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「雨の中、自転車で待つ息子」


    ある日、目の違和感が続いたため、息子と二人で眼科へ向かった。

    診察の際、医師が説明した。

    「検査のために瞳孔を開く目薬を使います。
    今日は車の運転は控えてくださいね」

    医師の説明を、
    息子は一言も聞き漏らすまいとするように聞き入っていた。

    帰宅後、息子は何度も質問してきた。
    「パパ、本当に大丈夫?」
    「見えなくなったりしない?」 

    「大丈夫だよ。
    薬で少し見えにくくなるだけだから、すぐに元に戻るよ」
    そう答えても、納得しきれない顔をしていた。

    「今日は危ないから、車は運転しないでね」
    そう言って、何度も念を押した。

    数日後。再検査の日、息子は学校だった。
    私は一人で病院に向かった。

    「大丈夫だよ」と言ったものの、
    あの心配そうな顔が頭から離れなかった。

    診察を終え、入口を出た。
    小雨が降っていた。
    病院の看板の下に、一台の自転車が見えた。

    息子が自転車にまたがって、私を待っていた。
    傘も差さず、少し濡れた髪をそのままにして。
    じっと、病院の出入口を見つめていた。

    私を見つけた瞬間、こわばっていた表情がふっと緩んだ。

    「どうしたんだ?」と声をかけると、
    「だって、薬で目が見えにくくなるって言っていたでしょ。
    だから迎えに来たんだ」

    少し照れくさそうに笑った。

    私は、その笑顔から目を離せなかった。
    「ありがとう」
    それしか言えなかった。

    帰り道、息子は濡れた自転車を押しながら、
    私の隣を歩いていた。

    雨はまだ降っていた。

    あの日、雨の中で私を待っていた背中は、
    今も私の心に残っている。


    #創作大賞2026
    #エッセイ部門


     
     
    ありふれた日常の中に、そっと光る瞬間を見つめています。 父として、ひとりの人として、過ぎゆく日々を言葉に残したいと思いました。 家族との時間、記憶、そして小さな幸せをテーマにエッセイを綴っています。

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