
ねね
まず、飲食店にいるんだよ
私はそこでしばらく、出された飯を食う
ひとしきり食べたあと、階段で2階にあがる
2階に誰がいるのか、私は知っている
彼らは2階の座敷に慎ましく座ってる
そこには若い両親と、幼児、それから赤ん坊がいる
2階に若い両親がいることを、私ははじめから知っていた
私は父に「やあ」とか「うん」とか、適当に、気恥ずかしさの滲む挨拶をする
父も同じように私に返す
若い両親も、この私、彼らからすれば未来の娘のことを知っている
いまから少し前、私はさらに若い両親に会っている
彼らにはまだ子供がいなかった
子供のことで悩んでいた
だから私は、心配するなと伝えた
そこそこ生意気だがそれなりに元気な子供が生まれると言った
それが私だと言った
さらに若い両親は驚いていたように思う
座敷に寝かされている赤ん坊をプニプニつついた
弟だ
彼が生まれたとき私は4歳だったから、赤ん坊の頃の姿なんて全然記憶になかった
私はいま初めて赤ん坊の弟を見る気持ちで、可愛いなと思いながらちょっかいを出していた
若い両親は微笑ましくそれを見ている
それから幼児のほうへ近付いた
私だ
幼い私だ
私はこのあと、この私に何が起こるか全部知っている
「ねね、これからりんご病になるよ」と嫌な予言をする
若い両親は笑う
幼児の私はりんご病の意味がわからなくて「?」を浮かべまくっている
「幼稚園を休むことになる
それはな、すごく暇なんだよ
ずっと寝てないといけないから
でも、このあとお前、
スノードームを買ってもらうんだけど、
布団の中でそれを見て過ごすと
不思議と時間が過ぎるから」
名古屋に住んでいたころの記憶だった
赤く腫れて痛い頬と、ドームの中の白い粒がゆらめく様を眺めるしかなかったあのときが、なぜかいまだに忘れられない
幼い自分をよく見たかった
だから私は、幼児の顔をじっと見つめた
そして言った
「え? 似てなくない?」
咄嗟に両親を見た
若い父も母も、微笑んでいるのにどこか諦めたか悟ったか、すでに受け入れたような顔だった
やがて父が言った
「こういう未来もある」
幼児が突然立ち上がった
幼児だと思っていたものはよく見ると全然幼児ではなくて、直立し、少し腕が長くて、中学生くらいだった
そして、男の子だった
でも、確実にそれが"ねね"なのは分かった
「え? どうして……だって私、女…………」
でも、いまここにいるねねは、男の子として生まれていた
両親も、弟も同じなのに、私だけが違っていた
少年の私が過去から私を見つめている
過去の自分が、いまの自分と異なる性別で存在している
「じゃあ…………だって、それに気付いちゃったら、もう、私は」
すべて悟った私は力なく呟いた
その瞬間ものすごい速度で意識が遠のいていくのを感じ、そして、そのまま、暗転、おしまい