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SAKURA ―薄紅色の記憶―|第8話|君は今、隣で笑っている

    一

    再会から数ヶ月、悠真と美月は、
    十年前とは違う形で、
    新しい関係を築き始めていた。

    あの頃のように、隠れるように会う必要はなくなった。
    悠真はすでに大学を卒業した社会人であり、
    美月との関係を、誰に対しても、
    堂々と語ることができた。
    再会した最初の頃、二人は、まるで、
    もう一度、最初からお互いを知り直すように、
    慎重に、時間をかけて、関係を育て直していった。
    十年という歳月の中で、

    それぞれが経験してきたこと
    出会った人々
    悩んだ問題――

    そのすべてを、二人は、丁寧に、語り合った。

    「悠真くんの十年間、もっと聞きたいです」

    ある夜、美月が、そう切り出した。

    「写真家として、どんな経験をしてきたのか。どんな人と出会って、どんな風に成長してきたのか。私が知らない十年間のこと、全部、知りたいです」
    「美月さんも、教えてください。職場での十年間のこと、お見合いのこと、全部」

    二人は、まるで、十年という長い空白を、
    一つ一つ、丁寧に埋めていくように、語り合った。
    時には笑い、時には涙を流しながら、
    それぞれが歩んできた、
    別々の人生の物語を、
    共有していった。

    「年齢差のこと、もう誰にも気にされなくなりましたね」

    ある日、二人で食事をしているとき、
    美月が、少し驚いたように言った。

    「僕が大学生だった頃は、十歳差って、すごく特別なことのように感じられましたけど、今は、お互いに大人だから、そんなに気にされないですね」
    「不思議ですね。同じ十歳差なのに、感じ方が、こんなに変わるなんて」
    「年齢差そのものは、変わらないですからね。でも、僕たちが、その差をどう受け止めるかが、十年前とは、全然違うんだと思います」

    二人は、改めて、
    年齢差というものの捉え方が、
    自分たちの成長と共に、
    大きく変化したことを実感していた。

    十年前、二人を引き離す原因になった年齢差は、
    今、二人にとって、むしろ、
    お互いの人生経験を補い合うための、
    豊かな違いとして受け止められるようになっていた。

    美月は、悠真との時間を重ねる中で、
    専門医のもとを訪れ、改めて自分の体について、
    詳しい検査を受けた。結果は、
    十年前に告げられたものと、
    大きく変わるものではなかった。
    自然な妊娠は、極めて難しいという現実は、
    依然として残っていた。

    「もし、子供が持てなかったら、悠真くんは、後悔しますか」

    検査結果を聞いた夜、美月は、
    悠真に、率直に尋ねた。

    「後悔はしないです。子供がいる人生も、いない人生も、僕にとっては、美月さんと一緒に過ごせるなら、どちらも幸せな人生だと思ってます」
    「無理して、そう言ってませんか」
    「無理してないです。十年前、僕は、美月さんがいなくなって、本当に苦しい思いをしました。その経験があるから、今、美月さんと一緒にいられることの方が、子供がいるかいないかよりも、ずっと大切なことだって、本気で思ってるんです」

    美月は、悠真の言葉に、深い安心を覚えた。
    それでも、彼女は、悠真の人生の選択肢を、
    改めて、本人の意志で確認したいと考えていた。

    「不妊治療や、特別養子縁組という選択肢も、一緒に考えてみたいと思ってます。すぐに決める必要はないですけど、悠真くんと、ゆっくり話し合いながら、私たちにとって一番いい形を、見つけていきたいです」
    「ありがとう、美月さん。一緒に考えていきましょう」

    二人は、そうして、これまで先延ばしにしてきた、
    すべての問題に、丁寧に向き合い始めた。
    十年前のように、本音を飲み込んで、
    関係そのものを終わらせてしまうのではなく、
    どんなに難しい問題でも、
    二人で一緒に考え続けることを、
    改めて選んだのだった。


    二

    再会から半年が経った頃、美月は、
    職場や家族にも、悠真との関係を、
    改めて報告することにした。

    実家に帰省した週末、美月は、両親の前で、
    緊張しながら、口を開いた。

    「お父さん、お母さん、聞いてほしいことがあるの」
    「何かしら、改まって」

    母は、少し心配そうな表情を見せた。

    「十年前、付き合ってた人と、もう一度、一緒にいることになったの。年下の人で、十歳差なんだけど」

    父は、しばらく黙っていた。
    やがて、静かに尋ねた。

    「その人とは、もう、十年前から知ってる関係なのか」
    「うん。大学生の頃、付き合ってたの。色々事情があって、一度別れたんだけど」
    「お前がそこまで言うなら、もう、いい歳の大人同士の話だ。父さんたちが、口を出すことじゃないだろう」

    父の言葉は、美月にとって、
    思いがけないほど、温かいものだった。

    「ただ、一つだけ言わせてもらうなら」

    父は、続けた。

    「お前の人生だ。お前が幸せになれる選択を、ちゃんと自分の意志で選びなさい。誰かのためじゃなく、お前自身のために」

    その言葉は、美月の心に、深く響いた。
    母のように、誰かのために自分の夢を諦めることを、
    長年恐れてきた美月にとって、父の言葉は、
    改めて、自分の選択の意味を、
    問い直させるものだった。

    「ありがとう、お父さん」

    その夜、美月は、悠真に、
    両親との会話のことを伝えた。

    「良かったですね。ご両親、理解してくれて」
    「うん。意外と、すんなり受け入れてくれて、驚いた」
    「僕の両親にも、もう一度、ちゃんと紹介したいです。十年前は、結局、最後まで紹介できなかったから」

    悠真の言葉に、美月は、
    わずかな緊張を覚えながらも、深く頷いた。

    数週間後、悠真は、美月を、実家に連れて行った。
    十年前、母から年齢差について心配の言葉を受けた、
    あの実家だった。

    「初めまして。西園寺美月と申します」

    緊張した面持ちで頭を下げる美月を、
    悠真の母は、しばらく、じっと見つめていた。

    「悠真から、話は聞いてます。十年前、色々あったんですよね」
    「はい。私の方に、至らないところがあって、悠真くんを、長い間、苦しませてしまいました」
    「いえ、悠真も、結局、十年間、あなたのことを、ずっと想い続けてたんですから。それだけ、お互いに、大切に想い合ってる証拠だと思います」

    母の言葉に、悠真は、思わず、胸が熱くなった。
    十年前、自分が交際相手の年齢差を伝えたとき、
    強い不安を見せていた母が、
    今は、こんな風に、二人の関係を、
    温かく受け止めてくれている。
    その変化に、悠真は、深い感謝を覚えた。

    「年齢のことは、正直、最初は心配だったの。でも、悠真が、十年経っても、あなたのことを忘れられずにいたのを、ずっと見てきたから。今は、ただ、二人が幸せになってくれることを、願ってます」

    その言葉に、美月は、
    涙ぐみながら、深く頭を下げた。
    帰り際、悠真の父が、二人を、
    玄関先まで見送ってくれた。

    「悠真、お前の選んだ道だ。今度こそ、ちゃんと、自分の意志で、幸せを掴めよ」
    「うん。ありがとう、父さん」

    父は、それ以上、多くを語らなかった。
    けれど、その不器用な言葉の中に、
    息子への深い愛情が、確かに込められていることを、
    悠真は、十分に感じ取っていた。
    帰りの電車の中、美月は、ふと、
    自分の母のことを、悠真に話した。

    「実は、もう一つ、話してないことがあるの」
    「何ですか」
    「私の体のこと。子供が、自然には授かりにくいかもしれないってこと、まだ、両親には、ちゃんと話せてなくて」
    「いつか、話すつもりですか」
    「うん。でも、まだ、少し時間がかかりそう」

    その夜、美月は、一人、母に電話をかけた。
    長い沈黙のあと、彼女は、ようやく、
    自分の体のことを、母に打ち明けた。
    電話の向こうで、母は、しばらく、言葉を失っていた。

    「そう……そんなこと、ずっと一人で、抱え込んでたのね」
    「ごめんね、今まで言えなくて」
    「謝らなくていいのよ。でも、これからは、ちゃんと、私たちにも、頼ってちょうだい。一人で全部、背負い込まなくていいから」

    母の言葉に、美月は、
    涙を流しながら、深く頷いた。
    十年前、自分が、誰にも頼らずに、
    すべてを一人で決めてしまったことの反省を、
    改めて噛み締めていた。


    三

    夏が来て、悠真と美月は、
    十年前に訪れた海沿いの町を、
    再び二人で訪れた。

    十年前と変わらない静かな町の風景を前に、
    二人は、長い時間、海を眺めながら過ごした。

    「十年前、ここで美月さんが見せた表情、今でも覚えてます」
    「どんな表情でしたか?」
    「なんだか、寂しそうな表情でした。あの時は、その意味が分からなかったんですけど、今は、ちゃんと理解できます」

    美月は、苦笑しながら、頷いた。

    「あの頃、私、もう別れを意識し始めてたんです。あなたとの時間が、いつか終わってしまうんじゃないかって、ずっと怖がってました」
    「今は、もう怖くないですか?」
    「今は、怖くないです。今度こそ、ちゃんと、あなたと一緒に未来を作っていけるって、信じられるようになりました」

    二人は、手をつなぎ、夕暮れの海を、
    長い時間、見つめ続けた。
    橙色に染まった波が、十年前と同じように、
    二人の足元に、静かに打ち寄せていた。

    宿泊先は、十年前と同じ、あの旅館だった。
    フロントで手続きをしていると、女将が、
    悠真の顔を見て、ふと、表情を変えた。

    「あら、あなた、確か、何年か前にも、お一人でいらっしゃいましたよね」
    「覚えてくれてたんですか」
    「もちろんです。あの時、十年前に、もう一度、誰かと泊まったことがあるっておっしゃってたから。もしかして……」

    女将は、悠真の隣に立つ美月を、優しい眼差しで見つめた。

    「その方ですか」
    「はい。今度こそ、ちゃんと、一緒に過ごせるようになりました」
    「それは、本当に、良かったですね」

    女将の言葉に、二人は、温かい気持ちで、頷き合った。
    その夜、十年前と同じように、二人は、
    地元の魚を使った会席料理を、
    ゆっくりと味わった。

    「この料理、十年前と、味、変わってないですね」
    「ええ。あの時から、ずっと、同じ板前さんが、腕を振るってるみたいです」

    食事をしながら、二人は、これまでの十年間、
    それぞれがどんな食事をしてきたかという、
    他愛もない話で盛り上がった。

    「悠真くんは、一人暮らしの間、ちゃんとご飯、食べてたんですか?」
    「正直、あんまり。コンビニ弁当とか、外食ばっかりで」
    「だめですね、それじゃ」
    「美月さんは?」
    「私も、似たようなものでした。仕事が忙しくて、自炊する余裕、あんまりなくて」
    「お互い、不健康な十年間だったんですね」

    二人は、顔を見合わせて、笑い合った。
    十年という長い空白の中で、それぞれが、
    孤独な日々を過ごしていたという事実が、
    今は、むしろ、二人の絆を、
    より一層、深めるものになっていた。

    「これから、ちゃんと、二人で、健康的な食生活、心がけましょうね」
    「ええ、そうしましょう」
    「美月さん」
    「はい」
    「これからも、ずっと一緒にいたいです」

    十年前にも、同じ言葉を口にしたことがあった。
    あの時、美月は、答えを濁し、結局、別れを選んだ。
    けれど、今、美月は、迷うことなく、その言葉に応えた。

    「私も、ずっと一緒にいたいです。今度は、もう、逃げません」

    その言葉に、悠真は、深い喜びを覚えた。
    十年という遠回りを経て、二人は、
    ようやく、お互いに対する確かな信頼を、
    築き上げることができていた。


    四

    秋になり、悠真は、職場での評価を活かして、
    地域の観光振興に関わる新しい部署への異動を、
    自らの意志で希望した。
    地元の魅力を写真や映像で発信する仕事は、
    彼の写真家としての活動とも、
    自然に結びつくものだった。

    「異動、決まりました」
    「おめでとう。ずっと希望してたことですよね」
    「ええ。今度は、ちゃんと自分の意志で、自分の人生の方向を選べたと思います」
    「悠真くんが、そうやって、自分の人生を、自分の意志で選んでいく姿、本当に素敵だと思います」

    美月の言葉に、悠真は、嬉しそうに笑った。

    「美月さんと再会できたから、僕は、もう一度、自分の人生を、ちゃんと選び直す勇気を持てたんだと思います」

    新しい部署での仕事は、悠真にとって、
    これまで以上にやりがいのあるものになった。
    地元の祭りや、伝統工芸、自然景観を、
    写真や映像で発信するプロジェクトは、
    悠真がこれまで培ってきた写真家としての感性を、
    存分に活かせるものだった。

    「この前撮った、地元の祭りの写真、すごく評判いいんです」
    「見せてください」

    悠真がスマートフォンで見せた写真には、
    夜祭りの提灯の灯りに照らされた、
    人々の笑顔が、生き生きと写し出されていた。

    「悠真くんの写真、本当に、見る人の心を動かしますね」
    「美月さんと出会ってから、ずっと、誰かの心に届く写真を撮りたいって、思うようになったんです」

    その頃、二人は、一緒に暮らすことについても、
    話し合うようになっていた。

    「そろそろ、一緒に住むこと、考えてみませんか」

    ある日、悠真が、思い切って、そう切り出した。

    「いいんですか?まだ、結婚もしてないのに」
    「形式的なことより、一緒に過ごす時間を、もっと増やしたいんです。十年間、離れ離れだった分、これからは、できるだけ一緒にいたいので」

    美月は、その言葉に、深く頷いた。

    「私も、同じ気持ちです」

    二人は、それぞれの住まいを引き払い、
    新しいアパートで、一緒に暮らし始めることになった。
    引っ越しの日、段ボールに囲まれた新居の中で、
    二人は、これまでの十年間を、思わず、振り返った。

    「十一年前、僕は、大学の寮で、一人、段ボールに囲まれてたんです。あの時、すごく寂しかったのを、今でも覚えてます」
    「今は、寂しくないですか?」
    「全然。むしろ、これからの生活が、楽しみで仕方ないです」

    二人は、笑い合いながら、荷物の整理を続けた。
    窓の外には、夕暮れの空が、橙色に染まっていた。
    冬になり、二人は、十年前のクリスマスのように、
    静かな夜を、二人で過ごした。
    新しいアパートには、十年前と同じように、
    小さなツリーが飾られていた。

    「クリスマスが、こんなに楽しいものだって、初めて知りました」

    美月が、嬉しそうに言った。

    「子供の頃は、寂しい思い出しかなかったって、言ってましたよね」
    「ええ。でも、悠真くんと一緒に過ごすクリスマスは、毎年、子供の頃の寂しさを、少しずつ埋めてくれるみたいな気がします」
    「これからも、毎年、一緒に過ごしましょう」
    「うん。約束します」

    十年前にも、似たような言葉を交わしたことがあった。
    あの時、その約束は、結局、
    果たされることなく終わってしまった。
    けれど、今、二人は、その約束を、
    改めて、確かなものとして、結び直していた。


    五

    桜の季節が、再び巡ってきた。
    再会から、ちょうど一年。
    悠真は、密かに、ある計画を立てていた。
    指輪を選ぶため、悠真は、一人で、
    いくつかの宝飾店を訪れていた。
    どんなデザインが、美月に似合うのか、
    何度も悩みながら、悠真は、
    店員の説明に、真剣に耳を傾けていた。

    「奥様になられる方は、どんな雰囲気の方ですか?」

    店員に尋ねられ、悠真は、しばらく、考えた。

    「真面目で、努力家で。でも、本当はすごく、優しくて、繊細な人です。派手なものより、シンプルで、長く使えるものが、似合うと思います」
    「それでしたら、こちらのデザインは、いかがでしょうか」

    店員が見せてくれた指輪は、控えめながらも、
    上品な輝きを放つ、シンプルなデザインのものだった。
    悠真は、それを見た瞬間、直感的に、これだと感じた。

    計画を立てるにあたって、悠真は、
    まず、菜々に相談を持ちかけた。
    美月にとって、菜々が、十年間、
    ずっと心の支えだったことを、悠真は、
    再会後の会話の中で、何度も聞かされていた。

    「プロポーズ、考えてるんです」
    「ついに、そこまで来たんですね」

    菜々は、嬉しそうに目を輝かせた。

    「美月さんが、これまで一番大事にしてきたものとか、好きな場所とか、何か教えてもらえませんか」
    「美月は、今でも、二人が初めて出会った桜並木のこと、すごく大事にしてますよ。あそこで、何かしてあげたら、きっと喜ぶと思います」

    菜々のアドバイスを受けて、悠真は、
    計画を、さらに具体的に練り上げていった。

    四月のある日曜日、悠真は、
    美月を、大学の桜並木に誘った。
    十一年前、二人が初めて出会った、
    あの場所だった。

    「ここに来るの、久しぶりですね」
    「ええ。なんだか、特別な場所になりましたね、私たちにとって」

    満開の桜が、二人の頭上を覆っていた。
    風が吹くたびに、花びらが、薄紅色の雨のように、
    二人の周りに舞い落ちた。

    「美月さん」

    悠真は、緊張しながら、ポケットの中の小さな箱に、手を伸ばした。

    「十一年前、僕は、ここで美月さんと出会いました。あの日から、僕の人生は、大きく変わりました。一度は、離ればなれになってしまいましたけど、十年という時間を経て、もう一度、こうして、ここに立てたこと、本当に幸せに思ってます」

    美月は、悠真の様子から、
    何が起こるのかを、すぐに察した。
    彼女の目に、涙が浮かび始めた。

    悠真は、ポケットから、
    小さな箱を取り出し、それを開いた。
    中には、シンプルだが、
    丁寧に作られた指輪が、収められていた。

    「美月さん。今度こそ、ちゃんと、僕と一緒に、未来を作ってください。年齢差のことも、これから先の人生で起こる、色々な問題も、全部、二人で一緒に乗り越えていきたいです。結婚してください」

    美月は、涙を流しながら、
    長い間、悠真の顔を見つめていた。
    十一年前、出会ったあの日から、
    今日この日まで、彼女の心の中で、
    ずっと続いてきた、長い物語の記憶が、
    走馬灯のように一気に、押し寄せてきた。

    「はい」

    美月は、はっきりと、答えた。

    「私も、今度こそ、ちゃんと、悠真くんと一緒に、未来を作っていきたいです」

    悠真は、美月の左手を取り、
    丁寧に、指輪をはめた。
    桜の花びらが、二人の周りに、
    絶え間なく舞い落ちていた。

    十一年前、出会ったあの瞬間と、
    まったく同じ光景の中で、二人の物語は、
    新しい章を、開き始めていた。
    通りかかった学生たちが、その様子に気づき、
    何人か、足を止めて、拍手を送ってくれた。
    その温かい祝福の輪の中で、二人は、
    互いの顔を見つめ合いながら、静かに笑い合った。


    六

    プロポーズから半年後、桜が散り、
    新緑の季節を迎えた頃、悠真と美月は、
    ささやかな結婚式を挙げることにした。
    大きな会場ではなく、海沿いの町にある、
    小さな教会を貸し切っての式だった。
    十年前、二人が初めて旅行で訪れた、
    思い出の場所だった。

    結婚式の準備を進める中、二人は、
    招待客のリストを、丁寧に作り上げていった。
    悠真の両親、美月の両親、翔太とその家族、菜々。
    そして、悠真がこれまでお世話になった、
    写真スタジオの店主の姿もあった。

    「店主さんにも、ぜひ来てもらいたくて」
    「いい考えだと思います。あなたの写真家としての道を、最初に支えてくれた方ですものね」

    式の日、参列者は、
    限られた家族と、親しい友人だけだった。
    悠真の隣には、高橋翔太が、満面の笑みで立っていた。

    「やっと、ここまで来たな」

    式の前、控室で、
    翔太が、感慨深そうに言った。

    「お前がずっと、桜の季節になると変な顔してるの、何年も見てきたからな。ようやく、その顔を見なくて済むようになるんだな」
    「お前のおかげだよ。何度も、背中を押してくれて」
    「俺は何もしてないよ。お前自身が、最後はちゃんと、向き合う勇気を持ったんだから」

    翔太の隣には、彼の妻と、幼い娘の姿もあった。
    娘は、控室の中を、興味深そうに歩き回っていた。

    「ほら、見てごらん。悠真おじさんが、今日、結婚するんだよ」

    翔太が、娘に、優しく声をかけた。

    「おめでとう、おじさん」

    幼い声でそう言われ、悠真は、
    思わず、目頭が熱くなった。
    一方、美月の控室では、木村菜々が、
    彼女の支度を手伝いながら、
    目に涙を浮かべていた。

    「本当に、長かったね」
    「うん。長かった」
    「あんたが、ずっと一人で抱え込んでた秘密のこと、私だけが知ってた十年間、本当に、見てるのが辛かったよ。でも、今日、こうしてあんたが、ちゃんと幸せになる姿を見られて、本当に良かった」
    「ありがとう、菜々。あなたがいてくれたから、私は、あの十年間を、一人で抱え込まずに済んだんだと思う」

    二人は、互いの手を取り合い、
    しばらく、無言で涙を流し合った。

    「さあ、もう時間だよ。涙、ちゃんと拭いて」

    菜々は、優しく、
    美月の頬の涙を、ハンカチで拭った。
    式が始まり、悠真と美月は、小さな教会の中で、
    互いに誓いの言葉を交わした。

    「私は、これからの人生を、あなたと共に歩むことを誓います。子供がいる人生も、いない人生も、どんな未来が訪れても、あなたと一緒に、その未来を、丁寧に作っていくことを誓います」

    悠真の誓いの言葉に、美月は、
    深く頷きながら、涙を流した。

    「私も、これからの人生を、あなたと共に歩むことを誓います。十年間、待っていてくれたことへの感謝を、これからの人生の中で、ゆっくりと、あなたに返していくことを誓います」

    二人の誓いが、小さな教会の中に、静かに響いた。
    窓の外には、新緑になった木々が、
    初夏の柔らかい光を浴びて、輝いていた。
    参列者たちの拍手の中、二人は、
    ゆっくりと、教会の外へと歩き出した。
    外には、近隣の住民たちも、
    二人を祝福しようと、
    何人か、集まってきていた。
    十年前、この町を訪れたとき、
    二人が泊まった旅館の女将の姿も、その中にあった。

    「おめでとうございます。本当に、良かった」

    女将の言葉に、二人は、深く頭を下げた。
    式のあと、近くのレストランを貸し切って、
    ささやかな披露宴が開かれた。
    料理を楽しみながら、参列者たちは、
    口々に、二人への祝福の言葉を伝えた。
    披露宴の終盤、美月は、
    両親に向けて、手紙を読むことになった。
    十年前、悠真が初めて結婚式の撮影に立ち会ったとき、
    新婦が読んだ、あの両親への手紙の場面を、
    美月は、ずっと心のどこかで、覚えていた。

    「お父さん、お母さん」

    美月は、手紙を持つ手を、
    わずかに震わせながら、読み始めた。

    「私は、長い間、誰かのために自分の人生を諦めることを、恐れて生きてきました。それは、お母さんが、若い頃、画家になる夢を諦めた姿を、ずっと見てきたからです。でも、今、お父さんとお母さんが、こんなに温かく、私の選択を見守ってくれたこと、本当に、感謝しています」

    美月の声が、わずかに震えた。
    会場の空気が、静かに、
    その言葉に包まれていった。

    「悠真くんと出会って、そして、一度離れて、また再会して。十年という長い時間がかかりましたけど、その遠回りのおかげで、私は、本当に大切なものが何かを、ちゃんと理解できるようになりました。これからは、お父さんとお母さんに、心配をかけることのないよう、悠真くんと一緒に、幸せな家庭を築いていきます」

    手紙を読み終えた美月は、
    両親の方を見て、深く頭を下げた。
    美月の母は、ハンカチで涙を拭いながら、
    何度も頷いていた。

    その様子を、悠真は、十年前、
    結婚式の撮影をしていたときと同じように、
    カメラを構えて、丁寧に切り取った。
    あの時、誰かの大切な瞬間を写真に残しながら、
    いつか自分にも、こんな日が来るのだろうかと、
    漠然と思い描いていた。
    その想像が、今、現実のものとなって、
    目の前に広がっていた。

    披露宴の最後、悠真と美月は、
    参列者全員に向けて、改めて感謝の言葉を伝えた。

    「今日、ここに集まってくださった皆さんに、心から感謝しています。十年という遠回りがありましたが、その間、ずっと支えてくれた友人たち、そして、ようやく僕たちの選択を認めてくれた家族のおかげで、今日という日を、迎えることができました」

    悠真の言葉に続いて、美月も、静かに口を開いた。

    「これから、悠真くんと一緒に、丁寧に、幸せな家庭を築いていきたいと思います。今後とも、よろしくお願いいたします」

    会場全体が、温かい拍手に包まれた。
    窓の外には、初夏の柔らかい夕陽が、
    静かに沈んでいくところだった。


    七

    結婚から一年後、
    悠真と美月は、特別養子縁組という選択肢について、
    専門の機関と相談を重ねながら、
    具体的な手続きを進めていた。そ
    れは、二人にとって、簡単な決断ではなかった。
    けれど、十年前のように、
    互いの本音を飲み込んでしまうのではなく、
    何度も、丁寧に話し合いを重ねながら、
    二人は、その選択を、共に決めていった。

    「悠真くんは、本当にこの選択でいいんですか」
    「ええ。美月さんと一緒に、家族を作っていくこと。それが、血の繋がりがあるかどうかよりも、僕にとっては、ずっと大切なことです」

    美月は、悠真の言葉に、何度も、深い感謝を覚えた。
    十年前、自分が一方的に飲み込んでしまった秘密。
    それを今、二人で一緒に乗り越えていけることに、
    彼女は、確かな幸福を感じていた。
    特別養子縁組の手続きは、想像していたよりも、
    ずっと長く、丁寧なプロセスを必要とするものだった。
    何度も面談を重ね、研修を受け、
    自分たちの家庭環境について、
    詳しく説明する機会もあった。

    「私たち、本当に、いい親になれるでしょうか」

    手続きの途中、美月が、
    不安げに、悠真に尋ねたことがあった。

    「分からないです。でも、完璧な親なんて、最初からいないと思います。僕たちにできることは、その子のことを、ちゃんと愛して、向き合い続けることだけだと思います」

    悠真の言葉に、美月は、
    安心したように、頷いた。
    養子縁組の機関での面談で、
    担当のソーシャルワーカーが、
    二人に、ある質問を投げかけたことがあった。

    「お二人にとって、家族とは、どういうものだと思いますか」

    その問いに、悠真と美月は、
    しばらく、顔を見合わせた。
    「血の繋がりよりも、一緒に過ごす時間と、お互いを想う気持ちの積み重ねだと思います」

    悠真が、そう答えると、美月も、深く頷いた。

    「私たちは、十年間、離れ離れになっていた時間があります。それでも、お互いを想う気持ちは、消えませんでした。家族も、きっと、同じだと思います。一緒にいる時間の長さじゃなくて、どれだけ、お互いを大切に想い続けられるかが、大事なんだと思います」

    担当者は、その答えに、深く頷いていた。
    その年の冬、二人のもとに、一人の小さな命が、
    家族として迎えられることになった。
    新しい家族の誕生は、悠真と美月の人生に、
    これまでにはなかった、新しい色彩を加えていった。

    初めて、その小さな命に対面した日のことを、
    二人は、生涯、忘れることはないだろうと思った。
    施設の一室で、職員に抱かれた赤ん坊を見た瞬間、
    美月は、思わず、涙を流した。

    「この子が……」
    「ええ。これから、私たちの娘になります」

    悠真は、緊張した手つきで、
    その小さな体を、そっと抱き上げた。
    柔らかく、温かく、そして、ひどく小さなその体は、
    まるで、これまでの十年間の遠回りすべてに、
    意味を与えてくれるような存在だった。

    「お父さんですよ」

    悠真がそう呟くと、赤ん坊は、
    不思議そうな顔で、悠真を見つめ返した。
    その瞳の中に、悠真は、
    これから始まる新しい人生の、
    確かな予感を感じ取っていた。

    「この子の名前、何にしましょうか」

    美月の問いに、悠真は、少し考えてから答えた。

    「さくら、っていう名前は、どうですか」
    「さくら……」
    「僕たちが出会った場所も、再会した場所も、いつも桜の下でした。この子の名前にも、その記憶を、込めたいなと思って」

    美月は、涙を浮かべながら、深く頷いた。

    「いい名前ですね。さくら。私たちの娘の名前」

    その名前は、二人の十年に及ぶ未練と、
    その先に訪れた再会と、新しい家族の誕生という、
    すべての物語を、象徴するものになった。


    八

    娘のさくらが、一歳の誕生日を迎えた頃、
    悠真と美月は、改めて、これまでの人生を、
    振り返る機会を持った。

    さくらの一歳の誕生日には、翔太の家族と、
    菜々が、二人の自宅に集まってくれた。
    リビングには、小さなケーキと、
    たくさんの祝福の声が、賑やかに溢れていた。

    「さくらちゃん、大きくなったなぁ」

    翔太の娘が、さくらの手を取り、優しく遊んであげていた。
    二人の子供たちが、笑い合う様子を見ながら、
    悠真と翔太は、グラスを傾けながら、
    昔話に花を咲かせていた。

    「お前が、桜の季節になるたびに、変な顔してたあの頃が、懐かしいな」
    「お前にも、ずいぶん、心配かけたよな」
    「いや、お前が、最終的に、ちゃんと幸せを掴んだの見られて、本当に良かったよ」

    翔太は、しみじみと、そう言った。
    一方、菜々は、美月と並んで、
    さくらの様子を、優しい眼差しで見守っていた。

    「美月、本当に、いい母親になったね」
    「菜々のおかげだよ。十年間、ずっと、私の弱音を聞いてくれたから」
    「これからも、何かあったら、いつでも頼ってよ。さくらちゃんの、名付け親みたいなものなんだから、私も」

    菜々の冗談に、美月は、
    笑いながら、深く頷いた。
    夜、さくらを寝かしつけたあと、
    美月が、ぽつりと言った。

    「思えば、長い道のりでしたね」
    「十九歳の僕と、二十九歳の美月さんが出会って、それから、十年も離れ離れになって。今、こうして、家族になれたこと、本当に奇跡みたいですね」
    「奇跡というより……お互いが、ちゃんと、自分の気持ちと向き合い続けた結果だと思います」

    美月の言葉に、悠真は、深く頷いた。

    「翔太にも、改めて、ちゃんとお礼を言わないとですね。十年間、ずっと、僕の背中を押し続けてくれたから」
    「菜々にも。十年間、ずっと、私の話を聞いてくれたから」

    二人は、それぞれの友人たちへの感謝を、改めて噛み締めていた。

    ある週末、二人は、さくらを連れて、
    写真スタジオの店主のもとを訪れた。
    店主は、すでに七十代になっていたが、
    相変わらず、元気に、スタジオを切り盛りしていた。

    「お前が、結婚して、子供までいるなんてなぁ。月日が経つのは、早いもんだ」
    「店主さんのおかげです。あの頃、写真の仕事を続けることを、応援してくれたから」
    「お前自身の力だよ。俺は、ただ、お前の才能を、ちょっと後押ししただけだ」

    店主は、さくらの顔を覗き込みながら、優しく笑った。

    「いい子だな。お前の写真の腕、この子にも、ちゃんと受け継がせろよ」
    「教えてみようと思ってます。でも、無理強いはしないつもりです」
    「それでいい。好きなことを、好きなように、見つけさせてやるのが、一番だ」


    エピローグ

    桜が咲く季節。
    悠真は、駅のホームのベンチに座っていた。
    十一年前、序章で描かれた、あの夜と同じ場所だった。

    あの時、悠真は、一人で、
    桜の枝が風に揺れる音を聞きながら、
    過ぎ去った恋の記憶に、心を締め付けられていた。

    今日、三人は、これから、海沿いのあの町へと、
    家族旅行に出かけるところだった。
    さくらが生まれてから初めての、
    家族三人での遠出だった。

    「さくら、電車、好き?」

    美月が、娘に、優しく尋ねた。

    「うん!」

    さくらは、嬉しそうに、
    両手を広げて、電車の音を真似た。
    その無邪気な仕草に、悠真と美月は、
    思わず、顔を見合わせて笑った。

    今、悠真の隣には、美月が座っていた。
    そして、美月の膝の上には、
    すくすくと育った娘のさくらが、
    楽しそうに笑いながら、
    桜の木を見上げていた。
    さくらが、無邪気に、
    悠真の方を見上げて笑った。

    「綺麗だね」
    悠真は、娘の頭を、優しく撫でた。
    風が吹いて、桜の枝が、さわさわと音を立てた。
    その音を聞きながら、悠真は、
    ふと、子供の頃から続く、自分の不思議な感覚
    ――音を聞くと、色が見える、あの感覚――を思い出した。

    桜の枝が揺れる音は、
    いつも、淡い、薄紅色だった。
    十一年前、その色を見るたびに、
    悠真の心には、美月の輪郭が、
    切ない記憶として、浮かび上がっていた。

    しかし今、その音を聞きながら、
    悠真の心に浮かぶ色は、もう、
    切なさだけのものではなかった。

    隣に座る美月の笑顔、
    膝の上で笑う娘の声、
    そのすべてが、同じ薄紅色の中に、
    温かく、溶け合っていた。

    「悠真くん、何か考えてるんですか」

    美月が、優しく尋ねた。

    「ただ、十一年前のことを、思い出してました」
    「十一年前のこと?」
    「美月さんと、初めて出会った日のこと。あの日から、僕の人生は、本当に大きく変わりました」

    美月は、悠真の肩に、そっと頭を寄せた。

    「私も、よく思い出します。あの日、迷子になってた悠真くんに、声をかけたこと」
    「あの時、声をかけてくれて、本当にありがとうございました」
    「あの時、声をかけて、本当に良かったです」

    二人は、しばらく、無言で、
    桜の木を見上げていた。
    風が吹くたびに、花びらが、
    薄紅色の雨のように、
    ホームの上に舞い落ちていった。

    さくらが、ふと、悠真のマフラー
    ――あの、十一年前、美月が編んでくれた、藍色のマフラー――に、
    小さな手で触れた。

    「お母さんが、編んでくれたんだよ。すごく、大事なマフラーなんだ」

    さくらは、不思議そうに、
    マフラーを、じっと見つめていた。
    その様子を見ながら、美月は、
    悠真が、十一年経った今でも、
    あの夜のマフラーを、
    大切に使い続けていることに、
    改めて、深い感慨を覚えた。

    悠真は、ふと、鞄の中から、
    一冊のアルバムを取り出した。
    これまでの十一年間、
    二人で過ごした時間を、
    写真として、丁寧にまとめたものだった。

    「さくら、見てごらん。これが、お父さんとお母さんの、昔の写真だよ」

    悠真は、アルバムを膝の上に開いた。
    入学式の朝の桜並木、
    喫茶店での初デート、
    温泉旅行での笑顔、
    結婚式の誓いの言葉。
    そして、十年間の空白を挟んで、
    再会の日の、満開の桜の下での写真。

    さくらは、色鮮やかなページに
    興味を持ったのか、小さな手を伸ばして、
    写真の表面を、ぺたぺたと叩いた。

    「さくら、ここにも桜が咲いてるね」

    美月が、優しく頁を指差して教えると、
    さくらは「あー!」と声を上げ、
    嬉しそうに笑った。
    何が写っているのか、まだ何も分からないだろう。
    それでも、両親が大切そうに
    その写真を見つめていることは、この小さな命にも、
    何か伝わっているのかもしれなかった。

    「いつか、さくらにも、ちゃんと話してあげますね。私たちの、長い物語のこと」

    美月の言葉に、悠真は、深く頷いた。

    今、君はどこで何をしているのだろうか。

    十一年前、悠真が、
    何度も自分に問いかけていた、その問い。
    今、その答えは、はっきりとしていた。

    君は、僕の隣で、笑っている。

    もう、遠くにいる誰かを思って、
    心を締め付けられることはない。
    もう、連絡先を開いて、閉じることもない。
    もう、すれ違う誰かに、君の面影を探すこともない。

    十年という長い遠回りは、
    決して無駄ではなかった。
    その遠回りの果てに、二人は、
    ようやく本当の意味で、
    お互いを選び直すことができたのだから。

    電車が、ホームに入ってくるアナウンスが、静かに流れた。
    悠真は、美月と、娘のさくらと一緒に、立ち上がった。
    三人は、手をつないで、ゆっくりと、
    電車に向かって歩き出した。
    桜の花びらが、三人の後ろ姿を、
    優しく見送っていた。

    電車に乗り込む前、悠真は、
    ふと、もう一度、ホームの桜を振り返った。
    十一年前、一人で見上げていたあの桜と、
    今、家族三人で見上げる、この桜。

    同じ場所
    同じ季節
    同じ花

    けれど、その花を見つめる悠真の心は、
    もう、あの頃とは、まったく違うものになっていた。

    物語は、ここで終わる。
    けれど、悠真と美月、そして娘のさくらの人生は、
    これからも、ずっと続いていく。
    十年の未練を越えて、ようやく手にした、
    ささやかで、しかし確かな幸福と共に。

    桜の木の下で出会い
    桜の木の下で別れ
    桜の木の下で再会し
    桜の木の下で未来への約束を交わした
    二人の物語。

    その物語は、これからも、季節が巡るたびに、
    新しい一章を、静かに書き加えていくのだろう。


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