Overwrite save上書き保存していきましょ〜
学校を陰ながら支える“用務員さん”の咲。彼女の日常
(あらすじ)
転職して中学校に勤務の用務員の咲(さき)。30代で子育て中。中学校では多感な年頃の生徒たちを見守りながら仕事をしている。咲は忘れていた昔の記憶がふと蘇って生徒の姿と自分の子供の頃の姿と重なる。コンプレックスがあることで悩んだこと、学校生活が苦手で私生活も辛かった頃の気持ちを思い出すと苦しくなるが、子供たちと接することで共感していき心を整理して苦しい思い出を楽しい気持ちの上書き保存で重ねていく。そのことによって前向きに生きていく物語
➖➖➖
ある秋の日差しが穏やかな日、咲はハローワークで求人情報をチェックしていた。5年間お世話になったパートを退職し、今は仕事を探している。肩までの黒髪で普通の主婦である。
(退職して4ヶ月すぎてしまった。毎回求人情報を見てもあまり変わりばえなくて選択肢がちょっとこれじゃないっていうか。焦っても仕方がないけど。はぁ...良い仕事見つからないかな...例えば、特別な資格がいらなくて、できたら残業なくて、休日出勤なくて、やり残した仕事を家に持ち帰ることがなくて、美味しい食堂があるところで、ホワイト企業で、制服はダサくなくて、通勤が30分以内で、趣味の絵を描く事が活かせたりなんて...。そんな仕事ないよねー)
「ん?」咲はふと求人情報の新着の欄に目が止まった。
「んんんー...!これかもしれない!」表情がパッと明るくなった。特別なスキルは必要なさそうである。
学校の用務員さん。咲は求人票の詳細に目を通す。“仕事内容は学校による”?とは?なんともぼんやりとした仕事内容しか記載がない。咲は想像力を働かせて、「学校の用務員」の仕事のイメージを浮かべる。
・作業着を着た男性
・校門の前で竹箒で掃除してる
・校庭のゴミを拾ってゴミ袋を運んでいる
・蛍光灯を替えてる
・何か修繕してる
・生徒が回収して来たゴミを焼却炉で燃やす(咲の頃は敷地内の焼却炉であれこれを燃やしていた記憶)
・用務員室があってそこに畳の部屋があったような⁇
...学校の用務員さんのイメージが乏しくて内心自分にガッカリした。絶対仕事はこれだけではないはず。でも、ハローワークに数ヶ月通ってようやく見つかった仕事なんだから、これは最初で最後のチャンスかも。
咲は窓口に意を決して向かう。「こちらのお仕事に決めようと思います!」
とんとん拍子で受付の手続きと説明が進み、後日履歴書送付、面接を終えて、無事に採用。そしてあっという間に3月。もう少しで桜の季節になる頃、買い物に出掛けようとした咲に一本の電話がかかってきた。
「勤務先はフクロウの里中学校に決まりました。近々フクロウの里中学校から連絡があります。校長先生との面談と前任者から業務内容の詳細など引き継ぎがありますので日時を確認してください。」とのことだった。
専業主婦が嫌いではない。でも咲には長く感じられた専業主婦がやっと終わる。採用が決まり、夫と小学生の長男に報告をしたらお祝いまでしてくれた。きっとうまくいくはず。期待と不安で複雑な気持ちになる。
そして言われた日時に学校へ向かうことになった。
➖➖➖
3月の下旬。初めて向かうフクロウの里中学校は街中から少し離れたのどかな場所にあった。
緊張して昨晩はいつもより眠れなかった。唐突に中学生時代に担任の先生たちに迷惑かけたこと、その場面が蘇ったからだ。20年くらい前の事を昨晩、急に。
愛車のナビを頼りに向かう途中に川が見えてくる。水が澄んでいる。
「次は橋を渡って、郵便局があって、スーパーがあって...信号を右でそこから山の方角まで直進...。通勤、すぐ慣れますように。」不慣れな道を進んで到着。中学校は古い建物ではあるがとても綺麗な校舎だった。庭の花壇も手入れがしてあってパンジーが色とりどりに咲いている。
フクロウの里中学校の用務員の女性が手を振って出迎えてくれた。少し年上のショートヘアで薄いメイクの用務員さん。とてもお世話好きそうな女性に見える。
「初めまして〜。私は泉です。あなた、この中学校が1校目なのね?最初は大変だけど、すぐに慣れるから大丈夫よ。」「まずは校長室に行って。校長先生がいらっしゃるのでご挨拶をしてきてください。」
校舎に入って校長室の前まで案内される。
春休み中で生徒はいないらしい。校舎は静かかと思いきや、ガヤガヤ先生たちの話し声が聞こえたり廊下にはダンボール。忙しそうである。ちょっと怖気付く咲。(転入、転出の先生方が来ていて、片付けや引き継ぎ、諸々の作業中だと後から知った。)
校長室に入るなんて中学生のとき以来だわと、ふと思い出す咲。(←中学生の咲は少し、はみ出した行動をしていた時期があった。そのときに校長室に呼び出されて...)
何かゾワゾワする事を思い出しそうになったがスッと切り替わる。深呼吸して校長室のドアをノックをする。
コンコンコン
「どうぞ〜。」優しそうな校長先生の声がした。
ガチャ
「は、初めまして。用務員の川上咲と申します。よろしくお願いします!」(緊張するー!校長先生、優しそうな方ぽい。うわー校長室、広ー。なんかお高そうな絵と花が飾ってある。歴代の校長先生の写真も並んでるー!!なんか場違いなところに来てしまった気がするー!)
「どうぞ、かけてください。校長の丸山です。新年度からよろしくお願いします。転職されて本校が一校目だそうですね。この学校は生徒数が300人程で、規模としては...」優しい口調の校長先生だ。
ただ咲は昔から緊張するタイプで、早速校長先生から、緊張しなくても大丈夫ですよ、と笑って言われるほどだった。
➖➖➖
挨拶が済み、次は先程の用務員の泉さんと業務内容の確認が始まる。
「ちょっとー、顔色悪くなってない?大丈夫だからぁ!」と笑いながら女性に肩をバシッとはたかれる。
「あたた...。」思わずよろける咲。少し笑顔が戻る。
「用務員室がここ。どうぞ、中に入って。」小さな部屋にテーブルと椅子がある。掃除機、棚には工具、ロッカーが二つ。
「掃除道具はここね。レイアウトとか、私が来たときはこうじゃなかったのよ。使いやすく机とか移動させても良いから。どうぞ、座って。コーヒーあるよ。」
小さな冷蔵庫があって缶コーヒーを手渡された。
(キンキンに冷えた缶コーヒー。まだ外は寒いし飲むならホットがいい。若干冷え性の咲だが、ありがたくいただいた。)
冷たいコーヒーが喉を伝って胃に届いた。体を芯から冷やしていく。咲はポケットにカイロを忍ばせてきて良かったと思った。
「あの〜。」咲が泉に聞いた。
泉がニッコリ微笑む。「はいはい。」
「棚には、工具がいろいろありますけど、私はあまり修理とかした事がないです。」と不安そうに言う。
「平気、平気、今どきはネットで検索すれば調べられるし、簡単な作業が多かったよ。それにやってるうちに身につくよ。」
「そういうものでしょうか?」
「そうそう、経験の積み重ね。順番にあちこち作業できるようになるよ!大変な作業のときは教頭先生に相談してください。」泉さんは明るく話す。
泉のアドバイスを聞いても楽観的になれないところが、咲の性格で、本人も自覚している。不安要素その1(工具を使う作業)ができた。
お構いなしで泉さんは業務内容をどんどん話していく。「まず、出勤は7:30で、職員玄関のポストの新聞を職員室に置く。ゴミを回収して、...。校長室の...。」初めての仕事なので当然だが覚えることが多くて業務内容が頭に入りきらない。ノートにメモをするがどんどん埋まっていく。
ガラッ!
突然用務員室の引き戸が開いたと思ったら小柄の年配の女性が入ってきた。茶髪で吊り上がった眉毛に睨むかのような表情。一瞬で張り詰めた空気になった。
泉さんがすぐ立ち上がって挨拶する。「お疲れ様です。先生、こちら新しい用務員の川上咲さんです。」と泉さんが言う。
「初めまして。川上咲です。よろしくお願いします。」咲も習って丁寧にお辞儀する
「あー、ふーん。よろしくお願いします。」
「泉さん、悪いけど、図書館に廃棄の本ができてるから倉庫まで運んどいて。カウンターに乗ってるから。」
要件だけ伝えて咲のことはあまり関心がない様子で、泉さんの返事を待たず勢いよくバンッと戸を閉めていってしまった。
(え?...怖い人かな⁇)咲が戸惑いを隠せずまんまるの目で泉とアイコンタクトをしようとした瞬間、再び部屋の戸が勢いよく開いた。ガラッバン!
「キャッ!」驚いて思わず咲は声が出た。
泉も体がビクッとなっていた。
だが落ち着いて毅然とした態度で「どうされましたか?」と小柄の先生に声を掛けた。
「...そこのあなた...爪、そんなんじゃダメだから、気をつけて下さい...」威圧感たっぷりに咲の指先を見ながら静かに言う。
(えええ、何かした?もしかするとこのネイルのことかな?)咲の指先はシンプルなカラーのネイルが施してある。目立たないはずなのに?と咲は思った。
「ネ、ネイルが、ですか?」咲が言い終わったかどうかのタイミングで泉がこれ以上は、と言う感じで遮った。
「あら。先生、よくお気づきになられて。咲さん、綺麗なネイルだけど、勤務のときは落としてきてね〜。」このピリピリする空気を出来るだけ和ませようと明るくやんわりと言った。
小柄な先生はフンッと鼻を鳴らしてそのまま、戸を閉めずに今度こそ行ってしまった。
(いや、閉めんのかい!)
咲が席を立ってひかえめに廊下をキョロキョロして姿がないのを確認してから引き戸を閉めた。
「ネイルはダメなのよ〜、ここは。ごめんなさいね。」とだけ泉さんが何事もなかったかのように言った。
怖すぎて咲は何も聞けず、「わ、わかりました。」とだけ返事をした。あの先生は誰なん?何?いつもそんな感じ?
不安要素その2(威圧感たっぷりの人と仕事をする)ができた。
「それで、どこまで引き継ぎの話をしたかしら?」泉さんは一切触れない。咲も気まづくて、聞けない。察するにこれ以上は聞けない。コーヒーの冷たさがどんどん体を冷やしていく。
➖➖➖
咲は1日がとても長く感じた。
次は学校の軽トラックの助手席に乗せられている。ミッション車でたまにウーンと唸る。
泉さんとドライブ...ではなくて、外回りの仕事もあるということで、頼まれた物を買うお店、銀行、ゴミ捨て場所、などを教えてもらう。川の横を走る。
「川が綺麗〜!」咲が助手席から言う。軽トラックだから少し眺めが良い。
「この辺も覚えてて。もう少しすると下に降りられる階段が見えてくるんだけど、その辺にうちの学校の生徒がいるときがあるから。」
「え?どういう事ですか?生徒さんが?」咲は、なんのことやら意味がわからない。
「何もなかったら、それに越したことはないから。」と泉さんはそれだけだった。だが、心配するような表情も意味深で心に残った。
荷台の大型ゴミを引き取ってもらい帰る途中、少しスピードが遅くなる。
「どうしてゆっくり走るんですか?」咲が聞くと「あの大きな家、赤い屋根の。さっきの先生の家。」泉さんが言うのでなんとなく車窓から眺める。塀があって見えないが大きな木が生えている。オシャレな赤い屋根。庭がなかなか広い感じがする。まもなく通り過ぎて見えなくなった。
「あぁ...」(あーしまった、曖昧な返事をしてしまった)先程の件を思い出してしまって咲はうまく言葉が返せなかった。俯くと自分の指先が視界に入った。ネイル、落とさなくっちゃいけないのか。知らなかったから仕方ないこと。だが注意されたのを思い出してしゅんとする。
初日でこうである。(でも、厳密に言えば4月1日からが年度初めで、スタートなので今日まだ3月下旬で、違う。ただの引き継ぎに来ただけ。それはそれだけど、どうしてわざわざ人の自宅を教えてくれるんだろ?)
信号に入って車が停車する。この辺りで泉さんの声が聞こえて咲はハッとした。
「それで、職員室入ってすぐの席は事務さんなんだけどね。でね、そのとき...」大事な話をもしかしたら聞き逃していたかもと内心焦ったが、ただの雑談っぽい。泉さんは自分の話のオチで大袈裟に笑う。和ませてくれてるかもしれない。お喋りが好きな人って周りが明るくなって素敵だ。信号が青に変わりスムーズに発進。ガコッ、ガコッとギアチェンジする。
「泉さんはフク中勤務は何年だったんですか?」と咲が聞いた。
「私は5年。いろいろあったけど楽しかったよ。」
「そんなベテランの方から私に代わっちゃって、しばらくご迷惑掛かるけど本当に良いんでしょうか?」
「そんなの、みんな始めはそう言うものでしょ?大丈夫よぉ!何かあったら連絡してくれて良いから!気にしないで。一つ言えるのは、やる気と体力はあった方がいいよ!」泉さんがニッコリ笑う。
「頑張ります。」咲も腕をポンポンして頑張るという顔をしてみた。
そのあとも泉さんの引き継ぎとお喋りは続いた。
➖➖➖
最後は校舎の要注意ポイントなど聞き、咲は忘れないようにメモを取った。
ちょうど職員玄関から誰かが出てきたのが見えた。
「お疲れ様です。あ、次にお世話になる用務員の方ですか?」スーツ姿、靴ピッカピカでスラッとした男性。所作がジェントルマン。
「はい。川上咲です。4月からお世話になります。よろしくお願いします。」と挨拶すると、相手の男性もニッコリして
「井上です。こちらこそよろしくお願いします。」と簡単に挨拶をして車で出掛けてしまった。落ち着いた人だけど忙しい人なのだと咲は思った。
「あの先生は教頭先生。」「40代後半なんですって。芸能人に似てるでしょ!」と泉が言う。
「教頭先生でしたか。明るくて...爽やかそうな方でした。」「芸能人だとあの人です、名前が思い出せません。誰でしたっけ、『夢の花』のドラマに出てた女優さんの旦那さんに似てるかもしれません。」と咲が言う。
「名前が出てこないけど、そうそう、その人、その人〜。名前が思い出せないね。」泉と咲は笑い合うくらい打ち解けてきた。
一通り、引き継ぎも終わり、咲は帰る時間になった。ノートに書いたメモは思ってた3倍くらいの枚数に及んだ。
「ふー。これなら安心して任せられる。咲さんなら大丈夫。」と泉さんから太鼓判をもらった。
咲はそんな風に言ってもらえて、少しホッとした。校長先生にまたご挨拶して、帰りにもまた泉さんからキンキンに冷えた缶コーヒーを手渡される。今日は泉さんとあちこち歩いて話を聞いていたので体もポカポカしてきて最後は缶コーヒーの冷たさもちょうど良いと思えた。咲は泉さんにお礼を言って車に乗る。ドリンクホルダーに缶コーヒーを置いてエンジンをかける。
「頑張ってね!」と最後にまた励ましてくれて泉さんは咲の車が見えなくなるまで手を振ってくれた。
この冷たすぎるコーヒーの味はビターで、この先、ずっと思い出の味になっていく。
➖➖➖
咲は自宅の玄関の鍵を開ける。帰ってきたらどっと疲れが押し寄せてくるが気付かないふりをして、家事を順番に片付けていく。
ガチャ
しばらくすると小学生の息子が帰宅。ドアの音がした。
「ただいまー!」息子の声が聞こえた。
「ふみくん、おかえりー。」
「お母さん、仕事終わったの?」
「そうだよ。お仕事してきたの。」
「ふーん。」「どんな仕事?」息子がランドセルをおろして手を洗っている。
「うーん、簡単に言うと学校で掃除とかする仕事だよ。」
「そうなんだ。」こちらを見てニッコリ笑っている。
「おやつは冷蔵庫に入ってるからね。よーし、お母さんはお父さんが帰ってくる前に夕飯作るぞ!」
咲も息子を見てニッコリ笑った。
➖➖➖
4月。今日が初出勤となる。初日の今日は顔合わせがメインということでスーツを着ていけば良いらしい。
咲の性格上、待ち合わせ時間の20分前に待ち合わせの場所にいることが多い。今日は20分前に職員駐車場に着いた。
しばらくするとチラホラ車が駐車場に入ってくる。その先生たちを見て、そのときは「一緒に働く《仲間》」なんだと咲は感覚的にそう思っていた。
時間より少し早いが居てもたってもいられず校長室をノックした。中には男女3人、自分以外の人も集められている。どういうカテゴリーだろうか。事情が全くわからない。異業種の最初はいつもそうである。特に教育関係なんて咲からしたら未知の世界だから。
校長先生に促されてソファーに座る。向かいの男性が隣の男性と談笑している。知り合いではないのに会話が弾んでいる。たまに咲の隣の女性も会話に加わった。目が大きくてお嬢様結びをしたロングヘアの女性。咲は頷いて一緒に聞いています、みたいな体を装っているが、緊張のあまり内容はあまり聞いていない。しかも久しぶりに着たスーツのウエストがキツい。数分後、また男性が入ってきた。若さもあるのかめっちゃ挨拶の声がデカい。元気な人だ。会話の内容からすると、転入してきた先生たちがこの校長室に集められている様子。ということは、今年度は咲を含めて5人が新しく加わるということになる。そして唐突に咲はあることに気づいてハッとした。先生の集団とはすなわち、陽キャの集団!子供の頃は生徒会長とかやっていそうな人ばかりのはず。対して生徒会とは無縁でどちらかと言えば陰キャに属する咲にとっては、ツラい案件。朱に交われば赤くなるということわざもあるから咲も陽キャに馴染んでいき、ゆくゆくはインキャから陽キャになれたら良いのに。...でもそんな自分は想像出来なくて想像の途中で諦めた。
時間になり校長先生に案内されて集められた5人は職員室に向かう。ドキドキしながら歩いていたら咲の前を歩いている若い男性も緊張気味でぎこちなく歩いていた。
職員室に順番に入る。温かいムード、拍手で歓迎されて咲はニッコリしている...つもり。実際には緊張でひきつった表情だったらしい。
司会の教頭先生が「1人ずつ簡単に自己紹介をお願いします。」と言う。
咲は特に考えていなかったので頭が真っ白になってしまった。簡単で良いのでと言われても戸惑う。咲は1番最後に自己紹介をすることになっている。陽キャの先生方の自己紹介は聴きやすくクスッと笑えたり、それぞれの個性が表現されたものになっていた。これがプロとの差だわと実感したところで咲の順番が回ってきた。
「用務員の川上咲です。転職してこちらの学校の勤務が決まりました。初めてのことばかりですので最初はご迷惑をお掛けすることかと思います。ご指導ご鞭撻よろしくお願いします。」別に面白いことも言えないので短く伝えた。パチパチパチ。隣の女性の先生が話しかけてくれた。「用務員さんだったんですね、よろしくお願いします。」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。」咲はなんとなく直感でこの人とは仲良く出来そうな気がした。
そういえば、子供の頃、自己紹介で何を話したら良いのか分からず説明が下手で余計な事をたくさん話してたけど、シンプルで良かったかもしれない。今更だけど。
咲はこの学校で4年間過ごす。その4年で子供の頃大人に頼れずに過ごしてきた過去のこと、大人に言い出せなかった当時の気持ちを、咲に似た境遇の生徒を通して理解して一歩ずつ乗り越えていくのであった。