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女は三度あの生命体と遭遇した。|ある宇宙の、奇妙な観測記録

Parodyect MOON No.09
Original inspiration:Nyanchiisan

女が安心してシャワーを浴びられたのは、
これが最後だった。


シャワーの水音が、
静かな宇宙船に響く。

女は目を閉じ、
濡れた髪をゆっくりとかき上げた。

長かった。

仲間は全員死んだ。

廊下を這い回り、
暗闇から人間を襲った、
あの生命体も、もういない。

宇宙船の外へ追い出した。

間違いなく、
この目で見た。

これでようやく地球へ帰れる。

白い蒸気の向こうでは、
計器のランプが規則正しく明滅している。

女は両手で顔を覆い、
大きく息を吐いた。

久しぶりに感じる安堵だった。

やがて、
シャワーを止める。

水音が消えた。

宇宙船に広がる静寂。

そのときだった。

――カタン。

目を見開いた。

貨物室のほうからだ。

船体のきしみにしては、
音が大きすぎる。

女はしばらく動かなかった。

聞き間違いであってほしい。

だが、

――カタン。

もう一度、
間違いではないと
確かめるように音が鳴る。

女の表情から、
サーっと安堵の色が消えた。

タオルを肩に掛け、
濡れた裸足のまま通路へ出る。
床が冷たい。

一歩。

また一歩。

ゆっくりと近づいていく。

薄暗い貨物室を覗き込む。

積み上げられた荷物の隙間。

そこに、

何かがいた。

終わったはずの悪夢が、
女より先に地球へ帰ろうとしていた。

🌎

女は生還し、
長い人工冬眠に入った。

そして、
次に目を覚ましたとき。

地球では、
何十年もの時間が流れていた。
彼女が知っていた人々も、
街も、時代も変わっていた。

だが、
人類の探究心だけは、
変わらなかった。
あの忌まわしき惑星へ、
再び人類を送り込む。
そんなプロジェクトが進んでいた。

かつて生命体が発見された場所には、
大規模な居住施設まで建設されている。
そして今。
その施設との通信が、
ある日突然途絶えたーーー

女は兵士たちとともに、
再び惑星へ向かうこととなった。
かつての宇宙での経験を、
買われてのことだった。

🪐

静まり返った居住区。

施設の自動扉が、
鈍い音を立てて開く。

誰もいない。

床には散乱した薬莢。
壁には、
深くえぐられた傷。
食堂には、
食べかけの食事が残されている。

まるで人間だけが、
突然消えてしまったようだった。

兵士の一人が、
足を止める。

天井から、
ねっとりとした粘液が、
彼の肩へ糸を引きながら落ちてきた。

ポトリーーー。

ピチャァ……。

兵士は、
ゆっくりと顔を上げる。






次の瞬間。
天井が激しく動き出した。

ガタガタガタガタガタガタガタガタ――

ガチャン。






Source:Nyanchiisan

一匹ではない。
二匹でもない。
何匹いるのか、
数える暇さえなかった。

前回は、
一匹から逃げればよかった。

今回は違う。

得体の知れない生命体が、
塊となって襲いかかってきた。

銃声。
悲鳴。
火炎。

赤い警告灯の下を、
兵士たちが走る。

一人が襲われ、
床へ倒れた。

女は引き返し、
その腕をつかむ。

「立って!」

返事はない。

その身体は、
想像以上にずっしりと重い。

それでも、
女は引きずった。

逃げたい。

怖い。

顔には、
強烈な悲壮感がにじんでいる。

置いていけば、
自分だけなら助かるかもしれない。

それでも誰かを助けようとする。

人間のむき出しの情熱だけが、
彼女を出口へ向かわせていた。

そして女は、再び生き残った。

🪐

三度目に女が目を覚ました場所は、
収容施設だった。

外では冷たい風が吹き荒れ、
古びた建物の鉄板を震わせている。

武器はない。
救援も来ない。
そして――

また、
「あの生命体」がいる。

女は、
薄暗い廊下を走った。

荒い呼吸。
靴音。

その背後から、

ガリ。

ガラリ。


ガリ。

ガラリ。


金属を引っかくような音が、
少しずつ、
そして加速するように近づいてくる。

曲がり角の向こうで、
誰かが大きく叫んだ。

悲鳴は、
狭い施設の奥まで響いた。

「何かがおかしい……」

やがて女は、
ある異変に気づく。

目の前に現れる生命体が、
自分を殺さない。
逃げても、
追いかけてこない。

「……一体、なぜ?」

データ処理室へ入り、
PCに残された検査結果を確認する。

女の指が震えた。

画面から目を離し、
自分の下腹部へ、
ゆっくりと手を当てる。





そこに、
生命体の幼体がいた。

逃げたかった。
怪物はいつも、
自分の外側にいると思っていたからだ。

違った。

最後の怪物は、
自分の体内にいたのだ。

施設では、
警報が鳴り続けている。

赤い光が、
女の顔を照らしては消える。

機械は限界を超えそうな轟音を上げ、
床まで小刻みに震えていた。

女は静かに目を閉じた。

これ以上、
あのおぞましい生命体を、
この世界へ出してはいけない。

自分が生きれば、
怪物も生きる。

それならば。

女は振り返らなかった。
炎の中へ、
その身体を投じた。
白い光が、
すべてを包む。

そして――
悪夢は終わった。

🌏

数十年後。

地下研究施設の一室で、
一人の研究員が、
古い映像記録を解析していた。

室内には、
機械の低い駆動音だけが響いている。

「生命体の姿が残っています」

研究員が、
椅子を前へ滑らせる。

モニターには、
激しいノイズ。

補正をかける。

輪郭が浮かぶ。

研究員が、
眉を寄せた。

長い身体。
異様に細い手足。
そして頭の横から、
無数の線が、
渦のように広がっている。

「……何だ、これ……」

さらに画像を鮮明にする。

白い顔が現れた。
黒い二つの目。

研究員の指が止まる。

画像検索をかけた。

数秒後。

モニターに、
一つの名前が表示された。






ガラリーン


「…………」

研究員は黙った。

そして、
ゆっくりと画面へ顔を近づけた。

すると、

画面の中のガラリーンも、

いつの間にか、

こちらへ顔を近づけていた。

Source:Nyanchiisan

了


🌙観測note

この作品に登場したもの

『エイリアン』Blu-ray/DVD

👽 まずは原点から。

宇宙船。
静寂。
謎の生命体。

そして、
「絶対そっち行かないほうがいいよ」
と思った方向へ
人はだいたい進みます。

SFホラーの金字塔はこちら。

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🌙初めてMOONへ来られた方へ

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