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その部屋には最初から三人いた|ゾンビ先生の密室ゲーム

Parodyect MOON No.11

⚠️ ご注意ください

この作品には、映画『SAW』
第1作の重大なネタバレが含まれます。

これから『SAW』シリーズを見る予定がある方、
また、残酷な描写が苦手な方は、
ここでお引き返しください。

未鑑賞の方には、
先に映画をご覧になることをおすすめします。









その部屋には、最初から三人いた。
ただし、目を覚ましたのは二人だけだった。


頬に触れる床が、冷たい。

ゾンビ先生が目を開けると、
天井の蛍光灯が白く明滅していた。

ジジッ。
一瞬、暗くなる。
また光る。

古びた浴室のような場所だった。

壁には汚れた白いタイル。
錆びた配管。
長いあいだ使われていないような浴槽。

どこかで水滴が落ちている。

ピチャン。

体を起こした瞬間、

ガシャン。

右足を何かに引っ張られた。

「……なに、これ?」

足首には太い鎖が巻かれている。

鎖の先は、
壁の配管につながっていた。

部屋の反対側でも、

ガシャン。

同じ音がした。

男がひとり、壁際に座っている。
彼の足にも、鎖。

二人はしばらく、
互いの顔を見つめた。

「あなた、誰?」

「……俺が聞きたい」

男の声は震えていた。

そして、二人の間には――

もうひとりいた。

男が床に倒れている。

頭のそばには血だまり。

片手には拳銃。

もう片方の手元には、
小さなカセットプレーヤー。

ぴくりとも動かない。

ゾンビ先生は目を細めた。

「……死んでる?」

男は答えなかった。

狭い浴室に、

ピチャン。

水滴の音だけが響いた。

👁️

二人は、
自分たちがなぜここにいるのかを
覚えていなかった。

鎖を引く。
壁を叩く。
浴槽を調べる。
扉を押してみる。

開かない。

やがて、
それぞれのポケットから
一本ずつカセットテープが見つかった。

中央の死体のそばには、再生機。

ゾンビ先生は床に腹ばいになり、
手を伸ばした。

あと少し。
指先が届かない。

近くに落ちていた細い金属片を使い、
ようやく手元へ引き寄せた。

そのとき。

ゾンビ先生の視線が、
死体の手で止まった。

血だまりの中に倒れているのに、
指先が妙にきれいだった。

「……変ね」

「何が?」

「いや……」

自分でも理由はわからない。

ただ、
何かがおかしい。

テープを再生する。

ザザッ。

ノイズのあと、
低い男の声が流れた。

『生きたいか?』

二人の表情が固まった。

『ならば、自分で出口を見つけろ』

ゾンビ先生は足元の鎖を見る。

『おまえたちの残り時間は限られている』

そこで音声が途切れた。

同時に、
ガコン。

壁の一部が開いた。

中から何かが床へ落ちる。

一本のノコギリだった。

男が拾い上げる。

「これで鎖を……」

金属の刃を鎖に当てる。

ギコ。
ギコギコ。

何度こすっても、
鎖には傷ひとつつかない。

やがて、男の手が止まった。

「……違う」

「何が?」

男はノコギリを見る。

そして、
自分の足を見る。

ゾンビ先生も理解した。

「まさか……」

もう一度、テープから声が流れた。

『何を切るべきかは、自分で考えろ』

プツン。

静寂が戻った。

👁️

それから二人は、
鎖を外す方法を必死に探した。

排水口。
浴槽の裏。
タイルの隙間。
中央に倒れている男の服。

いくつかの手がかりは見つかった。

けれど、
肝心の鎖を外す方法だけが見つからない。

時間だけが、
容赦なく減っていく。

そして、
残り一分。

カチ。
カチ。

壁の時計の秒針が、
やけに大きく響いた。

男が壁にもたれかかる。

「……もう無理だ」

ゾンビ先生は、
何も答えなかった。

ただ、
床に落ちているノコギリを見つめていた。

やがて、
そのノコギリを拾い上げる。

ここから出るには、
制限時間内に
何かを犠牲にするしかない。

そう覚悟したのだ。

「おい」

「……仕方ないじゃない」

「本当にやるのか?」

「やりたくないわよ」

手が震える。

ゾンビ先生は、
ノコギリの刃を足首に当てた。

冷たい感触がした。

目を閉じる。

ここから出たい。
…生きたい。

その思いだけが、
頭の中に強く残っていた。

カチ。

カチ。

残り三十秒。

ゾンビ先生は、
大きく息を吸った。

そして、
足首に当てたノコギリを引いた。

ギコッ。

「――っ!」

鋭い痛みが走る。

歯を食いしばり、
もう一度、刃を動かす。

ギコ。
ギコギコ。
ギコギコギコ。

男は、
見ていられないように顔を背けた。

ゾンビ先生も、
何度も手を止めた。

それでも、
時計を見るたびに、
またノコギリを動かした。

そして――

ボトッ。

切り離された足が、
床に落ちた。

鎖につながれたまま、
そこに残っている。

「…………」

ゾンビ先生は、
荒い息を繰り返した。

恐る恐る、
自分の足元を見る。

そして、
眉をひそめた。

血が、
ほとんど出ていない。

「……あれ?」

「どうした?」

ゾンビ先生は、
切断した部分に触れてみる。

痛い。

でも、
思っていたほどではない。

そこで、
自分の腕に目をやった。

青白い皮膚。
冷たい指先。

そして、
最近の出来事を思い出す。

腕の肉が落ちたこと。

体が青くなったこと。

熱湯の中で眠っても、
平気だったこと。

「…………あ」

「どうした?」

ゾンビ先生は、
ぽつりと言った。

「そういえば……」

少し間を置く。

「わたし、
ゾンビだったわ」

男は黙った。

何と答えればいいのか、
分からないようだった。

そのとき。

背後から、
かすかな物音が聞こえた。

ゾンビ先生の表情が変わる。

男も、
ゆっくり振り返った。

部屋の中央。

最初からそこに倒れていた、
死体だと思っていた男。

その指が動いた。

手を床につき、
ゆっくりと体を起こしていく。

二人は、
声も出せなかった。

ずっと死んでいると思っていた男が、
ゆっくりと立ち上がった。


その瞬間、
ゾンビ先生の頭の中で、
いくつもの違和感がつながった。

血だまりの中にあった、
不自然なほどきれいな指先。

すぐそばに置かれていた再生機。

そして、
二人のちょうど真ん中。

部屋全体を、
最初から見渡せる場所。

死体ではなかった。
最初からずっと、
二人を見ていたのだ。


男は無言で、
服についた埃を払った。

それから壁際へ歩き、
何をしても開かなかった扉に
手をかける。

カチャン。

扉は、
あっさりと開いた。

その向こうには、
暗い廊下が続いていた。

男は振り返る。

「生きるために、
おまえたちは何を差し出せる」

静かな声だった。

「それが、このゲームだ」

ゾンビ先生は、
床に残された自分の足を見る。

それから、
男を見た。

「……ひとつだけいい?」

男が足を止める。

「なんだ」

「あなたもゾンビ?」

沈黙。

「違う」

「そう」

ゾンビ先生は、
少し安心したように頷いた。

「死体が起き上がったから、
仲間かと思った」

男は、
しばらく彼女を見つめた。

おそらく、
このゲームを始めてから初めて、
想定していなかったことが
起きていた。

しかし、
何も言わなかった。

ゆっくりと扉を閉める。

そして最後に、
ひと言だけ残した。

「GAME OVER」

バタン。

暗闇。
静寂。

ピチャン。

また、
水滴が落ちる。

ゾンビ先生は、
鎖につながれたまま
床に残された自分の足を見た。

「…………」

少し考えてから、
呟いた。

「これ、持って帰れるのかしら」

浴室には、
誰も答える者はいなかった。


了


🌙今回は、ゾンビ先生からの
まさかの執筆依頼を受けて生まれた作品です。


みんな大好きゾンビ先生。🧟
ご本人の記事はこちらからどうぞ。

ゾンビの生態を研究し、
ゾンビ映画とゾンビゲームを愛する
「ゾンビ先生」。

お風呂を沸騰させても、ハデに転んでも、
だいたい「まあ、いっか」で生きている。

……そもそも、生きているのかは不明です。🧟


🌙観測note

この作品に登場したもの

『SAW』Blu-ray/DVD』
「今回の元凶。未鑑賞の方は、
この記事より先にこちらへ。
ゾンビ先生はいません。」

※この記事にはアフィリエイトリンクを含みます。


🌙初めてMOONへ来られた方へ

▶︎「MOON|違和感の記録」の観測ガイドです。
どこから読むか迷ったら、
まずはこちらからどうぞ。

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#ミステリー
#不条理コメディ

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