
父と夏ご飯
あつい暑い夏の昼。
「おーい、庭のシソ取って来いや」
トントンと胡瓜を輪切りにしながら
父が大きな声で私に言う。
父の隣で母がすり鉢でゴマを擦っている。
その胡瓜とシソとゴマを味噌であえて
出汁と氷水で延ばしたら、
「おはなさんの冷や汁」完成だ。
暑さで食欲が落ちても
さらさらかっこめる夏ご飯だ。
おはな婆ちゃんは父の母。
父にとってのお袋の味だったんだろうな。
教員の父は、夏休みの昼ごはんは家で食べる事が多かった。
「おはなさんの冷や汁」は、夏の昼の定番だった。
父亡き今も夏になるとお昼ご飯の定番だ。
これをかっこむときは、
テーブルのあっちに父が居るような気がする。
首にタオルを巻いた父が。
8月の15日は「すいとん」。
昭和一桁の父が、絶対に忘れてはならないと言った、あの第二次世界大戦が終わった日。
「戦争は終わったけど、あの時期の
あの食料難は、忘れちゃあなんねーんだ」
毎年繰り返し、父は言った。
同じ台詞を聴きながら、8月15日は、
汗を拭き拭き、薄い小麦粉の塊が少しだけ浮いている「すいとん」を食べた。
その日は1日お腹が空いたままだった。
夏になると思い出す、父と食べた
夏ご飯。
父の思いが、今になってしみてくる。