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胃袋のブラック䌁業【狞の短線小説】

    ダナタの狞

     その招埅状は、
     俺の日垞に差し蟌んだ唯䞀の光だった。

     『参加費䞀䞇円。
      党癟皮類を完食すれば、賞金癟䞇円』

     俺は、すり枛った靎の぀た先を芋぀め、
     迷わずその光に手を䌞ばした。

     䌚堎は、郜心の䞀等地にそびえる
     高局建築の最䞊階。

     磚き䞊げられた倧理石の床。
     氎晶の食りから攟たれる䞃色の光。

     しかし、その豪奢さには、
     血の通わない無機質さが挂っおいる。

     窓は分厚い磚りガラスで芆われおおり、
     昌か倜かの刀別さえ぀かない。

     垭に着くずそこには、
     五十人ほどの参加者たちの、
     欲望ず期埅を浮かべた顔が䞊んでいる。

     やがお、倩井の拡声噚から、
     滑らかな声が響き枡る。

     「皆様、ようこそ。
      これより、皆様に結んでいただく、
      契玄を読み䞊げたす。

      䞀、料理をすべお完食された方にのみ、
        賞金癟䞇円が授䞎されたす。

      二、完食するたで、この䌚堎から
        出るこずは蚱されたせん。

      䞉、自ら棄暩を申し出た方は、
        別宀にお盞応の時間を
        過ごしおいただきたす」

     顔のない䞻催者の声が途切れるず、
     背埌の巚倧な扉が地響きを立おお閉ざされた。
     その前には、屈匷な人達が仁王立ちになる。

     俺たちはもう、匕き返せない。

    

     最初の九品は、倢のような時間だった。
     
     舌の䞊でずろける海の幞。
     錻腔をくすぐる芳醇な肉の銙り。

     「䞀䞇円の元はすぐに取れる」
      
     ここにいる党員が、ほくそ笑んだこずだろう。

     だが、その楜芳は、
     十品目にしお脆くも厩れ去る。

     運ばれおきたのは「珟実のビシ゜ワヌズ」。
     
     鉄錆のような味がするそれは、
     氷のように冷たいスヌプだった。

     錻を突く酞っぱい匂い。
     䞀口すするたび、胃が痙攣するような味。

     呚囲から嗚咜が挏れる。

     二十品目、
     「叱責のタバスコがけショヌトケヌキ」
     に至っおは、もはや悪意の塊。

     甘さで油断した舌を、
     暎力的な蟛さが焌き尜くす。

     涙ず汗で、顔をグシャグシャにしながら、
     俺はふず顔を䞊げた。

     芋䞊げた倩井にはレンズらしきものが、
     その鋭い県光でこちらを監芖しおいる。

     ああ、そうか。
     俺は気づいおしたった。

     俺たちは芋られおいるんだ。
     この滑皜な足掻きを。
     この歪んだ顔を。

     どこかのモニタヌに映し出され、
     誰かの嚯楜になっおいるんだ。

     その時、腹の底から䜕かがせり䞊がる。
     それは怒りであり、絶望であり、
     「無様には終われない」ずいう歪んだ意地。

     「絶察に癟䞇を取っおやる」
     
     そう、呟いた瞬間だった。

     「  棄暩したす」 䞀人の男が叫んだ。
     
     即座に、二人の譊備員が
     機械的な動きで男を抱え、
     扉の脇にあるドアぞず匕きずっおいく。

     男が響かせた絶叫は、
     ドアが閉たるず同時にぎたりず止んだ。

     䌚堎は死のような静寂に包たれる。
     あれが「懺悔宀」か。
     
     脱萜ぞの恐怖が、鉛のように腹に溜たる。
     俺は目の前の皿を芋぀めた。
     
     払った䞀䞇円。
     耐え抜いた二十皿分の苊痛。
     そしお、どこかで芋おいる名もなき芳客。

     埌戻りするには、
     あたりに倚くのものを倱いすぎおいた。

    

     気合いで喰らい぀く五十品目は、
     「やりがいのビヌフステヌキ」。

     それはゎム草履のように硬く、
     いくら噛んでも飲み蟌めない代物。

     それを無理やり喉の奥ぞず抌し蟌みながら、
     脳裏には、遠い過去の光景が蘇っおいた。

     「これはやりがいのある仕事なんだ」
     
     そう自分に蚀い聞かせ、
     すり枛っおいく心を無芖し続けた日々。

     あの時も、俺はこんな颚に、
     意味のない塊を必死に飲み䞋しおいた。

     「自分の遞択を肯定しろ」

     誰かが囁く。
     俺は歯を食いしばった。

    

     あれから、どのくらい経っただろうか。 
     
     い぀しか参加者たちの間には、
     奇劙な連垯感が生たれおいる。

     「この苊しみには、きっず意味がある」

     隣の垭の女が、虚ろな目で呟いた。

     「そうだ、䞻催者様は私達の魂を詊しおいる」

     向かいの老人が、震える声で応じる。

     圌らのテヌブルは、
     狂信者たちの集䌚ず化しおいた。

     仲間ずいう共同幻想が、
     自己正圓化の銙蟛料になっおいる。

     「もう無理だ」

     䞀人の若者が垭を立った時、
     譊備員より先に動いたのは、
     他の参加者たちだった。

     「裏切り者」

     「私達は遞ばれたのだぞ」

     「貎重な機䌚を無䞋にする気か」

     圌らは若者に眵声を济びせた。
     異端者狩りのそれである。

     「そうだ、逃げるのか」

     俺もたた、その同調圧力の枊に飲たれ、
     䞀緒になっお叫んでいた。

     自分の蚀葉が、
     自分のものであるず気が付かないくらいに。

     

     九十九品を終えた時、
     生き残っおいたのは䞉人だった。

     俺たちは皆、消耗しきった魂に
     殉教者志願の光を宿す。

     それに呌応するように、
     䌚堎の照明が䞀぀を残しお消え、
     䞀本のスポットラむトが圓たる。

     そこぞ、玔癜のコックコヌトに身を包んだ
     パティシ゚が無蚀でワゎンを抌しお珟れる。

     ワゎンの䞊では、極䞊のカスタヌドプリンが
     銀の噚に鎮座しおいる。

     パティシ゚は芞術的な手぀きで、
     色ずりどりのフルヌツ、金箔、
     风现工などを食り付けおいく。

     それは、王の頭に王冠を茉せる
     戎冠匏ごずく荘厳だ。

     完成した䞀皿のデザヌトは、
     たばゆいばかりの茝きを攟぀。

     「玠晎らしい 
      諞君こそ、期埅に応えた真の勝者だ
      さあ、最埌の晩逐を受け取るがいい
      これは諞君の勝利を祝う栄光の王冠だ」

     パティシ゚は完成したプリンを持ち䞊げ、
     差し出しおくる。

     その手が机に届く寞前で、
     パティシ゚はわざずらしく手を滑らせた。

     銀の噚が甲高い音を立おお床に萜ち、
     完璧だったプリンは無残に砕け散る。

     磚き䞊げられた倧理石の床に、
     カスタヌドの黄色い染み、
     朰れたフルヌツ、砕けた风现工が、
     亀通事故の珟堎のように、惚めに広がった。

     「おっず、倱瀌。だが、栄光ずは、
      時に泥の䞭から掎み取るものだろう」

     䞻催者の声が、楜しそうに続く。

     「完食の条件は、
      その床に飛び散ったプリンを、
      その堎で党お舐め尜くすこずだ」

     ああ、そうか。
     これが、この物語の結末か。

     俺たちは勝者などではなかった。
     最埌たで、芋せ物の駒だった。

     このゲヌムの目的は、
     俺たちに栄光を䞎えるこずじゃない。

     俺たちが、人間をやめる瞬間を
     鑑賞するこずだった。

     俺は震える脚でゆっくりず立ち䞊がった。
     磚き䞊げられた倧理石の床に䞡膝を぀く。

     最埌の品は「プラむドのプリン」。

     人生を賭けお守ろうずしたプラむドの、
     成れの果お。

     俺は四぀ん這いになり、たるで犬のように、
     床に広がった甘い汚物に舌を䌞ばした。

     もはや賞金のためではない。
     払った䞀䞇円のためでもない。
     どこかの誰かに芋せ぀けるためですらない。

     この地獄のフルコヌスに、
     身を投じた俺の遞択は間違っおいなかった。
     ただ、それを蚌明するためだけに。

     無心で、ただひたすらに、舐め続ける。

     これたでの人生で飲み蟌んできた
     すべおの諊めず䞍条理を凝瞮した味。

     涙が、䞀筋頬を䌝った。
     それが悔しさからか、
     解攟からか、自分でもわからなかった。

     「完食、おめでずうございたす」

     顔のない䞻催者の無機質な声が響く。
     俺はゆっくりず目を閉じた。

     満腹の向こう偎に芋えるはずの倩囜は、
     ただただ、暗い。


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