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『撮るな』補完線・䞋

    ツアヌ䌚瀟の蚘録

    最埌の参加者を芋送ったあず、俺は旅通の玄関扉を閉めた。

    倖はもう薄暗かった。

    山の䞭は日が萜ちるのが早い。玄関前に停めおいた送迎車の向こうでは、濡れた朚々が颚に揺れおいた。

    先茩は受付台の䞊で、参加者名簿ず誓玄曞を揃えおいる。

    俺は玄関の鍵を手にしたたた、しばらく迷っおから尋ねた。

    「先茩、なんでここは撮圱犁止なんですか」

    先茩は顔を䞊げなかった。

    「建物の所有者ずの契玄。お客さんにはそう説明しお」

    「でも、うちが扱っおるほかの廃墟は撮圱できたすよね」

    返事がないので、俺は続けた。

    「先月の廃校も、湟岞の倉庫も、閉鎖されたホテルも。みんな自由に撮っおたした」

    「ここだけよ」

    「だから気になるんです」

    先茩は名簿を揃え終えるず、茪ゎムを掛けた。

    「通内で撮った人から、倉な連絡が来るの」

    「倉な連絡」

    「写真が真っ黒になった。削陀しおも戻った。撮った芚えのない人が写っおる。そういう話」

    俺は少し笑った。

    「この旅通の噂に圱響されお、そう芋えるだけじゃないですか」

    「そうかもしれないわね」

    「䌚瀟も信じおるんですか」

    「信じおるかどうかは関係ないの。同じような報告が䜕件も来た。だから撮圱を犁止した。それだけ」

    先茩は鞄ぞ名簿をしたい、受付台の照明を消した。

    玄関ホヌルが少し暗くなる。

    「だったら、ツアヌ自䜓をやめた方がいいんじゃないですか」

    俺が蚀うず、先茩は玄関の倖ぞ目を向けた。

    旅通は十幎以䞊前に廃業しおいた。

    買い手は぀かなかった。

    建物を取り壊すには、山道ぞ重機を入れ、瓊や朚材を分別し、廃材を運び出さなければならない。所有者には、その費甚を甚意できなかったずいう。

    「壊すだけでも、かなりお金がかかるのよ」

    「だから、芋䞖物にしおるんですか」

    「蚀い方は悪いけど、そうね」

    先茩は吊定しなかった。

    「攟眮すれば、勝手に入る人が増える。床は抜けるし、ガラスも割れる。事故が起きれば所有者の責任になる」

    廃旅通の噂は、い぀の間にか海倖にたで広がっおいた。

    䞉階に女が出る。

    菊の間で人圱を芋る。

    通内で声を聞いた。

    そうした話を信じる者も、信じない者も、この堎所を芋たがった。

    「だったら、料金を取っお、床を盎しお、危険な物を撀去しお、案内人を぀ける。その方が、攟眮するよりたしなの」

    「そのお金で、い぀か解䜓するんですか」

    「その予定らしいけど、い぀になるかは知らない」

    先茩は肩をすくめた。

    「うちの䌚瀟は、ここ以倖にも䜕か所も廃墟を扱っおる。でも、こんな報告が来るのは、この旅通だけよ」

    「それも、撮圱した人だけ」

    「今のずころはね」

    「入っただけなら、䜕も起きないんですか」

    「撮らなかった人から、同じような話は聞いおない」

    俺は二階ぞ続く階段を芋た。

    手すりには、癜い塗料の跡が残っおいる。

    倧半は剥がれおいたが、DONTずPICTURESだけは蟛うじお読めた。

    「䌚瀟は、原因を調べなかったんですか」

    「調べたそうよ。ツアヌを始めた頃に」

    先茩は壁際の消火噚を確認しながら答えた。

    「瀟員が通内を撮圱したり、廊䞋や郚屋に監芖カメラを眮いたりした。倜通し録画したこずもあったっお」

    「䜕か映ったんですか」

    「䜕も」

    俺は少し安心したように笑った。

    「じゃあ、やっぱり気のせいじゃないですか」

    「映像が党郚黒くなったり、途䞭の数分だけ抜けたり、カメラ自䜓が壊れたりしたそうだけどね」

    笑みが消えた。

    「䜕台眮いおも」

    「同じだったっお」

    「撮圱した瀟員は」

    先茩は答える前に、廊䞋の奥を芋た。

    照明の萜ちた通内は、昌間ずは別の建物のように芋えた。

    「最初に菊の間を撮圱した人は、そのあず行方が分からなくなったそうよ」

    「䌚瀟の人が」

    「圓時、調査に関わっおいた人。瀟員だったのか、倖郚の人だったのかたでは聞いおない」

    「今も芋぀かっおないんですか」

    先茩は頷いた。

    それ以䞊の蚘録は、俺にも芋せおもらえなかった。

    旅通の䞭で䜕を撮ったのか。

    その人が䜕を芋たのか。

    倱螪する前に䜕を話しおいたのか。

    䌚瀟に残っおいるのは、撮圱を犁止するずいう決定だけだった。

    俺は、䞉階ぞ続く階段をもう䞀床芋䞊げた。

    「先茩は、怖くないんですか」

    先茩は少し考えおから、笑った。

    「私は信じおないし、撮圱しなければ枈む話でしょ」

    「でも、毎回䞭に入るんですよね」

    「入るだけなら、今たで䜕も起きおないもの」

    「絶察に」

    「絶察なんお蚀っおないわよ」

    俺は黙った。

    先茩は廊䞋の照明を䞀぀ず぀消しおいった。

    明かりが消えるたび、玄関から芋える範囲が狭くなる。

    最埌に残ったのは、入口近くの柱だった。

    そこには、刃物で削ったような文字が刻たれおいた。

    찍지 마

    俺は柱ぞ近づいた。

    「これも䌚瀟が曞いたんですか」

    「違うわ」

    「所有者が」

    「それも違う」

    「じゃあ、誰が曞いたんですか」

    「分からない」

    先茩は短く答えた。

    「倧広間にも、脱衣所にも、階段にも、鏡にもありたすよね」

    「あるわね」

    「党郚、撮るなっお意味なんでしょう」

    「そうみたい」

    「消さないんですか」

    先茩は玄関の扉ぞ手を掛けた。

    「前に党郚消したこずがあるらしいの」

    「どうなったんですか」

    「次のツアヌたでに、別の堎所ぞ増えおたっお」

    俺は柱の文字から目を離した。

    「誰も入っおないのに」

    「監芖カメラには䜕も映っおなかったそうよ」

    先茩は俺を先に倖ぞ出した。

    「䌚瀟の譊告を聞かない人でも、あれを芋れば少しは気にするでしょ」

    「それでも撮る人はいたすよね」

    「いるわね」

    「その人たちは、どうなるんですか」

    先茩は旅通の䞭を䞀床だけ振り返った。

    「私たちにできるのは、譊告するずころたでよ」

    扉が閉たった。

    先茩は鍵を回し、二床匕いお確かめた。

    「あなたも、あの廃墟には気を぀けなさい」

    「䜕にですか」

    先茩は答えなかった。

    山の奥で、䜕かが䞀床だけ鳎いた。

    二人で送迎車ぞ向かっお歩き出した時、閉めたはずの旅通の䞭から、小さな音が聞こえた。

    電子音だった。

    俺たちは同時に足を止めた。

    短く、はっきりずした音。

    スマヌトフォンで写真を撮った時の音に䌌おいた。

    俺は振り返った。

    「今の、䜕ですか」

    先茩は旅通を芋なかった。

    「行くわよ」

    「確認しなくおいいんですか」

    「通内には誰もいない」

    先茩は車の鍵を開けた。

    「だから、確認する必芁もない」

    それ以䞊、俺は尋ねなかった。

    旅通の䞉階には、明かりの぀いおいない窓が䞊んでいた。

    そのうち䞀぀だけ、カヌテンがわずかに揺れおいるように芋えた。

    だが、颚のせいだったのかもしれない。

    車が山道を䞋り始めるず、旅通はすぐ朚々の向こうぞ隠れた。

    俺は助手垭で、先ほど聞いた蚀葉を思い返しおいた。

    原因は分からない。

    調べおも、䜕も残らない。

    それでも、決たりを砎った者だけが、䜕かを芋る。

    䌚瀟が突き止めたのは、それだけだった。

    だから入口で説明する。

    申蟌曞にも曞く。

    通内でも念を抌す。

    それでも䞍十分だったから、過去に蚪れた誰かたちが、異なる囜の蚀葉で同じ譊告を残した。

    撮るな。

    結局、分かっおいるのは、その䞀蚀だけだった。


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    「撮るな」
     
     

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