
05 船旅の時差
現在の日本との時差は12時間。ちょうど半分まで来た、ということになります。
船旅では、時差ボケなしで海外の街を訪ねることができます。しかし、時間はどのように合わせるのか。飛行機の旅なら、空港でWi-FiやSIMにつなげば、スマートフォンは自動的に現地時間へ切り替わります。では、船ではどうするのか。
船の中は、小さな村のようなものです。村には共通の時計が必要です。ラジオ体操は何時に始まるのか、レストランはいつオープンするのかなど、基準となる時間がなければ、生活が成り立ちません。時差ボケがないからといって、時間そのものがなくなるわけではないのです。
では、どうするのか。
手品の種を明かされると、その平凡さにいつもがっかりさせられたものですが、この場合も同様です。ある日、船内の時計を一斉に進める。これを「時差調整」といいます。
時差調整日には、「就寝前に1時間、時計を進めてください」という案内が出ます。船内新聞だけでなく、レストランのテーブルにも名刺サイズの案内が置かれる。乗客はそれに従って、それぞれの時計を1時間進めます。スマートフォンも手動で調整します。

さて、すると何が起こるか。
翌朝は、1時間早くなります。6時に起きたつもりでも、身体はまだ5時の状態ということになる。村中がこの時間で動いているので、自分だけ昨日までの時間で暮らそうとすると、ラジオ体操にも間に合わず、朝食にもありつけないことになります。
ところで、時計を1時間進めるということは、その日は23時間しかないということになります。言い換えると、1時間損したような気分になる。さてこの差をどうするか。
時差調整は1回だけではありません。今回、横浜からハワイまでは10日間の航海でしたが、この間、時差調整日は5回。つまり5時間も損をすることになる!このままだと大変なことになりそうです。
私は漠然と、「時差調整は日付変更線までだろう」と思っていました。
ところが、日付変更線を越えた途端、思いもしなかったことが起こりました。今度は1時間ではなく、「24時間戻してください」という案内が来たのです。
24時間戻すということは、昨日に戻るということ。つまり同じ日をもう一度迎える。こうして毎日1時間ずつ損をしていた分が、これでまとめて帳消しになるという寸法です。

ここまで「時差調整では時計を進める」と書いてきましたが、これは私たちのように東回り航路の場合です。西回りなら逆に、1時間ずつ時計を遅らせることになる。つまり、一日25時間という日々が続きます。
すると今度は何が起こるのか。
一日1時間ずつ多くしていたツケを、日付変更線の通過と同時にまとめて支払うことになる。で、この場合は、なんと1日そのものが消え、明後日の日付に合わせることになります。
この船の速度は時速20〜30キロほど。24時間休まず進むので、1日で500〜600キロほど移動します。進路を真東に取れば、連続して時差調整日がやって来る。

タヒチからイースター島までは7日間の航海でしたが、その間、5日連続で時差調整日がありました。
一方で、今回のようにペルーからチリ沿岸を南下し、マゼラン海峡を抜け、アルゼンチン沿岸を北上し、ブラジルに至っても、時差調整日はゼロ。この間、約3週間です。
こうして南米大陸の国々は、共通の時間を刻むことができる。南北移動という事情を差し引いても、日付変更線同様、いや、それ以上に時差の境界線は、複雑に蛇行しており、その決め方は、人為的なものなのです。(2.4:Day52)
つづきは、こちらへ。
06|洋上の食卓――ピースボートの食事
https://note.com/cute_sloth2863/n/n003cdf4f9e87
