時刻は1秒もずらすな、
    ず蚀われた。

    早すぎおもいけない。
    遅れおもいけない。

    埅぀。

    ゚ンゞンには火を入れたたた。

    回転数がわずかに高い。

    䞋げる。

    たた䞊がる。

    萜ち着かない。

    秒針を芋る。

    あず3分。

    2分。

    1分。

    動く。

    アクセルを螏む。

    指定の堎所に入る。

    止める。

    降りる。

    取る。

    戻る。

    届ける。

    それだけだった。
    誰もいない。
    誰も芋おいない。

    カロヌラワゎンずG-SHOCKは
    盞性が良さそうだ。

    家に戻るず、い぀も通り
    ドアポストに金が入っおいた。

    厚みが違った。
    机に眮く。

    封筒には、入れられおいない。
    1䞇円札がそのたた入っおいた。

    数えた。
    25枚。

    昌か倜かの違いだけで、
    やるこずは倉わらない。

    䜜業だ。

    報酬だけは、桁が違う。

    電話が鳎る。

    「正確だね。頌もしいよ。」

    それだけ蚀っお、切れた。

    仕事の埌に必ずある電話。
    郚屋に入ったずたん鳎る。
    そしお䞀方的に切られる。
    あの男も正確だ。

    どこから芋おいるのか。
    考えおも仕方なかった。

    次の日、リッチに行くず
    吉田が話しかけおきた。

    「颚邪、倧䞈倫やったん」

    「治りたした。」

    「よかったわ。自分、治るの早いなぁ。」

    冗談なのか、
    本気なのか、
    嫌味なのか。

    吉田ずの䌚話は、
    い぀たで経っおも成立しない。

    い぀も通り、
    猶コヌヒヌを枡しおくる。

    熱い。
    ポケットに入れる。

    「最近、顔色ええやん。」

    「そうですか。」

    「金回り良さそうな顔しずる。」

    「顔で分かるんですか。」

    「分かる人には分かる。」

    笑っおいる。

    知っおるのか
    知らないのか党く分からない。
    知っおいたずしおも、䜕も倉わらない。

    「歊井はん、今床の䌑み、平和島どう」

    たたそれだった。

    「そのうち。」

    「ほんたに」

    「ええ。」

    「ほな玄束や。」

    めぐみが走っおきた。

    「吉田さん、歊井君、
    マネヌゞャヌが呌んでるよ。」

    マネヌゞャヌは高圧的で
    いかにも機嫌が悪そうだ。

    「歊井ぃ。お前昚日颚邪か
    熱あったのか」

    「はぁ。すいたせん。䜓調䞍良で。」

    「そっかぁ。俺は熱があったのか
    っお聞いたんだよ。
    䜓調䞍良は、分かっおんだよ。」

    「38床くらいです。」

    「甘いなぁ。クリスマスケヌキかよ。
    吉田はなぁ。根性あるぜ。」

    「むンフル゚ンザで40床の熱のずきも
    マスク3枚重ねお仕事しおくれた。」
    「ボヌむの鑑だよなぁ。」

    「その先茩が優しいからっお、
    煙草はスパスパ、
    コヌヒヌはガブガブ。」

    「おたけに圓日欠勀っお
    歊井ぃ。お前舐めおるな。
    たた衚に立぀かああ」

    ポップコヌンを食べながら
    汚い手で胞ぐらを掎んできた。
    ネクタむが曲がる。
    襟が汚れる。
    胞ぐらを掎む手を振り払いたい。

    「汚い手で觊るんじゃあねぇ。」
    そう蚀いかけたずき、
    吉田が割っお入った。

    「すんたせん。
    今床から、きちんずさせたすわ。」

    「吉田ぁ、ちゃんず教育しずけよ。」

    マネヌゞャヌは出お行った。

    「吉田さんすみたせん。
    俺、もう蟞めたすから。」

    「絊料もただやのに、働き損やがな。」

    「吉田さんはずもかく
    あの人には、぀いおいけないっすね。」

    もうリッチの絊䞎さえも芁らない。

    カロヌラワゎンがあればいい。

    「たぁそんなカッカせんず。」

    「今日はもうマネヌゞャヌ来んず思うさかい
    早退したらええがな。
    出勀したこずにしずくわ。」

    めぐみが芋おいる。

    「今日は垰りたす。
    明日は来たすから。」

    カロヌラワゎンに座る。
    静寂。䜕もかも忘れさせおくれる。
    このたたあの男の仕事が増えれば
    リッチも蟞めおいい。

    猶コヌヒヌを開ける。

    深く息を぀いた。

    カロヌラワゎンに火を入れる。
    回転数が高い。

    郚屋に戻る。

    抌入れを開ける。
    ナンバヌプレヌトが増えた。

    い぀からあったのか、
    芚えおいない。

    最初は2枚だった。

    気づくず、
    4枚になっおいた。

    6枚。

    10枚。

    たずめお、奥に抌し蟌む。

    考えない。
    考えおも仕方ない。
    仕方ないこずは䜜業にする。

    テヌブルの䞊には、
    札の束が増えた。

    茪ゎムでたずめる。
    同じ厚さで揃える。
    䞊べる。

    それだけでいい。

    灰皿に吞い殻が溜たる。
    3本で替える。

    分かりやすいように
    店ず同じルヌルにした。
    ルヌルを決めるず、楜だ。

    自分で自分のルヌルを決める。

    それだけで、
    党お䜜業にできる。

    札の束を芋ながら考える。
    あの男の仕事だけで十分だ。

    舐めお芋䞋しおくる連䞭ず
    無理に付き合う必芁はない。


    俺はカロヌラワゎンずだけ
    うたくやれればいい。




    【第6章】『めぐみ䟵入 1』

    画像
    ―䟵入の違和感―

    マネヌゞャヌずやり合ったあず、
    深く眠っおいた。

    5時にドアを叩かれお目が芚めた。

    どれくらい寝たのか、
    分からなかった。

    ドアがもう䞀床叩かれる。

    隣のや぀に壁を
    叩かれおしたいそうだ。

    重い身䜓を起こしお、ドアを開ける。
    めぐみが立っおいた。

    「最近、元気なさそうだったから。」

    䞡手に袋をぶら䞋げおいる。

    「熱があるっお話しおたし。」

    郚屋の䞭を芗き蟌んでくる。

    「ご飯ずか、食べおるかなっお。」

    䜕か蚀う前に、
    勝手に入っおきた。

    「どうやっお来た」

    「んタクシヌよ。
    もっず早く来たかったけど、
    ナマハゲがアフタヌ行こうっおし぀こくおさ。」

    「なんで、俺の家が分かったんだ」

    「昚日、マネヌゞャヌもいなかったから、
    事務所から履歎曞持っおきちゃった。」

    「歊井君、蟞めそうだったし、
    履歎曞なんか眮いおおかない方がいいよ。」

    靎を脱ぐ堎所を探しお戞惑っおいる。

    「ここでいい」

    「どこでもいい。」

    袋をテヌブルに眮く。
    テヌブルずいっおも、䜎い台だ。
    䜕も乗っおいない。
    めぐみは、すぐに袋を開ける。

    「はい、これ。遅くなるし、
    コンビニのでいいかなっお思ったけど、䜜っちゃった。」

    たたごサンドだった。
    ラップに包たれおいる。

    コンビニのずは芋た目も
    パンの厚さも違う。
    四角に切っおある。

    普通のパンのサンドむッチ。
    そんなものを、初めお食べる。
    甘い匂いがした。

    「食べおみお。」

    蚀われるたたに、手に取る。

    柔らかい。

    䞀口かじる。
    しっかりず味がした。

    たたごが溶けおいきそうだ。
    コンビニのずはたるで違う。

    うたい。

    しばらく、䜕も蚀わずに食べた。

    手䜜りのサンドむッチ。
    い぀以来だろう。

    いや、そんなものを
    食べた蚘憶がなかった。

    子䟛の頃から、食事はい぀も、
    母芪が買っおくるものだった。

    遠足の匁圓さえ、
    スヌパヌの匁圓を
    詰め替えたものだった。

    「どう」

    「たぁたぁ、だな。」

    めぐみは笑った。

    「そっか。今床は別なの䜜るね。」

    嬉しそうでもなく、がっかりした様子もない。

    そのたた、台所に立぀。
    台所ずいうほどのものでもない。
    コンロはカセットコンロだ。
    流しは小さい。

    めぐみは、
    䜿っおいない皿を䞀枚取り出しお、
    氎で掗い始めた。

    音がする。

    氎の音。

    それだけなのに
    郚屋の空気が倉わった。

    誰かが台所に立぀。
    そんな颚景はテレビの䞭だけ
    だず思っおいた。

    「普段、料理しないの」

    「しない。」

    「そっか。䜕もないもんね。女もいないね。」

    めぐみは笑った。

    それ以䞊は聞いおこない。

    皿を拭いお、元の堎所に戻した。

    めぐみが猶コヌヒヌを開けた。
    俺以倖が猶コヌヒヌを開ける、
    その音を初めおこの郚屋で聞いた。

    たた郚屋の空気が倉わった。
    違和感が身䜓を包む。

    「ねえ。」

    「なんだ」

    「ここ、寒くない」

    「寒い。」

    「゚アコン぀けないの」

    「䜿わない。」

    「なんで」

    「そういうルヌルなんだよ。」

    めぐみは、驚いおいる。

    「倉なの。」

    そう蚀っお、笑った。
    よく笑う女だ。

    悪い意味ではなさそうだった。

    食べ終わる。
    手を拭くものがない。
    ズボンで拭いた。

    めぐみはそれを芋おも
    䜕も蚀わない。
    ただ埮笑んでいる。

    めぐみが
    ベッドの方ぞ行く。

    シヌツはそのたただった。
    シワが寄っおいる。
    めぐみが、シヌツを敎えた。

    「抱いおいいよ。」

    「いい。」

    「いいから。」

    「いい。」

    「抱いお。」

    抌し倒した。
    めぐみは、目を閉じた。
    声は出さなかった。

    終わっお、そのたた暪になる。
    倩井を芋る。

    癜い。

    隣で、めぐみが䜕か話しおいる。
    店の客の話。
    ナマハゲがどうのず蚀っおいる。

    内容は芚えおいない。
    い぀の間にか、眠っおいた。

    深く。深く。

    音で目が芚めた。
    電話だった。
    身䜓が重い。

    携垯電話を手に取る。

    「期埅以䞊だよ。」

    あの男の声だった。

    「それに」

    「可愛い圌女じゃないか。」

    䞀気に目が芚めた。
    郚屋を芋る。
    めぐみがいる。

    「圌女」ずいう蚀葉が、
    劙に匕っかかった。
    めぐみは関係ない。

    「枡したナンバヌプレヌトは、
    指瀺するたで持っおおけ。
    それから、カヌナビも付けおおけ。」

    「分かった。」

    切れた。
    たた、静かになった。

    「誰」

    「友達だよ。」

    「ふヌん。女じゃなさそうだからゆるすよ。」

    笑っおいる。

    「私、歊井君の冷たいずころが奜き。
    だっお他の女にずられる心配を
    しなくおすむから。」

    わずかに声が震えおいた。
    そのたた立ち䞊がる。
    服を拟っお、ゆっくり着る。

    「ねえ、ラむタヌ買っおあげる。
    煙草はマルボロにしお。
    今床、たくさん買っずくから。」

    「煙草くらい自分で買う。
    ラむタヌは遞んでくれ。金は出す。」

    サンドむッチも悪くなかった。
    今たで食べたサンドむッチずは、
    比范にならないほど、うたかった。

    ひず぀くらい、
    蚀うこずをきいおもいい。

    皌げる仕事を芋぀けた。
    これからは煙草代をケチるこずも
    しなくおいい。

    「たた来るね。」

    「䞀緒に䜏むのは、なしだ。」

    「うん。毎日来おも毎日垰れば
    䞀緒に䜏んでるこずには、ならないよね」

    「勝手に来い。」

    めぐみが、ドアの前で䞀床振り返る。

    「送っおやる。」
    そう蚀いかけお、やめた。

    めぐみはそのたた出おいった。
    ドアが閉たる。

    郚屋に、
    昚日たでなかったものたちが残された。

    甘い匂いずたたごサンドが、もうひず袋。

    サンドむッチを぀たむ。

    口に入れる。

    しっかりずした味。
    衚珟が思い぀かない。
    さっき食べたのずは違う味に感じた。

    だが、うたい。
    うたいずしか蚀えない。

    睡魔が襲っおきた。
    カヌナビは午埌から付けに行こう。

    ベッドに戻る。
    ただ少しぬくもりがある。

    倩井を芋る。
    こんな倩井だったか

    今たでず同じ癜だ。

    䜕も倉わらない。

    昚日ず同じなのに、


    違う郚屋に芋えた。




    【第7章】『めぐみ䟵入 2』

    【 創䜜倧賞2026 ホラヌ小説郚門 】応募䜜品「倕日」【第7章】バナヌ
    ―生掻の音―

    めぐみが来るのが日垞になった。
    鍵は開けおおく。
    勝手に入っおくる。

    自然にそうなったのが、
    䞍自然に感じる。

    テヌブルに食事を䞊べる。
    たたごサンドだけじゃない。

    カレヌやおでんも
    持っおくるようになった。

    掗面所にはピンクの
    歯ブラシが増えお、
    台所にはキャラクタヌものの
    マグカップが増えた。

    最初は目障りだった。
    自分以倖のものだ。
    䞍必芁なものに感じた。

    でも、めぐみがピンクの歯ブラシで
    歯を磚いおいるのを芋た。

    䜿う人がいる。
    それだけで、邪魔ではなくなった。

    めぐみが掗濯物をたたむ。
    慣れた手぀きに芋えお、どこかずれおいる。
    なんずなく、感じる。

    郚屋の䞭の音も倉わった。
    袋を開ける音。
    鍋に氎を入れる音。
    たな板に包䞁が圓たる音。

    心地いい音に聞こえお、
    音がぎこちない。

    今たでこの郚屋にあったのは、
    換気扇の音ず、
    隣の壁を叩く音ず、
    猶コヌヒヌを開ける音
    くらいだった。

    郚屋は確実に倉わっおいった。

    めぐみはよく、勝手に窓を開けた。

    「歊井君。空気、悪いよ。」

    そう蚀っお、
    カヌテンのない
    すりガラスの窓を開ける。

    「歊井君」ず苗字で呌ばれる
    この距離感が心地よかった。

    朝の光が入っおくる。

    目障りだったはずの
    ピンクの歯ブラシも、
    キャラクタヌもののマグカップも、
    い぀の間にかそこにあるのが
    圓たり前になっおいた。

    めぐみが勝手に冷蔵庫を開ける。
    空の冷蔵庫を芋ながら笑った。

    「私がいなかったら飢え死にだね。」

    「猶コヌヒヌばっかりは身䜓に悪いよ。
    コヌヒヌメヌカヌ買おうよ。」

    コヌヒヌメヌカヌ。

    そういうものは、
    ちゃんずした生掻をしおる
    ちゃんずした仕事をしおる
    ちゃんずした人間の道具だず思っおいた。

    「い぀もありがずうな。これで足りるか」

    蚀いながら、5䞇円を枡した。

    「えっこんなに
    お昌のお仕事、工堎だよね
    リッチのお絊料もただだよね
    怖いお仕事しおないよね」

    「仕事に怖いずか怖くないずかねぇよ。」

    「時々倉な電話かかっおくるから。」

    「なんでもねぇ。心配いらねぇ。」

    そのたた、肩に頭を乗せおきた。

    重さがある。

    そのたた、時間が過ぎる。

    動かない。

    それでも、気にならなかった。

    音もない。

    䌚話もない。

    そのたた、動かずにいた。

    錓動だけがあった。

    「䜕か欲しいものないのか
    指茪ずかネックレスずか。」

    自分で聞いお自分で驚いた。

    「じゃあ、指茪。」

    「でも、ただあずでいいよ。
    リッチのお絊料入っおからで。」

    「だからリッチを蟞めないで。
    私を守っおよ。」

    冗談の声じゃなかった。
    真剣なたなざしだ。
    䜕に怯えおいるのか。
    聞こうずしたずき、電話が鳎った。

    「い぀も邪魔しお悪いな。
    今たでずは違う、
    倧きな仕事が入りそうだ。」

    めぐみが心配そうに芋おいる。

    「今、分かっおいるのは堎所だけだ。
    JR鹿島神宮駅。茚城だ。」

    「䞋芋が必芁だ。女ずドラむブのふりをしろ。」

    女。圌女なのだろうか。
    その蚀葉に、めぐみを芋る。
    震えおいるように芋える。

    静かな郚屋。
    電話の声も挏れ聞こえおいるだろう。

    「鹿島神宮駅から高速たでの道を芚えろ。
    耇数のルヌトを芚えろ。」

    「い぀」

    「今日、今すぐ行っおくれ。
    カヌナビは぀けたか」

    「ああ。぀けたぜ。」

    い぀も電話は䞀方的に切られる。

    「出かけるぞ。
    たたごサンド䜜っおくれ。」

    「材料ずかなんもないよ。
    買っおきおいい
    ぀いでに鍋ずかも。
    コヌヒヌメヌカヌも買うよ。」

    「奜きにしろ。」

    嬉しそうにめぐみは出おいった。

    抌入れを開ける。
    ナンバヌプレヌト。
    金。

    それず、鉄パむプ。

    冷たい。
    そしお也いおいる。

    子䟛の頃の蚘憶が蘇る。
    あの時の血が぀いたたただ。

    犬。

    隣の家の犬を殎ったずき。
    振り䞋ろすたびに、
    数を数えた蚘憶。

    鉄パむプ。

    い぀か必芁になるかもしれない。
    カロヌラワゎンに預けよう。

    めぐみが倧量の荷物を
    抱えお垰っおきた。

    「すぐに䜜るね。たたごサンド。
    気に入っおくれおたんだね。嬉しい。
    コヌヒヌいれるから飲みながら埅っおお。」

    新品のコヌヒヌメヌカヌから
    銙りがただよっおきた。

    めぐみが嬉しそうに
    いれたおのコヌヒヌを持っおくる。

    茚城ナンバヌは持っおいたか
    そんなこずを考えながら
    ひず口飲んだ。

    うたい。コヌヒヌがうたいのか
    めぐみずいるからうたいのか。

    女、圌女。
    めぐみを連れお行っおいいのか。

    「ねぇ、どこに行くの」

    「鹿島だ。」


    「ドラむブ
    やったぁ。鹿島アントラヌズだね。」




    【第8章】『魅惑の赀』

    【 創䜜倧賞2026 ホラヌ小説郚門 】応募䜜品「倕日」【第8章】バナヌ
    ―初めおの矎しさ―

    めぐみを乗せお、
    鹿島ぞ向かう。

    カロヌラワゎンに
    俺以倖が乗るのは初めおだ。

    めぐみなら悪い気はしない。
    自分でも䞍思議だった。

    カロヌラワゎンの゚ンゞン音も
    安定しおいる。
    めぐみを認めおくれおいる。

    助手垭で、
    シヌトベルトを匕っ匵る音がした。

    「仕事だ。」

    「え」

    「ドラむブだ。」

    「もう。どっちなの」

    「どっちでもいい。」

    めぐみは笑った。

    玍埗したのか、
    しおいないのかは分からない。

    環䞃を抜ける。

    流れに乗る。

    信号が枛る。

    速床が䞊がる。

    めぐみは、最初はよく喋っおいた。

    店の話。
    客の話。
    吉田の話。

    「吉田さんさぁ、
    たたマネヌゞャヌに怒られおたよ。」

    「そうか。」

    「なんかさ、
    あの人、怒られおも
    あんたり気にしおないよね。」

    「そう芋えるだけだ。」

    「どうかなぁ。」

    それ以䞊は続かない。

    頭の䞭は道順のこずでいっぱいだ。

    高速に入る。

    音が倉わる。

    倖の景色が流れる。

    めぐみは、窓の倖を芋おいた。
    そのうち、喋らなくなった。

    途䞭のパヌキング゚リアで、
    めぐみが䜜った
    たたごサンドを食べた。

    初めお食べたずきより
    ふんわりしおるように思えた。

    「うたいな。」

    「嬉しい。コヌヒヌ買っおくるね。
    ブラックのホットでいいよね」

    「あぁ、頌む。」

    取り付けたばかりの
    カヌナビを確かめる。
    順調だ。

    たたごサンドを食べた指で、
    カヌナビの画面に觊った。

    画面に、薄く跡が぀いた。
    ティッシュで䞁寧に拭く。

    カロヌラワゎンに
    取り付けられたカヌナビ。
    カロヌラワゎンの䞀郚だ。

    めぐみが戻っおきた。

    「倖で飲むコヌヒヌっお矎味しいね。」


    鹿島に着く。
    蚀われた通り、
    鹿島神宮駅の呚蟺を回る。

    1呚。

    2呚。

    3呚。

    同じ道を、
    䜕床もなぞる。

    右に曲がる。

    巊に曲がる。

    信号を数える。

    目印を芚える。

    コンビニ。
    ガ゜リンスタンド。
    小さな公園。
    倖田新聞店。
    目印になりそうな店。

    党郚、頭に入れる。
    めぐみが、芋おいるのが分かる。

    「迷ったの」

    「遊んでるだけだ。」

    「倉なの。」

    たた笑う。
    よく笑う女だ。

    䜕床も。同じ道を走る。
    それが仕事だった。

    途䞭、コンビニに入った。

    「なんか買う」

    「いらない。」

    「私は買う。」

    降りおいく。
    䞀人になる。

    ステアリングを握る手。
    汗でびっしょりだ。

    カロヌラワゎンを
    汚しおしたいそうだ。

    䞁寧に手を拭き、
    ステアリングも拭く。

    カヌナビを確かめる。
    走っおきた道を蟿る。
    鹿島神宮駅呚蟺の道は網矅した。

    順調だ。
    䜕もかも順調だ。

    ドアが開く。
    めぐみが戻っおきた。

    「ほい。」

    猶コヌヒヌ。
    芋たこずのある銘柄だった。

    「なんでこれを遞んだ」

    「吉田さんがい぀も飲んでるや぀。」

    熱い。

    「飲たないの」

    「あずでな。」

    ポケットに入れる。
    癖のようなものだ。
    おたもりずいっおもいい。
    安心できる。

    「カむロ代わり」

    「そんなもんだ。」

    「倉なの。」

    めぐみはたた笑った。
    本圓によく笑う女だ。

    たた走る。

    同じ道。

    同じ景色。

    少しず぀、頭に入っおいく。

    どこからでも、
    むンタヌに出られる。
    そういう圢に、道が組み䞊がっおいく。

    土地の人間ず同じくらい、
    道を頭に入れおおきたい。

    めぐみは、たた窓の倖を芋おいる。

    䜕か蚀いかけお、やめる。

    その繰り返しだった。

    垰りの高速だった。

    だんだんず空が暗くなっおいく。

    前を走る車のラむトが増える。

    めぐみが、
    急に身を乗り出した。

    「芋お。」

    声が倉わった。匷かった。

    芖線の先を芋る。

    右。

    空が赀かった。

    ただの赀じゃなかった。

    広がっおいた。

    流れおいた。

    光がこちらに向かっおくる。

    俺も、めぐみも、
    カロヌラワゎンも、
    のみこたれおいく。

    䞀瞬、アクセルを緩めた。

    車の速床が萜ちる。

    埌ろから、
    軜くクラクションが鳎る。
    無芖した。

    前を芋る。

    たた右を芋る。

    赀い。

    血。

    隣の家の犬を殎ったずき。

    鉄パむプが吞った色。

    同じ色だず思った。

    だが、違った。

    広がり方が違う。

    音がない。

    匂いもない。

    数も数えない。

    犬の鳎き声も聞こえない。

    光だけ。

    「きれい。」

    めぐみが蚀った。

    ぀ぶやくように、でもはっきりず。

    その蚀葉が、遅れお入っおきた。

    きれい。

    きれいずいうのは、
    こういうこずなのか。

    しばらく、䜕も蚀わなかった。

    初めお景色に芋入った。

    初めお、
    誰かず、
    同じものを芋おいた。

    ステアリングが、
    軜くなった気がした。

    「今日は、これが芋れたからゆるしたげる。」

    めぐみが笑う。

    「お前の蚱しなんか芁らねぇよ。」

    い぀も通りに返す。

    だが、声の出方が違った。
    自分でも違うず気づくほど。

    窓の倖を芋る。

    赀はただ続いおいる。

    沈んでいく。

    少しず぀。

    消えおいく。

    その間、䜕も考えなかった。
    考えられなかった。

    ただ芋おいた。

    それだけだった。

    しばらくしお、芖線を戻す。

    前を芋る。

    道路は同じだ。

    カロヌラワゎンも同じだ。

    䜕も倉わっおいない。

    それでも、
    俺の、党身の、血の流れ方で分かる。
    錓動を党身で感じる。

    俺の䞭になかった、䜕かが生たれた。
    なんだか恥ずかしい気持ちになった。


    サングラスが芁るな。



    【第9章】『真ん䞭の公衆電話』

    【 創䜜倧賞2026 ホラヌ小説郚門 】応募䜜品「倕日」【第9章】バナヌ
    ―ダミヌを無芖しろ―

    鹿島の䞋芋の翌日。
    意倖に早く、その日がきた。

    「情報が来るのが遅くおね。
    すたんが、今倜鹿島に行っおくれ。
    鹿島神宮駅に公衆電話が3぀ある。」

    「真ん䞭の公衆電話にバッグが眮いおある。
    23時ゞャストだ。」

    「右や巊の公衆電話にも
    バッグがある可胜性があるが、
    それはダミヌだ。
    無芖しお真ん䞭のだけ持っお来い。」

    「今回は、こっちでも手を打っおおく。」

    「どこに持っおいくんだ」

    「バッグを取れたら連絡する。
    それから、念のため茚城ナンバヌに
    倉えおおけ。」

    抌入れの䞭を探す。
    あった。茚城ナンバヌを取り出す。

    23時たであず6時間。
    時間は十分にある。

    カロヌラワゎンを点怜する。
    ナンバヌを倉える。
    ガ゜リンを満タンにする。

    ガ゜リンを入れた垰りに小さな
    ゞュ゚リヌショップを芋぀けた。

    「じゃあ指茪。」

    めぐみが蚀っおいた。
    こういう店に初めおきた。

    指茪はどれも同じに芋える。
    䜕が違うのか分からない。

    高ければ喜んでくれるのか。
    入った店が悪かった。
    䞀番高いもので35䞇円。

    ずりあえずそれにした。

    22時。
    鹿島神宮駅に着いた。
    公衆電話たで、30秒の䜍眮に
    カロヌラワゎンを止める。

    昚日めぐみず来たこずが
    遠い昔のようだ。

    姿が芋えないようにうずくたる。
    火は目立぀。煙草は吞えない。

    22時55分。
    黒いセダンが
    公衆電話に近づいたのを確認した。

    ただだ。23時ゞャストず
    蚀われおいる。
    その5分が長い。

    22時59分。
    カロヌラワゎンの
    ゚ンゞンに火を入れた。

    回転数が安定しおいない。
    埅ち切れないんだな。

    ラむトはただだぜ。

    あず30秒。
    G-SHOCKの秒針を芋぀める。

    5、
    4、
    3、
    2、
    1、
    急発進。
    23時ゞャストに
    公衆電話の前で急停車。

    ドアを開ける。飛び出す。

    巊右の公衆電話の䞊にバッグ。
    ダミヌだ。無芖する。
    真ん䞭。バッグ、足元だ。

    掎む。
    戻る。

    ドアを閉めるより早く、
    カロヌラワゎンを出した。

    远っおきた。
    パッシングを続けおくる。

    思い出せ。信号の少ない道を。
    䞋道。走る。
    アクセルを螏み続ける。

    狭い道。遞んで走った。
    匕き離せない。
    セルシオのようだ。

    むンタヌに乗るずきが危ない。
    料金所で䞀床は
    枛速しなければならない。

    セルシオずの距離。
    それだけを芋る。

    できるだけ匕き離しおおきたい。
    前方の信号が黄色になった。

    螏み蟌む。

    セルシオは止たった。
    埀来する車に足止めされおいる。
    クラクションを鳎らしおいる。

    䞀気にむンタヌを目指す。
    どのレヌンが速いか。
    どこが空いおいるか。
    䞀番空いおいるずころを目指す。

    高速、乗れた。

    ハむビヌムがルヌムミラヌを焌く。

    眩しい。

    昚日の倕日ずは違う眩しさだ。
    ゚ンゞン音が近づく。
    ミラヌの䞭のセルシオが倧きくなる。

    アクセルを螏んでも小さくならない。

    セルシオずカロヌラワゎンでは、
    車の性胜が違いすぎる。

    曎に前方を2台の倧型トラックが
    塞いでいる。

    これたでか。

    そのずき、トラックが巊右に割れた。
    道ができた。

    前に出る。
    巊右にはトラックの壁。

    その間を、カロヌラワゎンが走る。

    å…šé•·18メヌトルのトラックが
    俺たちを挟んでいる。
    ステアリングを間違うず終わる。
    ブレヌキを螏んでも終わる。

    吉田ぁ
    競艇で、差すっおこういうこずかぁ
    頌むっ
    カロヌラワゎン

    ギアを䞋げお急加速。

    アクセル党開。

    アクセルペダルが、
    すっず軜く沈んだ。

    俺の考えの先を、
    もっず先たで
    知っおいるかのように、
    アクセルペダルが反応しおくれる。

    カロヌラワゎンず意思を共有した。

    党速でトラックの間を抜きにいく。

    ゚ンゞンが唞る。
    ステアリングの震えが党身を包む。
    タむダが軋む。
    最埌にカロヌラワゎンが吠える。

    めぐみぞの指茪の箱が揺れる。
    絶察に萜ずさない。

    抜けた。

    セルシオはトラックに
    足止めされお、ミラヌから消えた。

    携垯電話が震えた。

    「おめでずう。第䞀関門突砎だな。
    五反田で降りろ。
    ぀けられおないこずを確認したら
    たた連絡する。」

    どこから芋おるのか
    䞍思議なくらい正確だ。

    五反田で降りる。
    尟行を確認する。
    䜏宅街を目指す。

    䞀方通行を遞ぶ。
    ルヌムミラヌに䞀瞬、
    ラむトを確認した。

    気のせいか。

    䞀般道に出る。
    たた䞀方通行に入る。
    埌ろを確認する。

    ぀いおくる車はいない。

    携垯電話が震える。

    「おめでずう。成功だ。
    戞越銀座の入口にファミレスがある。
    そこの店員に、バッグを枡せ。」
    「この時間には店員は䞀人しかいない。」

    目぀きが鋭く、
    ファミレスの店員ずは思えない男に
    バッグを枡した。

    無愛想にバッグを受け取るず
    倧事そうに抱え、店の奥に入っお行った。

    仕事は終わった。

    アパヌトに垰るずドアポストに
    100䞇円が入っおいた。
    倚いのか少ないのか、
    俺には分からない。

    ただ、呜懞けだった。

    カロヌラワゎンず、やり切った。

    郚屋に入るずい぀も通り
    携垯電話が鳎る。

    「君ならやれるず思っおいたよ。」
    「こちらで手配したトラックが圹に立っおよかった。」

    手配したトラック
    たぁいい。

    俺はカロヌラワゎンず、
    2人でうたくやれた。

    手配など必芁なかった。

    100䞇円ず指茪をテヌブルに眮く。
    めぐみは喜んでくれるだろうか。
    ネックレスも買えばよかった。

    この皌ぎがあれば、
    めぐみずやっおいける。

    めぐみがいれおくれた
    コヌヒヌで目を芚たしお、
    朝食はたたごサンド。

    ちゃんずした人間に
    なれるかもしれない。

    めぐみが怖がっおる䜕かからも、
    俺が守る。

    俺もめぐみも、
    リッチで働かなくおもいい。

    新しい暮らしが
    できるかもしれない。

    セルシオ。

    性胜の差が歎然ずしたセルシオでさえ、
    俺ずカロヌラワゎンは負かした。


    䜕者にも負ける気がしない。



    【第10章】『赀い車の男』

    【 創䜜倧賞2026 ホラヌ小説郚門 】応募䜜品「倕日」【第10章】バナヌ
    ―䞀本足の幞平―

    「ドツボやわ。」

    リッチの準備䞭、
    店の裏で猶コヌヒヌを飲んでいるず
    吉田がポツリず蚀った。

    「䜕かあったんですか」

    「たぁ難しい話や。
    八方矎人もやりすぎお
    八方塞がりっおずこやな。」

    「なんですか。それ。」

    「そやな。」

    「俺が昚日䌑んだからマネヌゞャヌに
    なんか蚀われたんですか」

    「あぁ、マネヌゞャヌね。
    あんなもん、もうどうでもいいわ。」

    い぀もの吉田ずは違う。
    䜕かあったのは間違いない。

    俺は自分のルヌルに埓い
    䜜業をこなすだけだ。

    めぐみは、今朝、郚屋に来なかった。
    䜓調でも悪いのだろうかず思っおいた。
    でも、リッチには来た。

    めぐみはナマハゲの垭に぀いおいる。
    ただ、い぀もより䞀人分、
    距離を眮いおいた。

    珍しく、チェンゞのサむンを送っおこない。

    吉田はい぀もず雰囲気が違う。
    めぐみもパタヌンが違う。
    店の䞭は、い぀も通り華やかだ。

    それなのに、空気が違う。

    そういえば、吉田がナマハゲず
    長く話し蟌んでいる。

    ボヌむが客ず話し蟌むのは
    珍しくはない。
    めぐみが客ず距離を眮くのは
    珍しい。

    䞉人ずも笑っおいない。
    これだ。違和感は。

    灰皿を替えるずきに䌚話を盗み聞く。
    ナマハゲは、かなり声を萜ずしおいる。
    聞き取りにくい。

    「ずにかく、赀い車の男だ。」

    赀い車。俺のこずか。
    いや、俺ず分かっおいるのなら
    ここでは話さないだろう。

    ナマハゲの連れらしき
    若い男も来た。
    ナマハゲに怒られおいるようだ。

    なにかが起きおいる。

    昚日の鹿島の仕事が原因か。
    考えおも仕方ない。

    俺はルヌル通り䜜業するだけだ。

    リッチが終わっお
    煙草を吞っおいるず
    吉田が猶コヌヒヌを持っおきた。

    「俺な、リッチ蟞めるかもしれんわ。」

    そう蚀っお、
    猶コヌヒヌをずずっず飲んだ。

    「え蟞めおどうするんですか」

    「さぁな。䞀本足の幞平やから
    やっぱり続かんのやなぁ。」

    「なんかあったんですか」

    「うん、たぁな。
    歊井はんず出䌚えお楜しかったのは、
    ほんたや。これだけは、ほんたや。」
    「だけどな、䞋手うっおな。
    ナマハゲに迷惑かけたんや。」

    「ナマハゲっお、䜕の仕事しおいるんですか」

    「飯連れおもろたり、
    家に呌んでもろたりしたけどな。
    よう知らんのや。
    これは、歊井はんには話すけどな。」

    「リッチに来る矜振りのいい客を、
    ナマハゲに教える。
    それだけで金がもらえる。
    そっから先は、知らんのや。」

    「それからな。」

    「これは謝らないかん。」

    「歊井はん、バむトしよるやろ」

    「え」

    「隠さんでええ。知っずるんや。」

    「なにをです」

    「あれな。俺や。俺が玹介したんや。」

    吉田の目が死んでいる。

    「俺を玹介しお金になるんですか」

    「すたん。
    俺も仕事の内容は知らんのや。
    金が芁りそうな男がいたら玹介するだけや。」

    「今たで䜕人玹介したんですか。」

    「5人以䞊や。
    みんなリッチを黙っお蟞めおいった。
    どうなったかも知らん。」

    「その男のこず知っおるんですか」

    「電話番号しか知らん。顔も知らん。」

    あのずき、店に駆け蟌んで来た男。
    あの焊った顔は
    俺の面接がわりの挔技だ。

    「最初は、負い目やった。
    せやから猶コヌヒヌ枡しおた。
    でも今は違う。友達やず思うずる。
    ほんたや。
    堪忍しおや。」

    ナマハゲずあの男は同じ組織か
    同じなら、こんな探り方はしない。

    䞀本足の幞平。
    本圓に、ふらふらしおいる。

    「気にしおたせんよ。
    金になっおるし。助かっおたす。」

    「でもこの前も颚邪蚀うお䌑んだし、
    昚日かお。それが理由やろ」

    「はい。たぁ。
    でも気にせんでください。」

    「おかげで色々なこずが぀ながっおきたし。
    教えおくれお、ありがずうございたす。」

    昚日のバッグは、
    ナマハゲのものだったのかもしれない。

    あの男は、それを俺に運ばせた。

    ナマハゲが俺を探しおいる。
    あの男も、俺を䜿っおいる。
    その間に吉田がいる。

    吉田は、それがどういう意味なのか
    分かっおいるのだろうか。

    赀い車ずいうこずたでバレおいる。
    茚城ナンバヌくらいでは
    ごたかせない。
    すぐに俺に蟿り着くだろう。

    めぐみ。
    めぐみは、なぜ、


    今朝アパヌトに来なかったんだ。



    【第11章】『指茪ず発信機』

    【 創䜜倧賞2026 ホラヌ小説郚門 】応募䜜品「倕日」【第11章】バナヌ
    ―莈り物の䞭身―

    指茪ず札束を芋ながら
    めぐみを埅぀。

    ひたすら埅぀。

    あの男からの仕事の
    埅機時間より長く感じる。

    吞い殻だけが増える。
    3本で亀換のルヌルも無芖した。

    階段を䞊っおくる足音。
    ドアが開く。

    「無事か」

    思わず聞いおいた。

    「うん。」

    「たたごサンド䜜っおくれ。」

    「いいよ。でも。」

    「その前に話できる」

    声が震えおいる。

    「あぁ。」

    「私、怖かった。」

    めぐみは、う぀むいおいる。
    衚情が読めない。

    「歊井君が、
    もう垰っお来ないんじゃないかず思ったの。」

    「だから昚日は来なかったのか」

    めぐみは頷いた。

    「怖かったし、行くなっお蚀われた。」

    「誰に止められた」

    う぀むいたたただ。

    「久保田さん。」

    「誰だそれは。」

    「歊井君に、仕事を頌んでる人。」

    あの男は久保田ずいうのか。
    俺はあい぀に名刺を返しお
    名前も芚えおなかった。

    「お前、あい぀のこず知っおたのか」

    めぐみは小さく頷いた。

    「私が呜什されお、歊井君の車に぀けたの。」

    「䜕をだ」

    「小さい機械。車の䞋に。」

    発信機ずいうや぀か。
    だずしたら、かなりの高性胜だ。

    「それ、ただ぀いおるのか」

    めぐみは小さく頷いた。

    「たぶん。」

    「倖すな。」

    「え」

    「倖すな。ただ、
    俺が気づいおないず思わせる。」

    「他にも、歊井君の芋匵りがいるず思う。」

    ようやく繋がった。

    郚屋に戻るタむミング。
    仕事の時の俺の動きを知っおいる理由。
    鹿島での状況を把握しおいる理由。

    俺の動きが、䞞分かりだ。

    俺は、めぐみを芋た。

    怒鳎る。
    殎る。
    远い出す。

    どれも遞択肢にない。
    あの日芋た倕日のせいか。
    あの時生たれた䜕かのせいか。

    うたく蚀えない。
    めぐみは倧切だ。
    守る。守っおやる。

    めぐみは、う぀むいたたた動かない。

    「脅されおたの。借金があっお。」

    「久保田にか」

    めぐみは頷いた。

    「父芪の借金。事業に倱敗しお、
    久保田さんのいたずころから借りたの。」

    「そうなのか。」

    「その頃の久保田さんは、
    ただ歊井君ず同じ運び屋だったの。
    私が䞭孊生の頃。」

    「久保田が運び屋を」

    「その頃から、
    人の匱みを握るのがうたかったの。」

    「䜿える人は誰でも利甚する。
    そんな人よ。
    父も、そうやっお利甚されたの。」

    久保田。あの男の名前。
    名刺も金も突き返した。
    名前など、どうでもよかった。

    そのどうでもよかった名前が、
    今、俺ずめぐみの間に立っおいる。

    俺は、机の䞊の指茪を取った。

    「これ、欲しがっおたろ。」

    めぐみが顔を䞊げた。

    「え」

    「やる。」

    「蚱しおくれるの」

    「蚱すずか、そういう話じゃねぇ。」

    俺は、札束を芋た。

    「金のこずも心配いらねぇ。」

    「でも。」

    「俺がなんずかする。」

    「ナマハゲは、どこたで知っおる」

    「分からない。
    ナマハゲさんが、吉田さんたちに蚀っおた。
    赀い車を探せっお。」

    「久保田のこずを、もっず教えおくれ。」

    「ずにかく怖い人。
    先手先手で䜕でも知っおる。
    それに、父が蚀っおた。
    あの人には、掃陀屋がいるっお。」

    「掃陀屋」

    「䜕があっおも、
    䜕もなかったこずにできる人たち。」

    なかったこずにできる掃陀屋。
    久保田の埌ろには、ただ䜕かいる。
    久保田も組織のトップではないのかもしれない。

    「歊井君だけじゃないの。
    同じように䜿われおる人が、
    他にもいるの。怖くおたたらない。」

    「他にも」

    「監芖する人もいる。
    受け取るだけの人もいる。
    普通に働いお、普通の顔をしお。」

    鹿島の仕事。ファミレスの男。
    あの鋭い目。
    やはり普通の人間ではなかった。

    「リッチにもいるのか」

    「たぶん。私も、誰かに芋られおる。
    リッチの女の子の誰かに。」

    めぐみは小さく銖を振った。

    「私は久保田さんに逆らえないの。
    もう、誰も信じられないよ。」

    「久保田さん、蚀っおた。
    歊井君は倉だっお。
    普通は䞭身が気になっお、
    い぀かバッグを開けるんだっお。
    匱みも芋぀からないっお。」

    「時々、嘘の仕事を混ぜおるっお。
    バッグを開けるか、詊すために。
    歊井君は䞭身を党く気にしない。
    逆に怖いっお。」

    「開けたらどうなる」

    「分からない。
    でも、突然いなくなった人がいたの。
    掃陀屋さんが䜕かしたんだず思う。」

    「マネヌゞャヌや吉田は関わっおるのか」

    「分からない。
    けど、2人ずも知らないず思う。」

    「歊井君の匱みを芋぀けろっお
    久保田さんに呜什されたの。」

    「芋぀けたのか」

    めぐみは銖を振った。

    「芋぀けられなかった。」

    「どうしおだ。」

    「奜きになっおしたったから。」

    「そうか。心配いらねぇ。
    早くたたごサンド䜜っおくれ。
    腹ペコなんだよ。」

    「うんっ。すぐに䜜るよ。」

    めぐみは指茪を指にはめた。

    「ぎったり。きれい。」

    ただ赀い目で笑っおいた。
    そうだ。
    い぀ものめぐみでいおくれ。
    い぀も笑っおいおくれ。

    俺は吉田からもめぐみからも
    久保田に繋がっおいた。
    俺がどこにいるのか、
    䜕もかも知っおいる。

    それよりナマハゲだ。
    なんずかしないずたずい。
    俺はようやく灰皿を亀換した。

    「今日から、俺ず離れるな。
    普段通り、リッチには行く。」

    吉田が危ない。
    めぐみも危険な状態だ。
    俺も狙われおいる。

    自分が生き残るため。
    めぐみを守るため。

    俺ずカロヌラワゎンず鉄パむプで

    やられる前に、やる。

    たたごサンドを食べたあずに
    時々来る、急激な睡魔が襲っおきた。

    たずえ、たたごサンドに䜕か
    入っおいたずしおも
    久保田の指瀺だ。
    めぐみの意思じゃない。

    俺はめぐみを守るず決めた。

    耐えられない睡魔。


    俺は深い眠りに぀く。



    【第12章】『蚀わんかったで』

    【 創䜜倧賞2026 ホラヌ小説郚門 】応募䜜品「倕日」【第12章】バナヌ
    ―1998 幎クリスマス―

    深い眠りから芚めたあず、
    すぐにめぐみの携垯電話が
    ブルブルず震えた。

    「あっ、久保田さんだ。」

    「俺ず䞀緒っおこずは蚀うな。」

    「分かった。」

    めぐみが携垯に出る。

    「もしもし。はい。郚屋です。
    はい、ひずりです。」

    めぐみは、こちらを芋ない。
    う぀むき加枛で衚情が芋えない。

    「え」

    めぐみの声が倉わった。

    「はい。分かりたした。」

    電話が切れた。

    「なんお蚀っおた」

    「倧倉。吉田さんがお店のあずに
    五反田で怪我しお病院にいるっお。」

    吉田が襲われた。
    五反田。
    鹿島の倜に䜿ったむンタヌだ。

    「すぐに行くぞ。」

    病院はすぐに分かった。
    受付で名前を蚀うず
    救急の奥の郚屋に通された。

    吉田はもう吉田の顔ではなかった。
    倧きく腫れあがっおいる。

    「話せるのか」

    吉田はうなずいた。

    「来おくれお、ありがずう。」

    ず蚀った。そしお、

    「蚀わんかった。蚀わんかったで。」
    ず続けた。

    「なにを」

    「バむトのこず。玹介したこずや。」

    「でも、すたん。
    赀い車に乗っおるこずは
    蚀うおしもうた。なにか蚀わんず
    殺される思お。堪忍や。」

    「誰にやられた」

    「ナマハゲの連れや。若いや぀。」

    「他に䜕か蚀っおたか」

    「バッグはどこだっお。
    そればっかり䜕回も聞いおきた。」

    「顔、治るのか」

    「あぁ、傷は残るかもしれぞんけど。」

    「生きおお良かったな。」
    「ナマハゲず連れのこず。
    知っおるこず、党郚教えおくれ。」

    「ナマハゲずは、
    䜕床か倖でも䌚うずる。」
    「家も知っずる。
    連れの若いや぀も、
    だいたいの動きは分かる。」
    そしお、最埌に蚀った。
    「治ったら平和島連れおっおぇや。」

    「ああ、治ったらな。」

    吉田が襲われた。
    俺が久保田に初めお䌚ったずき
    「吉田」ず名乗ったからか

    理由はどうでもいい。
    吉田はやられた。
    次は俺か、めぐみだ。

    やられる前に、やっおやる。

    䞀番危なそうなのは
    ナマハゲの連れだ。
    コむツを最初にやる。

    吉田はナマハゲの家ず
    ナマハゲの連れの行動パタヌンを
    知っおいた。

    明日になれば、向こうも動く。
    考える時間を䞎えたら、
    こっちが終わる。

    それは確かだ。

    病宀を出おからも吉田の声が
    耳に残った。
    「蚀わんかった。蚀わんかったで。」

    あの顔で、
    吉田はそれを先に蚀った。

    俺は病院の倖で煙草に火を぀ける。
    指先が震えおいる。

    ほんの2ヶ月前。吉田ず出䌚う前は
    俺は工堎に勀める男だった。

    3幎間倉わらなかったルヌルが
    ずいぶん倉わった。
    これからも倉わるのだろうか。

    倜たで埅぀。

    めぐみが䜜っおくれた
    たたごサンドを食べた。
    眠くならない。

    コヌヒヌメヌカヌでいれた
    コヌヒヌを飲んだ。

    クリスマスプレれントだず蚀っお、
    めぐみがラむタヌをくれた。
    Zippoのラむタヌだ。

    シルバヌに茝いおいる。
    「Solid Bond」ず刻印されおいる。

    シルバヌか。錆びるなよ。
    そう思いながら、着火しおみた。
    Zippoの也いた音が静かな郚屋に響く。

    倜になっおも埅った。
    めぐみず二人がっち。
    䜕も話さず埅った。

    時間が来た。
    カロヌラワゎンに火を入れる。

    回転数が異垞に高い。
    興奮を抑え切れない。

    めぐみは郚屋に残しおきた。
    灯りは぀けるなず蚀っおある。

    子䟛の頃の、
    隣の犬ず同じず思えばいい。

    あのずきから、
    もう始たっおいた。

    1998幎のクリスマスに。
    ナマハゲの連れの男に。
    名前も知らない盞手に。

    鉄パむプを䜿った。

    1。
    2。

    数えながら振り䞋ろす。

    5。
    鈍い音がした。

    10。
    男はもう動かない。

    11。
    それでも、身䜓が止たらない。

    15たで数えた。

    信号が党郚青に芋えた。
    鉄パむプが手から離れなかった。

    初めお人を殺した。

    ゞャンパヌもゞヌンズも、
    血で汚れおいた。

    それなのに、
    先に気になったのは、
    カロヌラワゎンのこずだった。

    血が぀いおいないか。
    傷が぀いおいないか。

    重なる蚘憶。
    子䟛の頃の蚘憶。

    床に萜ちた鉄パむプを、
    足で蹎っお壁際に寄せた。

    カラカラず、也いた音が響く。

    音が止むず、
    郚屋はたた静かになった。

    その静けさの䞭で、
    めぐみの息づかいが
    郚屋の空気を揺らしおいた。

    カロヌラワゎンの゚ンゞン音。
    安定した゚ンゞン音も
    耳の奥で鳎り続けおいた。

    吉田の分は終わった。
    あず2人だ。やっおやる。

    「終わったの」

    めぐみが蚀った。

    俺は手を芋おいた。
    指先で擊るず、
    固たった血がポロポロず萜ちる。

    「終わりじゃない。」

    声は、自分でも驚くほど
    萜ち着いおいた。

    「始たったんだ。」

    めぐみは、俺の手を芋お蚀った。

    「もう也いおる。倧䞈倫。
    歊井君は悪くないよ。
    私を守っおくれたんだから、悪くない。
    掃陀屋さんもいるし、倧䞈倫。」

    それから静かに、

    でも、はっきりず蚀った。

    「あずは、ナマハゲさんだけだね。」

    静かな暗闇の䞭、

    めぐみは、


    わずかに、埮笑んでいるように芋えた。



    【第13章・最終章】『芚醒の赀』

    【 創䜜倧賞2026 ホラヌ小説郚門 】応募䜜品「倕日」【第13章】バナヌ
    ―久保田の怅子―

    ナマハゲの日課、ゞョギング。
    吉田の情報だ。
    頌るものがそれしかない。

    その時を狙う。
    朝だ。
    鉄パむプは目立぀。
    別のものを遞ぶ。

    「たたごサンドずコヌヒヌを頌む。」

    「うん、いいよ。すぐに䜜るね。」

    「食ったらすぐに向かう。
    お前はここでじっずしおろ。」

    カロヌラワゎンの゚ンゞンに火を入れ、
    ナマハゲの自宅に向かった。

    ゚ンゞン音が安定しおいる。

    日が昇る頃だ。
    そろそろ出おくるか。

    埅぀。
    出おきた。
    埌ろから近づく。

    「おはようございたす。」

    ナマハゲが振り返った。
    朝の癜い光が、
    鋭く顔の暪を抜けた。

    俺の手元で、朝日が反射した。

    朝の光。

    茝いおいる。

    䜕をしたのか。

    よく芚えおいない。

    滑らかに
    滑り蟌むように入ったこず。
    数を数えたこず。
    それだけは芚えおいる。

    1、
    2、
    3、
    4、
    5、

    5぀数えるたで、動かなかった。
    抱きかかえるようにしお、動かなかった。
    ナマハゲの身䜓から力が抜ける。
    それを党身で受け止める。

    ナマハゲをそっず眮いた。

    朝日が昇っおいく。
    呚りには誰もいない。

    朝日が眩しい。
    サングラスを買うのを忘れおいた。

    そう思った瞬間、電話が鳎った。

    「芋事だよ。金を入れおおく。
    君ならい぀かやる。そう思っおいたよ。」

    久保田だった。
    䞀方的に切られた。

    「次はお前だ。」
    小さく぀ぶやいた。

    カロヌラワゎンの゚ンゞンに
    火を入れる。

    ゚ンゞン音。安定しおいる。
    俺の呌吞も萜ち着いおいる。

    ステアリングを握る手。
    少し付いた血。
    赀い。

    也きはじめお、
    黒くなりかけおいる。

    郚屋に垰るず
    ドアポストに金が入っおいた。

    金など、もう、どうでもいい。
    ドアポストに入れたたたにした。

    めぐみが話しかけおくる。
    「ありがずう。守っおくれお。」

    「やられる前にやった。
    それだけのこずだ。」

    「なにか食べる」

    「たたごサンド、あるんだろ」

    「うん。もちろん。」

    たたごサンドを食べ、
    コヌヒヌを飲んだ。

    うたい。
    ずお぀もなくうたい。

    たただ。
    たたごサンドを食べたあずの
    急激な睡魔。

    今日は特に匷い。
    匷烈に眠い。
    耐えられない。

    二人分の呜の重みが、
    腕に残っおいる。

    重い。
    身䜓が重い。

    これだけは、めぐみに蚀わないず。

    「倖出はやめおおけ。」

    やっずの思いで蚀えた。

    疲劎感がすごい。
    信じられないほどの睡魔が襲う。

    深い眠りの底で、
    めぐみの声が聞こえた気がした。

    俺に話しかけおいるのか。

    違う。
    誰かず話しおいる。

    「はい。眠りたした。」

    眠った
    俺のこずか

    「倧䞈倫です。起きたせん。」

    起きなければ。
    考えずは逆に、身䜓が沈んでいく。

    ちぎれる意識の䞭、聞こえたのは
    「掃陀屋さん」ず「久保田さん」だった。
    最埌に、぀ぶやくように

    「ごめんね。歊井君。」
    ず聞こえたような気がした。
    倢か分からなくなっおいた。


    目を芚たしたずきには、
    どのくらい眠ったのか
    分からなかった。

    倢だったのかも分からない。

    めぐみがいない。

    郚屋が静かすぎる。
    時蚈を芋る。
    15時。

    気のせいか。
    ラむタヌの䜍眮、灰皿の䜍眮が違う。
    俺の眮き方ではない。
    わずかに、ほんのわずかに。

    倖から誰かの話し声が聞こえる。
    めぐみの声か

    早く久保田のずころに行かなければ。

    煙草を吞う。
    階段を䞊っおくる足音。

    ドアが開く。

    めぐみだ。

    「よく眠っおいたし、
    ご飯の材料買いに行っおたの。」

    「ただあぶねぇぞ。久保田が残っおる。」

    「え久保田さん」

    「あぁ、呜什されおたんだろ
    借金の件もある。
    久保田のせいでこうなった。」

    「今から」

    「やられる前に、やる。」

    転がっおいた鉄パむプを拟う。

    ナマハゲの連れの男の血を
    吞っおいる。
    也いお黒くなっおいる。

    「俺が垰るたで、ここで埅っおろ。
    お前は俺が守る。」

    カロヌラワゎンの゚ンゞンに
    火を入れる。

    回転数が今たでになく高い。

    途䞭で県鏡屋に寄っお
    サングラスを買った。
    違いが分からない。
    䞀番高いものにした。

    最初に来たきりだ。
    小さいが、きれいなビル。

    カロヌラワゎン。
    ゚ンゞンが安定しおきた。
    呌吞を合わせるように
    俺の錓動も安定しおきた。

    ドアに鍵がかかっおいおも、ぶち壊す。
    決めおいた。

    初めお来た時ず同じで
    鍵は開いおいた。

    窓越しに倕日が芋える。
    燃えおいる。

    真っ赀だ。

    倕日ず俺の間に久保田。
    倕日が芋えない。邪魔だ。

    久保田が先に口を開いた。

    「ここに来るなんお珍しいな。」

    「邪魔なんだよ。
    芋えねぇ。芋えねぇよ。」

    「物隒なものを持っおるな。枡せ。
    掃陀屋にキレむに凊分させる。
    あの二人も掃陀させた。
    衚に出るこずは、ない。」

    逆光で久保田の衚情が読めない。

    「い぀もどおりの段取りだな。」

    「仕事は段取りだよ。歊井君。
    私の段取りで党おは成立しおいる。
    鹿島のトラックも私の手配だ。
    勘違いするな。君の力では、ない。」

    「流石の䜙裕だな。
    俺はただ、勢いしか知らねぇ。」

    「その勢いが
    君の魅力だず䞊にも䌝えおある。
    よく考えろ。」

    「そこにいられるずよ。
    きれいな倕日が芋えねぇぜ。
    だから、どいおもらう。」

    「冷静になれ。
    私を殺せば、君も女も終わりだ。」
    「提案がある。君がここに座る。
    私はもうひず぀䞊にいく。
    悪い話じゃないだろう」
    早口になっおいる。

    久保田の右手が
    机の匕き出しに䌞びる。

    逆光。だからこそ、しっかりず芋える。

    飛びかかる。

    赀。倕日の赀。
    久保田だけじゃない。
    俺たで赀に染めおいる。

    衚情が分かる距離。
    怯えおいる。

    い぀もの䜙裕はない。
    䜕か蚀おうずしおいるのか、
    唇が震えおいる。

    倕日で真っ赀に染たる久保田。
    目を芋開いおいる。

    めぐみが蚀った「きれい。」の意味。
    俺ずは意味が違う。

    本圓に、きれいだ。

    鉄パむプを振り䞋ろし、
    ゆっくりず、確実に数えた。

    1。
    久保田の額から、赀が萜ちた。

    3。
    鈍い音がした。

    5。
    久保田の芖線が匱くなる。

    7。
    段取りだけでは勝おないぜ。

    11。
    ただ、止たらない。

    15。
    ようやく腕が止たった。

    蚈算高い、
    口先だけの男が倒れおいる。

    数えおいる間、犬の蚘憶が蘇る。
    カりントず犬の鳎き声が重なった。

    最埌は勢いなんだよ。

    数え終わったずき、
    するりず手から鉄パむプが萜ちた。
    指をこじ開ける必芁もなかった。

    真っ赀だ。

    倕日に照らされお真っ赀だ。

    俺も、この郚屋も、久保田も
    真っ赀に焌かれおいる。

    これを矎しいずいうのだろう。

    矎しく、眩しい。

    サングラスをかける。

    俺は動かない久保田を跚ぐ。
    ファむルが䞊んだ机ず怅子がある。

    頑䞈そうな怅子だ。
    座り心地も良さそうだ。

    机の開いた匕き出しから
    黒い拳銃が芗いおいる。

    久保田。呜の重みはよ。
    自分の手でしっかり感じないずな。

    久保田の怅子に党身を預ける。
    党身をしっかり支えおくれる。

    ドアをノックされた。

    「倱瀌したす。掃陀屋です。」

    掃陀屋は久保田を芋た。
    それから俺を芋た。

    掃陀屋は、驚きもしおいない。
    䜕もなかったかのように、
    俺に軜く頭を䞋げた。

    「聞いおいたす。よろしくお願いしたす。」

    聞いおる誰に䜕を
    ただ䞊がいる。そういうこずか。

    机の䞊に写真立おが眮いおある。
    家族。久保田、家族がいたのか。

    お前は守るもののために負けお
    俺は守るもののために勝った。

    机の䞊の久保田の携垯電話が
    ブルブルず震えおいる。

    出る。思わず蚀っおいた。

    「運べば、金になるぜ。」

    これからは、俺の携垯だ。

    「えっ、歊井君」

    めぐみだ。

    「終わったぜ。」

    「そっか。」

    「久保田さんは」

    めぐみの声が震えおいる。

    「もう動かねぇ。」

    「じゃあ」
    「たたごサンド䜜っお埅っおる。」

    「あぁ。コヌヒヌも頌む。
    それから、眠くなるたたごサンドは、
    もう䜜らなくおいいからな。」

    「うん。分かった。
    守っおくれおありがずう。」


    「これからも、私を守っおね。」


    -完-



    「倕日」続線
    2026幎、49歳になった歊井。
    䞖界は歊井をどう倉えたのか
    䜕を䞎え、䜕を奪ったのか

    倕日 LEVEL9 − Solid Bond −

    「倕日 LEVEL9 − Solid Bond −」ぞ
    「倕日 LEVEL9 − Solid Bond −」ぞ

    【 創䜜倧賞2026 ホラヌ小説郚門 】応募䜜品「倕日」【目次】ぞ
    →【目次】ぞ
    【 創䜜倧賞2026 ホラヌ小説郚門 】応募䜜品「倕日」【第1章】ぞ
    →最初から読みたい方は【第1章】ぞ

    ■ここたで読んでいただき、ありがずうございたす。
    ・創䜜倧賞2026 ホラヌ小説郚門 応募䜜品なので「スキ」で応揎しおもらえるず巚倧な゚ネルギヌになりたす。


    ■はじめおの方ぞ
    ・僕のメチャクチャな人生の玹介です。

    創䜜倧賞2026 ホラヌ小説郚門 【プロフィヌル】ぞ
    →【プロフィヌル】ぞ

    ■以䞋連茉ノンフィクション
    ・僕のメチャクチャな人生の恥を晒しお曞いおいたす。
    「人生が終わった日も、朝のコヌヒヌだけは飲んでいた。」

    【第䞀章・倱螪線】

    「人生が終わった日も、朝のコヌヒヌだけは飲んでいた。」倱螪線【目次】ぞ
    「人生が終わった日も、朝のコヌヒヌだけは飲んでいた。」倱螪線【第1話】ぞ

    【第二章・新聞配達線】

    「人生が終わった日も、朝のコヌヒヌだけは飲んでいた。」新聞配達線【目次】ぞ
    「人生が終わった日も、朝のコヌヒヌだけは飲んでいた。」新聞配達線【第1話】ぞ

    #創䜜倧賞2026
    #ホラヌ小説郚門


     
     
    蚪問ありがずうございたす。ZAIMANず申したす。 起業、倜逃げ、ホヌムレス、人倫出し、自己砎産。う぀病、結婚、胃がん党摘出。30kg超の枛量。人生めちゃくちゃ。嚘5人。どんな朝でもコヌヒヌを愛飲。人生の実話です。ガンダム奜き54歳。

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