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シャルル・ド・ゎヌルの倩䜿ず悪魔

    2005幎9月。
    31歳の私は、ロンドンの自宅フラットで、日本ぞの幎末里垰り航空刞探しに奔走しおいた。 そこで突き぀けられたのは、むギリス発・日本ぞの盎行䟿埀埩チケットの腰を抜かすような倀段。日本発の運賃に比べ、2倍から3倍以䞊。
    そしお私は、昔から飛行機をはじめずする長時間の移動が倧の苊手。だがこの時は仕方なく経由䟿を怜蚎し、なんずか蚱容範囲の金額だった、゚ヌル・フランスの、ロンドン発パリ経由䟿を賌入した。

    この、 安く、少しでも移動時間を短瞮しようず詊みた「浅はかな思い぀き」が、党おの悲劇のはじたりだった。

    そのチケット賌入前から、クリスマスは倫の家族ず共に、スコットランドで過ごすず決定枈みだった。スコットランド南西郚の倧郜垂グラスゎヌから、車で2時間ほど離れたずある別荘地。
    ロンドンからグラスゎヌは飛行機で時間半皋床、特急列車で時間匱。
    グラスゎヌぞは、その特急列車で行こうず、倫ず決めおいた。

    ずにかく移動の負担を枛らしたい。
    クリスマスをスコットランドで過ごした埌、ひずりロンドンのフラットぞ戻り、里垰りのための倧量の荷物を抱えお、ロンドン郊倖の空枯たで向かうのはかなりの重劎働。

    そしお思い぀く。

    ヌヌスコットランドからロンドン自宅ぞは戻らず、そのたた日本ぞ向かえばいいじゃない

    しかし、スコットランドからロンドン、パリ経由で垰るずなるず、行皋はさらに耇雑ずなる。 別荘を車で出お2時間、グラスゎヌから列車で5時間かけロンドン䞭心地に戻り、スヌツケヌスを抱えおヒヌスロヌ空枯たで地䞋鉄で1時間、さらに埅ち時間を経お飛行機でパリぞ  。

    ヌヌいやいやいや、「グラスゎヌ→パリ→東京」ずいうルヌトにしよう

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    「ロンドン発・パリ経由・東京行きの埀埩チケット」ず、「グラスゎヌからパリぞの片道チケット」を別々に賌入し、最初の「ロンドン→パリ」間だけを攟棄すればいい。そうすれば、ロンドンに戻る手間が省けるはずだ、ず。
    代金を払っおいるのだから、乗らなくおも文句は蚀われないだろう。 そんな軜い気持ちで、私はその蚈画を決行した。

    グラスゎヌ郊倖でのんびりずしたクリスマス・ホリデむを過ごし、日本里垰りぞの出発圓日。 予定通り、私は倫にグラスゎヌ空枯たで送っおもらい、たずはパリぞず飛行機で旅立った。 無事到着したシャルル・ド・ゎヌル空枯のパリ発・東京行きの䟿は23時過ぎ。い぀もは機内で眠れない私だが、深倜䟿ならぐっすり眠れるだろう  などず、のんきに構えおいた。たさか、その先に地獄が埅っおいるずは知らずに。

    それは、゚ヌル・フランスの東京行きチェックむンカりンタヌで始たった。
    たずは荷物の重量オヌバヌを指摘され、玄3䞇円の远加料金を請求される。゚ヌル・フランスの重量制限は厳栌で、スヌツケヌスず機内持ち蟌み小型スヌツケヌス、リュックサックずいう私の荷物は、完党なるルヌル違反。 持ち蟌み荷物はひず぀のみず、事前に調べおいなかった痛恚のミス。

    「ここで远加料金を払っおチェックむンしお」

    無衚情な若い女性スタッフは私にそう告げ、リュックサックをベルトコンベアヌに流し蟌んだ。呆然ずする私をよそに、カりンタヌ内の電話が鳎り、受話噚を受け取ったその無衚情なスタッフが、冷ややかな芖線をこちらに向ける。

    「あなた、ここたでどうやっお来たの バスか䜕か」
    「グラスゎヌから、別の䟿で来たした」

    正盎に答えるず、圌女は再びフランス語でどこかぞ電話をかけた埌、私にこう告げる。

    「ロンドンからの最初の䟿を䜿っおいないわね。これは栌安チケットの契玄違反よ。あなたのチケットは、垰りの䟿も含めおすべお無効になったわ」

    心臓が止たるかず思った。

    「今ならただ空垭があるから、正芏料金を払えば乗せおあげる」

    その金額、正芏代金のためゞネスクラス䞊み。

    「行かないのなら、今預かったリュックサックを返すわ。早く決めお」

    頭の䞭が真っ癜になり、倧パニック 私は必死に謝った。悪気がなかったこず、どうしおも事情があったこず、どうか蚱しおほしいず泣き぀いたが、圌女の答えは「ダメ」の䞀点匵り。 そのたたチケットオフィスぞ連れお行かれ、私の航空刞は目の前で無効化の手続きをされおしたう。

    「今党おのチケットの無効手続きしたから。でも空枯䜿甚皎の返金は請求出来るから、それは賌入旅行代理店でしお。そしお私はただの係員だから。文句があるならあっちの人に詳しく聞いお」

    圌女が指差した先にいたのは、今思い出しおもはらわたが煮えくり返るような、冷培な䞭幎の女性スタッフ。

    「電話したのは私よ。ルヌルを知らせなかった旅行䌚瀟の責任であっお、うちの知ったこずじゃない。ずにかく、今回のチケットは䞀切無効よ」

    涙目になりながら「行き堎がないんです」ず蚎える私に、圌女はフッず錻で笑い続けた。

    「あなたに遞択の䜙地なんおないのよ。お金を払えば乗せおあげるんだから。それしかないでしょ」

    その時、倜の21時過ぎ。
    激寒のパリ郊倖シャルル・ド・ゎヌル空枯。私は䞀人、途方に暮れお立ち尜くした。

    「リュックサック、戻すかどうか、決めたらカりンタヌに来おちょうだい」

    無衚情な若い女性スタッフは、そう蚀っお立ち去っおいった。

    圓時は今のように誰もがスマヌトフォンを持っおいる時代ではなく、たしおや海倖暮らしの私にずっお、連絡手段は限られおいた。
    頭の䞭が真っ癜になり、猛烈なパニックが私を襲う。 どうしよう、どうしよう。これは玛れもない珟実。
    日本行きのチケットだけでなく、垰りの䟿たで無効に。倧金をはたいお買った航空刞が、䞀瞬にしおただの玙切れになった。 いや、被害はそれだけではない。その時私がいたのは、真冬のフランス、パリのシャルル・ド・ゎヌル空枯。

    私は事態を飲み蟌むたでに、かなりの時間を芁したず思う。
    このたた远加料金を払っお日本ぞ行く手はある。だが、それには莫倧なお金がかかる。
    䞀方、日本では䞡芪が私の垰りを心埅ちにしおいる。友人にも䌚っお話したいこず、決めたい仕事の蚈画も山ほどあった。

    「やっぱり日本に行かなければ。お金が問題じゃない、行くんだ」

    そう自分に蚀い聞かせる。けれど、提瀺された金額はあたりに、あたりに高すぎた。

    ずにかく倫に盞談しなくおは。 そう思い立ち、必死で公衆電話を探したが、そこで第二の悲劇に気づく。

    「  アドレス垳は、預けたリュックの䞭」

    この日、倫は私をグラスゎヌ空枯ぞ送り届けた埌、むングランド北郚の実家ぞず向かっおいた。私は倫の携垯番号も、実家の固定電話の番号も暗蚘しおおらず、ボロボロず涙がこがれ萜ちた。
    䞇策尜きお、ただ早朝の日本の実家に電話をかけおみる。圓然、返っおくるのは留守電の応答メッセヌゞのみ。

    「もしもし、もしもし  お母さん  」

    泣きながら呌びかけおみたが、受話噚からは虚しい沈黙が返っおくるだけ。
    そこぞ、あのチェックむンカりンタヌの女性スタッフが私を远っおきた。

    「リュックを戻したいなら、早く決めおちょうだい」
    「あのリュックがないず倫に電話もできないんです、どうしたらいいの」

    私は泣きながら蚎えた。䜕の意味もないず分かっおいおも、叫ばずにはいられなかった。 しかし、圌女から返っおきたのは冷酷な最埌通告。

    「行くか行かないか、5分以内に決めお」

    䞀人では決められない。話せる盞手もいない。 行くしかないのか  。
    いや、埅およ。ここで法倖な運賃を払った䞊に、あの超過料金3䞇円たで払えずいうのか。
    そしお、チケットオフィスのあの䞭幎女性の、勝ち誇ったような顔が脳裏をよぎった。

    「あなたに遞択の䜙地なんおないのよ」

    ――䞊等だあ あんな悪魔のような女がいる䌚瀟に、䞀銭たりずも払っおやるもんか

    激しい怒りずずもに、疲匊しきった心に浮かんだのは、「ずにかく倫に䌚いたい」、それだけだった。 決たれば話は早い。 私は重いカヌトを抌し、泣き顔のたたカりンタヌぞ戻った。

    「行かないこずにしたした。リュックを返しおください」

    悔し涙を流しながら、他人の前で泣く自分を「みっずもない」ず思いながらも、私はその決断を䌝えた。

    「あらそう。階䞋の到着䟿階の○○番出口に出お来るから、そこから匕き取っお」

    カりンタヌの女性スタッフは、最埌たで無衚情のたただった。

    リュックを受け取るため、重いカヌトを抌しお䞋の階ぞ移動しようずするが、゚レベヌタヌが芋圓たらない。仕方なくスヌツケヌスをカヌトから䞋ろし、必死の思いで゚スカレヌタヌで䞋の階に降りた。 この焊りが灜いし、カヌトのバスケットに「無効にされたチケット」を眮き忘れおしたったこずに、この時の私はただ気づいおいなかった。

    到着䟿階でなんずか手元に戻ったリュックからアドレス垳を取り出し、公衆電話ぞ駆け蟌む。そしお 䜕も知らない倫が、のんきな声で電話に出る。

    「ハロヌハロヌ  今から東京行きの飛行機に乗るずころ」
    「違うのよ 倧倉な事が起きちゃったの これこれこうで、私日本に行けなくなっちゃった シャルル・ド・ゎヌルで足止め食らっちゃっおるの」
    「な、な、なに えええ どういうこず」
    「いや、だから今説明した通り、もうね、どうしようもないの。謝ったり懇願したり、やるべき事は党郚やったけどだめなの。もうむギリスに垰るしかないの。どうしよう」
    「なんで えええええ」

    ず、党く信じられない様子の倫。そりゃそうだ  

    「どうしお なんで なんずかなるんじゃないの」
    「もう枈んだ事なの どうしようもないの 今はもうこっち倜時過ぎおんの あたしゃ行くずこもないんだよ なんずかここから動かなきゃいけないのよ」

    状況を党く把握出来ない倫に察し、私は電話越しに逆切れ

    「もしも今倜遅い䟿でそっちに行けるようだったら行きたいし、それか明日の早朝ずか  」
    「おおお  そうか  そうだね、そうだね」
    「うん、今から探すから。たた埌ですぐ電話するね」
    「うん、うん、がんばっお、どんなに遅くなっおも電話しおね、埅っおるから」

    倫の声を聞けお少し萜ち着いた私は、早速むギリスぞ向けおのフラむトを探そうずする。しかし、その時いたのが到着階だったため、掲瀺板には到着䟿しか茉っおいない。仕方ないので戻っおきたリュックサックを背負い、倧小぀のスヌツケヌスを手に、たた出発階ぞ䞊がる。
    しかし、ずにかく焊っおいた私は、゚スカレヌタヌで぀たずき、スヌツケヌスを二぀ずも倒しお゚スカレヌタヌからドカンドカンず萜っこずしおしたう。こんな遅い時間に空枯で䞀人泣き厩れ、䜕をしおいいか分からずパニックになった日本人。スヌツケヌスも蚀うこずを聞いおくれない。なんお無様な姿だろう。しかし、泣いおばかりはいられない。もしかしたら乗れる深倜䟿があるかもしれないのだから。

    再び出発ロビヌに䞊がっおきお飛行機を探すず、むギリス行きはリバプヌルぞの䞀䟿のみ。しかも22時30分過ぎ発。フランスの空枯にいたらどうにも動きが取れないが、むギリスに戻りさえすれば、自分で動いお家に垰れる。そう思い、私はそれにかけおみようず思った。

    しかし、この時私がいたのは倧きな倧きなシャルル・ド・ゎヌル空枯のタヌミナル2。そしおそのむギリス行きの飛行機はタヌミナル3発。タヌミナル間は巡回シャトルバスでの移動ずなる。

    もう  シャトルバスはどこなの  

    よくよく空枯内案内図を芋るず、シャトルバス乗り堎はやっぱりず蚀うか圓然ず蚀うか、到着ロビヌ階、䞋の階1階の出発着だった。
    たた移動かあ、ず荷物を持っお階䞋に移動するこずに。しかし今回ぱレベヌタヌを発芋し、再びカヌトをどこからずもなく持っおきお、荷物を党郚乗せお階䞋に移動する。この時だろうか。私が問題のチケットをなくしおいるず気が付いたのは。でも、今探しに出たら確実に間に合わない。航空䜿甚皎の払い戻しよりも、ずにかくこれからの予定をはっきりさせなくおは、ず階䞋に移動し、シャトルバスの乗り堎を発芋。結構すぐ来たそのバスに荷物3぀を乗せ、タヌミナル3ぞず向かった。
    しかしバスは巡回バスのため、AからB、C、ず䞀぀䞀぀回っおいき、タヌミナル3に着いた時、すでに時間は22時20分頃になっおいた。
    しかもタヌミナル3のシャトルバス降り口から、実際のタヌミナル3たでは300メヌトルもあり、そこをたた3぀の荷物を持っお、すれ違う人ずぶ぀かりながら倧急ぎで倧移動。

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    やっずの思いでタヌミナル3内に入るず、この日最埌のリバプヌル行きには確実に乗れないこずが刀明。ペヌロッパ内栌安航空䌚瀟専門の小さなタヌミナル内を芋枡すず、殆どのチェックむンカりンタヌは無人。10人にも満たない人がロビヌにちょこちょこいるだけ。私はむンフォメヌションデスクに、「少しでも早くむギリスに行きたい」ず泣き぀くず、玳士的な背の高い男性が心配そうな顔で察応しおくれた。

    「今倜はもうありたせんよ。でも明日のを探しおみたすからね。むギリスのどこ ロンドンでいいの」
    「いや、出来たらなるべく北の方で」

    するず、明日午前10時過ぎにむヌゞヌゞェットペヌロッパ内栌安チケット専門の航空䌚瀟のリバプヌル行き、曎に倕方18時にニュヌカッスル行きがあるず。

    「倀段はわからないから、盎接むヌゞヌゞェットのカりンタヌに行っおごらんなさい、垭が䜙っおいればその堎で賌入出来るからね」

    ヌヌリバプヌルかあ、ニュヌカッスルがベストなんだけどなあ、でも18時たでなんか埅おないなあ。

    ずりあえず運良くタヌミナル3で唯䞀ただ人のいたむヌゞヌゞェットのカりンタヌに行き、倀段を聞くず䞡方ずも蚱容範囲の倀段空垭有り。
    ずりあえず考えるので、ずカりンタヌから去るず、さきほどのむンフォメヌションの男性が心配そうにこちらを芋おいた。

    「どうだった チケット買えた」

    ゚ア・フランスの悪魔女ずは倧違いである。

    「ちょっずやっぱり18時たでは埅おないから、もう少し探しおみたいんです」
    「そう、僕はもう垰る時間だけど、同僚が探しおあげるからね、がんばっお」

    そしおたたむンフォメヌションに行くず、今床は若い男性が。

    「ハロヌマダム どうしたしたか」

    たたたた芪切そうな男性に、フラむトを怜玢しおもらうず、゚ア・フランスで明日の10時過ぎにニュヌカッスル行きがあるずのこず。

    うん  
    ゚ア・フランスにはもう䞀切関わりたく無い。でも18時たでこの空枯で埅぀のも蟛い。

    「ちなみに゚ア・フランスはタヌミナル2です。」ずその男性。

    ヌヌやっぱたたあの堎所か

    䞭間報告で倫に電話をするず、

    「頌むから、その䟿で垰っおきおくれ。チケットを取っおホテルで䌑んで。心配でたたらないんだ」

    ごもっずもである。
    私は倫の蚀葉に埓い、荷物3぀ず共ににシャトルバスに乗り蟌み、忌たわしきタヌミナル2ぞず戻る。そしお ゚ヌル・フランスのチケットセンタヌにあの「悪魔」や「無衚情女」の姿はないこずに安堵し、順番を埅぀。

    「ハロヌマダム、どうしたした」

    15分ほど埅った私を、40代くらいの男性スタッフが満面の笑みで迎えおくれた。

    なんなの、男の人はみんな優しいじゃない

    私のパニックぶりなど知る由もないこのムッシュは、穏やかな埮笑みで察応しおくれた。

    「明日午前の、ニュヌカッスル行きを予玄したいのですが  」
    「はい、承知したした。空垭を調べたすね」

    私はわずかな垌望を抱いおいた。ノヌスり゚スト航空で貯めたマむレヌゞが、提携先のKLM、゚ヌル・フランスでも䜿えるのではないか。

    「このマむレヌゞは䜿えたすか」
    「ああ、これぱヌルフランスの自瀟カヌド保持者でないず䜿えないんですよ」

    さらに、画面を芗き蟌んだそのムッシュが「あちゃあ」ずいう顔をした。

    「片道だず、800ナヌロ以䞊したすね  」

    あたりの金額に絶句する私。するず圌は、呚囲を気にするように小声でささやいた。

    「埀埩にしおみる 埀埩なら、300ナヌロちょっずで出せるよ」

    それでも、私にはただ高すぎた。栌安航空のむヌゞヌゞェットなら、その3分の1以䞋の倀段で枈む。

    「  やっぱり、いいです。他を探したす」

    立ち去ろうずする私を、そのムッシュは呌び止める。

    「埅っお。これからどうするの  ホテルは」
    「ないです  」
    「えっ、日本から着いたばかりでしょ」
    「いえ、今日、日本ぞ垰るはずだったんです。でもダメになっおしたっお」

    理由を話すず、圌は目を芋開いた。

    「なんだっお それはひどい話だ  。い぀の䟿だった  ちょっずチケット芋せお」

    冷酷な「悪魔」ずはあたりに違う察応。すでに搭乗予定の䟿は離陞しおいたが、圌は必死にコンピュヌタヌを叩く。

    「その、チケットを  なくしおしたったんです」
    「ええっ それはたずいよ、倧事なものなのに」
    「パニックになっおしたっお  。どこかに眮き忘れたみたいです」

    ムッシュは、心底私に同情しおくれおいる様だった。

    「なんずしおでも、そのチケットを探しおおいで。今日はもうオフィスが閉たるけれど、明日たた午埌15時に来お。僕、ここで埅っおいるから」
    「無理ですよ、芋぀かるわけがない」
    「いいや、絶察に探しおおいで。芋぀かれば、なんずかしおあげられるかもしれない。チケットさえあれば日付倉曎で察応できる可胜性があるんだよ。  日本で家族が埅っおいるんだろう」

    けれど、私の心はもう限界だった。今からこの空枯内でチケットを捜玢し、明日午埌15時たでこの空枯で粘り、さらにロンドンで䞀泊しお  。䞀人でそれをやり遂げる気力は、埮塵も残っおいなかった。ずにかく今は、倫のいるむギリスぞ垰りたい。

    「ムッシュ、ありがずう。でも、もう疲れおしたいたした。むギリスに垰りたす」
    「そうか  。だったら、裏技を教えおあげよう」

    圌は、KLMのオフィスに電話しお、マむレヌゞを金刞バりチャヌに換えおもらう方法をメモしおくれた。

    「今日はこれからどうする 倜は冷え蟌むよ。もし空枯に残るなら、この裏に暖房が吹き出る堎所がある。そこぞ行くずいい」

    さっきたで、同じ䌚瀟のスタッフの冷酷さに、本圓にやりきれない気持ちになっおいた。自分の行動に党おの問題があったず分かっおいおも、悔しくお悔しくおショックだった。けれど今、この芋ず知らずのムッシュが、本気で私を救おうずしおくれおいる。私は、もうそれだけで十分だず思った。

    「本圓に、ありがずうございたした」
    「助けになれなくおごめんね。気を぀けお。もし気が倉わったら、明日15時にここにおいでね」

    ムッシュずのやり取りのおかげで、私はい぀の間にか穏やかな心を取り戻しおいた。
    そしおオフィスを出おすぐ、ハッず重倧なこずに気が付いた。日本の実家に、あの泣き出しそうな声で「お母さん、もしもし  」ずだけ呌びかける留守電を残したたただったのだ。私は慌おお再び公衆電話ぞず向かい、今床は萜ち着いお、垰囜できなくなっおしたった理由ず面目ない気持ちを留守電に残した。
    続いおかけたのは、倫ぞの電話。 ゚ヌル・フランスの翌朝の䟿はやはり高額で手が出ないこず、今倜は空枯近くのホテルに泊たり、明日の朝、改めお別のフラむトを探すのでホテルが決たったらたた連絡する、ず䌝えた。

    タヌミナル3の隣にある、比范的安䟡で有名なむビスホテルぞ行くず、運良く空宀あり。郚屋に入り、ベッドに暪たわった途端、どっず疲れが噎き出し、私は声を䞊げお号泣した。おヌい、おヌい、ず。5分ほど泣き続けるず、䞍思議ず頭がすっきりした。涙には浄化䜜甚があるずいうのは本圓なんだなあ、なんお思いながら倫に電話をかけるず、

    「チケット、ネットで予玄したよ。倕方18時のニュヌカッスル行き。明日はゆっくりしお、安心しお垰っおきお」

    その蚀葉に、私は党身の力が抜けたような感芚に。
    もう、シャルル・ド・ゎヌル空枯を圷埚わなくおいいのだ。
    日本時間は朝の9時。改めお実家ぞ電話するず、父が出た。

    「倧倉だったね。いいんだよ、たたい぀でも来れるんだから」

    その優しい声に、再び涙腺が厩壊。母に代わっおもらっおも、嗚咜が止たらない。

    「ごめんね、ごめんね  」

    いい歳しお、䞡芪にこれほど倧泣きするなんお。父は「いく぀になっおも心配させられるよ」ず笑っおいたが、電話を切った埌も、申し蚳なさず愛情の枩かさで涙が止たらなかった。
    そしお䞍思議な充実感もあった。
    自分のミスで招いた倧倱態だったけれど、私を助けようずしおくれた芋ず知らずのフランス人ムッシュ。そんな赀の他人の誠意に觊れられる機䌚なんお、人生にそう䜕床もあるこずではない。
    人間っお、捚おたもんじゃない。䞖界はただこんなに暖かい。
    高い授業料だったけれど、倧切なこずを孊んだ気がした。
    気になるこずは事前に確認する。そしお、い぀かあのムッシュのように、困っおいる人に手を差し䌞べられる人間になろう。
    泣きはらし、心が劙に柄み枡り、泥のように深い眠りが、私を包み蟌んでいった。

    翌日、ホテルのチェックアりトは正午。むギリスぞ戻る䟿は倕方の18時過ぎ。1分1秒でも長くこの安党な郚屋に留たり、時間を皌がなければならない。
    ずにかくベッドでゎロゎロず過ごし、シャワヌを济び、い぀も以䞊に䞁寧に化粧をする。唯䞀蚀葉が理解できるBBCのニュヌスをテレビで流しながら、荷物をたずめ盎す。
    正午ギリギリにチェックアりトを枈たせ、䞉たびシャルル・ド・ゎヌル空枯のタヌミナル3ぞ埒歩で戻る。

    ふず、昚倜のあのムッシュの顔が浮かぶ。

    ヌヌもう䞀床タヌミナル2たでお瀌を蚀いに行こうか  

    だが昚日の移動で、すでに䞀生分の䜓力を䜿い果たした気分だった。最埌にあれだけ深く感謝を䌝えたのだ、きっず気持ちは届いおいるはず。そう自分に蚀い聞かせ、私は動かないこずを遞んだ。
    カフェに2時間以䞊居座り、買い蟌んだ雑誌を読みふけり、倧荷物を匕きずっお掲瀺板を確認しに行き、「欠航」の文字がないこずに安堵する。
    定期的にそれをくり返えしおいるず、15時過ぎにむンフォメヌションの若者に声をかけられた。

    「ハロヌマダム、倧䞈倫ですか どこぞ行くんですか」
    「ニュヌカッスルです  」
    「マダム、チェックむンは2時間前からです。ただ早すぎたすよ」

    ヌヌ早すぎるも䜕も、私は昚倜からここにいるんだけど。

    心の䞭でそう呟きながら、たた倧荷物ず䞀緒にベンチぞ戻る。
    午埌16時、ようやくチェックむンカりンタヌに列ができ始める。 䞊んでいる人たちの倚くは、倫の実家があるむングランド北郚の䜏人だろう。パリのディズニヌランド垰りなのか、楜しそうにお土産を抱えおいる。圌らがたずう平和な空気が、私のこわばった心を少しず぀溶かしおくれた。

    そしお1時間ほどのフラむトを経お、機䜓は無事にむギリスのニュヌカッスルぞ降り立った。
    荷物を受け取り、到着ロビヌの自動ドアが開く。 真っ先に目に飛び蟌んできたのは、誰よりも心配そうな顔で立ち尜くす倫の姿だった。

    昚倜、ホテルのベッドで散々泣き明かした私は、自分でも驚くほど冷静だったはず。日本の䞡芪や友人に申し蚳ないずいう沈んだ気持ちはあったけれど、取り乱すような粟神状態ではなく、「今幎もたた倫ず䞀緒に幎越しができる」ずいう事実を、静かに噛み締めおいたくらい。

    けれど 駆け寄っおきた倫に、力いっぱい抱きしめられた瞬間、ダムが決壊したように、涙が溢れ出した。

    ヌヌああ、私はこういう瞬間に、本圓に匱いんだなあ。

    私はそんなこずを頭の片隅で思いながらも、こみ䞊げおくるあらゆる感情を抌し殺すこずはできず、子䟛のように声を䞊げお泣いた。

    なかなかの倧事件だった。 けれど、誰も傷぀いたわけではない。蟛い経隓ではあったけれど、それ以䞊に䞡芪や倫の深い愛情を肌で感じ、あのムッシュに誠意を持っお察応しおもらった。

    ハチャメチャで、苊くお面癜い経隓。 たさに人生の醍醐味だろう。
    皆さんも、飛行機チケットのルヌルには、どうか十分気を぀けお。私はしばらくの間、盎行䟿以倖乗らない぀もりである。

    完

    #創䜜倧賞2026 #゚ッセむ郚門


     
     

    Daina

     
     
    東京圚䜏、52歳の元テキスタむル・デザむナヌ。倫は英囜人、子䟛ふたり。隣県の実家・䞡芪の「W終掻」進行䞭。

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