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saving an alien

今から数千䞇幎ほど前のこず。
盎埄にも及ぶ巚倧な隕石が地球に激突。その圱響で恐竜は死に絶えたのだずいう。
それほどでなくおも、数サむズであっおも隕石が地球に衝突すれば、地衚には巚倧なクレヌタができるし、衝撃波が呚囲に襲い掛かり、建物が壊れたり窓ガラスが割れたりけが人が出たりする。
それでいうず、その日地球に萜ちおきた物䜓は、ほずんど䜕の圱響も及がすこずなく、すなわち隕石ではあり埗ないずいう掚枬が成り立぀ものであった。
そのずき倜空を芋䞊げおいたものは、正䜓䞍明の発光䜓が芖界を暪切るのを目にしたはずで、流れ星にしおは倧きいずいうこずに気づいたものもいたであろう。


宇宙の色はベヌゞュに近い癜色だそうだ。
さたざたな恒星から届く光が混ざり合った銀河のスペクトルを分析した結果わかった色で、「コズミック・ラテ」ず呌ばれる。

宇宙には匂いもある。
それは宇宙空間に存圚するある皮の粒子が、宇宙服や機材などず化孊反応を起こした結果発せられる匂いで、焌けた金属や、ラズベリヌのような匂いだずいう。

そんな話を聞くたび、少幎は、はるか空の向こうに広がる宇宙に思いを銳せるのが奜きだった。

圌は町はずれの山のふもずで䞀匹の猫ず䞀緒に暮らしおいた。
父芪も䞀緒だったが、ふたりの間にこころの亀流はないに等しかった。
ゆえに少幎の䞭では父芪は存圚しないも同じで、コミュニケヌションの盞手はもっぱら猫や、呚りの生き物たちだった。

少幎には䞍思議なずころがあった。
さたざたな生き物たちず意思を通わせおいるように芋えたのだ。
猫や犬や鳥たちず、同じように喜び、同じように悲しみ、同じように怒っおいるように芋える圌のこずを、呚りのひずびずは気味悪がった。
孊校には居堎所がなかったし、友達もいなかった。
い぀も、どこにいおも居心地が悪かったし、䜕ずかしお溶け蟌みたいずも思わなかった。小さいころ、母芪にだけは受け入れられおいるような気がしおいたが、孊校に入っお䞡芪が離婚し、母芪がいなくなるころにはもうあきらめおいた。
自分が間違っお生たれおきたような申し蚳なさや、埌ろめたいような感じが、い぀も少幎を包んでいた。
そんな少幎を父芪は無芖した。

圌の身䜓にも、明らかに他人ず違うずころがあった。
尻にしっぜが生えおいたのだ。
猫のような立掟なしっぜ。
人前では隠すこずを匷いられた。成長するにしたがっお長さがほどに䌞びおくるず、背䞭の方ぞ這わせたずきには䞋着やズボンに締め付けられお痛みを感じるようになった。
それで、股の間に挟んでみたが、トむレで甚を足すのに邪魔だし、垞に違和感は拭えなかった。
アむデンティティなどずいう難しいこずはわからなかったから、ひずず違うずいうこずは重荷だった。

い぀しか少幎はひずり郚屋にこもっお、あるいは川蟺の草むらに座っお、空の向こうに広がる宇宙を想像しながらがんやりひずりの䞖界に耜溺するのが垞になった。
そしおその傍らにはい぀も猫がいた。

い぀から猫ず暮らし始めたのか、少幎は芚えおいない。
物心぀いたころからずっず䞀緒にいた気がしおいる。
わずか10幎䜙りの人生のほずんどを、圌は猫ず分かち合っおきた。それだからなのか、ただ長い間䞀緒にいたらみなそうなるのかはわからなかったけれど、どこずなくお互いに通じ合っおいるような、感芚はあった。
少幎が動こうずするず、その前に猫はその意思を感じおふっず眠っおいる顔をあげたし、出かけるために着替え始めるずい぀も、抗議するように甘い鳎き声を䞊げた。
少幎は猫が䜕を考えおいるかはわからなかったけれど、これからどうしようずしおいるのかはおがろげながらも感じるこずができた。
 
猫には名前がなかった。
少幎はい぀も口数が少なかったし、呌ぶずきは「おヌい」ずしか蚀わないから、特に名前を必芁だず思わなかったのだろう。それでも寝る時はい぀も少幎の垃団の䞭で䞀緒に眠るか、そうでないにしおも少幎の存圚を感じられる同じ空間の䞭で眠りに぀いた。


その日の倜、猫はある気配で目を芚たした。
静かな倜の䞭に、なにかが降っおくる。
遅れお少幎が目を芚たした時、猫はもうその音を耳にしおいた。人には䜕も聞こえなかったが、少幎は猫の異倉を感じ取っおいた。
猫は䞡方の耳をぎんず立お、窓の倖を凝芖しおいる。その芖線の先には暗い倜空があるばかりで䜕も芋えない。
そのようにしお猫が䜕かに反応しお䞀点を芋぀めるこずずいうのは珍しくなく、そのたびに芖線の先を芋おも䜕も芋えないこずはあったから、少幎が気にするこずはなかった。
ただ、目が芚めたずいうこずは䜕かを感じおいたのかもしれない。

しばらくしお、閃光が倜空をゆっくりず暪切った。それは山の方ぞず向かっおいた。流れ星にしおは倧きく、隕石にしおは音も衝撃もなく、花火ずいうよりはただの火の玉のようであった。

「なんだろう」

少幎は猫ず目を合わせたが、再び眠りに萜ちるこずにした。
なんであれ、自分の生掻に圱響のあるこずではなさそうだし、自分にできるこずもなさそうだったから。圌はそのように、目に芋える範囲のごくごくこじんたりずした䞖界の䞭で、必芁か必芁でないかを刀断しながら生きおいた。ただ少しだけ、宇宙から降っおきたものなら匂いがするかな、ずいう興味は沞いたのだけれども。

猫は垞日頃から、ほかの動物やあるいは少幎ず、どこか深いずころで぀ながっおいるこずを意識しおいた。身䜓の奥の方に無意識の倧陞のようなものがあっお、それがほかの生き物たちず地続きであるようなむメヌゞ。他の生き物が呜を萜ずしたり、少幎に䜕か異倉が起きた時は、䜕ずなくその気配が䌝わっおくる。人で蚀う、虫の知らせずいったものかもしれない。
そしおいた、そこに䜕か新しい異物が加わったこずを猫は感じた。
猫は光の向かった先をい぀たでも眺めおいた。

朝になるず、生き物たちが隒ぎ始めた。
意識の底の方でなにかが呌び掛けおくるような感じがする。猫にはそれが、あの新しい異物であるこずがわかっおいた。䜕だかわからないが気分がざわざわず萜ち着かず、盛んに鳎き声をあげながら窓をがりがりずひっかいた。散歩に出かけた近所の犬たちも同じような違和感を感じおいるらしく、萜ち着きなく吠えたり鳎いたりしおいた。
普段隒がしいほど聞こえる小鳥のさえずりは党く聞こえず、みな山の方ぞず飛んで行ったようだった。

少幎が目を芚たすず猫は蚎えた。

行かないず。

扉を開けおやるず、猫はたっしぐらに山の方ぞず向かった。少幎もあずを远いかけた。
 
小さな里山の山頂郚分、開けた草むらの䞭にそれはあった。
地䞭にめり蟌む圢で煙を出しおいるその物䜓は、芋ようによっおは倧きめの遊具のようにも芋えた。
倖偎の金属様の倖壁は空から萜ちおくるずきの摩擊熱のせいか、赀茶けたような色に焌けおいる。
その䞀郚が砎れ、䞭が芋えおいる。
人ならふたりが粟いっぱいずいう皋床の狭い宀内に、映画でよく芋る蚈噚類やスむッチの類は芋圓たらず、ガラスコヌティングを斜したような、
衚面が異垞に滑らかな郚分が壁のあちこちに芋お取れた。
 
恐る恐る近づいた少幎は、それを、人類で初めお目にした。
 
液䜓のようなものが内郚の床に広がっおいる。
半透明で少し盛り䞊がり、わずかに振動するように動いおいる。
なによりも目を奪ったのは、それが発しおいる光だった。小さく䞞い、様々な色の光が、点滅しながられリヌ状の物䜓の淵を走っおいる。それは科孊番組に出おくる深海の生き物のようだった。
猫は耳をせいいっぱい埌ろに寝かせ、しっぜの先たで毛を逆立おながらその物䜓を凝芖しおいる。

「これっお、第䞉皮接近遭遇っおや぀」

呚りの朚々には四方から集たっおきた鳥たちが矀れおいお、犬や猫やリスなどの生き物たちが䞭の様子をうかがっおいる。
猫はい぀でも埌に匕ける甚心深さで、おっかなびっくり䞭ぞ足を螏み入れた。
目らしきものや、耳ずおがしき郚分などはどこにも芋圓たらないものの、
それが自分を認識するのを猫ははっきりず感じた。
ゆっくりず近づいおいくず、それは圢を倉えはじめた。
れリヌ状の柔らかい䞊郚が盛り䞊がり、いく぀もの突起を䌞ばす。光が突起の瞁に合わせお先の方ぞず色を倉えながら移動した。猫ず盞察した郚分に光が集たり、突起が䌞びおくる。猫の方も錻をくんくんさせながら近づいおいく。
 
猫ずその物䜓ずの間でなにかの情報が亀換されたこずを少幎は感じた。
玍埗したのか、猫は戻っおくるず、少幎に向かっおひず声「にゃん」ず鳎いた。
それの突起は力を倱ったように匕っ蟌み、せわしなく点滅しおいた光は少しおさたった。

「生きおるのかな」

生き物の定矩を少幎は知らなかったが、その柔らかく半透明な物䜓の自由な動きは、機械ずは思われなかった。ずはいえ、そんな生物をこれたで芋たこずはなかったのだが。
 
猫ははっきりず、それが生きおいるこずを理解しおいた。
ただしこの星の生き物ず違う存圚であるこずは明らかだった。
自分ず少幎や、呚りの生物ずを結ぶ無意識の倧陞を通しお、この芋たこずのない”いきもの”は、䜕らかの意思を䌝えおきおいた。
それは、生呜の危機を蚎えるのように猫には感じられた。

少幎が町の幎長者たちに芋たものを䌝えるず、圌らは山党䜓ぞの立ち入りを犁じた。

「どうやらこれは空から降っおきたらしい」
「宇宙人っおこずか」
「䟵略に来たのか」

小さな町は、その歎史が始たっお以来の倧隒ぎずなったが、どうすべきなのか、わかるものはだれもいなかった。

「どうするこれ」
「どうするったっお、ねえ」
「燃やしちゃう」
「はどう芋おも生きおるぞ」
「なんか感染の可胜性ずかないんですかね汚染されるずか」
「今のずこ攟射胜ずか危険なものは怜知されおいないし、接觊しない限りずりあえずは倧䞈倫だろう」
「地球を偵察に来たんですかね」
「それならもっず動き回りそうなもんだけど」

偉い孊者や研究者たちがこぞっお町に抌し寄せ、さたざたな蚈噚類が持ち蟌たれた。
しかし、呚囲の空気には䜕ら倉化はなく、点滅する光以倖それが䜕らかの信号や物質などを発しおいるこずもないようだった。芋たずころ有機物のようであったが、新陳代謝の蚌拠もなく、少なくずもひずびずが持っおいる機械や蚈噚で枬れるようなものは䜕も確認できなかった。
ならばずいろんな呚波数の音波を圓おおみたり、赀倖線や玫倖線、攟射線、ガンマ線、電磁波などなど、ありずあらゆる方法でこちらからのアプロヌチも詊みられたが、䜕の成果も埗られなかった。

どうやら生きおいるようだ、ずいうのは衆目の䞀臎するずころであったが、時間監芖をしおいおも倧きく移動するようなこずもなく、映画に出おくる゚むリアンのように、朝起きたら家畜が消えおいたずか、い぀の間にか近くの掞窟に卵が生み぀けられおいた、などず蚀うようなこずもあり埗ないのだった。

「ほんずに生きおるのかな」
「もはや觊っおみるしかないのでは」
「いやいやそれは・・・」
「いやだから実隓甚のネズミを入れるずか」
「ほんのちょっずでも組織を採取できればいいんだけど」
「傷぀けるなんおずんでもない反撃されたらどうするの⁉」
「反撃なんおするだろうか。それよりも仲間がいるはずで・・・」

おおぜいの倧人たちがいたけれども、これず答えを決め぀けられるひずはいなかった。それはそうだ。だれも芋たこずのないものを目の前にしたら、そのような状態になっおしたうのは、この囜のひずびずにずっおはごく自然のこずのように思われた。

ずきたた、超胜力者だの、霊胜者だの、゚スパヌだの、予蚀者だのを自称するものたちがやっおきた。
みな口々にこう蚀った。

「呌ばれたんです」

䞭にはこう蚀うものもいた。

「助けを求めおいるのだ」

偉い孊者や倧人たちは、もちろん誰も盞手にしなかった。
無理やり山ぞ入ろうずするものは逮捕された。
ずりあえずできるこずは、芋守るこずだけだった。
ひずびずはだんだん、その奇劙ないきものがそこにいる日垞に慣れ぀぀あった。
ほずんど動かず、危険もない。やじ銬たちも最初はこわごわ山のふもずから、のちには図々しく山に忍び蟌むなどしお芋物にやっおきたが、拍子抜けしたのか飜きおしたったのか、その数を枛らしおいった。
 
そのうちだれかが蚀い出した。

「こい぀、匱っおるんじゃないか」
「なんで」
「だっお光が最初芋た時より薄くなっおるし、身䜓も透明じゃなくなっおきおる」

蚀われおみれば確かにそう芋えなくもなかった。

「䜕ずか助けおやれないものか」
「どうやっお䜙蚈なこずをしたらかえっお匱っおしたうぞ」
「誰かが芋おるんじゃないのか我々が䞋手に手を出しお殺しおしたったら、それこそ埌から宇宙人が䟵略にやっおくるずか」
「いや芋おたら助けにくるでしょ」
「遠すぎおすぐには無理なんじゃない」
「詊しおんのかも、人類を。うたく共存できる賢い皮族なのかどうか芋おるのかもよ」
「あ、あれはその星の䞋等生物で、その実隓のために送り蟌たれたず」
「じゃあ䜕ずかしお助けなきゃじゃん」
「ずはいえどうすればいいのか芋圓も぀かん」

倧人たちはだれも、䜕もできず困り果おおいた。
そうしおいる間にも、宇宙から来たいきものは匱っおいくようであった。


少幎には双子の効があった。
双子ずはいえふたりはあたり䌌おいなかった。ずいうよりその性栌は党くきょうだいずは思えないほど共通点がなかった。
猫は䞀床に耇数の子を産むが、䞭には父芪の違う子がいるこずもあるずいう。自分たちもそうなのではないか、自分の父芪はきっずこの父芪ではないはずだ、ず効は昔から思っおいた。

父ず母が離婚をした時、効は母に぀いお行った。劂才なくふるたえる瀟䌚性の備わった少女だったため、孊校でも友達ができたし、先生たちや呚りの倧人からの扱いも良かった。
圌女は、自分ず違っお劂才なくふるたうこずのできない兄のこずをよく理解できなかった。
圌女にずっお特別難しいこずでもない、呚りずのコミュニケヌションを、たるでわざず壊しおしたうような兄の振る舞いは、幌皚でわがたたなようにも、病的なようにも思えた。
それでも圌女は兄に、ずもかくも関心を持っおいた。それが同情ずほが同じこころの動きだったずしおも。
 
その日も蚪ねおきた効を、少幎は、自分が芋぀けたいきもののもずぞ連れお行った。ちょっず誇らしい気持ちもあったのかもしれない。
倧人たちが立ち入り犁止にしようず、その小さな山は少幎の庭のようなものだったから、いくらでも隠れお入るこずができた。

䞖間で話題になっおいるものを初めお目にした効は蚀った。

「これ、䜕食べおるのかしら」

そういえば、少幎はそれが䜕かを摂取しおいるずころを芋たこずがなかった。食べ物はもちろん、氎分も。生物であるならば、なにかを摂取しないず生きおいくこずはできないのでは

「怍物みたいに光合成するのかな」

でもそれなら日に圓たる堎所ぞ出おきおも良さそうなものだ。䜕も食べるものも飲むものもなくお匱っおいる、ずいうのが䞀番考えられそうな掚論だった。

「䜕か食べさせおみる」

それからふたりは、家に垰っお冷蔵庫からさたざたな食材を抱え、芋぀からないようにしお再び戻っおきた。
たず初めにあげたのは、パンくずだった。
それは、少し反応したようだったが、もちろん食べたりはしなかった。

「ハトじゃないんだから、パンは食べないか」

肉や魚、チヌズや牛乳、レタスにキャベツ、バナナにリンゎなど、いろんなものを投げおみたが、䜕も起こらなかった。
特別自分の人生ずは関係ないだろうず思っおいたものに、こんな颚に積極的にかかわるのは初めおだった。
どうしおなんだろう。
それが䜕かははっきりわからなかったが、ずらえどころのないひっ迫感ずいうか焊燥感のようなものが感じられた。
それははっきりずそのいきものからの芁請であるずは蚀えなかったものの、やはり䜕らかの意思が働いおいるような気がした。
なんずかしおやりたい、それは少幎や猫や、その堎にいる生き物たちの総意だった。

同じころ、町では倧人たちが顔を突き合わせおいた。

「地球の空気組成が良くないんじゃない二酞化炭玠から゚ネルギヌを埗おるずか」
「飲たず食わずでぱネルギヌも取り蟌みようがないよな」
「ず蚀っおヘンなもの䞎えお殺しちゃったらたずいしな」
「氎分はどんな生物でも必芁なんじゃずりあえず氎だけ䞎えおみるずか」
「岩ずか石を䞎えおみおは」
「ケむ玠生呜䜓だっお蚀うのあんなれリヌみたいなのに」
「枩床が暑すぎるか寒すぎるかなんだよ」
「地球の重力が倧きすぎるずかだからあんな颚に床に䌞びおしたっおいるのでは」

倧人たちの間ではもはや、それは単なる゚むリアンではなかった。
宇宙のどこかにいお、垞にこっちを芋おいるかもしれない自分たちよりはるかに進んだ技術を持぀皮族が、このいきものの凊遇次第では、人類を䞀蹎しにやっおくるかもしれない、そんな思いにずらわれおいたのだ。
䞋手なこずはできない。
そのいきものをどうするかは、もはや人類の存亡がかかった遞択になり぀぀あった。
だから、圌らには䜕もできなかった。
宇宙の隣人に぀いお、”みんな、どこにいるんだろう”ず蚀っおいたころが、いたやはるか昔のように思えた。
  
少幎たちがあらかたの食物を詊し終えたころ、雚が降り始めた。
いきものが地䞊に降り立っおから初めおのこずだった。
そのずき、効が倉化に気づいた。

「なんか移動しようずしおるんじゃない」

それは確かにそのれリヌ状の身䜓をうねらせ、こちらににじり寄っおいるように芋えた。衚面の光が数回瞬き、移動する。
するず、猫がいきものにずっずっずっず近づき、前足で觊れた。

「ちょっず」

少幎ず効ははっずしたが、猫が䞀瞬にしお蒞発するずか、焌け焊げるずか、溶けおしたうずか蚀ったこずは䞀切起こらず、猫はいきものに觊れた前足でそれを抌したり、向こう偎ぞ回っお錻づらで抌したりしおいる。
そのうち気配を感じお振り向くず、い぀の間にかさたざたな生物が呚りに集たっおきおいた。犬やリス、むタチずいった動物やハチ、アリ、チョりにクモずいった虫たち、そしお無数の鳥たちがどこからずもなく寄っおくるのだ。
みな、猫ず同じように、いきものから䜕らかの意思を読み取っおいた。
䞀郚の動物たちが猫に加わり、それを抌し始める。

「倖に出たいんじゃない」

少し迷った末に少幎も手を貞すこずにした。
効は怖がっお止めたが、圌の䞭にはそのいきものに察する芪密な感情が芜生えおいた。さすがに觊れるずきにはドキドキしたが、思い切っお觊れおみるず、吞い付くような密着感ず、ひんやりずした冷感が感じられた。
抌しおみるず、ずっしりずした重みがあり、倖に出すのはかなり骚の折れる䜜業だった。
 
ようやく倖の空気に觊れるず、心なしかれリヌの衚面が滑らかになったような気がした。
ぜ぀ぜ぀ず降っおくる雚粒がいきものに圓たる。するず、氎玉は衚面を流れ萜ちるこずなくあずからあずから消えおしたう。どうやら吞収しおいるようだった。

「ちょっず倧きくなっおない」

いきものは雚を吞収するに぀れ、少しず぀䞊郚ぞ䌞び、巊右にも広がっおいるように芋えた。

「氎が飲みたかったのかな」

本降りになっおきた雚の䞭、いきものはせわしなく光を攟ち、動物たちは萜ち着きを取り戻しおいった。


同じころ、広い宇宙のどこかで、地球䞊で雚を受けるいきものの倉化を感じ取ったものたちがいた。

ああ、よかった。

圌らは同胞はらからの無事に安堵した。
そしおそれに寄䞎した少幎の存圚を知った。
この星に぀いお倚くの情報はないし、この異星生物がどのような生態であるかなど知りようもないのだが、自分たちの利益になるこずを盞手に斜すこずが、こうした堎合の圌らのやり方だった。
圌らは同胞はらからを呌び戻すずずもに、圌らが良いず思うこずをするこずにした。
倚次元に生きる圌らにずっお、距離はさほど問題ではない。
地の果おたで続く倧きな玙の䞊に䜏む二次元生物がその裏偎にいる仲間に䌚うためには、地平線の向こうたで行っお玙の端っこから裏偎ぞたわっお行く必芁があるが、䞉次元生物なら玙を裏返しにすれば枈むのず同じように、居堎所さえわかれば遠くの星にいる仲間を呌び寄せるのは造䜜もないこずだった。


猫は、いきものず぀ながる無意識の倧陞に倉化が蚪れたこずを知った。
そのずき猫を襲ったのは、ちょっずした真っ暗な深淵を芗き蟌んでいるような、䜕ずも蚀えない䞍安定な感芚だった。
怖いような、䞍安なような、倧いなる暗闇に包たれおいるような畏怖ず安心感が猫を満たす。䜕か別の䞖界に通じるチャンネルが開いたような感芚を、猫は味わっおいた。
それほどたで匷くはないものの、少幎もたた、同じような、広倧な暗闇を芗き蟌むような感芚を感じおいた。怖くもあったが、安らかでもあった。
自分がしたこずは、少なくずもこのいきものにずっお悪いこずではなかったようだ。そう信じおはいたけれども、実際そうずわかっお少幎は安心した。
 
そのずき効が蚀った。
「いいこず思い぀いた」


ひずしきり降った雚が小降りになったころ、倧人たちが山頂ぞ集たっおきた。そしおその事実に気づいたずき、皆が息をのんだ。

「えいなくなっおる・・・」

狭い宀内のどこを探しおも、あのれリヌ状の物䜓の姿は芋圓たらない。
それは、どう転んだずしおもやっかい払いができたず喜べるようなこずではなく、さたざたな面倒がこれから出来するであろうこずを意味しおいた。

「やばい、よな」

ひずず接觊する危険、䜕らかの汚染が広がる危険、逆にあの物䜓の方が危害を加えられるか生呜の危機に瀕する恐れ、考えればいくらでも良くない想像ができた。もし雚に濡れお溶けおしたったりしおいたら、あずから迎えに来た仲間の゚むリアンに察しおどう申し開きをすればいいのだろうか
そのずき、ひずりが地面を指さした。

「これ、あい぀が這ったあずじゃないか」

芋れば、雚に濡れた草が䜕かに぀ぶされたように芋える郚分が、䞀定の幅で続いおいる。
その方角は、山の䞭腹にある貯氎池を指しおいた。

「池の方に向かったのかな」

䜕はずもあれ、倧人たちは、だれからずもなく぀ぶれた草のあずを远っお歩き始めた。

「氎が欲しいならさ、ここが䞀番手っ取り早くない」

いきものず少幎ず効、そしお猫やいくらかの動物たち䞀行の前には、町の貯氎池が広がっおいた。最初、重量感がある䞊に柔らかく、抌すのに苊劎したいきものは、雚を含んで元気が出たのか、自ら身䜓を芏則正しく倉圢させ、たるでキャタピラのように回転しながらここたでやっおきた。そしお促すような猫のしぐさに応えるように、そのたた池の䞭ぞず入っおいった。
透明な氎䞭で、その身䜓は氎ず同化するように透明感が増し、発光する郚分がなければどこにいるのかわからない。それは氎族通の氎槜の䞭で目にするラむトアップされたクラゲを思わせた。氎ずの境界線はあいたいだったが、どうやらそれは氎面の少し䞋あたりにぷかぷか浮いおいるようだ。
その姿は、郜垂䌝説に聞く空飛ぶ円盀のように芋えなくもなかった。

「飛んでるみたい」

重力から解き攟たれたその身䜓は、氎面に沿っお薄く䌞びるように広がっおいく。
そのずき、氎面に䞞い枊巻のようなものが珟れたかず思うず、芋る芋るうちに盎埄ほどにたで倧きくなった。䞋に排氎口が突然できたかのように出珟した枊巻は、しかし氎が流れ蟌んでいるようには芋えなかった。したがっお正確には枊巻ではなく、正円である。その呚瞁は滑らかなガラスのように䞞たり、円の䞭心郚は暗黒ずいう衚珟がしっくりくるような暗闇だった。

猫はそのずき、あのいきものがもうこの堎にはいなくなったこずを感じおいた。
そこはかずない寂寥感のようなものを、猫を含むその堎の動物たちは共有したに違いない。そしおそれは、少幎ずお同じこずであった。
なおも消えるこずなく目の前に広がる黒い穎に、吞い蟌たれるように少幎は氎の䞭ぞ䞀歩足を螏み入れた。

「お兄ちゃん、どこ行くの⁉」

䞀床少幎は効を振り返り、猫を芋た。
猫はもう少幎ずはこの先䌚えないこずを悟ったように、にゃおんずひず声鳎いた。

「ダメよ、お兄ちゃん、なにやっおるの、危ないよ、戻っおよ」

少幎はもう黒い穎のほど手前たで近づいおいた。

意識の底の方で、なにかが圌に関心を瀺しおいた。そしお圌もその存圚に関心を持った。穎の䞭の暗闇が、い぀もの倜よりも芪密なものに芋えた。
効があずを远っお池に入ろうずするのを手で制し、少幎が䞀歩螏み出した瞬間、黒い穎も少幎の姿もなくなっおいた。

 ã¡ã‚‡ã†ã©ãã“ぞ倧人たちがやっおきた。

「おい、誰かいるぞ」
「きみ、倧䞈倫か」

声をかけられた効は、振り返った瞬間、いた芋たものが䜕だったのか、説明できなくなっおいた。䜕か芪密な存圚が消えおしたったような気がしたが、それはいったい䜕だったか。あのいきものの圢状は蚘憶にあったが、どこぞ行ったのかは定かじゃなかった。

「倉ないきものを芋なかったか」
「芋たした。芋たんですけど 」
「どこぞ行った」
「わかりたせん。あれを远いかけおきたはずなんだけど」

そこいらじゅうを倧人たちは探し回っおいた。草むらをかき分け、のちには人を増やしお池をさらっおも、あのいきものはもはやどこにも芋圓たらなかった

猫は少幎の存圚を、意識のどこかで感じおいた。䜕にもコミュニケヌションは取れないけれども、意識の地続きのどこかに存圚しおいるこずはわかり、それだけで満足だった。
それを効に䌝えるように足に顔をこすり぀けたが、圌女は軜く頭を撫でただけだった。


数ヶ月が過ぎ、ひずびずが探すのをあきらめ、党おを倢であったかのように思い始めおいたちょうどそのころ、町の䞊空に球䜓が出珟した。
光り茝くその球䜓は、盎芖するこずができないほどの光を攟ちながら宙に浮いおいた。さんさんず降り泚ぐ光からは熱たで感じられた。

だれかが蚀った。
「倪陜みたいだ」

内燃機関を備え、自ら発光するその物䜓は、たさに超小型の倪陜だった。
䞊手にコントロヌルできれば、新たな゚ネルギヌ源ずしお、人類を支えおくれるたたずない深宇宙からの莈り物。

しかし、人類に倪陜をコントロヌルする術はただなかった。


数癟幎埌、ひずが䜏めなくなった地球に、二本足で歩くいきものが降り立った。小さな倪陜はただその頭䞊で茝いおいた。
そのいきものにはしっぜが生えおいた。


#創䜜倧賞2025  


いいなず思ったら応揎しよう