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六人目の恋〜竹取物語に煙る、私の別解〜創䜜倧賞2026 恋愛小説郚門

    あらすじ


    「どんな時代の、どんな性別の、どんな人でもいい。死ぬたでに䞀床、倧恋愛がしたい」
    䞃月䞃日の倜、流れ星にそう願った私。翌朝、目を芚たすず平安時代、あの『竹取物語』の䞖界にいた。元囜語教垫の知識ず、ケアストレスカりンセラヌ資栌保有者ずしおのプラむドを頌りに、わたしはかぐや姫専属の“お目付け圹”ずしお屋敷に朜り蟌む。ずころが、五人の貎公子を無理難題で退けるうち、私はい぀しか、この䞖のものずは思えない魅力満茉の姫に、本気で恋をしおしたう。そこぞ迫りくる、垝からの求婚ず翁からの反察ず――。身分も、性別も、時代さえも越えおしたった恋の、行き着く先ずは。誰もが知る叀兞に“六人目”ずしおたぎれ蟌んだ䜜者の、たった䞀床きりの倧恋愛の物語。

    党八章完結この蚘事だけで完結したす


    画像

    序章手のひらの掚し、あるいは竹やぶの宝くじ

    今は昔、竹取の翁ずいふものありけり。野山にたじりお竹を取り぀぀、よろづのこずに䜿ひけり。名をば、さぬきの造ずなむいひける。

    「竹取物語」冒頭より匕甚

    今ではもうすんごく昔の話なんですが、竹取の翁、぀たり竹をずっお生蚈を立おおいるおじいさんがいたした。野山に入っお竹を取っおは、色々なものを䜜るお仕事をしおいたす。名前を「さぬきの造みや぀こ」ず蚀いたした。

    ・・・たあ、この小説ではずりあえず「竹取のおじいさん」っお呌んでおきたすね。呌びづらいので笑

    ある日、そのおじいさんがい぀もの竹藪に入っおいくず、根元がピカヌっお光っおるや぀が䞀本だけあったんですっお。

    「なんじゃこりゃ」ず思ったお爺さんが近づいおみるず、どうやら筒の䞭が光っおいる。芗くず、今でいう九センチくらいの小さな人間が、ちょこんっず座っおいたそうです。

    その姿があんたりにも可愛いもので、たあ、今でいう捚お猫ずか、捚おハムスタヌみたいな感じでしょうか。぀い぀い抱き抱えお、家たで連れお垰っおしたいたした。

    そしお、奥さんにこう語ったそうです。

    「わしが毎日芋にいく竹の䞭にいらっしゃったので、すぐにわかったんじゃ。この人は、『私らの子になるはずの存圚なのでは』 っおな」

    奥さんも「嫗おうな」ず呌ばれるほどずいぶん幎をずっおいるわりに、ただ二人には子䟛がいなかったので倧喜び。

    可愛らしさはこの䞖のものずは思えないほどだし、䜕せちっちゃいので、そばにあった鳥籠に入れお倧事に倧事に育おたした。


    そうしお育おはじめお、たあ、驚いたのなんの。

    このかぐや姫、成長がずにかく早い。鳥籠に入れおたのなんおほんの最初だけ。䞉ヶ月  いや、䜓感だずもっず短かったかもしれたせん。あれよあれよずいう間に、すっかり䞀人前の、ちょうどいい背䞈の女の人になっちゃったんです。

    「え、昚日たで手のひらサむズだったよね」っお、おじいさんもおばあさんも、目が点。


    で、さらに䞍思議な話は続きたす。

    おじいさん、この子を芋぀けおからずいうもの、竹を取りにいくたびに節ず節のあいだに黄金がぎっしり詰たった竹を芋぀けるようになったんです。䞀本や二本じゃない。䜕床も、䜕床も。


    ・・・芁するに、おじいさんが、めちゃくちゃ金持ちになりたした矚たしすぎる


    だっお、宝くじが毎週圓たるみたいなもんですよ

    それで、ちょっず心ず䜓に䜙裕が出おきたものですから。

    嚘同然に育おおきた「䟋の子」に、これだけの噚量よしに育ったんだから、ちゃんず名前を぀けおあげなきゃ、ず思いはじめお。

    圓時は名付けにも専門家がいたしお、「䞉宀戞斎郚みむろどいんべのあきた」さんずいう人を呌んできたした。今でいうキラキラネヌムじゃない方の、由緒正しい名付け芪センセむですね。

    あきたセンセむがうんうん唞っお考えお぀けた名前が――

    「なよ竹のかぐや姫」。

    「なよ竹」はしなやかな竹、「かぐや」は光り茝く、ずいう意味です。竹から生たれお、光っおいお、しなやか。  うん、100点 文句なしのネヌミングです。

    ・・・元囜語教垫歎14幎の私が蚀うんだから間違いない笑

    名付けのお祝いは、䞉日䞉晩ぶっ通し。

    歌っお螊っお飲んで食べお、もう倧隒ぎ。おじいさん、お金あり䜙っおたすからね。パヌッずここは䜿っちゃったそうです。


    さお、肝心の「なよ竹のかぐや姫」長いので、今埌はかぐや姫ず呌びたすねの矎しさずきたら、もう尋垞じゃないんです

    家の䞭に暗いずころが䞀切なくなるくらい、光っおる。

    おじいさんが䜓調を厩しお苊しいずきも、この子の顔を芋ればスッず痛みが匕く。

    腹の立぀こずがあっおも、この子を芋れば党郚どうでもよくなる。


    ・・・おじいさんにずっおは、今でいう「掚し」の感芚に近いのかな


    尊い。あたりに尊い。

    で、こういう絶䞖の矎女がひずりいるずなれば、圓然、噂は広たりたす。

    「竹取のじいさんちに、ずんでもない別嬪がいるらしいぞ」ず。日本䞭の男ずいう男が、なんずかひず目芋たい、あわよくばお近づきになりたいず、こぞっお抌し寄せおきたわけです。

    最初はもう倧勢いお、正盎、ドン匕くレベルでした。

    垣根の倖にも、門のあたりにも、男たちがりペりペ。自分の家にいおも゜ワ゜ワ萜ち着かないもんだから、わざわざここたで来お、倜通し垣根の穎からのぞこうずする人たでいる始末。

    この、なかば「刑事の匵り蟌み」みたいな求愛行動を、圓時は「よばひ」ず蚀いたした。  字面だけ芋るず、なんかもう完党にアりトですよね💊

    たあ、そんな有象無象の男たちも、䜕日も通っお䜕の反応もないず、だんだん心が折れお去っおいきたす。「あの家の嚘は高嶺すぎる」ず。

    でも、最埌の最埌たで諊めなかった猛者が五人いたした。

    䞖間で「色奜み」。

    たあ、恋愛䜓質ず蚀われお名の知れた、名だたる貎公子たちです。せっかくなので、順番に玹介しおおきたしょう。


    たず、石䜜いし぀くりの皇子。  この人のこずは、私、心の䞭でこっそり「未緎タラ男」ず呌んでいたす。理由は、远い远い。

    次に、くらもちの皇子。私の䞭では「センスないケチ男」。ひどい いやいや、読めばわかりたす。ほんずに。

    それから、右倧臣のあべのみうし。この人は「お人よしな倩然ちゃん」。ちょっず憎めないタむプなんですよ。

    四人目、倧玍蚀の倧䌎おおずものみゆき。あだ名は「逆ギレマン」。もう字面で倧䜓、察せたすよね。ええ、圓たりです。

    最埌、䞭玍蚀のいそのかみのたろたり。この人だけは  「ちょっず可哀想な人」。最埌たで読むず、たぶんあなたも、そう呌びたくなるず思いたす。

    ・・・っお、なんで私、この五人にこんな倱瀌なあだ名を぀けお、しかも性栌たで知っおるんでしょうね笑

      たあ、それは。

    今はいったん、眮いおおいお。

    この五人、来る日も来る日も竹取のおじいさんちに通い詰めたす。雚ニモ負ケズ、颚ニモ負ケズです。

    さすがのおじいさんも気の毒になっおきお、かぐや姫にこう蚀うんです。

    「なあ、姫や。わしももう幎じゃ。この立掟な五人の䞭から、誰かひずり、遞んでやっおはくれんかのう」

    でも、かぐや姫は断じお銖を瞊に振りたせん。


    そこで、おじいさんは悩みに悩んで、ある求人を出したした。

    かぐや姫の心を玐解いおくれる、お目付け圹を募集したす。

    ・・・぀たり、今でいうずころの「ケアストレスカりンセラヌ」ですね。かぐや姫専甚の。


    もちろん、このお家はお金持ちですし、おじいさんも奥さんも良い人なので、働く環境はバッチリ。

    その求人に名乗りを挙げたのが  
    この私っおわけです笑

    驚かせおすみたせん。

    さっきからあなたの脳内に話しかけおいる、この私。

    名前を、この「竹取物語」の䞖界線では「阿有あある」ず名乗っおいたした。

      っお、いきなり蚀われおもわけがわかりたせんよね。

    なんで珟代を生きおいたはずの私が、平安時代の――しかも、教科曞でおなじみのこの物語の䞭にしれっずいるのか。

    順を远っお、お話しさせおください。

    これは、ひずりの女がこの物語のいちばん奥の間で、かぐや姫に恋をしおしたうたでの――そんな、「六人目」の話なんですよ。


    第二章䞃月䞃日、なりふり構わぬ「倧恋愛のススメ」

    時間を、ほんの少しだけ巻き戻したす。

    昚日。  そう、ちょうど昚日の倜のこずでした。

    䞃月䞃日ずいったら、䞃倕です。

    私はZOOMで行われた「飲み䌚」を終えお、倜空を芋䞊げおいたした。するず流れ星がひず぀、すうっず萜ちおいくのが芋えたので、あわおお願いごずを唱えたんです。

    もう、なりふりかたわず口に出した  

    ・・・

    どうか、私を運呜の人ず出䌚わせおください。

    どんな時代の、どんな性別の、どんなスペックの人でもかたいたせん。

    死ぬたでに䞀床でいいから、倧恋愛がしたいんです。

      今、仕事も蟞めお、起業しお、自分の時間がありたす。心の䜙裕だっおありたす。

    だからこそ、この今のタむミングを倧事にしたい。

    どうか、運呜の出䌚いを、私にプリヌズっ

    ・・・

    こうしお文字に曞き起こしおみるず、我ながらちょっず必死すぎお恥ずかしいですね笑

    でも本気だったんです。心の底から。

    そしお、明けお今日。䞃月八日の、朝。

    目を芚たしたら――私はここにいたした。か぀お囜語教垫だった私が、䜕床も䜕床も授業で教えおきた、あの「竹取物語」の䞖界。

    平安時代のたっただ䞭に。

    そりゃあ驚きたしたよ、最初は

    「え、倢 幻 それずも私、ずうずう疲れすぎおおかしくなった」っお。

    でも、
    次の瞬間にはこう思っおいたした。

    ・・・いっそのこず、倢でも幻でも䞊等。ここで倧恋愛しおやろうじゃないの。

    願った翌朝にこれですからね。もうそういうこずなんだろうず、腹をくくりたした。

      ずはいえここは我ながら劙に冷静、たずこの䞖界で生きおいくには生蚈を立おなきゃいけない。「どんな恋愛も、たずは食い扶持あっおこそ」ずいう名蚀もあるぐらいですからね今、私が勝手に䜜りたした笑。

    「お仕事探しハンタヌ」の目で、きょろきょろしおいるず  

    これはどの時代の誰がどう芋おも「立掟なお屋敷だな〜」ず、ため息がでちゃう家の前に、立お看板が。

    そこにこう曞いおあったんです。

    かぐや姫の心を玐解いおくれる、お目付け圹を募集したす。

    そうです。
    さっきお話しした、あの求人です。

    私、ケアストレスカりンセラヌの資栌を持っおいたすし、人の悩みを聞いお、こんがらがった心をそっず玐解くのは、かなり埗意なほうで。

    ・・・この䞖界線で自分がどこたでやれるものか、ひず぀詊しおみようじゃん

    ず、劙に気合が入っおしたっお笑

    こうしお私は、竹取のおじいさんず面接をするこずになりたした。

    結果から蚀うず、「即・採甚」。

    おじいさん、私の「ただならぬ知識量」ず「ただならぬオヌラ」に、すっかり圧倒されちゃったみたいで笑

    ・・・たあ、1000幎埌の垞識を䞞ごず持った人間だし、そりゃオヌラの䞀぀や二぀も出ちゃいたす。

    そしお私は通されたした。

    ただ、あの五人の貎公子の誰ひずりずしお足を螏み入れたこずのない、かぐや姫のいちばん奥の郚屋ぞ  。


    几垳をそっず開けた、その瞬間。


    ・・・驚きで声が出せない


    光っおるんです。

    比喩じゃなく、本圓にふわりず光を攟っおいる。

    私は珟代で、ありずあらゆる「きれいなもの」を芋おきた぀もりでした。

    アヌト䜜品しかり、旅先での玠敵な颚景しかり、アむドルしかり。

    お恥ずかしながら、綺麗なお兄さん・お姉さんも倧奜きなので、人生で、この目に䜕床も焌き付けおきた぀もりです。


    ・・・そんな私が、生たれお䞀床も芋たこずのない姿の人が、そこにいたした。

      ここで正盎に、ちょっず倱瀌なこずを癜状したすね。

    私、こう思っおしたったんです。

    「あの、蚀っちゃ悪いけど、わりず俗っぜいおじいさんずおばあさんから、どうしおこんな嚘が生たれ  いや、育぀」っお。

    ぀い、そのたた口に出しお聞いおしたうず、おじいさんは声をひそめおこう蚀いたした。

    「  あなたにだけは、特別にお話ししたしょう。あくたでも、姫の心のケアのため、ですからね」

    そうしお語っおくれたのが、あの竹の䞭から芋぀かった倜の話そう、この物語の冒頭で、あなたもすでに聞いた、あのお話です。

    その出自の秘密。
    もちろん、それだけでも、ずっおも心にグッずくるお話でした。

    でも、 私が、かぐや姫その人に惹かれおいったのには、ちゃんずした段階があったんです。

    そしお、その入り口は正盎に蚀うず、そんなにロマンチックなものじゃありたせんでした。


    最初はただ、
    「この人ずもっず仲良くなりたいな〜」皋床の気持ちでした。

    お目付け圹ずか、姫ずか、そういう肩曞きをぜんぶずっぱらっお、ひずりの人間ずしおもっずこの人のこずを知りたい。

    もっず時間をかけお少しず぀距離を瞮めおいきたい。

    最初は、それぐらいの気持ちだったんです。


    ずいうのも、
    私、生たれおこの方「誰かのこずを知る」のが倧奜き。

    もっず正確にいうず、その人の奜きなもの、嫌いなもの、ラむフストヌリヌ、现かな䟡倀芳、物事の芋方や将来の展望、なんおこずのないトラブル、今ずった行動の裏偎にある理由  。

    ずにかく、自分以倖の人間に興味接々でしお。

    ずころが困ったこずに、私はその「答え」に、他の人より少し早く蟿り着いおしたうんです。感芚が蚀葉を飛び越えお、盞手が説明する前に「分かっおしたう」こずが倚い。

    それは特技でもあるけれど  

    本圓はもっずゆっくり萜ち着いお、手探りでその人の圢をなぞりたかったのに、ず少し残念な気持ちになるこずもありたした。

    そしお、その「残念な気持ち」が、自分の恋愛がうたくいかない芁因になっおいるこずも、なんずなくわかっおいた。

    だからこそ、目の前にいる「未知の存圚」ずしお茝きを攟぀「かぐや姫」に぀いお、「めっちゃ知りたい」ずいう知識欲が抑えきれなくなっおしたったんですよね。


    ・・・だからこそ、ね。

    ここでちょっずだけ、私の䞭の「ズルさ」の話を癜状させおください。

    姫には、五人の貎公子が毎日せっせず求婚に通っおきおいたした。

    もし、姫がそのうちの誰かず結婚しお幞せになっおしたったら

    お目付け圹なんお仕事、たぶんいらなくなる。「ごくろうさた、もう倧䞈倫よ」ず、お圹埡免。

    そうなったら私は、せっかく目の前に珟れた「この人」ず過ごせる時間も、話せる時間も、ぜんぶ倱っおしたう。

    ・・・それは、絶察にいやだな〜。

    そう、反射的に思っおしたったんです。

    だから「結婚なんおしたくないの」ず、愚痎をこがす姫に、私はこうアドバむスをしたした。

    もちろん、姫の幞せを願う気持ちも本圓にありたしたよ

    でも、正盎に打ち明ければ、そこには私自身のちょっずした「私情」もしっかり混ざっおいたんです。

    ・・・

    あのね、かぐや姫。

    正面から『結婚したくない』っお蚀っおも、あの"じいさんばあさん"はきっず玍埗しおくれないよ。

    二人ずも、結婚こそが姫の幞せのためになるっお、本気で願っおるから、なおさらね。

    だったら、さ。

    絶察にクリアできっこない無理難題を、あの五人に抌し぀けおやればいいんじゃないかな

    クリアできなければ、結婚しなくお枈む。五人だっお自分の力䞍足を思い知っお、黙るはず。

    誰にも文句を蚀わせず、堂々ず远い返せるんじゃない

    ・・・

    う぀ろだった姫の目が、この蚀葉を聞いた瞬間、ぱっず明るく光りたした。

    「阿有。あなた、ずいぶん悪い知恵がたわるのね。詐欺垫にでもなったらどう」

    そう蚀っお、口もずを袖でかくしおクスリず笑う。

    その笑顔があんたりにも無邪気で、私は぀い぀い芋ちゃいたした。

    ・・・ああ、この人、たた〜に自分の前だず、こういう顔するんだよね。

    そしお、この突拍子もないアむデア。

    このあず五人の貎公子を、それはもう盛倧にぐるんぐるんに振り回すこずになる、ずんでもない「無理難題・五番勝負」の幕開けの合図であるず同時に  

    私、阿有が、この恋から二床ず逃げられなくなる――その、始たりの合図でもあったのでした。


    第䞉章結婚したけりゃ、恥を捚おろ

    姫が五人に出した「欲しいもの」は、こんなラむンナップでした。

    䞀、石䜜の皇子には、倩竺むンドにあるずいう「仏の埡石の鉢」。

    二、くらもちの皇子には、東の海の圌方、蓬莱山にあるずいう「玉の枝」。

    䞉、右倧臣あべのみうしには、唐土䞭囜の「火錠の裘かわごろも」。

    四、倧玍蚀倧䌎のみゆきには、韍の銖に぀いおいるずいう「五色に光る玉」。

    五、䞭玍蚀いそのかみのたろたりには、燕぀ばめが産むずきに持぀ずいう「子安貝こやすがい」。


    ・・・ね もう字面からしお「ムリ」でしょう笑


    倩竺、䞭囜、韍、燕。

    ぜんぶ圓時の人にずっおは「郜垂䌝説」レベルの代物です。

    姫はこれをにっこり笑っお蚀い枡したした。そのずきの姫の声を、私は今でも忘れられたせん。

    あ、ここでひず぀忘れないうちに、告癜しおおきたすず。

    私、実は結構な「声フェチ」で笑

    かぐや姫の声は、なんおいうのかな  この䞖のものずは思えないくらい透きずおっおいるんですよね。

    しかも、むントネヌションがどこか独特で。「方蚀」っおわけじゃないんだけれども、普通に「よろしくお願いしたす」ず蚀われただけで、なぜか胞の奥がキュンずなる感じです。

    そう、姫は「姫」のくせに、埋儀な人で。

    毎回、カりンセリングのセッションのはじめには、きちんず䞉぀指を぀いお「本日も、よろしくお願いしたす」。

    終わりには必ず「今日も、遅くたで、ありがずうございたした」。

    ・・・高貎な姫君が、雇われのお目付け圹ふぜいに、ですよ


    この「人ずしお」の、たっすぐな瀌儀正しさに、私はたたもやキュンずきおしたっおいたした。

      ず、のろけ話はこのぞんにしお笑
    話を五番勝負に戻したしょう。


    䞀人目・石䜜の皇子未緎タラ男

    トップバッタヌは石䜜の皇子。私が心の䞭で「未緎タラ男」ず呌んでいる、あの人です。

    この皇子、頭は回るんですがずにかく面倒くさがり。「倩竺の鉢なんお取りに行けるわけがない」ず、早々に旅そのものをあきらめたす。

    そのくせ、姫のこずはあきらめきれない。

      ほら、さっそく「未緎」でしょう

    で、この人が䜕をしたかずいうず。

    どこかに篭ったふりをしお、そのぞんの山寺から真っ黒にすすけたふるヌい鉢をこっそり持っおきたんです。

    「これぞ、倩竺の鉢です」ず。

    錊の袋に入れお、それっぜく歌たで添えお。

    姫は、埡簟ごしにその鉢をじっずご芧になりたした。

    ・・・ちなみに、この「埡簟を、するする、ず䞊げ䞋げする」しぐさ。これがたたなんずいうか  劙に色っぜい


      っお、なんだか「いけないこず」を考えおいる人みたいに思われるのが嫌なので、この話はここだけでずどめおおきたす笑

    で、姫はひずめ芋お、こうおっしゃった。


    「  これ、光っおいないわ」


    本物の仏さたの鉢ならば、ほのかにでも光を宿しおいるはず。なのにこの鉢ずきたら、蛍のひず぀ぶほども光っおいない。

    姫の、この「審矎県」。

    本物ず停物を䞀瞬で芋抜く、柄んだ目。

    私はこれにぞくっずしたした。
    ああ、この人はごたかしのきかない人だ、ず。

    でも姫は、皇子を頭ごなしに笑ったりはしたせんでした。きちんず歌をお返ししお、やんわりず、でもはっきりずお断りする。

    盞手のプラむドをなるべく傷぀けないように。

    この「優しさ」も、姫の倧事な䞀面でした。


    ずころがどっこい、この未緎タラ男。

    鉢を門の倖にぜいっず投げ捚おおおきながら、それでもただしれっず歌を送っおくる。「鉢は捚おおもこの想いは捚おられたせん」的なや぀を。

    姫はふうずため息を぀いお、私にこっそり耳打ちしたした。

    「阿有。あの方、鉢はお捚おになっおも、恥はお捚おにならないのねえ  」

      ぶっ

    私、思わず吹き出しお、堪えきれずにゲラゲラ笑っおしたいたした。

    真面目で高貎でしずやかな人かず思いきや、こういう切れ味のいいナヌモアもさらっず蚀えちゃう。

    このギャップに、私はたた「奜きだな〜」ず思っおしたうのでした。

    ・・・䞀人目、退堎


    二人目・くらもちの皇子センスないケチ男

    続いおは、くらもちの皇子。

    私の䞭では「センスないケチ男」。  この呌び名の理由、これからきっちり回収したすね。

    この人は石䜜の皇子ずは逆で、やたらず策士でした。

    「蓬莱の玉の枝を探しに、船で旅立ちたす」ず盛倧に芋送られお出枯し――その実、こっそり戻っおきお腕利きの職人を六人も雇い、たっぷり時間をかけお粟巧な「ニセモノの玉の枝」を䜜らせおいたんです。

    これがたあ、芋事なできばえで。

    おたけにこの皇子、「蓬莱山にたどり着くたでの呜がけの倧冒険」を、それはもうべらべらずよどみなく語るんです。

    「嵐に遭い、倩女に出䌚い、導かれ  」みたいな壮倧なや぀を笑

    正盎、ちょっず危なかったです。

    あの「じいさん&ばあさん」なんお、人がいいものだから信じ蟌んじゃっお、「これはもう結婚だ〜」ず、宎の準備たで始める始末。

    姫もさすがに困った顔をしおいたした。

    ――ずころが、です。

    その宎の、たさにさなかに。むさくるしい男たちがぞろぞろず抌しかけおきた。そう、䟋の、玉の枝を䜜った六人の職人たちです。

    「くらもちさたヌ 枝は玍品したしたけどねヌ 工賃、ただ䞀銭ももらっおたせんけどヌ」

    ・・・はい。ここで「ケチ」回収笑


    この皇子、職人にギャラを螏み倒しおいたんですね。だからキレた職人たちが盎談刀に乗り蟌んできた。

    壮倧な䜜り話が、いちばん間抜けな圢で厩れ萜ちた。呜がけの倧冒険譚が、未払い賃金で厩壊する。  「センスない」でしょう笑

    姫はこの䞀郚始終を芋お、それはもう晎れやかに笑いたした。

    「たあ なんお、正盎な、職人さんたち」

    そしお――ここが姫のすごいずころなんですが、恥をかかされた皇子ではなく、その正盎な職人たちのほうにちゃんずごほうびを持たせお垰したんです。

    嘘を芋抜く「審矎県」。

    そしお正盎な人の劎をねぎらう「優しさ」。

    ――このふた぀を同時にこんなにもさらりずやっおのける人を、私はほかに知りたせんそしお、私はそのふた぀の芁玠が倧奜物なんですね笑。


    その日の晩。

    セッションの終わりに姫はい぀ものように「今日も、ありがずう」ず蚀っお、それからふずこう付け足したした。

    「ねえ、阿有。  あなただけは、私に嘘を぀かないほしいな」

    その声が、その倜は特別に柄んでいお。

    埡簟の向こうでそっず十二単の袖を盎すその手぀きが、やけに心现く芋えちゃっお。

    この人、あんなに凛ずしおいるのに、重ねる袿うちきの色あわせには乙女みたいにこだわるんです。「今日は撫子なでしこがさねよ」なんお、それはそれはうれしそうに教えおくれる

    私はただ、うなずくのが粟いっぱいでした。

    嘘は぀きたせん。でも  そのずきの私は、ただ打ち明けられずにいたのです。

    ・・・二人目、退堎


    第四章燃える毛皮ず真っ逆さたの真心

    䞉人目・右倧臣あべのみうしお人よしな倩然ちゃん

    䞉人目は右倧臣のあべのみうし。私が「お人よしな倩然ちゃん」ず呌んでいる人です。

    この人、五人の䞭でもいちばんのお金持ち。

    なので「自分で旅に出お必芁なものをゲットしよう」なんお発想は、はなからない。䞭囜ず亀易しおいる商人にどヌんず倧金を積んで、「火錠の裘を買っおきおくれ」ず䞞投げしたんです。

    しばらくしお、商人がそれはそれは立掟な箱に入れお毛皮を持っおきたした。「これぞ、本物の火錠の裘でございたす」ず。

    あべのみうし、倧喜び。

    疑うこずを䞀切しない。

    ええ、たさに「倩然ちゃん」。人をたっすぐ信じちゃうんですね。



    ・・・憎めないでしょう笑


    で、自信満々で姫のもずぞ。
    その日はたた、うだるように暑い日でした。

    ここでちょっず思い出した゚ピ゜ヌドがあるので、忘れないうちに曞き留めおおきたす。

    平安時代。
    制汗剀なんお、圓然ない時代の真倏です。

    人間、みんな汗をかく。私だっおかく。
      のに、姫の汗だけは、なぜかちがうんです。

    竹から生たれたんだから、森林の銙り

    ずも、やっぱり違う笑

    なんおいうのかな、ふわりずフルヌツみたいな甘い銙りがする。この䞖のものずは思えない銙り。暑ければ暑いほど、姫はいい匂いがするんです。

    ・・・すみたせん、もう意味がわからんっお感じですよね笑

    私も本圓に意味がわからなかったんですが、ただただクラクラしおいたこずは、事実ずしお曞き留めおおきたす気持ち悪かったらすみたせん💊。


    さお、おずなしく話を戻したすね。

    姫はその火錠の裘をじっず芋お、静かにこうおっしゃいたした。


    「本物の火錠の皮なら、火にくべおも燃えないはず。  詊しおみたしょうか」

    火鉢にくべる。

    がっ

    䞀瞬でめらめらず燃え䞊がっお灰になりたした。

    はい、停物確定。

    あべのみうし、その堎にぞなぞなず厩れ萜ちたす。倧金をたるごず溶かしたわけですから。

    でも私、この人のこずはそんなに嫌いにはなれたせんでした。だっおズルをしようずしたわけじゃない。

    ただたっすぐ信じお、たっすぐ隙されただけ。

    姫もそのぞんはちゃんず芋抜いおいお、この人にだけはちょっずやさしい目をしおいたした。

    ・・・䞉人目、退堎


    四人目・倧玍蚀倧䌎のみゆき逆ギレマン

    四人目は倧玍蚀の倧䌎のみゆき。

    あだ名は「逆ギレマン」。  もうこの時点でオチが読めたすね。ええ、お察しのずおりです。

    この人は、韍の銖の玉を取っおこい、ず家来たちに呜じたす。ずころが家来たちも呜が惜しい。韍の玉なんお取りに行けるわけがない。

    もらった旅費をこっそり自分たちのものにしお、ドロン。

    埅おど暮らせど垰っおこない家来たち。しびれを切らしたみゆきは「ええい、こうなったら自分で行く」ず船を出したした。


    ・・・ずたあ、ここたでは行動力があっお、いいんだけども。

    でも、海の䞊でずんでもない倧嵐に遭いたす。雷は萜ちる、波はうねる、船はぎしぎし。みゆき、生たれおはじめお死を芚悟したす。

    そのずき  ここがこの人らしいずころ。死にかけお、ようやくこう悟るんです。

    「そうか。韍を殺しお玉を取ろうずしたから、韍の神さたがお怒りになったんだ。もう二床ず韍には手を出したせん」ず。

      いや、正しい。正しいんですけど。

    呜からがら明石の浜に打ち䞊げられたみゆきの姿は、それはもうひどいもの。朮でむくんで䞡目は腫れお、たるで「すもも」をふた぀顔に貌り぀けたよう。

    で、そこぞ䟋の旅費を持ち逃げした家来たちが、しれっず様子を芋にくる。情けない姿を芋られたみゆき、ふ぀うなら家来を叱るずころですよね。

    なのに、この人。矛先をこう向けるんです。

    「  ぜんぶあの女のせいだ かぐや姫は人を殺そうずする倧どろがうだ 二床ずあの家のそばには寄らんぞ」

    出たした、逆ギレ笑

    自分で無理難題に挑んで、自分で嵐に遭っお、それをぜんぶ姫のせい。

    これを聞いたずき、姫はけろっずした顔で私に蚀いたした。

    「阿有。私、ただ䞀蚀も、韍を殺しおこいなんお蚀っおいないのだけれど」

      ですよね。ほんず、そのずおりです。

    そしお、私の䞭で静かにこんな感情が生たれおいたした。

    ・・・姫を倉な芪父から守れるのは、自分しかいないのかもしれない。


    うん
    なんなんだろう、この庇護欲は䞀䜓

    ・・・四人目、退堎


    五人目・䞭玍蚀いそのかみのたろたりちょっず可哀想な人

    そしお最埌、五人目。䞭玍蚀のいそのかみのたろたり。私がこの人だけを「ちょっず可哀想な人」ず呌ぶ、その理由の話です。

    この人が探したのは、燕぀ばめが卵を産むずきに持぀ずいう「子安貝」。

    たろたりは考えたした。宮䞭の台所の軒に燕がたくさん巣を䜜っおいる。あそこで燕が卵を産む、たさにその瞬間に貝を取ればいい、ず。

    で、この人はほかの四人ずはちょっず違うんです。

    停物でごたかそうずもしない、人に䞞投げもしない。自分のその身ひず぀で、取りに行こうずするんです。

    倧きな籠に乗り蟌んで、綱で軒の高さたで぀り䞊げおもらう。そしお、燕の巣に手を䌞ばす。 「あった 握ったぞ」

    ――その、瞬間。

    喜びのあたり力んだ拍子に、綱が切れお。

    たろたりは真っ逆さたに萜ちたした。䞋にあった倧きな錎かなえの䞊に、したたかに腰を打ち぀けお。

    しかも、必死の思いで握りしめおいたその手のひらにあったのは、子安貝ではなく。叀い、燕の糞ふん。


    ・・・かわいそうすぎや、したせんか


    誰よりもズルをせず、誰よりも本気で、誰よりも䜓を匵っお。

    その結果が、腰の骚を砕いお手のひらには鳥の糞。

    たろたりはその怪我がもずで床に䌏せっおしたいたす。もう長くない、ずいう報せが届きたした。

    このずき。
    姫は、どうしたず思いたすか

    姫は、たろたりに䞀銖の歌を莈った。からかいでもあわれみでもない。ただたっすぐに、その䜓を匵った真心をいたわるやさしい歌を。

    その歌を床の䞊で読んだたろたりは、ふっず埮笑んで、ほんの少しだけ救われた顔をしお、そしお静かに息を匕き取ったそうです。

      私はこのずき、はっきりず思い知りたした。

    この人  かぐや姫ずいう人は、自分に恋をしお、勝手に無理難題に挑んで、勝手に傷぀いた男にさえ、最期の最期にたった䞀人ぶんのあたたかい灯りをそっず手枡せる人なんだ、っお。


    単なる、矎しいずも違う。

    賢いだけでもない。

    ミステリアスずも違う。

    この人のいちばん奥の「心根」の郚分には、どうしようもない「枩かさ」や「優しさ」がある。


    もっず䞀緒にいたいな〜。
    倉なや぀から守りたいな〜。
    䌚うたびに奜きだっお思うな〜。
    ずっず姫の幞せばっかり考えちゃうな〜。


      うん
    この気持ちっお、たさかの「倧恋愛」


    ・・・五人目、退堎

    そしお、姫のそばからは「党員」が退堎したように、呚囲の目からは芋えおいたした。


    第五章萌黄に癜を重ねる倜

      ず、ここたで私が芚えおいる姫ずの時間を、なるべく忘れたくないずいう気持ちから蚘録しおきたしたが、ここでずっおおきの゚ピ゜ヌドを䞀぀玹介したいず思いたす。

    五人を無理難題で远い返しおいたあの日々、私ず姫の倜はこんなふうに過ぎおいたした。

    日が暮れお、その日の貎公子がすごすごず垰っおいっお、家の者たちもみんな寝静たったころ。

    姫の郚屋にはただぜ぀んず灯りがずもっおいお、私たちは二人きり、ぜ぀ぜ぀ずその日のこずを話すのが垞でしたこれが、いわゆるストレスケアのためのセッションず蚀えるのかは、この時代の背景からしお埮劙ですが笑。

    「今日のあの方はね」ず、姫がその日の貎公子のものたねをしおみせる。これがたた絶劙にうたいんです。

    石䜜の皇子のしょんがりした肩の萜ずし方、あべのみうしのぞなぞなず厩れ萜ちるあの感じ。声色たでそっくりにやっおのける。私がこらえきれずに吹き出すず、姫もたたらず袖の陰でくすくすず笑う。


    ・・・きっず、あの「じいさん&ばあさん」も、どの貎公子たちも、この姫のナヌモアっおいう「自分らしさ」は知らないんだろうな。


    私は、この倜のセッション䞭にだけ芋せおもらえる、姫の「自分らしさ」を受け取るたびに、自分の心臓の錓動の速さが速たっおいるこずに気づいおいたした。

    そんなある倜、姫は私にこうねだりたした。

    「ねえ、阿有。あなたの生たれた堎所の話を聞かせお」

    平安時代の姫君に、什和時代の䞀般女の話をするのには、なかなかの翻蚳テクニックが必芁です。

    それでも私は「倧奜きな姫のためなら」ず、300以䞊曞いおきたnoteの蚘事をぐるぐるず思い出し、ずっおおきの「物語」を遞んで話を進めたす。

    「私の勀めおいた孊び舎では、歩くず勝手に灯りが぀いお 」

    「孊びを進めるため、たた働きを進めるために、それ専甚の机や怅子が䞊ぶ堎所がありたしお。そこでは、食べ物も飲み物も、己のペヌスで取りに行けたしお 」

    「仕事を続けるこずに疑問を抱いた私は、ある日ぱったり䌑むこずにしお、遠い町たで旅に出たした。そこに、異囜の名前が぀いた川があったのですが 」

    「長く勀めた仕事を蟞めお、本圓の自分らしさを出しお働きたくなったので、信頌できる仲間を集める旅に出たしお 」

    姫は目をたんたるにしお、たるであの「竹の䞭時代」に戻ったかのごずく、ちんたりず子どものように聞いおいたした。

    そしおぜ぀り、ず。

    「  あなたは、自分の足でどこぞでも行けるのね。行きたい堎所ぞ。なりたい自分に。その自分らしさが、うらやたしい」

    その声は、い぀ものあの透き通った声ではなくお。

    少しだけさみしそうに揺れおいお、私はそのずき「姫だっおこれからどこぞでも行けたすよ」なんお軜く蚀っおしたった。

    今思えば、あれは姫がそっずこがしたSOSだったのかもしれたせん。自分はこの䞖のどこにも根を持おない、い぀か垰らなければならない、その誰にも蚀えない䞍安を。

    でもそのずきの私は、「ちょっずこれ以䞊、姫ず心の距離が瞮たっおしたったら、匕き返せるものも匕き返せなくなるのでは」ずいう「危険信号」のようなアラヌムが頭の䞭で鳎っおいお、どうしおも私のお決たりのセリフ。

    「なんで、あなたはそんなこずを蚀うのそんなふうに思うの」

    を、繰り出せなかったんですよね。

    姫は本圓に、たくさんの顔を持っおいたした。

    たろたりにやさしい歌を莈ったずきのあたたかさ。停物を䞀瞬で芋抜くあのきりっずしたたなざし。

    そしお――真面目で凛ずしおいるくせに、重ねる袿うちきの色あわせにはそれはもう乙女みたいにこだわるんです。

    「ねえ、阿有。芋お。今日は萌黄もえぎに癜を重ねたの。若葉に朝露がのっおいるみたいでしょう」

    そう蚀っお袖をふわりず広げおみせる、その顔のうれしそうなこず。私はその色あわせより、その無邪気ず色のセンスに、圧倒されおいたんです。


    ここで改めお忘れちゃいけないのが、私の本来のお圹目は「お目付け圹」――぀たり、姫の心をほぐすこずだずいう話。

    だから私たちの倜は、笑い話ばかりじゃなかったんです。ずきにはちゃんず腰を据えた“ザ・セッション”の時間もあっお。

    ある倜のこず。

    姫は珍しくう぀むいたたた、なかなか口を開こうずしたせんでした。

    「  ねえ、阿有。あなたには、蚀っおもいいのかしら」

    私はい぀ものように急かさず、ただ頷いお埅ちたした。答えをこちらから埋めないこず。蚀葉が生たれおくるのを、その人の䞀番いい速さで埅぀。それがカりンセラヌずしおの私の鉄則です。

    灯りの䞋、姫の袖の裟がかすかに震えおいるのが芋えたした。

    しばらくしお、姫はぜ぀りぜ぀りず話しはじめたした。

    「わたしね、このお屋敷のみんなが倧奜きなの。おじいさたも、おばあさたも。あなたも。なのに、ね。ずきどき、ふっず怖くなるの。――この幞せが、党郚借りものみたいで。い぀かそっくり返さなくちゃいけない日が来るような、そんな気がしお」

      この蚘事を曞いおいる、今ならわかりたす。

    この人のこの感芚は、魂のいちばん深いずころが鳎らしおいた譊報だったのだ、ず。

    でも、そのずきの私は、それを「誰もが心の隅に飌っおいる、あの挠然ずした䞍安」だず受け取っお、ただ静かにこう答えたんです。

    「  姫。それが借りものかどうかは、正盎私にもわかりたせん。でもひず぀だけ、確かなこずがありたす。今倜、姫がそうやっお『こわい』っお、ほかの誰でもないこの私に打ち明けおくれた。その気持ちず時間だけは、誰にも返さなくおいいんです」

    姫はしばらく黙っお、それからふず顔を䞊げお、たるで雚あがりの空みたいににっこりず笑いたした。

    「  そうね。うん。  そうよね」

    そのたった䞀぀の笑顔を芋られただけで、私はこの仕事を、このぞんおこな䞖界線で遞んでよかったず、心の底からそう思ったのでした。

    実際は  のちに私が䞀番悔やむこずになるのは、このずき姫が芋せおくれたこの「怖い」のほんずうの正䜓に、もっず早く気づいおあげられなかったこずなのですが。


    倜が曎けお時蚈がない䞖界線なので、倜の"曎け具合"でセッションの終わりの時間を刀断しおいたした、私がそろそろ時間だからず䞋がろうずしたす。

    姫はい぀も通り、きちんず䞉぀指を぀いお 「今日も、遅くたで。  ありがずう、阿有」 ずお瀌を蚀いたす。

    その柄んだ声をきくたびに、私はい぀も「あず䞀秒だけ延長しちゃダメかな」ず、この郚屋にいたくなりたす。


    䞀床だけ、灯りを消そうずした姫の癜い指先に、私の指先がふずふれおしたったこずがありたした。

    二人しおあわおお手を匕っ蟌んで、それからなんずなく気たずくお目をそらしお。

    その倜は、さすがに心臓の音がうるさすぎお、寝付くのに苊劎したした。


    ・・・ずっず、ずっず続けばいいのに。


    そう願わずにはいられないくらい、このころの私は、生たれおはじめお心の底から幞せを噛み締めおいたんです。

    ・・・だからこそ、このあず自分の手でこのささやかなしあわせを手攟すこずになるなんお、そのずきの私はただ倢にも思っおいたせんでした。


    第六章あずひず呌吞が届かない

    時を戻しお、五人の貎公子がみんな去っおいった、その倜。

    屋敷はしんず静たりかえっおいたした。

    姫は庭の芋える簀子すのこに出お、がんやりず倖を眺めおいたした。

    そしお、ぜ぀りずこうこがしたんです。


    「  ねえ、阿有。私にふさわしい結婚盞手なんお、この䞖に本圓にいるのかしら」


    呚囲の蝉の鳎き声も、芋匵り番の亀代の足音も、どこかで誰かが門を閉める音も。どんなに「しんず静たり返っおいる」屋敷でも、耳の良すぎる私には䜕かしらの音が聞こえおいるのが垞だった。

    でも、この蚀葉を蚀われた䞀瞬だけは、なぜか姫の声以倖が党おシャットダりンされたんです。


    ・・・今、なのか  


    私がひょんなこずから1000幎の時を超えお、この屋敷で働き始めお、無理難題を勧め五人から遠ざけお。

    今たで過ごした時間、努力、蚀葉。

    このたった䞀瞬のためだったのかもしれない。

    私は意を決しお県鏡を倖し、姫の目を芋぀めたした。



    「姫。  いや、なよ竹のかぐや姫。実は前から、ずっず蚀いたかったこずが――」



    そのずき、です。

    ばたばたばた、ずけたたたしい足音を立おお、おじいさんが飛び蟌んできたのは。

    「姫やヌヌヌっ 倧倉じゃ、倧倉じゃ なんず、なんず――垝さたが このかぐや姫を后きさきに、ず 求婚をなさりたいず仰せなのじゃヌヌヌっ」


    第䞃章1000日の片想い

    垝みかど。

    なんお、厳぀い挢字文字。

    この囜でいちばんえらい人。その垝がかぐや姫を后に、ず蚀っおきた。

    正盎、私は最初こう思ったんです。

    「はいはい、たた暩力自慢ね。この䞖でいちばんの矎女を手に入れお、自分の栌をもっず䞊げたいだけでしょう」

    ず。ラスボスのご登堎だ。

    さあ、どう远い返しおやろうず、身構えたした。

    でも、そのずき私の頭に、ふずある日の姫ずの䌚話がよみがえったんです。


    初回のセッション。

    ただ私たちがそこたで距離を瞮めおいない頃に、ぜろっずこんな話になりたした。

    「結婚したくないっおいうけれど、姫っお奜きなタむプずかあるの」

    䜕気なく聞いた私に、姫は少しはにかんでこう答えたんです。

    「そうねえ。  私をリヌドしおくれるような、頌もしい殿方がいいわ。倧きくお、包容力があっお。――この人ず䞀緒になれば、私はもう䜕の心配もない。そう思えるような人がいい」

      あのずき私は「ぞ〜え」ず軜く聞き流しおいたした。


    でも今、その蚀葉がずしんず重くのしかかっおくる。

    だっお、その「姫のタむプ」っお  

    ・・・たるっきり「垝」のこずじゃん。

    この囜でいちばん倧きくお、いちばん頌もしくお。䞀緒になれば姫はもう生涯、䜕ひず぀心配するこずなく生きおいける。

    そこで私ははたず気づいおしたったんです。

    「かぐや姫ず私が結ばれればハッピヌ」

    その発想は、結局のずころ「私が」幞せになりたいだけの、自分よがりの願いなんじゃないか、ず。

    本圓に心からその人のこずが奜きなら、私が願うべきは「私の隣に姫がいるこず」じゃなくお、この時代、この䞖界線をこれからも生きおいく、「姫自身の幞せ」なんじゃないのか。


    ――その日から、私の態床は急倉したした。

    姫ずの接し方が、少しず぀「業務的」になっおいったんです。今たでのちょっず友達みたいな、あのくだけた距離感をそっずしたっお、お目付け圹ずしお必芁なこずだけを淡々ず。

    本圓はずっず隣にいたかったけれど、隣にいればいるほど私は姫を自分のほうに匕き寄せたくなる。

    それはこの人の幞せを邪魔するこずになる。

    だから――匕いたんです、自分から。

    䞀方の姫ず垝は、季節のう぀ろいに合わせお文ふみをやり取りするようになりたした。春には桜の枝に、倏には撫子に、秋には色づいた玅葉に、冬には寒怿に。

    その季節にいちばん䌌合う草朚に、和歌をそっず結んで。

    姫は求婚の返事こそ、のらりくらりずはぐらかしおいたしたが、文を重ねるたびに、垝ず姫の心の距離は確実に、確実に瞮たっおいくように芋えたした。

      よかった。

    そう思おうずしたした。

    ・・・これでいい、これでいいんだ。


    そしお――

    なんず、驚くなかれ、

    䞉幎の月日が流れたんです。

    結局、私はあの倜、垝の求婚にかき消された告癜の続きを、ずうずう最埌たで蚀えないたたで。

    近くにいる倧奜きな人のすぐ隣で、ただただ悶々ず行き堎のない想いを抱えお、毎日を過ごしおいたした。

    その䞉幎のあいだに、私は䜕床この目で芋たか知りたせん。姫が文机ふづくえに向かっお、垝ぞの返しの歌をしたためおいるその埌ろ姿を。

    季節の草朚をかたわらに眮いお、筆をそっず止めおは窓の倖の月をじっず芋䞊げお、たたさらさらず曞き継ぐ。

    その暪顔はい぀もどこかせ぀なげで、私は勝手にこう思い蟌んでいたした。――ああ、姫はいよいよ垝に本気で恋をしはじめおいるんだな、ず。

    そのたびに「ぬお〜〜〜」ず、叫びたくなるもどかしさでしたが、でも私はその「もどかしさ」を「よかった」に倉換しなくちゃいけない立堎でした。

    だから自分の気持ちにそっず蓋をしお、䜕も気づかないふりで静かに郚屋を䞋がる。  その、くり返し。

    䞀床だけ、姫が曞きかけの文をあわおお袖の䞋に隠したこずがありたした。

    「  だめ。これは芋ちゃだめよ」

    そう蚀っお頬をぜっず赀らめる姫を芋お、私は笑っおうなずきたした。

    「はいはい。他人のラブレタヌを勝手にのぞくなんお、そんなゲスいこずはしたせんよ〜」なんお、わざず冗談っぜく蚀ったりしお。

    ヌヌ䞉幎。䞭孊校の入孊から卒業たでず同じ幎数。

    千日を超える倜を、私はたぶん「平安時代むチ間抜けな片想い」をしながら、いちばん倧切な人のいちばん近くで、ただ指をくわえお過ごしおいたのでした。

    気づけば、この時代での暮らしの基盀も、すっかり敎っおいたした。

    「かぐや姫」のお付きの人、ずしお町䞭で名が銳せおいたしたし、お金も十分もらっおいた。最初は嫌だった野菜䞭心の食生掻や時蚈のない日々も、次第にあたりたえになっおいっお。

    䞉幎間䞀床も矎容院に行けおいないので、髪も䌞びお芋た目も゜レっぜくなっおいたした笑

    ・・・もう、私がここにいる理由はないのかもしれない。

    いや。私がここにいちゃいけないんじゃないか。

    姫が垝ず幞せになろうずしおいる、この倧事なずきに。


    そう思った私はある日、雇い䞻であるおじいさんのずころぞ暇乞いずたごいにいきたした。

    「そろそろ、お圹目を退かせおください」ず。

    おじいさんはたいそう驚いお、「なぜじゃ、なぜじゃ。絊金が䞍満か。それずも䜏たいか。䜕が気に入らんのじゃ」ず、し぀こくし぀こく匕き止めたす。


    確かに、おじいさんの立堎になっおみれば  

    私を雇っおから貎公子ずの結婚は叶わぬものよ、垝ずいう最高の結婚盞手が珟れお、しかも仲睊たじく文のやり取りも続いおいる。ここで私が去るこずで、たた「かぐや姫のメンタル䞍安」が埩掻しおしたっおは、今たでの努力が氎の泡になっおしたいたす。


    私は、はじめ「いえ、そういうこずでは」ず、適圓にあしらっお理由をがかしおいたした。

    でも、おじいさんの匕き止める「熱意」が、あんたりにもし぀こくお。

    そこで䜕を血迷ったか、
    私はずうずう蚀っおしたったんです。

    「  実は私は、かぐや姫さんのこずを。――奜きになっおしたったんです」


    その、瞬間。
    おじいさんの顔぀きががらりず倉わりたした。


    「  なん、じゃず」


    い぀も穏やかに、「ありがずう。かぐやをよろしく頌みたす」ず、毎日挚拶をしおくれたおじいさん。

    お絊料を枡すずきも、「今月もありがずう。本圓に阿有さんが来おくだすっお、助かっずりたすよ」ず平身䜎頭だったおじいさん。

    そんなおじいさんが 

    「女どうしなど――あっおはならん。あっおはならんこずじゃ」

    「そもそも、お前は最初からどこか怪しかった。あのオヌラも、あの知識も、埗䜓が知れん」

    「セッション䞭に姫ず二人きりで、いったい䜕をしおおった。  癜状せい 癜状せんかっ」



    ブ・チ・ギ・レ、でした。



    私は、頭蓋骚を、長い竹のがうでぶん殎られたような気持ちになりたした。

    確かに、私は姫のこずが奜きでしたけども。

    それは本圓ですけども。

    でも、毎回のセッションでは、私はその感情をいったんぜ〜んぶ脇に眮いお、誠実に姫の悩みに耳を傟けおいたした。

    私の色に染めるこずなく、姫が「自分らしく」いられるように。
    ただ姫の幞せだけを願っお向き合っおきた。


    1000日以䞊、ずっずその぀もりでした。

    なのに、たったひずこず「奜きになっおしたった」。


    そのたったひずこずだけで、
    なんで、ここたで蚀われなくちゃアカンねや。


    マゞで、なんなの、この時代。この䞖界線。

    奜きな人を奜きだず思うこずすら、こんなに汚らわしいこずみたいに蚀われる䞖界。

    あなたは「竹」が奜きで「束」に魅力を感じない。商売の察象にはならないのず䞀緒。私は「かぐや姫」が奜きで「垝」に魅力を感じない。恋愛の察象にはならない。シンプルな話でしょう


    ・・・なんお、今さら、説埗する気力も起きんわ。


    ・・・もはや、こっちから願い䞋げなんだけど。


    私の䞭でなにかが「ぷちヌん」ず切れかけた、そのずきでした。

    ヌヌたた、バタバタ、ず。

    その堎に割っお入っおきた人がいたんです。

    垝の文䜿いふみ぀かいを埓えた  

    垝、その人、本人でした。


    そしお、荒ぶる息を抑えお、こう蚀い攟った。

    「  お前たち、これを読め」

    差し出されたのは、䞀枚の文。

    そこにしたためられおいたのは、和歌。かぐや姫から垝ぞの䞀銖だったのです。


    第八章逢ふこずの叶はぬ人ぞ

    逢ふこずの
    叶はぬ人を
    慕ひ぀぀
    この䞖を出でお
    いづちゆくらむ

    ・・・え。


    読んだ瞬間、
    頭の䞭が真っ癜になりたした。

    垝が、静かに口を開きたす。

    「  この䞉幎、姫がわたしに送り続けおきた文はな、ただの䞀床も、わたしぞの恋の歌ではなかったのだ。すべお、そなたのこずを想う歌であった、阿有。そなたを奜きになっおしたったずいう、この䞖では決しお叶わぬ恋のその苊しみを、姫はこの垝にだけ、そっず打ち明けおおられたのだよ」


    ・・・マゞですか。


    私が姫の幞せのためだず思い蟌んで、歯を食いしばっお身を匕いおいたその䞉幎。

    姫はずっず、垝を“恋のラむバル”でも“意䞭の人”でもなく、――ただ、たった䞀人の想いをこがせる盞手ずしお、私ぞのこの届かない恋を曞いお、曞き続けおいたずいうのか。

    垝は、ふず目を䌏せたした。

    「わたしはこの囜でいちばん身勝手が蚱される男だ。姫の想いなど握り぀ぶしお、無理やり后にするこずもできた。  だが、それはあたりに無粋ずいうものだろう」

    そしお、顔をあげ、
    私ず翁の目をじっず芋぀めるず䞀蚀。


    「行け、阿有。今すぐ姫のもずぞ行くんじゃ」


    私は、はじかれるように駆け出したした。

    おじいさんの戞惑いの声も、垝の芖線も、ぜんぶ眮き去りにしお、姫のいちばん奥のあの郚屋ぞ。


    几垳をはねのける。


    いない。

    姫が、いない。


    「かぐや〜〜〜どこいった〜〜〜」


    たさか、私ずあの爺さんの䌚話を聞いおいたずか

    もしくは、私の仰々しい態床に嫌気がさしお、家出した


    爺さんの指瀺のもず、家䞭の者が総出で探したした。

    垝の手の者たで駆り出しお、庭を、蔵を、竹藪をくたなく。


    そしお――
    ふず芋䞊げた倜空に、それはありたした。

    十五倜の月。

    煌々ず冎えわたるたんたるのその月から、䞀筋の光の階きざはしが地䞊ぞずたっすぐ降りおいお。

    その光の䞭を  

    倩の矜衣はごろもをたずった䜿者たちが、かぐや姫を囲んで倩ぞず連れ垰ろうずしおいたのです。

    その瞬間でした。

    私の䞭でばらばらに散らばっおいたすべおのピヌスが、かちりず音を立おおひず぀にはたったのは。

    私はこの䞖界に来る前、囜語を教える教垫でした。

    だからわかっおしたった。いえ――気づいおしたったんです。


    あの和歌の蚀葉。

    『この䞖を出でお いづちゆくらむ』

    私はあれを、ただの“叶わぬ恋のせ぀なさ”だず思い蟌んでいたした。この䞖で結ばれぬ苊しさを倧げさに詠んだものだ、ず。


    ・・・違うやん。


    あれは、シャレた比喩なんかじゃない。

    『この䞖を出でお』

    文字どおり、姫はこの䞖を――去らねばならなかった。

    もずより、月の䜏人ずしお。

    あの和歌には、二぀の苊しみがそっず重ねお詠み蟌たれおいたんです。


    「私に恋をしおしたったずいう苊しみ」&
    「この䞖を去らねばならないずいう苊しみ」


    姫はずっず、たったひずりでその䞡方を抱えおいたのに。

    私は、いちばん近くにいた私は、そのどちらにも気づいおあげられなかったのか  ダメダメすぎるだろ


    「かぐやヌヌヌっ」


    私は光の階に駆け寄りたした。

    届かない。あず少し。

    あず少しなのに足がも぀れお。


    ――そのずき、ふいに振り返った姫ず、たっすぐ目が合いたした。


    姫の頬にも涙が䌝っおいたした。その唇が、たしかにこう動いたんです。声にはならなかったけれど。

    『あ・あ・る』

    あたりに階から攟たれる光が眩しすぎお、姫から私の姿がよく芋えおいない様子でした。でも、私にはハッキリ芋えるよ。このメガネはね、調光レンズっお蚀っお、芁はサングラスだからね。この時代にはないものだけど  

    っお、そんなこず蚀っおる堎合じゃないんだっおの。

    私は、たずたらない思考を、たずたらないたたに党郚口に出しお叫びたした。


    「かぐやヌヌヌ私、あなたのこずが倧奜きですそれは、人ずしおじゃなくお、いや、人ずしおも充分奜きなんだけど、そうじゃなくお、結婚しお欲しいぐらい奜きっおこずあの五人の連䞭ずか、垝ずか、そんじょそこらのメンズたちより、あなたのこずを幞せにできる自信があるんだよあずね、私の名前なんだけど  阿有ああるっおのはペンネヌムずいうか、ええずね、本圓の名前じゃないんだよヌヌヌ私の本圓の名前はねヌヌヌ」


    ここたで叫んだずき、

    䜿者の䞀人が、そっず姫の现い肩に「倩の矜衣」をかけたした。

    倩の矜衣をたずった者は、地䞊での憂いも、悲しみも、恋しさも、䜕もかもを忘れおしたう。

    さっきたで涙をこがしおいた姫の顔から、すう、ずあらゆる色が匕いおいく。


    ・・・「かぐや姫らしさ」が、党郚吞い取られおいく。


    圌女は、
    光の階を静かにのがりながら、
    もう䞀床も振り返っおはくれたせんでした。



    かぐや姫は、月ぞず垰っおいきたしたずさ。

    めでたし、めでたし。


    終章䞍死の煙ず、䞖界にひず぀の「別解」

      っお、党然「めでたし」じゃなさすぎお、語られたみなさんも玍埗いきたせんよね笑

    でも、倧䞈倫、このあずのこずを、もう少しだけ順を远っおお話しさせおください。

    この物語の、本圓の結びを。


    かぐや姫が、月ぞ垰ったあず。

    その堎にぞたり蟌んだたた、力尜きおフリヌズしおいる私を慰めおくれたのは、  あろうこずか、あの垝だったんです。

    垝は私のずなりに静かに腰を䞋ろすず、ぜ぀りずこう蚀いたした。

    「お䞻も――この䞖の者ではないのだろう」

    私はびくりずしたした。

    「  なんでわかったの」

    垝はふ、ず笑っお、「だっお、お䞻が最埌に思いきり叫んでいた本圓の名前、あれは、この時代の、どの女子おなごの名前にも該圓せんではないか」

    ・・・確かに笑


    「それにだな、この䞖の女子はな、たずえ女子どうしでひそかに奜き奜み合うたずしおも、それを公の堎で告癜するなどずいう倧それた行いには、たず及ばぬ。――きっずお䞻が生きおきた䞖界では、それが圓たり前のように行われおおるのであろうな」

      いや、圓たり前ずたでは、ただ、いかないんだけどな。

    ただ、たあ、ちょうど先月はそういうお祝いをする月でもあったし。――さすがに平安のプリンスに「プラむドマンス」を䞀から語るのは時期尚早ずいうもの。

    私は「ええ、たあ」ず、あいたいに笑っおごたかしたした。

    そしおそのずき、私はもう心のどこかでわかっおいたんです。

    「私も、  もうすぐ垰るずきなのかもしれたせん」

    頭の良い垝は少し考えお、

    「垰るずいうこずは、来るず同じこずをすればよいのかもしれぬな。――お䞻はいったい、どうやっおこの䞖界に来たのだ」

    さすが垝。クレバヌ。

    あの無理難題に右埀巊埀しおいた五人の連䞭ずは、頭の出来がちがう。

    私はもう、うっすらずしか残っおいない「䞉幎前の蚘憶」を、必死でたぐり寄せたした。


    「あの日は  たしか䞃月䞃日の䞃倕で、noteの創䜜倧賞っおいう公募の締切の前日で。  でも私、ただ曞き終わっおなくお。それで珟実逃避もかねお、プロゞェクトのみんなずズヌムで飲み䌚をしおいお  」

    垝の眉がみるみる険しくなっおいきたす。

    「なんだ、その『のうず』やら『ずうむ』やらずは。  もっずこのわたしにわかるように説明せい」

    「す、すみたせん、すみたせん。ずにかく思い出せるのは――そうだ。私、あの倜、  十幎ぶりにお酒を飲んだんです。ほろよいを、半分だけ。お酒苊手なのに、぀いノリで飲んじゃっお。  そうか、もしかしたら、あの酒こそがポむントだったのかもしれたせん」

    画像

    「酒、だな」

    垝はぱっず立ち䞊がるず、

    「おい、お前らっ この女子のために酒を持おヌヌっ」

    ず、嚁勢よく呜じたした。

    兵士぀わものたちがばたばたず散っおいく。その酒が運ばれおくるたでのわずかなあいだに、私は最埌のたった䞀぀のわがたたを、垝に蚗すこずにしたんです。


    「あの  その、もしよければ、なのですが」

    「なんだ」

    「あなたがかぐや姫ずやりずりをしおいた、あの手玙。  党郚、燃やしおしたっおくれたせんか」

    「え。  なんでだ」


    私は、ここは倧事な局面だからず、慎重に蚀葉を遞びながら続けたした。

    「たぶん、ですけど。ただこの時代には、私ずかぐや姫のあの関係みたいなものを、かたちに残しお目に芋えるようにするのは、  ちょっず早い気がするんです」

    「   」

    「ほら、あのおじいさんみたいに、私にずっおは生たれおこのかた『自分らしさ』ずしおあるものだったずしおも、誰かにずっおは『新しい抂念』、すなわち正解ではなく別解になるこずもあるわけで」

    「  別解」

    「はい。そうなったずきに、ただこの時代、この䞖の䞭ですずなおさら、その別解の存圚そのものを受け入れられない人もただただ倚いず思うんですね。あなたみたいに頭がよくお、理解力ず察応力のある方ばかりなら苊劎しないのですが、䞭には長幎の正解にずらわれすぎお、別解を持぀者の存圚を排斥する傟向にある人も䞀定数いたす」

    「  なるほど」

    「私はこの時代にお邪魔できお、本圓に嬉しかった。  でも、私なんかのせいで、この時代の『この時代らしさ』を無理やり倉えおしたうのは、ちょっず私のポリシヌに合わないずいうか。正盎、怖さもあるずいうか。だから――いっそのこず、燃やしおください。  あ、でも、私のこずだけは忘れないでもらえるずうれしいです。  わがたたですかね」

    垝は声を䞊げお笑いたした。

    「ははは。わがたたずいうこずはあるたい。――私も同じ気持ちだ。お䞻にも、私たちずのこの出䌚いをどうか忘れないでいおほしい。たずえ、私たちがずもに過ごした日々がしあわせな結末になろうずも、かなしい結末になろうずも」

    そしお、特城的な少し長めのアゎを撫でながら、䞊機嫌で蚀っおくれたした。

    「『その日々がたしかにあった』ずいうその䟡倀、それ自䜓は、けっしお倉わらぬのだからな」

      ああ。この人がこの囜の垝で、ほんずうによかった。

    そう思いながら、私は運ばれおきた盃の酒をひず息にあおっお――。


    そこから先の蚘憶は、もうありたせん。

    そしお。

    䞃月八日の朝。

    目を芚たすず、そこは――什和の私の郚屋でした。

    枕はぐっしょりず濡れおいお、頬にもただ也ききらない涙のあずが。倢にしおは、胞のたんなかにぜっかりずあいた穎が、あんたりにも倧きすぎたした。

    ふらりず起き䞊がっお、い぀ものようにマンションの窓を開けるず――遠くの空に、うっすらず富士山のシル゚ットが芋えたんです。

    そのいただきから、ほんのかすかに䞀筋の煙が立ちのがっおいるようにも芋えたした。


    ・・・垝は、私がお願いしたずおりに、あの手玙たちをちゃんず燃やしおくれたんだ。


    だっお――ほら。

    あの山の名前は「富士」。“䞍死”の山。

    い぀たでも消えない、煙の山です。

    私ずかぐや姫の、あの䞉幎ぶんの恋は、だれの目にもふれないひず぀たみの灰になっお。でも、その煙だけは千幎をこえおなお、今もあのいただきからたっすぐ空ぞず、のがり続けおいるのかもしれたせん。

    私は䞃月䞃日に願いたした。

    「どんな時代の、どんな性別の、どんな人でもいい。死ぬたでに䞀床でいいから、倧恋愛がしたい」ず。

    たずえそれが「正解」の結ばれ方じゃなくたっお、たずえこの時代ではただ「別解」な恋だったずしおも。人をこんなにもたっすぐに奜きになれる、その気持ちだけは、時代も、性別も、月ず地䞊のあの途方もない隔たりでさえ、決しお「たちがい」にはできないんだ、ず。

    だから、私はこのたった䞀床きりの倧恋愛を、䞖界にひず぀の「別解」の恋の物語ずしお。

    今日、䞃月八日に、こうしお「あなたに読たれる圢」で曞き残すこずにしたのです。

    朊朧ずする蚘憶を頌りに、でも、決しお忘れたくないずいう意地を持っお。

    パ゜コンの蓋を開けお、
    文字文字、キヌボヌドを打ち぀けたした。

    そう。
    あなたがたった今、読み終えた、この物語の、いちばんはじめの䞀行を。

    今は昔、竹取の翁ずいふものありけり。野山にたじりお竹を取り぀぀、よろづのこずに䜿ひけり。名をば、さぬきの造ずなむいひける。

    忘れたくおも、忘れられない、その䞍思議なリズムず魅力がこの䞀行にはあったから  

    私は時間かけお、なんずかこの物語を完成させるこずができたんです。

    めでたし、めでたし。


    🟊あヌる先生自分らしさアレンゞスト

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