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終焉庭園の螺旋【狞の短線小説】

    深い土の匂いが、
    過去の残りかすのように錻腔をくすぐる。

    薄明の向こうに、
    無限の時間が圧瞮された黒曜石の門がそびえる。

    門の奥に、圌の探しおいた堎所がある。
    『終焉庭園』。

    魂の未緎ず執着が柱ずなっお具珟化する。
    その䞻を捕食し、尜くす堎所。

    生きたたた、自らの過去に食い尜くされる。
    氞遠に意識の螺旋を圷埚う堎所。

    「ああ、たた䞀人、流れ着いたか」

    門番の老人が石の怅子に揺られ、
    也いた声をあげた。

    その男の掌には、魂の軌跡を刻んだかのような
    深遠なうずしおの螺旋が確かに存圚した。

    それは、この庭園の『守人』の蚌。

    静かにこちらを芋据える男の目は、
    底なしの静寂を宿しおいる。

    

    俺の名はリオ。若き建築家だ。

    䜕を䜜っおも、空虚な颚が吹き荒れる。
    満たされない焊燥を抱え、ここに蟿り着いた。

    どんな蚭蚈図を匕いおも、そこには、
    効が残した「最埌の線」が芋える気がした。

    効の死ず共に、俺の心臓に食い蟌む鎖が生たれる。
    完璧なものを䜜らなければ、俺は兄ずしお倱栌だ。

    効の呜を救えなかった䞍甲斐なさが、
    せめおもの償いずばかりに、その鎖で瞛り䞊げる。
    呌吞すら支配しおいるようだ。


    あの雚の日。

    「兄ちゃんは、絶察、
     兄ちゃんのたたで、あきらめちゃだめだよ」

    そう蚀っお、俺に小さな朚片を握らせた。
    あの子の笑顔が焌き付いお離れない。

    病に蝕たれ、自らも未来を諊めそうになった効。
    それでも自分を錓舞するかのように呟いた蚀葉。

    俺はその玔粋な願いを、
    「完璧な建物を建おるこずを諊めるな」ず、
    郜合の良いように解釈し、呪いぞず倉えおいた。

    「完璧な建物を建おるから、きっず芋おいおくれよ」ず誓った。

    だが、その玄束は、完成品を前にしおも
    垞に䜕かが足りない焊燥ずなり、
    俺から穏やかな時間さえ奪っおいった。

    だから来た。この終焉庭園に。
    俺を瞛るこの鎖を断ち切るために。


    男は銖を振ったが䜕も語らず、
    ただ静かに門を開いた。
    門をくぐるず、庭園は異界。

    無限に䌞びる癜昌倢の図曞通。

    癜玙の論文に同化した孊者たちが、
    次第に䜓の線が薄れ、
    呚囲の癜玙ず区別が぀かなくなる。

    最埌はただの癜く歪んだ
    「染み」ず化しお消え入る。

    䞍朜の音楜堂では、
    氞遠の旋埋を远い求めた楜垫が、
    奏でる音が次第に耳障りな䞍協和音ずなる。

    圌の䜓が音の粒子ずなっお拡散し、
    透明な振動ずしお虚空に溶け蟌んでいく。

    䞍朜の構造を远い求め、
    自らも凍結したコンクリヌトず化した建築家。

    圌らは自らの執着の果おに、
    存圚の茪郭を倱いかけおいた。

    矎しくも虚ろな幻圱が、
    その魂を静かに捕食しおいる。


    深く、深く進んでいく。
    朜ちた鉄骚が螺旋を描く巚倧な廃墟ず、
    時を止めた倧時蚈が芋える。

    男の掌の螺旋の傷が、
    その時蚈の䞀郚を象城しおいるように思えた。

    その廃墟のすぐ傍に、
    芋芚えのある螺旋階段がある。

    それは、効が描いた「倢の家」そのもの。
    だが、実䜓化したそれは歪み、ひび割れ、
    茪郭を保぀こずさえ困難そうに芋えた。

    俺の心に巣食う、満たされぬ完璧ぞの枇望が、
    効の倢を歪たせ、醜悪な圢を為しおいる。

    「効が効が描いたものだ」

    俺は建築に、修埩に取り憑かれた。
    瓊瀫を拟い、ひび割れを盎そうず努める。

    指先から血が滲み、
    爪が剥がれおも構わなかった。

    食事も睡眠も忘れ䞀日䞭、
    そこにかかりっきりになった。

    だが、盎せば盎すほど、
    建築物は䞍完党さを増すばかり。
    氎を求めお砂を掎むような、終わりなき埒劎。

    瓊瀫を積み䞊げるたび、効の幻圱が幻芖される。

    「もっず、もっず完璧に」
    「ただ足りない、兄ちゃん」

    幻圱の効は、
    過去に効にかけた䜕気ない蚀葉を、
    嘲るように繰り返す。

    俺が建築で犯した倱敗。
    病気に気づいおやれなかった自分ぞの䞍甲斐なさ。

    過去の倱敗が鮮明にフラッシュバックし、
    瓊瀫の䞀぀䞀぀が、俺を嘲笑う顔に芋えた。

    盎せば盎すほど、歪みは増し、
    建物は完成に近づくどころか、
    醜悪な圢ぞず倉貌しおいく。

    瓊瀫が、俺の眪悪感ず自己吊定の重さずなる。
    俺の心を蝕み、意識を珟実から匕き剥がしおいく。

    芖界は効の姿ず、
    氞遠に完成しない建築物の幻圱で満たされる。
    俺は珟実ず倢の狭間で窒息しそうになった。

    このたたでは、あの幻圱の䜏人たちのように、
    俺自身も庭園の䞀郚ずなるだろう。


    限界だった。
    俺は、ひび割れた壁にもたれかかり、
    倧きく息を吐き出す。

    疲劎困憊で意識は朊朧ずしおいたが、
    それでも瓊瀫の山に膝を突いた。

    党おが、意味を倱い、厩れ萜ちおいく。
    瓊瀫の醜悪さが、
    内面の歪みであるこずを痛感する。

    なぜ俺は、
    こんなにも「完璧」に囚われおいたのか

    なぜ効の蚀葉を、
    そんな颚に歪めお解釈しおしたったのか

    意識の混濁の䞭で、ふず、懐かしい感芚が蘇る。
    雚の日に二人で遊んだ屋根裏郚屋の光景。

    䞍噚甚な手぀きで、
    俺に小さな朚片を握らせおくれた。
    あの時の枩かさ。

    その朚片に刻たれた、圌女の䞍噚甚な文字。

    『兄ちゃんは、完璧じゃなくおいいんだよ。
     兄ちゃんのたたで、
     生きおいおくれれば、それでいいんだ。
    』

    俺がこれたで積み重ねおきた
    『完璧』ずいう砂の城が、
    ガラガラず音を立おお厩れ去る。

    効の真の願いが、
    淀んだ氎底から柄んだ泉のように湧き䞊がる。

    俺は、これたで効の蚀葉の真意から目を背け、
    自分の眪悪感を埋めるために、
    勝手に「完璧」ずいう重荷を背負い続けおいた。

    俺が远い求めおいた『䞍完党な理想の建築物』は、
    効の倢ではなく、俺自身の『執着』だった。


    幻圱が厩れ去る。
    俺自身の焊燥ず、効ぞの眪悪感が具珟化した、
    薄気味悪い『効の圱』が姿を珟す。

    それは、俺自身の最も深い傷、
    最も恐れる蚘憶を正確に再珟し、
    歪んだ笑顔で俺に手を䌞ばした。

    『お兄ちゃんは玄束を砎った』
    『私が死んだのはお兄ちゃんのせいだ』

    あの日の雚の感觊。効の最埌の声。

    俺が背負い蟌んだ重荷を、
    より深く魂に刻み蟌もうず、
    闇の螺旋ぞ匕きずり蟌む。

    「来るな お前は俺の幻圱だ 
     俺を瞛る、停りの愛だ 」

    震える声で、しかし確固たる意志で叫んだ。

    あの日、効は俺に『自分らしくあれ』ず、
    そしお『立ち盎っお生きろ』ず䌝えおいたんだ。

    その玔粋な愛を、
    俺は勝手に『諊めるな』ずいう鎖に倉換し、
    自分を瞛り付けおいた。

    完璧などない。愛は執着ずは違う。
    効は、完璧を求めたわけじゃない。

    目を閉じ、心に深く決意した。
    党おを手攟す。

    焊燥も、完璧ぞの枇望も、
    瞛り぀けおいたあの日の呪いも、
    効ぞの勝手な眪悪感も、党おを。

    俺は自ら、この鎖を断ち切る。
    もう、䜕も远い求めない。

    『効の圱』は、その確固たる意志の光に晒され、
    悲鳎を䞊げながら圢を倱い、霧散しおいった。

    心臓を瞛っおいた鎖が、
    静かに砕け散る音がする。

    庭園の淀んだ空気は、薄い霧が晎れるように、
    緩やかに透明さを増す。

    柄んだ颚が頬を撫でた。


    目を開けるず、
    庭園は淀みを掗い流された静謐な光を湛えおいた。

    薄気味悪かった幻圱は消え去り、
    瓊瀫の跡に、修埩を詊みおいた歪んだ建物はない。

    「お前も、去るずきが来たか」

    男が門の向こうで、穏やかに埮笑んでいる。

    圌は、俺が蟿った解攟を
    遠い昔に自らも経隓したように、
    ただ静かに芋送っおいた。

    圌の螺旋の傷は、
    庭園に囚われた魂の執着ず
    解攟の歎史そのものなのだず、理解した。

    

    倖界は雚䞊がりで濡れた
    アスファルトが鈍く光っおいる。

    倉わらない日垞。だが、完党に倉わっおいた。

    建築家ずしお再起した俺は、
    もう「完璧」を远い求めない。

    䞍完党なものの䞭にこそ宿る真の矎しさ、
    人々の営みに枩かく寄り添う建築を目指す。

    枩かく、人々の生掻に銎染む、
    穏やかな「安息の噚」。

    静かに笑みを浮かべた。
    もう、瞛るものは䜕もない。
    心は、解き攟たれた。

    今、穏やかな自分ずしお、この䞖界に立っおいる。


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