
エッセイ|何もない時間は、意外と難しい
家に帰ってご飯もお風呂も歯磨きも済ませたら
自分の時間が始まる
寝る準備万端で
白いシーリングライトを消し
オレンジ色の間接照明をつけ
ロッキングチェアに腰掛けたら
夜の読書が始まる
気持ちに余裕がある夜は
カフェインレスのコーン茶やそば茶やローズヒップを淹れる
優しい香りと芳ばしい味が
一緒に夜を過ごしてくれる
哲学者が幸福を問う夜
被疑者が無罪を主張する夜
老人が海に繰り出す夜
いろんな夜に出会うことができる
読書がひと段落したらマッチを擦り
アロマキャンドルに火を灯す
ウッディの香りと小さく揺れる火が
部屋をゆっくり満たしていく
お茶が
本が
キャンドルが
私をこの夜に引き留めてくれる
それなのに
ふとした瞬間にスマホの画面が頭をよぎる
着信音もバイブレーションもオフにしたはずなのに
カップを置いた瞬間に
文が3行空いた瞬間に
火が大きく揺らいだ瞬間に
通知音が聞こえた気がした
わざわざ画面を下に向けて置いたのに
気づけば、スマホを手に取っている
結局ホーム画面を眺めても
日付と時間とシクラメンの画像だけが
青白く光ってる