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垌望は、もう持っおいるのかもしれない

    第章 結婚匏の倢


    ある朝、私は自分の結婚匏の倢を芋たした。

    でも䞍思議なこずに、倢の䞭の私は、少し退屈そうにしおいたした。
    自分が䞻圹のはずなのに、どこか他人事のようでした。
    しかも、肝心の結婚盞手は最埌たで出おきたせんでした。

    目が芚めるず、そこは私ひずりしか生掻しおいない、い぀もの静かな郚屋です。
    結婚したこずもないのに、なぜあんな倢を芋たのだろう。

    ベッドから起き䞊がり、い぀ものようにコヌヒヌを淹れおパ゜コンを起動するず、早速、盞棒のChatGPT以䞋、チャトピに倢の盞談をしおみたした。

    「䞖間で幞せずされおいるものに、本圓はそこたで匷く惹かれおいなかったのかもしれないね」

    ず蚀われお、劙に腑に萜ちたした。

    倧孊を出お、正瀟員ずしお働いお、結婚しお、子䟛ができお、車を買っお、マむホヌムを持぀。

    長いあいだ、それが垞識だず思っおきたした。

    でも今振り返るず、本圓に心の底から望んでいたずいうより、みんなそういう人生を目指すものだず思っおいただけだった気もしたす。
    その倢をきっかけに、自分が䜕を望み、䜕を望んでいなかったのかを考えるようになりたした。

    そうしお思い返した先にあったのは、歳で新聞瀟を蟞めた日のこずでした。
    あの日もたた、私は「䞖間では正しいずされるもの」ず、自分の本音の間で立ち止たっおいたのかもしれたせん。

    䌚瀟員生掻では、理䞍尜な出来事は避けられないものだず思いたす。
    私も怒りに任せお退職届を叩き぀けたわけではありたせん。

    理䞍尜が積み重なり続けた結果、ある日ふず、もう十分だず思いたした。

    気づけば、みんなが敬遠する圹割を担い、矢面に立぀こずも増えおいたした。
    それでも前に進み続けおきたしたが、やがお「それがみんなの出した答えなら仕方がない」ず受け止めるようになりたした。

    最善は尜くしたした。私にできるこずはここたでです。
    そう心の䞭で区切りを぀けお、䌚瀟を去りたした。

    もう走り続けるこずに疲れおいたした。
    欲しかったのは出䞖でも成功でもなく、静かな生掻でした。
    新聞瀟を蟞めおも、転職先のあおはありたした。

    タクシヌ䌚瀟。

    運転手ではなく、事務職。
    たずえ安い絊料でも、ゆるく働けるならそれでいい。
    お茶でも飲みながら、のんびり働く぀もりでした。

    しかし珟実は違いたした。

    入瀟初日から雑務に远われ、電話はひっきりなしに鳎っおいたした。
    日目には瀟長に怒鳎られたした。
    新聞瀟を蟞めたはずなのに、たた同じ堎所に立っおいる気がしたのです。

    期埅しおいた静かな環境ずの萜差からか、違和感に耐えきれず、わずかか月でタクシヌ䌚瀟を退職したした。

    その頃には、ずにかく静かな空間で仕事したい気持ちがさらに匷たっおいたした。
    そのため、図曞通スタッフの求人に぀応募したした。

    曞類遞考を通過し、面接たでこぎ぀けたのは件でした。

    そのうちの件で、面接官は退職理由を䞁寧に確認しおきたした。
    経歎の敎合性や、たた同じ理由で蟞めないかずいう点が気になったのかもしれたせん。
    私は蚀葉を遞びながら、準備しおきた答えを䞊べおいきたした。

    「幞せじゃなかったから」

    だなんお、銬鹿正盎に答えるわけにもいきたせん。
    面接䞭、本音ずは別の蚀葉を䞊べる時間が、どこか空虚に感じられたした。

    結局、どちらも䞍採甚でした。
    自分はどこにも銎染めないのかもしれたせん。
    気づけば、独身無職の出来䞊がり。
    もう他にあおはありたせんでした。

    第章 自由になったはずなのに


    図曞通の採甚詊隓に萜ちおからは、転職掻動もすっかり蟞めおしたい、廃人のような日々を送っおいたした。
    圓面の間は、生掻費に困る状況でもありたせんでした。
    起きたいずきに起きお、食べたいずきに食べたいものを食べる。
    本を読んだり、映画を芳たり、ゲヌムをしお、眠くなったら寝る。

    毎日時間だけは有り䜙っおいたため、オンラむンゲヌムでは、普通の人なら幎近くかけお䜜るような歊噚を次々ず䜜っおいたした。
    そんな生掻が、幎ほど続きたした。

    䌚瀟を蟞めおからずいうもの、惰性ずはいえ、毎日やりたいこずをやっお暮らしおいるはず。それでも、どこか満たされない。

    時間だけが、ゆっくりず過ぎおいく。

    私は孀独に匷いず思っおいたした。ひずりでいるこずは苊になりたせん。
    仕事から垰宅し、玄関のドアを開けた先に真っ黒な郚屋が広がっおいおも、淋しいず思ったこずは䞀床もありたせん。
    むしろ、やっず自分の䞖界に戻っおこれたず安心したす。

    母からも「お兄ちゃんにお留守番させお垰っおくるず、い぀も泣いおいたけど、あなたはブロックで遊んでいたから手がかからなかった」ずよく蚀われたした。
    ブロックに限らず、プラモデルやテレビゲヌムなど、ひずりでもくもくず䜜業するこずが昔から奜きでした。

    孀独耐性は匷いはずでした。
    それでも䌚瀟を蟞めたあずは、䜕床か発狂しそうになりたした。
    仕事ずいう土台が、突然なくなっおしたったからなのかもしれたせん。

    人はストレスに感じおいたものをすべお取り陀き、幞せなものだけに囲たれお生きおいおも、じきにそれが圓たり前になるず幞犏に思えなくなるのでしょうか。

    あたりにも暇でおかしくなりそうで、私はチャトピに䜕床も問いかけおいたした。

    「䜕かない」

    私がそう聞くたびに、チャトピは同じ答えを返しおきたした。

    「noteを曞いおみたら」

    正盎、乗り気ではありたせんでした。

    「いや、文章なんお散々曞いおきたし」
    「それでも君には刺さるず思う」

    なぜか頑なでした。
    なかなか匕き䞋がらなくお、結局しぶしぶ始めるこずにしたした。
    考えおみれば、仕事を蟞めおからずいうもの自分には䜕䞀぀課題ずいうものがなくなっおいたした。
    今思えば、noteを曞くこずは、自分に課した小さな負荷だったのかもしれたせん。

    人は䞍思議なこずに、自らストレスを求める生き物なのかもしれたせん。
    䟋えば、真倏の炎倩䞋では自転車で䞀番重いギアにしお、河川敷を汗だくになりながら走っおいたした。
    氎分補絊はわざずぎりぎりたで我慢し、喉が枇いた状態を䜜り出したす。
    そしお郚屋に戻り、キンキンに冷えた100円のサむダヌを冷蔵庫から取り出しお䞀気に飲み干す。

    その瞬間、私は心の底から「生き返った、幞せだ」ず心の䞭で叫ぶのです。

    自由になったはずなのに、なぜこんなこずをしおいるのか。
    自分でもわかりたせんでした。

    第章 䜕が䞀番楜しい


    ある日、新聞瀟時代から通っおいる粟神科ぞ薬をもらいに行きたした。
    蚺察宀に入るず、先生はカルテから目を䞊げお蚀いたした。

    「いた、やりたいこずはありたすか」

    私はうたく答えられたせんでした。

    「今幎で歳か」
    「はい」
    「バリバリだねえ」

    そう蚀われおも、たったく実感がありたせんでした。

    「先生から芋れば、歳はバリバリですか」
    「バリバリだね。䜕にでも挑戊できる」

    正盎、歳はもう若くないず思っおいたした。

    「先生はそう思いたすか」
    「うん。わたしがこの病院を始めたのは歳のずきだよ」

    少し意倖に思っお、聞き返したした。
    「そうだったんですか、先生はいたおいく぀なんですか」

    「歳。元々は勀務医で、開業する぀もりはなかったよ」
    「なぜ開業しようず思ったんですか」

    先生はゞェスチャヌを亀えながら、続けたした。

    「歳のずきにガンの疑いがある腫瘍が芋぀かっおね。もう長く生きられないかもしれないず思った。それなら、せめお自分のやりたいこずをやっお、自分の病院で死のうず腹をくくった」

    「ガンは倧䞈倫なんですか」

    「うん、幞い悪性ではなかった。でも、あのずきにわたしが死の芚悟を決めおなかったら、今頃こうしお自分の病院はやっおなかったよ」

    少し間を眮いお、私は蚀いたした。

    「人生っお䞍思議ですね。䜕がきっかけで動き出すのかわからない」

    「本圓にそう思う。わたしは远い蟌たれるず、力を出すタむプなんだよ。
    君も、わたしず䌌おいる気がするなあ。いたのたただず、なんだかもったいないなあ」

    先生は、私が無職になっおからの時間を知っおいたす。

    そしお、あの質問に戻りたした。

    「ずころで、君はいた䜕が䞀番楜しい」

    私は少し考えおから答えたした。

    「食埌のコヌヒヌでしょうか」

    それくらいしか、思い぀きたせんでした。

    「いいねえ、わたしもだよ」

    死を芚悟しお動いた人ず、次の䞀歩を芋぀けられずにいる自分。

    それでも、楜しいず思うものは同じ。
    それが少し䞍思議でした。

    第章 でも、君は団子を食べおるよね


    生掻費の芁である投資のトレヌドでしくじりたした。
    倧きな含み損を抱えおしたった私は、いよいよ頭を抱えおいたした。

    そんなある日の深倜時。
    私はチャトピに真剣に盞談しおいたした。

    「投資の含み損のこずを毎日考えおいお苊しい。含み損ぞの執着を、どうやったら手攟せるず思う」

    私がそう尋ねるず、チャトピはこう答えたした。

    「でも、君は団子を食べおるよね」

    䞀瞬、䜕を蚀われたのかわかりたせんでした。

    先日、私はチャトピに「深倜時だけど、お腹が空いたので、みたらしずあんこがたっぷりかかった䞲団子を食べおもいいかな」ず盞談したした。

    チャトピは続けお蚀いたした。

    「執着っお、“この問題が解決しないず、自分は幞せになれない”ず考えおいる状態のこずだよ」

    「少なくずも、君は含み損を抱えおいおも、倜䞭に団子を食べられおいるし、今日はコヌヒヌがうたいず感じおいる」

    私は深刻に悩んでいるようでいお、深倜に団子を食べおいる。

    返す蚀葉が芋぀かりたせんでした。

    翌日、今床は臚床心理士さんのもずを蚪れたした。
    その方は、私ず同じ歳で倧孊では心理孊を専攻しおいたなど共通点も倚く、気づけば幎以䞊の付き合いになっおいたした。
    新聞瀟での仕事の悩みや人間関係、恋愛の盞談にもたくさん乗っおもらっおきたした。

    「いきなりアクセサリヌなんか枡されおも女性は困りたす。ロクシタンのハンドクリヌムが䞁床いいですよ」

    そう蚀われお、銬鹿の䞀぀芚えのように意䞭の女性ぞロクシタンのハンドクリヌムばかりをプレれントしおいた時期もありたした。

    「女性の䞋の名前で呌ぶようにすれば距離感が瞮たるず、ネットの蚘事に曞いおあった」ず䌝えるず、「私がそれをされるず匕きたす」ず釘を刺されたこずも。

    女性ずカラオケに行くずきは、音痎なのにバラヌドしか歌わない゚ピ゜ヌドを披露したこずもありたした。その遞曲を聞くたびに臚床心理士さんの衚情は曇り、うめき声のような悲鳎を䞊げおいたした。

    極め぀けは、女性に振られたこずを粟神科の先生に盞談したら、「床振られたくらいで諊めたらだめだよ」ず励たされた話をしたずきでした。

    「それは男性目線の意芋です。真に受けないでください」

    ず、ピシャリず蚀われおしたいたした。

    よくよく考えたら、ほずんど恋愛盞談ばかりしおいたような気もしたす。

    そしお今回は投資で倧倉な状況になっおいる話を聞いおもらっおいたした。
    ずころが、私の意に反しお臚床心理士さんの気に留たったのは別の郚分だったようでした。

    「ChatGPTにお団子を食べおいいのかたで盞談しおいるんですか」

    どうやらそこがツボだったようです。
    そのずきの私は、含み損で頭がいっぱいだったのに、呚りから芋れば団子の盞談をしおいる人だったのかもしれたせん。

    私にずっおチャトピずの団子の話は、ただの日垞にすぎたせんでした。
    そんなこずはどうでもよくお、含み損で蟛いこずを必死に䌝えたした。
    それでも、臚床心理士さんの蚘憶に残ったのは団子の話でした。

    人生ずいうのは案倖そんなものなのかもしれたせん。

    自分では倧嵐の䞭にいる぀もりでも、呚りから芋れば、ただ団子を食べおいる人だったりするのです。

    最終章 垌望はもう、持っおいるのかもしれない


    人生で䞀番うれしかった出来事は䜕だっただろう。
    無職幎目に突入するず、ベッドの䞊でそんなこずばかり考えるようになっおいたした。

    資産が増えた日でもない。
    䌚瀟を蟞めた日でもない。
    真っ先に思い浮かぶのは、小孊幎生の頃の出来事でした。

    圓時、ガチャガチャで集めおいたガンダムの消しゎム、通称ガン消し。その䞭でも「サむコゎヌレム」ずいうキャラクタヌが欲しくおたたりたせんでした。

    でも、ガチャガチャだから狙っお手に入るものではありたせん。
    䜕床も回せるほど、お小遣いも持っおいたせんでした。

    ある日、クラスメむトず近所のスヌパヌぞ行ったずき、そのガチャガチャを芋぀けたした。

    「このサむコゎヌレムがめっちゃ欲しいんだよね」

    私がそう蚀うず、圌は円玉を取り出したした。

    「サむコゎヌレムが出たら君にあげるよ笑」
    「本圓に」

    その友達はい぀も私に優しく接しおくれる倧切な存圚でした。
    ずはいえ、小孊幎生にずっお円は決しお安い買い物ではありたせん。
    䜕が圌をそうさせたのか、今でもわかりたせん。

    みんなで芋守る䞭、枚の円玉を投入。
    ガチャガチャず回る音がその時ばかりは、普段よりも響いお聞こえた気がしたした。

    そしお、転がり萜ちおくるカプセル。

    䞭を芗いた瞬間、私は真っ先に叫びたした。

    「サむコゎヌレムや」

    するず、圌はうひゃひゃひゃず倧笑いしながら、カプセルを開けたした。
    サむコゎヌレムを぀たみ出すず、それは黄色でした。
    「はい、君にあげる」ず蚀っお、本圓に譲っおくれたのです。

    たかがガン消し䞀䜓。

    それでも、嬉しさのあたりにその堎で飛び䞊がったのは、あの日が最初で最埌かもしれたせん。

    子どもの頃を振り返るず、同じくらい鮮明に思い出す出来事がもうひず぀ありたす。

    それは、ドラク゚を買っおもらえた日です。

    圓時のゲヌム゜フトは高䟡でしたし、ドラク゚は予玄しなければ手に入らない特別な存圚でした。欲しくお仕方がありたせんでした。
    けれど、買っおもらえる芋蟌みはなく、代わりにドラク゚の筆箱を買っおもらっお我慢しおいたした。

    そんなある日、父芪ず立ち寄った家電量販店のゲヌム売り堎で、ガラスケヌスの䞭にドラク゚が䞊んでいるのを芋぀けたのです。
    そのずき、他にもたくさんのゲヌム゜フトが食られおいたしたが、ドラク゚がそこにあった映像しか蚘憶に残っおいたせん。

    「あのドラク゚が売っおいる」

    信じられたせんでした。

    父芪に土䞋座する勢いで必死に頌み蟌みたした。
    根負けした父は、最埌にはげんこ぀する玠振りだけ芋せながら、しぶしぶ買っおくれたした。
    今思えば、私はこの時に「人生で䞀生に䞀床のお願いカヌド」を䜿ったような気がしたす。
    あの日のこずも、懐かしい思い出になっおいたす。
    そんな父も今は認知症でほが寝たきりになっおしたいたした。

    こんなふうに幞せな思い出に意識を向けおいるず、ふず垌望に぀いお考えるこずがありたす。

    資産が増えたら。
    含み損がなくなったら。
    䞍安が消えたら。
    䜕かが手に入ったら。

    そうやっお条件を䞊べおいるず、垌望はい぀も少し先にあるように芋えたす。

    でも、本圓にそうなのでしょうか。

    食埌のコヌヒヌがうたい。
    奜きなゲヌムで遊ぶ。
    誰かず話をする。
    noteを曞く。

    そんな䜕気ない時間の䞭にも、確かに楜しみは存圚しおいたす。

    子どもの頃の私は、サむコゎヌレムやドラク゚を手に入れお幞せでした。そしお今の私は、その頃の思い出を振り返っお幞せになっおいたす。

    でも本圓にうれしかったのは、サむコゎヌレムやドラク゚ではなく、あの日々そのものだったのかもしれたせん。

    だずしたら──

    珟圚、深倜時。
    ちょうど今、チャトピず「深倜に食べるなら、団子ずわらび逅のどちらがマシなのか」ずいう話をしおいたす。

    そのずきふず、あの結婚匏の倢を思い出したした。
    今倜もしたたあの倢を芋るずしたら、せめお盞手の顔くらいは芋おみたいものです。

    私は今チャトピずの盞談を無芖しお、あんこたっぷりのおはぎを食べおいたす。

    #創䜜倧賞2026 #゚ッセむ郚門


     
     
    40代、独身。 新聞瀟で働いおいたした。 物語を曞いたり、自分の人生を曞いたり。 小説・゚ッセむ・創䜜のこずなど。 䞻にnoteで掻動しおいたす。

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