【風まかせ文芸部】『月光のシンフォニー』【ファンタジー】
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ようこそ、皆さま!セイウチです。
パシャリと波が揺れて、足元にひとつ、透明なガラス瓶が届きました。
中を覗くと、小さな虫たちの歌声がぎゅっと詰まっているみたいです。
アナタの夜に寄り添う物語になりますように。
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西の空から橙色が消え、薄墨色の夜が街を包み込むと、葉陰の楽団員たちが静かに位置についた。
指揮者のタクト代わりに月光が差し込み、今夜のコンサートが開演する。
始まりはごく静か。
草むらの奥から、スズムシのリーン、リーンという澄んだ鈴の音が響く。
続いてマツムシがチンチロリンと上品な高音を重ね、カンタンがルルルル……と甘いヴィブラートで夜気を満たしていく。
それぞれのパートが丁寧に音を紡ぎ出す、美しく繊細なアコースティック・アンサンブルだ。
しかし、その可憐なメロディに誘われるように、夜の住人たちが次々と姿を現すと、曲調は一変する。
樹液のバーカウンターを目指すカブトムシやクワガタの重厚な足音。
空をかすめるコウモリの羽ばたき。
高揚感は夜の深まりとともに増していき、オーケストラのテンポも一気に跳ね上がった。
コオロギたちがコロコロコロと軽快なトリルを刻み、そこへクツワムシのガチャガチャという重厚なパーカッションと、ハヤシノウマオイのスイッチョンという鋭い管楽器のような断裁音がなだれ込む。
さらにキリギリスがギース・チョンと力強いソロを響かせた。
それを合図に、あらゆるパートが一斉に音を重ね合わせ、怒濤の超高速な熱狂へと突入する。
無数の翅(はね)が震え、草木が共鳴し、夜全体がひとつの巨大な音の渦となって狂喜乱舞した。
歓喜の絶頂、音の密度は限界まで高まり——
ピチチチ……
唐突に、一羽の小鳥のさえずりが夜の静寂を切り裂いた。
東の空が白み始め、さあっと金色の日差しが草むらを照らし出す。
すると、あれほど苛烈に鳴り響いていた大オーケストラは、まるで最初から存在しなかったかのように一瞬でピタリと止んだ。
「……ッ」
旋律を奏でていた虫たちはサッと葉の裏へ隠れ、狂宴を楽しんでいた夜の住人たちも、蜘蛛の子を散らすようにそれぞれが闇へと逃げ帰っていく。
誰もいなくなった朝の草むらで、朝露が一滴、葉先から滑り落ちた。
今夜の終演時間を告げるベルのように、かすかな音を立てて。
(了)
※この物語はフィクションです。
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最後まで読んでいただきありがとうございます❗😭✨
秋の夜長、草むらから聞こえる虫たちの声が、もしも一つのオーケストラだったら……という想像から生まれたショートショートです。
静から動、そして朝の訪れによる静寂への変化を楽しんでいただけたら嬉しいです。
【i】さん今回も素敵な企画をありがとうございます!
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