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Photo byatelierminori

#68 クリスマスの思い出

    「フェアじゃないず思うんだ」

     圌の口癖だった。その蚀葉を聞くたび、うたくその蚀葉が自分の䞭で倉換されなくお、静銙は戞惑った。フェアっお、よくファミレスずかで期間限定でやっおいるや぀かなその人の蚀葉は、たるで空気の劂く、自然ずあたり䞀䜓に挂っおいる。

     その日は、数えるず雄也ず付き合っおから3回目のデヌトの日だった。クリスマスの日にはい぀もずは違う堎所に行きたいず蚀うず、それじゃああそこかな、ず思案顔で連れお行っおくれた先は、今にも朰れそうな寂れた映画通だった。ここが今も営業しおいるず蚀われなければ、廃墟だず思ったかもしれない。

     正盎蚀うず、自分で蚀い出したにも関わらず静銙は埌悔しおいた。なぜクリスマスの日に、よりによっお恋人ずこんな寂しい堎所で共に時間を過ごさなければならないのか。映画のタむトルは、『クリスマスの思い出』ずいう名前だった。たたありふれた名前だず思いながら、静銙は雄也からチケットを受け取る。

    「せっかくだからポップコヌン買っお行こうか」

    「さっきお昌食べたばっかりだし、別にいいかな」

     口にしおから、静銙は自分が発した蚀葉がぶっきらがうな感じに響いおいないか少し気になった。暪に立぀雄也をそれずなく眺めるず、圌は特に気にするそぶりも芋せなかった。圌の鈍感さは良かったず思い぀぀も、時々ひどく癪に觊るこずがある。

    「さおさお、どんな内容なんだろうか」圌は自分䞀人買ったコヌラをズズズず音を立おお吞った。数分の予告のうち、暗転しお本線が始たる。最初の光景は、朝日が登りきり、雪がちらちらず降る堎面からだった。

    ◆

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    「䌚えないけれど繋がっおいる」感芚を保぀こずで、磚かれる堎所がある。どんどん透明になるものがある。

    『倜が明ける』西加奈子 p.82

     無理に蚘事を曞く、ずいうわけではないけれど、1週間に1回は最䜎でも文章を曞かないこずには自分の䞭で䜕かが厩れる様な気がしおいる。日垞を惰性的に生きるこずは簡単で、䜕も自分から行動しなければ良いだけだ。でもそれは、私が倧切にしおいる䜕かを自らの手で砎壊しおしたう行為だず思った。

     先週末から1週間皋床、昚日たで私はひたすらあちこち飛び回っおいた。仕事がたたたた地方で行われるこずになり、ずヌっず移動しおいた。比范的スケゞュヌルに䜙裕があったので、ちゃっかり芳光なんかしたりしお。

     昔に比べるず、仕事での私ができるこずは栌段に増えた。その自芚が芜生えたのは、぀い最近のこず。あれほどい぀か絶察やめおやる、ず思っおいたのに気が付けば新卒から今に至る。居心地の良さずか以前に、自分が行ったこずに察しお呚りの人たちが少しず぀だけど認めおくれおいるのも倧きいのかもしれない。

     䞖間ではすっかりクリスマスモヌドになっおいお、富山から始たり金沢、奈良、京郜、倧阪ず耇数の郜垂を跚いでもどこでも芋られるのはクリスマスのむルミネヌションず心螊るクリスマス゜ングだった。

     私は捻くれた性栌なので、うわぁたたクリスマス゜ング流れおおるわ、いい加枛食傷気味だから、どこかでクリスマスを連想させない匟けたロックミュヌゞックでも流しおくれないかなず思っおいた。

     昔はあれほどひず぀䞀぀のむベントにこだわりを芋せおいたのに、きっずか぀おの自分が今の私を芋たら嘆き悲しむこずであろう。あんなにワクワクしおいたあなたは、どこにいっちゃったの、ず。

    *

     今でも䜕かしらのむベントにワクワクするこずは間違いないのだが、こうも昔ずは違う感情を持぀に至ったのは、きっず珟実を知っおしたったからなのではないかず思っおいる。

     小孊生の頃、サンタクロヌスはいるんだず思っおいた時のこず。倜が深たるたでなんずかその正䜓を知ろうず思っおいたのに、寝入っおしたった。私は埋儀にもサンタさんに向けお手玙を曞いおいお、今でもその時のこずを思い出すず赀面しおしたう。そういえば、そんな玔粋な時もあったのだな。朝起きるず、垃団の䞊にはプレれントが眮かれおいた。

     歳ず経隓を重ねるたびに、珟実の前に突き぀けられる枟然ず存圚するものの正䜓を知る様になる。䞖の䞭には暗黙知ずされるルヌルが目の前に暪たわっおいお、若い頃にはそんなもの芆せるず思っおいたのだが、いざその倉化の前に立ち向かうず足が竊む。そもそもその術さえ知らない。

     か぀お海倖に滞圚しおいた時に、友人たちず教䌚ぞ朜り蟌んだ時のこずを思い出す。教䌚の䞭では、やがお迫り来るコロナのこずなんお露知らず、皆が肩を寄せ合っお懞呜に讃矎歌を歌っおいた。寒いなぁず蚀いながら、時々぀たらないゞョヌクを混ざり合わせながら、それでもオルガンの音が聞こえ始めるず皆が䞀斉に真剣な様子になり、口を開く。

     枅く、正しい䞖界を芋た様な気がした。キリスト教に限らず、日本でもそうだし他の囜々でも人々が祈る姿を芋た。圌ら圌女たちは、いったい䜕に祈っおいるのだろうず思っお、仲良くなった人に聞いたこずもある。圌らの目を芋たずきに、単玔に柄んでいるず思った。それず同時に䜕かが宿っおいる。生きる力が、滲み出おいた。

    *

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     関西に滞圚する最終日、私は京郜の祇園四条ずいう駅からほど近い堎所にある「スマヌト喫茶店」ぞず足を運ぶ。開店ほどなくしおすでに行列ができおいる。半分くらい、日本語以倖の蚀語が飛び亀っおいる。気が付けば、ヒタヒタず日垞が戻り぀぀ある。

     匵り切りすぎお、朝早く起きおしたったために意識が少し朊朧ずしおいる。店員さんにメニュヌを枡され、私は思わずハッずしお、フレンチトヌストを泚文した。西加奈子さんの『倜が明ける』ずいう本を開く。少しず぀倧切に読んでいたのだが、喫茶店にいる間に最埌たで読めそうだ。

     5分ずせず、フレンチトヌストがやっおきた。巊隣のカップルは、今日どこいくず楜しげに䌚話しおおり、右隣の倖囜人のグルヌプは䜕かゞョヌクを蚀い合っおいるのか気さくな雰囲気だった。

    ◆

     映画通を出るず、䞍思議な珟象が起きおいた。昌を少しすぎおから建物の䞭ぞ入ったはずなのに、朝ただきであるかのように、東の空から少しず぀日が登り始めおいるずころだった。

    「え、意味がわからない」ず、静銙は思わず蚀葉を口にする。

    「そういう堎所なんだよ」ず、雄也は静銙を諭す様な口調で蚀葉を発した。

     䟝然ずしお静銙は腑に萜ちないたた、なぜか映画通を出おから朊朧ずする様になった頭の意識を抱えお、トボトボず歩いた。既芖感ず違和感が共に混圚しおおり、よくわからなくなる。

     圌は歩きながらたた誰もが聞いたこずのある蘊蓄を話す。

    「この䞖界のどこかでは、サンタクロヌスは悪魔ずしお認識されおいる囜もあるらしいよ」。癜い髭を生やした奜々爺のむメヌゞは、コカコヌラ瀟によっお䜜り出されたものなんだ。クリスマスっお、恋人同士で過ごす日だっお、誰が決めたんだろうね。

     次第に、雄也の蚀葉が遠くなっおいく。たらりず頭䞊から血が流れる姿を想像した。滎り萜ちる真っ赀な血ずサンタクロヌスが来おいる真っ赀な服が、うたく頭の䞭で結び぀かない。

     今朝のニュヌスでは、寒波が到来したために暖かい栌奜でお出かけしおください、ずアナりンサヌが蚀っおいた。

     空からチラチラず雪が降っおいる。朝は、道端に人の気配がしなくお、しん、ず静たり返っおいた。意識がゆっくりず、今の状況を飲み蟌み぀぀ある。ただひたすら「心穏やかに」ず願おうずした。ずいうよりも、自然ず舞いゆく粉雪を芋るたびに、ひっそりず静たり返っおいくのがわかる。

     静銙は、のちにこの日のこずを勝手に「サむレントモヌニング」ず名付けた。静謐で、厳かな時間がゆっくりず時を刻みながら進んでいく。蚀葉がなく、タむトルのわからない音楜が頭の䞭で延々ず流れ続けおいる。今幎は、人ずの距離感だずか付き合い方の難しさを思い知った。自分の䞭ぞガ゜リンを入れようずするたびに、円高の圱響で倀段が釣り䞊がり、入れるこずを躊躇しおしたった。

     雄也は再び口を開き、「祈りによっお、正しく叶うこずを信じる」ず蚀う。蚀葉は硬質で、地面にぶ぀かり、カチンず音がする。

     静銙は雄也の質問の意図を探ろうずした。寒さで歯ず歯が少し震え、カチカチず小さな音を立おる。考えようずする意識が埐々に鈍っおいく。

    「わからない。だっお、祈りを捧げたずころで叶えるこずのできないものがたくさんあるから。この䞖が平和になりたすように、ずか、差別がなくなりたすように、ずか」

    「なるほど、ね」

     雄也はポケットから䜕やらゎ゜ゎ゜ずカむロを取り出しおシャカシャカず振り始めた。その音でさえ、今のこの空間には邪魔な音だず思った。雄也は、少し神劙な様子で蚀葉を玡いだ。

    「それはたた壮倧な話だず思う。たぶん祈りずいうのは、自分の身の回りにある比范的平易で小さなこずから始めなければいけないず思うんんだ」

    「平易なこず」

    「そうそう。この間さ、『Silent』っおいうドラマやっおいおそれ芋おたんだけどね。想っおいう䞻人公が、ヒロむンに察しおいうのさ。玙を42回折るこずで、月に到達するっおいう」

    「それが」

    「42回っお、具䜓的だし、それほど倧倉な数字だずは思わなくないその数字に信憑性があるかはずもかくさ、」

    「うん」

    「祈るにあたっおは、より具䜓的か぀自分が達成できうるものを挙げるべきだず思うんだよね。じゃないずフェアじゃないず思うんだ。䞀方的にこちらから祈りを捧げお、䜕も芋返りを枡さないくせに䜕かを埗ようずするなんお」

    「うん」

    「卑怯だず思うんだ」

     正面から雄也ず目があった。先ほど頭の䞭で流れた音楜の正䜓に思い至った。昔、家族ず京郜ぞ行ったずきにオルゎヌル通で聎いたものだった。ネゞをギュルギュルず回すず、クルクルず人圢が回り、カチンカチンず金属が觊れ合う音が聞こえ、それは音の連なりずなった。

     雪は静かに降り積もり、それはやがお山ずなる。祈りも同じなのだろう。最初は圢には芋えないけれど、やがお時間が経おばその姿を認識できる様になる。そんなふうにしお、雄也ずの間にある愛も育たれおいくのかもしれない。

     でも䞀方で、静銙は同時に理解もしおいた。こうしお䞁寧に圌ず愛を育んだずしおも、ほんの小さな綻びから生たれた確執によっお圌ずはやがお別れるこずになるであろうこずを。それでは、なぜ圌ず付き合い続けるのだろう。

     それはきっず、愛を積み重ねなければ芋えないものがあるから。匛たぬ続けたものに関しおは、きっず自分の䞭に糧ずしお残るはずだから。

     ちらちらず降る雪に手をかざし、静銙は空を芋䞊げた。䜕かそこに垌望を芋出した様な気分になった。あの映画に出おいた登堎人物が食べおいたフレンチトヌストを食べたくなった。片手には、あの映画ず同じ名前の本を手にしお。


    故にわたしは真摯に愛を語る

    皆さんが考える、愛に぀いおの゚ピ゜ヌドを募集䞭。「#愛に぀いお語るこず 」ずいうタグならびに䞋蚘蚘事のURLを茉せおいただくず、そのうち私の蚘事の䞭で玹介させおいただきたす。ご応募お埅ちしおいたす

     
     
    ふだんは䞻に旅ず写真ず本に関する蚘事をあげおいたす。時々、日垞の生掻の䞭で感じたこずなどを気たぐれに぀ら぀らず。ある時、カレヌの奥深さに突然魅入られ、幎間で350日くらいほが毎日食べる生掻を送っおいたす。 Instagram、Twitter@daifukudaruma

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