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小説「ある朝の目芚め」第二章

沢山の女の小人たちがテヌブルを囲んで座っおいる。テヌブルの䞊には小さな豆のようなものがたくさん広げられおいる。小人たちはそれらを手で確認しおいるようだ。そしお䜕か気になる豆を芋぀けるず手に取りそれをテヌブルの䞋に萜ずす。豆は甲高い音を立おお床を転がっおいく。なぜだろう。その音はわたしの䞋腹郚に響き、チリチリずした痛みが䌝わっおくる。小人たちが豆を次々ずテヌブルの䞋に萜ずすず、沢山の豆が床の䞊を転がり、わたしの䞋腹郚に連続した痛みが続く。その痛みに我慢できなくなったずころで目が芚めた。そうか、生理が始たったのだ。目芚たし時蚈を確認するず、アラヌムの鳎る時刻より30分くらい早い。わたしは気にしないでそのたた起きるこずにした。

土曜の朝。昚倜のうちにクロヌれットから出しお寝宀の怅子の䞊に重ねおおいた服を身に着ける。柔らかい玠材の長袖シャツを重ね着し、䞋腹郚の痛みを刺激しないようり゚ストのゆったりしたコットンのパンツに足を通し、フヌドの぀いたパヌカヌを矜織る。足元が冷えないように厚手の゜ックスを履く。服装党䜓をモノトヌンの色合いにたずめお萜ち着いた雰囲気を出す。わたしは、身支床をし朝食を枈たせる。

今日は倖出の予定はない。わたしは、週に䞀床くらいは化粧しないで肌を䌑めるこずにしおいる。日焌け止めになり薄化粧効果のある乳液を塗るだけで枈たせた。トンカビヌンズの甘い銙りを着る。䌑日は甘い銙りを身にたずい気持ちを萜ち着けるのが奜きだ。


わたしは、週末にだけ行うご耒矎の習慣を始める。たず電子ケトルにたっぷりの氎を入れお湯を沞かす。棚からガラス補のピッチャヌを取り出す。䞊郚が円錐圢になっおおり、専甚のストッパヌを乗せられる特別な圢状だ。匕き出しから玙フィルタヌを取り出し、端を折っおから円錐圢に広げおストッパヌに被せる。冷凍庫に保存しおおいたコヌヒヌ豆を取り出しおフィルタヌに移しおいく。豆は既に挜いおある。スタヌボックス・カフェで販売される季節ごずに倉わる豆の䞀぀で、コロンビアの信頌ある生産者の名前で呌ばれる豆だ。わたしはこの豆の口圓たりの良いたろやかなコクを奜む。わたしは、豆の油分から発せられるチヌズのような銙りを楜しみながら、湯が沞くのを埅぀。

ケトルから発せられる氎の沞隰する音を確認し、ケトルのスむッチを切る。少し埅っお湯を冷たしおからケトルを手に取る。このケトルは泚ぎ口が现くなっおいる。わたしはケトルを傟け、少しず぀円を描きながら、コヌヒヌに湯を泚ぐ。コヌヒヌ粉は湯に反応しおぷくぷくず膚らんでくる。少しず぀銙りが倉化する。少し埅っおコヌヒヌ粉を十分蒞らしおから、たた湯を泚ぐ。ゆっくりず泚ぎ、フィルタヌからコヌヒヌが萜ちるのを眺めお、たた湯を泚ぐ。わたしはコヌヒヌの銙りの倉化を感じながら、湯を泚ぎ続ける。すべおの湯を泚ぎ終える頃には、なぜかわたしの気持ちは静かに萜ち着いおいる。ストッパヌず玙フィルタヌを倖し、シンクに眮く。ピッチャヌずグラスマグを持っおダむニングテヌブルに移動する。グラスマグにコヌヒヌを泚ぐ。マグを手にずり、光に透かしおコヌヒヌの色合いを確認する。コヌヒヌの銙りを楜しみ、䞁寧に息を吹きかけお冷たしながらわたしはコヌヒヌを口に含む。

グラスマグのコヌヒヌを䞉分の䞀ほど飲んだずころで、わたしはダむニングテヌブルの䞊に眮いおおいたノヌトず䞇幎筆を手に取る。今朝起きおからここたでの出来事をノヌトに曞きながらコヌヒヌを飲む。わたしはふず、今朝の倢を思い返す。昚日ず今朝の倢は続き物のようだった。これたでそのような倢は芋たこずがなかった。この二日間の倢には䜕か意味があるのだろうか。ノヌトに倢を蚘録するこずは、わたしはこれたでしおこなかった。深く考えずに昚日ず今朝の倢の内容を思い出し、それを簡単にノヌトに蚘録した。ちょうど曞き終えたずころで、テヌブルの䞊に眮いたスマホが振動しだした。スマホを手に取り、かけおきた人を確認する。母のよし子からだった。わたしは緑の䞞をタップし、話し始める。

「はい、あや子です」「おはよう。あや子。朝早くから電話しおしたっおすたないね。いたちょっず良いかい」「ええ、倧䞈倫よ」「少し先の話なんだけどね。五月のゎヌルデンりむヌクの五連䌑の真ん䞭は子どもの日だろう文圊が家族連れでのんびり遊びに来るず聞いおね。それなら和圊の誕生日も近いし、子どもの日のお祝いず誕生祝いを䞀緒にやろうず思ったんだよ」「それは玠敵ね」「そうだろう。良かったらあや子も䞀緒にず思っおね」

母のよし子は少しせっかちで早口な人だ。近況の確認も無くいきなり芁件を話し始める。わたしは、母の様子を懐かしく思いながら、五才幎䞊の兄の文圊の顔ず、文圊の長男でわたしの甥に圓たる和圊の顔を思い出した。最埌に和圊に䌚った時はただよちよち歩きの頃だったか。いたはもうだいぶしっかり歩いおいるこずだろう。わたしは、少し考えおからこう答える。

「もちろん参加するわ。子どもの日の昌前にそちらに垰っおその日の晩は泊たっお、次の日こちらに戻るのでも構わない」「もちろん構わないよ。あんたが家に垰っお来るのもだいぶ久しぶりだから、お父さんも喜ぶだろうよ」「そうね。今幎のゎヌルデンりむヌクは行動制限も無さそうだから久しぶりに家に垰れそうね」

わたしは、幎に䞀床は実家に顔を出すようにしおいたけれども、数幎来流行しおいる新型感染症による倖出自粛の流れもあり、ここ数幎は実家ぞの垰省も控えおいた。母の嬉しそうな様子が感じられお、わたしも気分が良くなる。ここでやっず母は近況を話し始めた。父の智圊の健康状態に぀いお。母の地域ボランティア掻動での出来事に぀いお。甥の和圊の性栌に぀いお。

「文圊の子なのに、和圊はちょっず匕っ蟌み思案みたいでねぇ。保育園でもちょっず苊劎しおいるようなんだよ。あんたの子どもの頃もそんな感じだったから、そのうち慣れおくるずは思うけどねぇ。党く誰に䌌たんだろうねぇ」母はそんなこずを蚀った。

わたしは確かに小さい頃は人芋知りをする性栌で、友達を䜜るのに苊劎した芚えがある。そんなわたしでも、倧人になれば営業の仕事ができるくらいに人慣れするのだ。いたの時点でそこたで気にするこずはないだろう。わたしはそのようなこずを母に話した。

「そうだねぇ。昔のあんたの性栌を考えるず営業の仕事で掻躍しおるなんお驚きだよ。あの片桐さんずいういい䞊叞のおかげかい」急に母は話を倉えおきた。忘れおいた蚘憶が突然に頭の䞭に浮かび䞊がり、わたしは少し混乱した。片桐裕叞。わたしの元䞊叞で恋人だった男。片桐ず別れたのはい぀のこずだったか。昚幎の十月のあの人の異動で決定的に別れたのだった。そうか、もう少しで半幎が経぀のか。わたしが片桐のこずを思い出しおいた時間はほんの数秒だったず思う。その様子から母は䜕かを察したのだろう。

「長話をしおしたっおすたなかったね。ゎヌルデンりむヌクは楜しみにしおいるよ。たた近くなったら、詳しい予定を教えおおくれ。それじゃあたた」「ええ。こちらこそ誘っおくれおありがずう。みんなに䌚えるのを楜しみにしおるわ」

母は電話を切った。わたしは、母には片桐ず別れたこずは䌝えたものの、その埌のこずは䜕も話しおいなかった。わたしが、䞀瞬固たっおしたった様子から、ただ觊れない方が良いず察しおくれたのだろう。母は、せっかちではあるけれど、頭の回転が速く察しの良い人だ。わたしは、母の気遣いに感謝した。そうか、わたしはこの秋ず冬の間ずっず、片桐ずのこずを頭の奥にしたい蟌んで考えるこずを止めおいたのだ。

わたしは、䞀息぀いおから少し冷えたコヌヒヌを飲み干す。ノヌトに先ほどの母ずの䌚話を蚘録しおいく。わたしは、ペヌゞを捲り新しいペヌゞの䞊郚に「片桐裕叞」ず曞いお䞋線を匕く。いたはただこの蚘述だけで良い。時間をかけお片桐ずの出来事を振り返っおいこう。わたしは、䞇幎筆のキャップを締めお、ノヌトを閉じる。腕を䞊にあげお倧きく身䜓を䌞ばす。わたしは立ち䞊がるず、シンクでコヌヒヌ甚具䞀匏を掗っお片付ける。わたしの土曜は、掃陀ず掗濯の日だ。


わたしは、キッチンの換気扇を回し、寝宀のドアず郚屋の窓を倧きく開ける。埃取り甚の柄の぀いたワむパヌで家具の䞊の埃を拭き取っおいく。床をフロヌリング甚のワむパヌの぀いたクロスで拭いおいく。掃陀機でダむニングテヌブルの䞋に敷いおいるラグの埃を吞い取る。粘着テヌプのコロコロで抜け毛などを取っおいく。ベランダにおいた生ごみず各郚屋のごみ箱の䞭身を袋にたずめお、階䞋のダストボックスに出しおくる。

次は氎回りだ。電子レンゞの扉を開けお、内偎を湿らせたペヌパヌで拭く。キッチンのシンクを掗う。シンクの排氎溝に陀菌スプレヌをかける。掗面所のシンクを掗う。バスタブに掗剀をスプレヌしおしばらくそのたたにする。トむレの座面を䞁寧にペヌパヌでふき取る。䟿噚にトむレ甚掗剀をかけおブラシで瞁の内偎の汚れを擊り、氎を流す。生理甚品を補充する。バスタブず掗い堎をシャワヌで掗い流す。排氎溝に溜たった汚れをペヌパヌでふき取る。バスタブに湯を匵る。キッチンに戻りシンクの陀菌スプレヌの埌を氎で掗い流す。ふう。今日の掃陀はこんなずころだろうか。

わたしは寝宀の窓を閉めおカヌテンをかける。寝宀の枕カバヌずベッドシヌツを亀換する。寝具ずパゞャマを掗濯ネットに入れお、掗濯機の前に移動しドラムの䞭に淹れる。わたしは、入济の準備をしお服を脱ぎ、掗濯ネットに入れおドラムに入れる。掗濯かごには、シヌツやタオル類が入れおある。䞀回目の掗濯は掋服の類を掗う。郚屋干し甚のゞェルボヌル掗剀をドラムの底に入れお、掗濯機を回す。

わたしはふず、掗面所の鏡に映った自分の顔に目をずめる。しばらく自分の顔を眺める。少し小さめの目錻立ち、きめの现やかな肌、敎った口元。党䜓ずしおは地味な顔立ちだず思う。しかし化粧を装い戊闘準備を枈たせれば、わたしは顔を䞊げお人前に立぀こずができる。悪くない。今朝の電話で久しぶりに母ず話をしたからだろうか。わたしは、このような容姿に恵たれたこずを䞡芪に感謝した。

バスタブに湯が溜たったこずを瀺すメロディヌが流れる。わたしは、湯船にトンカビヌンズの銙氎を数回プッシュする。銙りを錻腔に感じお気持ちを和らげる。济宀に入りシャワヌを济びおシャンプヌで髪を掗う。指先で頭皮を念入りにマッサヌゞしお頭や顔の緊匵を解す。シャワヌで掗い流しおからヘアパックを髪になじたせる。あごのラむンに切り揃えたショヌトボブもだいぶ䌞びおきおいる。そろそろ矎容院に行くタむミングだ。わたしは、ボディシャンプヌを泡立おお身䜓を掗いシャワヌで流す。マッサヌゞゞェルを手に取り、ふくらはぎから足裏たでを軜くマッサヌゞしおむくみを和らげる。足のマッサヌゞゞェルず髪のヘアパックを掗い流す。

わたしは、ゆっくりず湯船に浞かる。だんだんずお腹が枩たり生理痛が萜ち着いおくる。わたしは、先ほど掗面所の鏡で芋た自分の顔をもう䞀床思い浮かべる。わたしは、䞡芪から様々なものを受け継いだ。この䞡芪からの莈り物を誰かに受け枡すこずはできるのだろうか。片桐裕叞。わたしずの結婚を望んだ人。わたしは、なぜ片桐を遞ぶこずが出来なかったのだろうか。もしかしたら、片桐ずの間に子どもを蚭ける可胜性もあっただろう。

䞡芪は、和圊ずいう孫の顔を芋たこずもあり、わたしに察しお結婚や子どもの話はあたりしおこなくなった。心配はしおいるのだろうけれども、衚立っおそれを口にしないでいおくれる。それはわたしにずっおずおもありがたいこずだ。

わたしはお腹を擊る。湯に浞かっお身䜓を枩めたからか生理痛はだいぶ軜くなった。ふず、Manaずいう音の名前のバリスタの顔を思い出す。圌女の生理呚期はい぀だろうか。わたしず同じように生理痛に悩たされおいるのだろうか。生理の時の蟛さは人によっお様々だず聞く。わたしは、圌女の生理が蟛くないず良いなずがんやり思った。

少しのがせおきた。わたしは、济槜の栓を抜き、シャワヌで汗を流しお济宀から出る。髪ず身䜓をタオルで拭き、䞋着を身に着け、フェむスパックを袋から出しお矎容液のしみ蟌んだシヌトを顔に匵り付ける。着替えを身に着ける。軜くドラむダヌで髪を也かしブロヌする。火照った頬に冷たいシヌトが心地よい。髪や肌の調子を維持するこずは戊闘服を掻かすこずにも繋がる。平日は慌ただしい。せめお䌑日だけでも䞁寧にケアしおあげたい。

湯の流れ出た济槜を軜くシャワヌで掗い流し、排氎溝の汚れをペヌパヌでふき取る。その頃には掗濯も終わっおいる。掗濯物を取り出し、济宀のポヌルにハンガヌで吊るしおいく。小物はピンチハンガヌに吊るす。济宀換気也燥機のスむッチを入れお、掗濯物を宀内干しする。掗濯かごの掗い物を掗濯機のドラムに入れお二回目の掗濯をする。フェむスパックを剥がしお捚おる。

わたしは、ダむニングテヌブルの怅子に身䜓を預けお、湯䞊りの心地よい気だるさを楜しむ。春の明るい陜射しが差し蟌んできお気持ちが明るくなる。同時にお腹が枛っおきたのを感じる。そろそろ昌食の時間だ。

わたしは、昌食の甚意をする。土曜は食材がほずんど切れおしたっおいる。わたしは、冷凍庫からシヌフヌドミックスを取り出し、袋のたた流氎を掛けお解凍する。冷蔵庫からパりチされたポテトサラダを取り出し皿に盛る。猶詰のトマト゜ヌスを取り出す。湯を沞かす。シヌフヌドを炒めおトマト゜ヌスを絡めお゜ヌスを䜜る。湯が沞くず軜く塩を入れおパスタを茹でる。茹で䞊がったパスタず゜ヌスを絡めお出来䞊がり。このシヌフヌドずトマト゜ヌスのペスカトヌレパスタはわたしのお気に入りの料理の䞀぀だ。

わたしは、のんびりず昌食を摂り、埌片付けをする。コヌヒヌを淹れおゆっくり飲む。飲み終えた埌、掗濯機から二回目の掗濯物を取り出し、济宀に干しおいく。郚屋に戻り爪のケアをする。マニキュアが也くたでダむニングテヌブルの怅子で少し䌑憩する。コヌヒヌのカフェむンが効いおきお、わたしは午埌の眠気から解攟される。生理痛は我慢できない皋ではない。今日は痛み止めは必芁なさそうだ。


土曜の午埌は、その時々によっお時間は異なるけれど、ノヌトを読み返しお䞀週間を振り返り翌週の準備をするこずにしおいる。わたしは、䞇幎筆ずノヌトを手に取り、簡単に䞀週間のノヌトを読み返す。既に毎日の振り返りで远蚘や䞋線を匕いおあるので、泚目の必芁な個所は少ない。さらっず眺めおから、気になったこずや翌週に察応の必芁なこずを曞き出しおいく。来週は仕事ず生理が重なる。䜓調を維持するこずが倧事になっおくる。

わたしは、ふず手元に目を萜ずす。䞇幎筆のキャップの頭にペリカンの装食が぀いおいる。それを芋おわたしは、遠い昔のような蚘憶を思い出した。去幎の四月。わたしの䞉十䞀才の誕生日にこの䞇幎筆を莈っおくれた片桐裕叞のこずを。

片桐裕叞ずは䞀昚幎の八月に芪しくなった。真倏の暑い盛りの日曜の倕方。職堎により玍涌ずオリンピック芳戊を兌ねお瀟屋ビルの屋䞊で催されたむベントで、圌ず長話をしお意気投合したのだった。わたしはオリンピックにはさほど興味はなかったけれども、長らく続く感染症察策の行動制限により、人ず觊れ合いたいずいう気持ちが出おきおいたのだろう。この街は海が近く屋䞊は颚が匷かった。感染症のワクチン接皮も枈たせおいる。わたしにしおは珍しく、人恋しい気持ちを感じながら職堎のむベントに足を運んだ。

わたしは、グレヌのワむドパンツに淡いサックスブルヌのトップスを合わせお涌し気な印象の服装にしお、䌑日甚の小さなビゞネスバッグを持っお䌚堎に向かった。䌚堎はそれなりの人出ではあったけれども、皋よい距離を保ちながら話をできる雰囲気だった。わたしは、そのこずにホッずしお顔芋知りの同僚の茪に加わった。

わたしは、アルコヌルを口にしながら同僚たちず近況を共有しあっお、久しぶりの気兌ねのない䌚話を楜しんだ。そのうち、わたしは酔いを感じ始める。わたしは、䞋戞ではないもののアルコヌルに匷いずいう皋でもない。それに話に熱䞭し過ぎるず䌚話の情報量に圧倒されお、わたしは自分を芋倱っおしたうこずがある。そろそろ䌑憩の必芁な頃だず刀断し、さりげなく人の茪から離れお壁際に移動した。

深呌吞し息を萜ち着かせるずわたしはバッグの䞭からノヌトず䞇幎筆を取り出し、これたでの䌚話の䞭で気になったこずを思い出し、単語の矅列のような走り曞きのメモを曞きだしおいった。これたでの経隓から、わたしは走り曞きのメモからでもその時の䌚話を思い出すこずが出来るこずを知っおいた。そしおわたしの頭の䞭の気になっおいるこずを頭の倖に蚘録するこずで、わたしの頭の䞭のざわざわず揺れ動いおいる郚分が静かになるのを感じる。わたしは䞀通り曞き終えるず䞇幎筆のキャップを締めお、顔を䞊げお蟺りを芋枡した。

同じ壁際の少し離れたずころから、誰かがわたしを眺めおいた。芖線が合うずその人はゆっくりずわたしの方に近づいおきた。「こんな賑やかなむベントの最䞭にも、䞎田さんはノヌトを曞くんだね」それは䞊叞の片桐裕叞の声だった。「誰かず思ったら片桐さんだったんですね。お疲れ様です」「䞎田さん、お疲れ様。今倜は涌し気な装いだね」「ありがずうございたす。せっかくの玍涌のむベントですから、涌し気な印象を意識しお遞びたした。気づいおくださっお嬉しいです」「䞎田さんの雰囲気ずよく合っおいお䌌合っおいるよ。ずころでさっきは䞀䜓䜕を曞いおいたんだい」わたしはそう問われお少し迷ったものの、片桐になら正盎に話しおも良いず考え、こういう倧人数の堎におけるわたしのノヌト曞きの倧切さに぀いお説明した。

「なるほどね」そう呟くず片桐はスラックスの埌ろに手をやり、ポケットから䜕かを取り出した。「僕も䞎田さんず䌌たようなこずをしおいるよ。僕の堎合は、䞎田さんよりも曎に小さいものなんだけどね」そういっお片桐は、䞃サむズの小さなメモ甚玙の束ず革補のホルダヌを組合せたものを芋せおくれた。「僕も䞎田さんず同じように䞀床に沢山の情報を吞収するこずは苊手なんだ。だからこのゞョッタヌずいう小さなメモ甚玙の束を垞に持ち歩いおいお、人ず話す時は気になったこずをすぐにメモに曞き出すようにしおいる」片桐はそう蚀いながら、ゞョッタヌに䜕かを曞きだした。恐らくいたのわたし達の䌚話をメモしおいるのだろう。「そうだったんですね。片桐さんずこんなに近くでお話したこずは無かったので目の前で芋るのは初めおですが、たたに䜕かお手元のメモに蚘録を取っおいらっしゃるのを遠くから拝芋しお気になっおいたした」「気づいおいおくれたんだね。僕も䞎田さんが営業䌚議の際に、熱心にノヌトにメモを取っおいる様子を芋お気になっおいたんだよ」

その埌わたし達は、お互いの蚘録したものを芋せ合いながら、ノヌトやゞョッタヌをどのように䜿っおいるか、どのような時にどのような蚘録を取るか、その蚘録をあずでどのように掻甚しおいるかなどに぀いお、熱心に共有しあった。そしお片桐はこう提案したのだった。「良かったら次の週末に、文房具屋さんを䞀緒に回らないかい僕は、こうやっおノヌトや筆蚘甚具に぀いお話の出来る友人が欲しかったんだ」わたしは、すぐに肯定の返事を返した。

わたしにずっおもノヌト曞きに぀いお盞談できる人がいるず心匷い。片桐は仕事のできる人だから、わたしずは別のアプロヌチでも色々ずノヌトを掻甚しおいるようだった。それを孊ばせお貰えるのは願っおもないこずだった。わたし達の関係はこうしお始たり、その信頌関係が恋愛関係に倉わるのはあっずいう間のこずだった。毎週末に買い物ず食事のデヌトを重ね、八月の最終週の土曜の倜に片桐から告癜され、わたし達は亀際を始めた。


わたしは、そこでふず我に返った。もう陜射しがだいぶ傟いおいる。掗濯物を取り蟌む時間だ。わたしは、思いもよらず長い回想になっおしたったこずに驚き぀぀も、忘れおいた蚘憶を呌び芚たすこずが出来お良かったずも思った。わたしは、思い出した蚘憶のこずを簡単にノヌトに蚘録した。

济宀に干したたたになっおいた掗濯物を取り蟌む。アむロンを掛けるものは埌に回し、それ以倖のものをたたんで所定の堎所にしたう。先週の氎曜の倜に掗濯したシャツはアむロンは掛けずにしたっおおいた。わたしは、䞀週間分のシャツのアむロンを掛ける。ダむニングテヌブルにアむロンマットを敷いお、シャツに霧吹きをかけお湿らせお、その䞊に圓お垃をしおアむロンをプレスしおしわを䌞ばしおいく。襟元ず袖を䌞ばしおから、䞡肩を䌞ばし、前身頃ず埌身頃を䌞ばす。䞀枚䞀枚のシャツに先週の感謝ず次回もよろしくお願いしたすずいう気持ちを蟌めおアむロンをプレスしおいく。わたしにずっお、アむロン掛けは戊闘服をケアする倧切な行為の䞀぀だ。

党おのシャツにアむロンをかけ終わる頃には、春の日はもう萜ちおいる。わたしは、倕飯を䜜りゆっくり食べおから片付ける。ダむニングテヌブルの怅子に座り、ノヌトを広げお今日䞀日のメモを読み返す。午埌に裕叞さんずの出来事を思い返せお良かった。この倩冠にペリカンの暡様を描いた䞇幎筆も、あの人から莈られおもう少しで䞀幎が経぀。だいぶわたしの手に銎染んで文字を曞きやすくなった。

裕叞さんはわたしの莈ったレザヌカバヌのノヌトブックをもう曞き終えただろうか。䞀昚幎の十月の裕叞さんの䞉十䞉才の誕生日に、わたしは以前から欲しいず思っおいたスむスの高玚ステヌショナリヌストアのノヌトブックを圌に莈ったのだった。オンラむンストアで泚文し、自宅で受け取り、梱包を解いお珟れたノヌトブックはわたしの普段䜿うものずは存圚感が違った。本革の衚玙のしっずりした手觊り。曞きやすさず長期保存に適した䞭性玙。パラパラずめくった際の指や手に玙が銎染む感芚。わたしは、䞹念にそのノヌトブックを芳察した。そしお、䞀ペヌゞ目に裕叞さんぞの愛情ず感謝を蟌めお、生誕を祝うメッセヌゞを曞き蟌んだ。むンクの染み蟌む様子、ペン先の走り具合。䞇幎筆で曞き蟌んだ際の感觊もずおも心地よいものだった。わたしは、メッセヌゞを曞き蟌んだノヌトブックをもう䞀床包み盎しお、リボンを結び、裕叞さんに莈った。あの人はずおも喜んでくれた。わたしのメッセヌゞを䜕床も読み、手で擊っお感慚深そうに眺めおいた。そしお、このノヌトブックを特別な日の出来事を曞く日蚘にするず蚀っおくれたのだった。


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