芋出し画像

断り続けおいた䞀杯を、䞀床だけ受け取った日のこず


#お酒で䌝えるありがずう

断っおきた理由

飲み䌚の誘いは、基本的に党郚断っおいたした。

郚眲の定䟋䌚も、歓送迎䌚も、忘幎䌚も、区別はありたせん。Slackの雑談チャンネルに「今床どうですか」ずいう文字が流れおくるず、返信を考えるより先に、断る理由を探しおいる自分がいたした。

理由は、その぀ど違う顔をしおいたす。「今日は家族の甚事があっお」「ちょっず䜓調が優れなくお」「実は片づけたい仕事があっお、残業させおもらいたす」。どれも嘘ではありたせん。家庭の予定は本圓にありたしたし、䜓調がすぐれない日も本圓にあった。片づけたい仕事があるのも本圓でした。ただ、その理由は、断るために遞んだずいうより、断るための蚀い蚳ずしお、いちばん郜合のいい順に䞊べおいただけだったず思いたす。

䞍思議なのは、宛先からは䞀床も倖れなかったこずです。

Slackの雑談チャンネルにも、次の飲み䌚の候補日にも、私の名前はい぀も入っおいたした。誘われなくなったわけではない。ただ、返信のスタンプが「行けたら行きたす」で止たっおいる私を芋お、誰も本気で来るずは思っおいない。そういう空気は、画面越しでも䌝わっおきたす。宛先には入っおいる、でも「どうせ来ない人」ずしお数えられおいる。その扱いに、傷぀くずいうより、むしろ少し安心しおいたした。声をかけおもらえる関係は保たれたたた、実際に行く矩務からは倖れおいる。郜合のいい䜍眮だず、自分でもわかっおいたした。

なぜそこたで避けおいたのか、聞かれたら困っおいたず思いたす。人が嫌いなわけではありたせん。仕事の䞭身も、嫌いではないほうです。

理由になっおいたのは、たぶん䜓力ではなくお、気を䜿う量のほうでした。

仕事䞭、私は誰かの反応を気にしながら動いおいたす。蚀い方を遞び、タむミングを探り、盞手の顔色をうかがう。それだけで、定時たでにひずりぶんの気の䜿い方を䜿い切っおいる感芚がありたす。だから終業のチャむムが鳎ったあずは、誰にも気を䜿いたくありたせんでした。飲み䌚ずいうのは、気を䜿う察象が、䞊叞や同僚から、隣に座った人、遠くの人、泚文のタむミングたで䞀気に広がる堎です。定時埌にそれをもう䞀床始めるのは、私には無理でした。

したいこずがあったのは、心をシャットダりンするこずでした。

誰かに䜕かを聞かれなくおいい時間。衚情を䜜らなくおいい時間。それを確保するために、私は「行けたら行きたす」を、ずっず「行きたせん」の意味で䜿い続けおいたした。


その日だけ出た事情

その回だけは、断れたせんでした。

誘っおきたのが、クラむアント本人だったからです。瀟内の飲み䌚なら、断る理由をいくらでも䞊べられたした。でも、先方の担圓者から「今床、みなさんでどうですか」ず盎接声をかけられたずき、い぀も䜿っおいた蚀い蚳が、どれも急に䜿えなくなりたした。仕事盞手に察しお「䜓調が」「家庭の郜合で」ず返す自分を想像するず、断るこず自䜓が、仕事䞊のリスクに芋えおしたったからだず思いたす。

出垭の返事をしたあず、圓日たでずっず、劙な緊匵が続いおいたした。瀟内の飲み䌚ずは、緊匵の皮類が違いたす。うたく話せなくおも蚱される盞手ではなく、ここでの振る舞いが仕事の評䟡に぀ながる盞手です。気を䜿う量を枛らすどころか、定時埌にいちばん気を䜿う盞手ず、いちばん気を䜿う堎に出るこずになっおいたした。

その日、私は䌚瀟に嘘を぀きたした。定時が近づいたころ、同僚に「飲み䌚の前にちょっず寄りたいずころがあるので」ず蚀っお、少し早めにオフィスを出たした。

寄りたいずころなんお、本圓はありたせんでした。

行ったのは、䌚堎の近くのプロントでした。ひずりでカりンタヌに座り、プレミアムモルツを泚文しお、䞀気に飲みたした。少しでも酔っおいれば、あの堎を楜にやり過ごせるだろうず思ったからです。誰かず飲む前に、ひずりで飲んでおく。ドヌピングず呌ぶには、あたりに地味な準備でしたが、私にずっおは本気の察策でした。

グラスを眮いお店を出るずき、倚少は気が軜くなった気がしたした。ただ、それが本圓にアルコヌルの効果だったのか、単に「察策はした」ずいう安心感だったのかは、今でもよくわかりたせん。

䌚堎たでの数分間、少し熱くなった顔を意識しながら、い぀もの飲み䌚よりは前を向いお歩けおいた気がしたす。それでも、店の入り口が芋えたずころで、足が䞀床止たりたした。


枡された䞀杯

グラスを差し出すず、クラむアントの担圓者が瓶を傟けお、プレミアムモルツを泚いでくれたした。

泚ぎ方も、枡し方も、特別なものではありたせん。ただ、い぀も䌚議宀の怅子で向かい合っおいた盞手から、テヌブルの向こうでグラスを傟けられるずいう配眮の倉化だけで、䜕か違うこずが始たった気がしたした。

「オフィス以倖でこうしお話すの初めおだね。い぀もありがずう」

そう蚀われたずき、内心では少し身構えたした。圓たり前でしょう、ず思ったからです。私ずこの人は仕事䞊の関係で、䌚議宀以倖で顔を合わせる機䌚なんおこれたでなかった。それだけのこずに、わざわざ蚀葉を添えられたこずに、䞀瞬戞惑いたした。

ただ、泚がれたプレミアムモルツを芋ながら、少し考え盎したした。

たしかに、私はオフィスでもほずんど雑談をしたせん。盞手が誰であっおも、必芁な話だけを、できるだけ淡々ず進める。それが倱瀌にならない距離だず思っおいたしたし、そのほうが自分も疲れたせんでした。だから、この人にずっおは、䌚議宀の倖で私がグラスを持っおいるずいうこず自䜓が、単玔に芋慣れない光景だったのだず思いたす。くだけた雰囲気ずいうより、「この人にもオフィス以倖の顔があるんだ」ずいう発芋だったのかもしれたせん。それに、「ありがずう」ずいう䞀蚀を、業務の埡瀌メヌルではなく、こんな堎で盎接もらったのも、初めおでした。

「そうですね、嬉しいです。こちらこそ、い぀もありがずうございたす」

そう返しながら、顔には愛想笑いを浮かべおいたした。本圓に嬉しかったのかは、自分でもよくわかりたせん。ただ、泚がれたプレミアムモルツを䞀口飲んだずき、ドヌピングしおおいたはずのアルコヌルずは別に、䜕かがすっず䞋りおいく感芚がありたした。

あずから思うず、あの䞀杯は、話を匟たせるための䞀杯ではなかった気がしたす。私が䜕を話すか、どう振る舞うかを、盞手はそこたで期埅しおいなかった。グラスを差し出しお、泚いで、枡す。それだけの動䜜の䞭に、すでに䜕か䌝わるものがあったのだず思いたす。私は気を䜿っお話す必芁も、雑談を続ける必芁も、実はなかったのかもしれたせん。


気づき

その倜、垰り道で考えおいたのは、断るこずに぀いおではありたせんでした。

私は、仕事の堎でずっず、自分を成果物ずセットで扱われる存圚だず思っおいたした。䞁寧に資料を䜜れば、䞁寧な人だず思われる。抜け挏れを拟えば、泚意深い人だず思われる。逆に、雑談が続かなければ、それだけの人だず思われる。良い評䟡も悪い評䟡も、結局は私が出したものに察しお぀いおくる。そういう感芚が、たぶんずっず前提にありたした。

だから、雑談が苊手だずいうこずは、私にずっお単玔な匱点でした。䞭身をどれだけ䞁寧に䜜っおも、雑談ずいう別の項目で枛点される。飲み䌚を避け続けおいたのも、その枛点をこれ以䞊増やしたくなかったからだず思いたす。

けれど、あの晩泚がれたプレミアムモルツず、そこに添えられた「ありがずう」は、成果物ぞの評䟡ではありたせんでした。

グラスを差し出しお、泚いで、枡す。その担圓者は、私がどんな資料を䜜ったかや、これたでどれだけミスなく察応しおきたかを、その䞀杯に乗せおいたわけではないず思いたす。ただ、䌚議宀の倖にいる私ずいう人間に、少しだけ関心を向けおくれおいた。䞋心のようなものでは、たったくありたせん。もっず単玔に、「この人はどんな人なんだろう」ずいう、成果ずは関係のない興味だったのだず思いたす。

それに気づいたずき、少し䞍思議な気持ちになりたした。私はこれたで、䞭身で芋おもらうこずにばかり必死になっおいお、䞭身以倖の郚分で芋おもらえるずいう可胜性を、そもそも想定しおいなかったからです。雑談が䞋手なこずは、枛点の察象にしかならないず思っおいたした。でも、あの人は枛点も加点もせずに、ただグラスを差し出しお、ありがずうず蚀っただけでした。

うたく話せたわけでも、気の利いた返しができたわけでもありたせん。それでも、その堎に「私」ずしお少しだけ存圚できた気がしたす。仕事の話でも、雑談の出来䞍出来でもなく、ただグラスを受け取っお、ありがずうず返しお、䞀口飲んだだけで。


今のこず

あれから、飲み䌚が埗意になったわけではありたせん。

誘いは今でも半分以䞊断っおいたすし、「行けたら行きたす」のスタンプも、ただ本圓は「行きたせん」の意味で䜿うこずがありたす。定時埌に気を䜿いたくない感芚も、消えおいたせん。プロントでプレミアムモルツを䞀気飲みしおから䌚堎に向かう、ずいうのは、あの䞀回だけの出来事のたたです。

倉わったのは、断るこず自䜓ではなくお、その手前にある郚分だず思いたす。

これたで私は、仕事の䞭で芋せおいいのは成果物だけだず思っおいたした。資料や察応の質でだけ刀断されるべきで、それ以倖の「私」は、なるべく出さないほうが安党だず思っおいた気がしたす。雑談が苊手なこずも、成果ず関係ない郚分は隠しおおく理由の䞀぀でした。

あの䞀杯ず、あの「ありがずう」を受け取っおから、少しだけ違う考え方をするようになりたした。仕事の䞭でも、ほんの少しくらいは「私」を出しおもいいのかもしれない、ず。

ずはいえ、それをどう出せばいいのか、ただ党然わかっおいたせん。雑談を増やすこずでもないず思いたすし、急に自分の話をし始めるのも、たぶん違いたす。どこたで出しおいいのか、い぀出せばいいのか、探り探りで、正盎なずころ怖い気持ちのほうがただ倧きいです。

ただ、以前のように「䞭身以倖は隠しおおくのが正解」ずは、今は思わなくなりたした。それだけでも、あの晩グラスを受け取った意味は、あった気がしおいたす。

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