
一杯の記録|第128話 大黒正宗 吟醸しぼりたて(兵庫・灘)
一杯の酒から、その土地をたどる。
畝の先、海へ。
兵庫、灘。
六甲の山並み。
その懐から流れ出る、宮水。
海へ向かう風が、
街の隙間を抜けていく。
重たい歴史がある。
そして、
ここに漂う空気は、ひたすらに情深く。
安福又四郎商店。
ただ、不屈の意志をその底に秘めて立つ。

さて、本題。
開栓。
若い香り、ふっと立ち上がる。
注ぐ。
硝子のなか、透明な液体の静かな揺らぎ。
口に、含む。
走る。
しぼりたての鮮烈、鋭き閃光。
満ちる。
濃醇なる旨みと、軽快な酸。
そして、傲然と貫かれる一本の芯。
抜ける。
速い。迷いなく。
じんわりと這い上がる、渋みと辛み。
凪いでいる。
新しき活力、積み重ねられた時間。
そのどちらも抱きしめ、静かに立つ。
—— 潮。
この一杯は、
山から海へ流れゆく、
清らかな力を掬い上げるための記憶。
そんな一杯として、ここに記録しておく。