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カワムラ先生は園児と対等に話す|保護者より子どもと話す方が上手な人の話

    Project MOON No.22

    保護者より、
    園児と話す方が上手な保育士がいた。
    それは保育士として長所なのか、
    それとも短所なのか。

    夕方の保育園。
    園庭から戻ってきた
    子どもたちの靴が、
    玄関に並んでいる。

    西日が窓から差し込み、
    廊下の床を長く照らしていた。
    給食室の方からは、
    洗い物をする金属音が聞こえる。
    教室では、
    まだ数人の子どもたちが
    積み木を並べていた。

    その手前の入り口で、
    カワムラ先生が
    保護者へ連絡事項を伝えている。

    「今日は、
    お友達との関わりの中でですね……」

    眼鏡を触る。
    言葉を選ぶ。
    視線が少し泳ぐ。
    保護者の顔を見る。
    すぐ外す。
    また見る。

    少しぎこちない。

    保護者も分かっている。
    だから誰も急かさない。
    むしろ
    少し微笑みながら聞いている。

    「先生、
    そんな緊張しなくて大丈夫ですよ。」

    母親が笑う。

    カワムラ先生は

    「あ、はい。」

    と言ったあと、
    さらに緊張していた。

    でも。
    子どもの前では違った。

    しゃがむ。
    膝をつく。
    目線を合わせる。

    「どうしたい?」

    「なんでそう思った?」

    「君はどうしたかったの?」

    その顔は真剣だった。

    子どもだから簡単に説明する。
    そんな感じではない。
    一人の人間として話している。
    そんな空気があった。

    特別人気がある先生ではない。
    でも。
    いつも
    カワムラ先生の近くに
    ついてくる子どもがいた。

    先生と園児。
    というより、
    少し不思議な師弟関係みたいだった。

    ◇

    たぶん、
    子どもたちは気づいていた。
    自分たちを子ども扱いしない大人が、
    この園にいることを。

    学芸会。
    年長組はソーラン節だった。

    体育館には、
    保護者席が並んでいる。

    ビデオカメラ。
    スマホ。
    三脚。
    ざわざわした期待感。

    舞台袖では、
    子どもたちが法被姿で並んでいた。
    その中に、
    リーダーの三人がいる。

    カワムラ先生は膝をつく。
    子どもと同じ高さになる。

    「どう踊る?」

    「大きく!」

    「できる練習は全部やってきた。
    あとは自信をもって大きく踊るだけだ。
    君たちならできる。」

    「はい!!」

    三人が、
    まっすぐな目で答える。

    周りの先生たちは微笑む。

    でも。
    カワムラ先生は少しも笑っていない。
    本気の目だった。

    太鼓の音。
    掛け声。
    足音。

    体育館の床が震える。
    ソーラン節が終わる。
    拍手。
    歓声。

    舞台袖へ戻った瞬間だった。

    カワムラ先生が、
    三人を抱きしめた。

    「よかったな。」

    それだけだった。
    でも、
    今にも泣きそうな顔だった。

    いや。
    もう泣いていた。

    子どもたちは少し照れながら笑う。
    保護者席も笑う。
    そして少しだけ涙ぐむ。

    「先生が一番感動してるじゃん。」

    そんな声が聞こえた。

    ◇

    園長先生は、
    そんなカワムラ先生を
    少し離れた場所から見守っている。

    保護者対応は上手ではない。
    全体を見るのも得意ではない。
    でも。
    園児の名前を呼ぶ時だけは違う。

    目が変わる。
    声が変わる。

    その姿を見るたび、
    園長先生は少し困ったように笑う。

    ◇

    迎えの時間。
    今日も保護者へ連絡事項を共有している。

    眼鏡を触る。
    言葉を探す。
    少し緊張している。

    その横で。

    「カワムラせんせー!」

    男の子が飛びついた。

    カワムラ先生は、
    当たり前みたいに受け止める。
    さっきまでの不器用さが、
    嘘みたいだった。

    保護者たちは笑う。

    たぶん。
    カワムラ先生は、
    子どもと向き合っていたら、
    気づけば
    保育士になっていた人なのだと思う。

    そして今日もまた。

    保護者への説明の前には、
    少しだけ緊張した顔をする。

    でも、
    園児たちの前では違った。

    しゃがむ。
    目線を合わせる。
    話を聞く。
    一緒に笑う。

    それは特別なことではなく、
    呼吸をするように自然だった。

    だから今日も、
    子どもたちは
    カワムラ先生の周りに集まる。

    先生が保育をしているのか。
    子どもたちに保育士にしてもらっているのか。
    その答えは分からない。

    ただ一つ言えるのは、

    カワムラ先生は今日も、
    子どもたちと同じ目線で笑っていた。


    了


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