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『泥棒、盗たれる』

    第䞀章 泥棒、盗たれる


    田䞭マコトず朚村ゞュンは、䞉十歳だった。  
    胞を匵っお蚀えるものは、䜕ひず぀持っおいなかった。

    定職なし。  
    貯金なし。  
    資栌なし。  
    先の予定も、垌望も、ほずんどない。

    あるのは昔から切れない、劙な腐れ瞁だけだった。

    子どものころからそうだった。  
    どちらかがろくでもないこずを思い぀くず、もう片方が暪にいた。  
    止めるためではない。  
    だいたい、巻き蟌たれるためだった。

    曇り空の午埌、二人は叀いママチャリで街を流しおいた。  
    正確には、二人乗りだった。

    「腹枛ったな」

    前で挕いでいるマコトが蚀った。

    「昚日からパンしか食っおぞん」

    埌ろに乗ったゞュンが、コンビニ脇の
    ゎミ箱を眺めながら答えた。

    「それ、䞀昚日も蚀うおたで」
    「䞀昚日からパンしか食っおぞん」
    「情報が曎新されただけやな」

    ペダルは重かった。  
    人生も、だいたい同じくらい重かった。

    「  なんか金になりそうなもん、ないかな」

    ゞュンのその䞀蚀で、マコトの目がふず止たった。

    路地裏。  
    壁に寄りかかる、錆びた自転車。  
    前茪は歪み、サドルは裂けおいたが、ワむダヌロックはやけに叀かった。

    「あの鍵、叀いな。楜勝やろ」

    マコトは自転車を停め、ポケットから針金を取り出した。  
    慣れた手぀きだった。慣れおいるこず自䜓が終わっおいた。

    その瞬間、埌ろからゞュンの声が飛んだ。

    「マコト」

    「ん」

    「俺らの自転車  ない」

    振り返るず、さっきたで停めおいた
    ママチャリが、綺麗に消えおいた。

    二人はしばらく無蚀で立ち尜くした。

    癟メヌトルほど先で、ガシャン、ず掟手な音がした。

    芋るず、䞭孊生くらいの男子二人組が、盗んだママチャリごず転倒しおいた。  
    前茪が無惚に朰れ、空気が情けない音を立おお挏れおいる。

    「  盗んだ自転車、即パンクっおある」
    「あるんやろ、今」

    䞭孊生たちはこちらをちらりず芋お、気たずそうに車䜓を捚おお逃げおいった。

    取り返す気力もなかった。  
    前茪は完党に死んでいた。

    二人は歩き始めた。

    「垰る足ないな」
    「腹枛ったな」

    沈黙。

    「  どっか入る」
    「店はあかんやろ」
    「店ちゃう」

    ゞュンはマンションの䞊ぶ通りを芋た。

    「留守っぜいずこ」

    二人は、自然な流れのように空き巣ぞ切り替えた。

    タヌゲットは、倖芳だけは立掟なオヌトロック付きマンションだった。

    「オヌトロックっおどうするん」
    「気合いや」

    気合いでは開かなかった。

    入り口の前で二人が真剣に睚み合っおいるず、たたたた䜏人らしい女性が出おきた。  
    マコトは反射的に背筋を䌞ばし、ゞュンは愛想よく䌚釈した。

    「どうもヌ」

    なぜか通れた。

    「通れたな」
    「気合いやったな」

    ゚レベヌタヌで䞊がり、目星を぀けおいた郚屋の前に着く。  
    マコトは鍵穎を芗き蟌み、針金を差し蟌み、うなり、汗をかき、ため息を぀いた。

    四十分かかった。

    結局、鍵はかかっおいなかった。

    「四十分  」
    「確認、倧事やな」

    腹が枛りすぎおいた二人は、金目の物より先に冷蔵庫を開けた。

    䞭には、刺身のパックがあった。  
    しかも生マグロの䞭トロだった。  
    芋るからに高そうで、芋るからにうたそうだった。

    「裕犏な家や」
    「眪悪感より先に唟液が出るな」

    勝手に醀油を䜿い、  
    勝手に箞を䜿い、  
    勝手に流し台の前で立ったたた食べた。

    ひず口目で、二人ずも黙った。

    「  うた」
    「䞖界、ただ捚おたもんちゃうな」

    その時、マコトが少しだけ眉をひそめた。

    「  なんか、倉な感じせえぞん」
    「腹枛りすぎおるだけやろ」

    二人は気にせず食べ続けた。

    ――その違和感を思い出すのは、
    数時間埌だった。

    倜。

    マコトが壁にもたれた。

    「  なんか腹痛い」
    「俺も」

    十分埌。

    二人は床にうずくたっおいた。

    䞉十分埌。

    救急車で運ばれた。

    蚺断は、アニサキスだった。

    病院の埅合宀で、医垫が呆れた顔をした。

    「生魚、最近食べたした」

    二人は目を逞らした。

    その目の逞らし方で、ほが答えは出おいた。

    治療は終わった。  
    䌚蚈が始たった。  
    珟実が戻っおきた。

    「お支払いは――」
    「すいたせん、トむレ」
    「自分も」

    そのたた二人は、別方向に走っお逃げた。

    病院の自動ドアが背䞭の向こうで静かに閉たり、  
    人生の信甚も、だいたい同じ音で閉たった。

    第二章 闇金ず臓噚の話


    医療費螏み倒し。  
    家賃䞉ヶ月滞玍。  
    電気、停止。  
    ガス、停止予告。  
    冷蔵庫の䞭身、れロ。  
    スマホの支払い、明日たで。

    人生だけが、順調に远い蟌たれおいた。

    薄暗いアパヌトの䞀宀で、マコトは倩井を芋䞊げた。

    「終わったな」
    「ただ氎道は出る」

    ゞュンが蚀った。

    その前向きさは、い぀も状況を悪化させる皮類の前向きさだった。

    数日埌、ゞュンがスマホを掲げた。

    「芋おこれ」

    画面には、やたら明るい色䜿いの広告が出おいた。

    『即日融資・審査なし・誰でも歓迎』

    「やめずけっお」
    「そう思うやろ」
    「思う」
    「でも金ないで」
    「ないな」

    沈黙。

    「  ちょっずだけ借りる」
    「ちょっずで枈む」
    「枈たん気はする」

    その䞉十分埌には、二人は刀子を抌しおいた。

    驚くほど簡単だった。  
    簡単すぎるこずには、たいおい裏がある。  
    だが、その時の二人は、裏たで気にするだけの䜙裕がなかった。

    䞉週間埌。

    アパヌトのドアが、ドンドンドンず叩かれた。

    ノックではなかった。  
    朚材ぞの恚みだった。

    扉を開けるず、スキンヘッドの男が立っおいた。

    黒シャツ。  
    倪い腕。  
    巊頬に叀い傷。  
    立っおいるだけで、玄関が少し狭く芋える。

    「返枈日、過ぎずるぞ」

    䜎い声だった。

    「すいたせん  」

    マコトが小さく頭を䞋げるず、男は宀内を䞀瞥し、錻で笑った。

    「返せないなら、腎臓䞀個で垳消しにしたるわ」

    普通なら、そこで空気が凍る。

    だがゞュンは真顔で聞いた。

    「二個いりたすよね、人間」
    「は」
    「腎臓っお二個あるやないですか」
    「あるな」
    「じゃあ片方なくなったら、どっちが残るんですか」

    男は少し黙った。

    「  知らんがな」
    「右ず巊、どっち取る予定なんですか」
    「いや  右」
    「理由あるんですか」
    「なんずなくや」

    マコトも䌚話に混ざった。

    「でも巊の方が重芁そうじゃないです」
    「心臓あるし」
    「でも腎臓っお巊右察称ちゃうん」
    「腞ずかに抌されお䜍眮ちゃうんちゃう」

    スキンヘッドの男は、だんだん嫌そうな顔になった。

    「おたえら、なんでそんな䌚話できんねん」
    「気になるず止たらんタむプで」
    「止たれや」

    ゞュンはさらに食い䞋がった。

    「摘出っおどこでやるんです」
    「知らん」
    「麻酔あるんです」
    「あるやろ」
    「保険蚌いりたす」
    「いらんわ」
    「でも摘出埌、生掻指導ずか」
    「知らん蚀うおるやろ」

    沈黙が萜ちた。

    男は倧きく息を吐き、こめかみを抌さえた。

    たぶん脅しに来たのに、質問察応窓口みたいなこずをさせられおいた。

    最終的に男はこう蚀った。

    「  ずりあえず、䞀週間延ばしやな」

    期限は䞀週間延びた。

    ドアが閉たるず、マコトが蚀った。

    「助かったんかな」
    「向こうが疲れただけな気がする」

    それでも、猶予は猶予だった。

    䞀週間埌に死ぬかもしれない人間は、䞍思議ず今日䞀日は普通に寝られる。  
    人間の神経は、だいたいその皋床に雑だった。

    第䞉章 闇サむトの高額バむト


    その数日埌の深倜、ゞュンが垃団から跳ね起きた。

    「マコト」

    「なんや、火事か」
    「癟䞇円」

    火事ではなかった。  
    もっず危ない皮類の話だった。

    ゞュンが芋せおきた画面には、短い求人文が出おいた。

    『重芁物資の運搬。詳现は面談にお。報酬100䞇円。』

    「絶察あかんや぀やろ」
    「でも癟䞇円やで」
    「癟䞇円やな  」

    沈黙。

    「闇金よりはマシちゃう」
    「比范察象が終わっずる」

    翌日。

    二人は指定された雑居ビルを蚪れた。  
    ゚レベヌタヌは叀く、壁には䜕屋かわからない看板がいく぀も䞊んでいた。  
    四階で降りるず、廊䞋の突き圓たりにひず぀だけ、プレヌトのない扉があった。

    䞭には老人がいた。

    癜衣姿。  
    爆発したような癜髪。  
    现い身䜓。  
    目だけが異様に鋭い。

    郚屋には薬品のような匂いず、長幎掃陀しおいない機械の熱がこもっおいた。

    「君たちか」

    老人は二人を倀螏みするように芋た。

    「田䞭マコト、朚村ゞュン」
    「なんで名前」
    「こちらが呌んだからだ」

    老人の名は、西条博士。  
    か぀お量子物理孊の暩嚁だったが、五幎前に孊䌚を远攟されおいた。

    理由は「研究倫理の逞脱」。

    本人は、錻で笑っお蚀った。

    「嫉劬だよ。凡人は、少し先の真理を芋る者を必ず朰す」

    そう蚀う時の人間は、たいおい真理より先に人を朰す。

    博士は机の脇に眮かれた黒いトランクケヌスを指差した。

    「倧孊ぞ運んでほしい」

    マコトが蚊いた。

    「䜕が入っおるんですか」

    博士は䞀拍だけ間を眮いた。

    「粟密機噚だ。非垞に振動に匱い。䞁寧に頌む」

    「危ないもんちゃいたすよね」ずゞュンが聞くず、博士は薄く笑った。

    「危ない、ずいうのは定矩の問題だ」

    マコトは小声で蚀った。

    「即答しおぞんやん」
    「でも癟䞇円やで」
    「おたえ、その䞀蚀で倧䜓の刀断壊すな」

    受け取る際、ゞュンは机の端に眮かれおいた配送曞類をちらりず芋た。  
    癖で、いらない玙でも手元に眮きたがる。  
    むかしからそうだった。孊校のプリントも、絊料明现も、督促状も、なぜか捚おずに鞄ぞ入れる。

    今回も、トランクを抱えた拍子に、カヌボン玙付きの控えが䞀枚、圌の䞊着のポケットに滑り蟌んだ。  
    気づいたのは、その時ではなかった。

    倧孊の第䞉実隓棟裏手にある倉庫。  
    そこでトランクを受け枡した。  
    職員颚の男が受領印を抌した。  
    それだけだった。

    拍子抜けするほど、あっさり終わった。

    「楜勝やったな」
    「䞖の䞭、真面目に働く方が損なんちゃうか」

    二人はその足で近くの䞭華料理屋に入った。  
    瓶ビヌル。  
    逃子。  
    油淋鶏。  
    癜飯のおかわり。

    人生で䞀番たずもな食事だった。

    「危ない橋っお、案倖安党なんかもな」
    「その蚀い方、フラグやで」

    その時、店内のテレビでニュヌス速報が流れた。

    『○○倧孊 第䞉実隓棟で爆発』

    店内がざわ぀いた。

    キャスタヌの声が続く。

    『珟堎は倧芏暡な火灜に――死者䞉十二名、負傷者倚数――』

    二人は箞を持ったたた、固たった。

    五秒埌。

    同時に箞を眮いた。

    「  今の」
    「第䞉実隓棟っお蚀うたな」
    「蚀うた」
    「俺ら、そこ行ったよな」
    「行った」

    ビヌルの泡が、やけに静かに消えおいく。

    「俺ら、䜕運んだんや」
    「知らん」
    「知らんで枈むんか」
    「枈たんやろな」

    ゞュンの顔から、ようやく癟䞇円の茝きが消えた。

    その時はじめお、二人は自分たちが笑っお枈たせおはいけない堎所たで来たこずを理解した。

    第四章 指名手配


    翌朝。

    スマホが鳎り止たなかった。  
    知らない番号ばかりだった。  
    すべお無芖した。

    テレビも぀けなかった。  
    ぀ければ終わる気がした。

    だが、終わりは向こうから来た。

    コンビニに入るず、レゞの店員が二人の顔を芋お固たった。  
    次の瞬間、スマホを取り出した。

    「やばい」
    「やばいな」

    二人はアパヌトぞ党力で戻った。

    息を切らしながらテレビを぀ける。

    画面の䞭に、自分たちがいた。

    防犯カメラの映像。  
    黒いトランクを運ぶ、眠そうな顔の男二人組。  
    くっきりず映っおいた。

    「終わった  」

    郚屋に沈黙が萜ちた。

    マコトは長いこずテレビを芋぀めたあず、ぜ぀りず蚀った。

    「自銖しよう」

    ゞュンは少しだけ目を䌏せた。  
    逃げるず蚀うかず思った。  
    だが、出おきた蚀葉は同じだった。

    「うん」

    二人は小悪党ではあったが、人殺しになる芚悟たではなかった。

    その前に、西条博士ぞ電話した。

    コヌルが二回で぀ながる。

    「譊察、行きたす」

    電話の向こうで、博士は少しだけ笑った気がした。

    「そうか。たあ、奜きにしなさい」

    嫌な笑い方だった。  
    結果を知っおいる人間の声だった。

    その倜。

    アパヌトに、かすかなガスの臭いが広がった。

    停止予告が来おいたはずのガスは、なぜかただ生きおいた。  
    元栓には、新しい工具傷が残っおいた。  
    だが、その時の二人はそんなこずに気づかない。

    疲れ切っお、眠っおいた。

    マコトは昔から、ひどいいびきをかいた。  
    壁が薄いこのアパヌトで䜕床も苊情が来るくらいには、立掟ないびきだった。

    その倜も、そのいびきが埮劙に窓ガラスを震わせおいた。  
    建お぀けの悪いサッシに、ごく小さな隙間ができる。  
    そこから倖気が流れ蟌み、宀内の濃床をわずかに薄めた。

    翌朝。

    換気扇の前で寝おいたゞュンが、頭痛ず吐き気で目を芚たした。

    「  なんか臭くない」

    マコトも顔をしかめた。

    「昚日から頭痛い」
    「それ昚日からちゃう、今死にかけのや぀や」

    二人は元栓を芋た。  
    開いおいた。

    芖線が合う。

    「殺されかけた」
    「うん」

    自銖する぀もりの人間を、その前の晩に消そうずする。  
    そういう意味の笑い方だったのだず、今ならわかった。

    ゞュンが震える声で蚀った。

    「譊察行く前に、博士偎に芋぀かったら終わる」
    「じゃあ、逃げるしかないんか」
    「䞀旊な」

    マコトは拳を握った。

    「でも、逃げるだけやったら、ほんたに犯人で終わる」
    「  せやな」

    ここで初めお、二人の逃走はただの保身ではなくなった。

    **生き延びるこず。  
    それから、自分たちが運んだものの正䜓を暎くこず。**

    やるこずは、その二぀になった。

    第五章 逃走


    博士の刺客が動き始めた。  
    同時に、譊察も動いおいた。

    二人はアパヌトを飛び出し、路地を駆けた。  
    背埌で車のドアが閉たる音がする。  
    振り返る䜙裕はない。

    しばらくしお囜道ぞ出た。

    赀信号。  
    停車䞭の赀いセダン。  
    远手の足音。

    「乗っ取ろう」
    「賛成」

    珍しく意芋が䞀臎した。

    マコトが窓を叩く。  
    䞭幎の男性が驚いた顔で窓を少し開けた。

    「な、なんですか」
    「降りおください。緊急事態です」
    「え」
    「緊急事態っお蚀うおたす」

    あたりにも堂々ずしおいたので、男性はなぜか玠盎に降りた。  
    埌に本人は、「譊察関係者かず思った」ず蚌蚀しおいる。

    マコトは運転垭ぞ飛び蟌み、シヌト䜍眮を合わせ、ミラヌを調敎した。  
    劙に䞁寧だった。

    そしお、クラッチを知らないたたキヌを回した。

    ゚ンゞンがかからない。

    「なんでや」
    「マニュアルちゃう」
    ずゞュンが蚀った。
    「マニュアルっお䜕」
    「ギア自分で倉えるや぀」
    「どうやっお」
    「知らん」

    二人でシフトレバヌを眺める。

    1・2・3・4・5・R

    「Rっおなんや」
    「リバヌスちゃう」
    「じゃあ1からでええやろ」

    ギアを入れた瞬間、車䜓がガクンず跳ねた。

    ゚ンスト。

    埌ろから远手の声が近づく。

    「早よ」
    「わかっずる」

    今床はアクセルを螏みすぎた。  
    車は倧げさに前のめりになり、そのたた瞁石ぞ乗り䞊げお止たった。

    䞭幎男性が少し離れた堎所で呆然ずしおいた。

    「あの  倧䞈倫ですか」

    二人は無蚀で車を降り、走った。

    「最初から走っずけばよかった」
    「ほんたにな」

    その埌も逃走はひどかった。

    逃げ蟌んだ倉庫には番犬がいた。  
    拟ったタクシヌの運転手は元刑事だった。  
    橋から飛び蟌んだ川は、氎深五十センチしかなかった。

    呜がけで跳んだわりに、濡れたのは膝から䞋だけだった。

    だが、そのすべおが結果的に远手を混乱させた。

    あたりにも予枬䞍胜だった。

    博士の刺客も譊察も、だんだんこう考え始めおいた。

    「こい぀ら  わざず無茶な動きをしおるのでは」

    実際は、䜕も考えおいなかった。

    倕方、廃工堎地垯たで逃げ蟌んだずころで、ゞュンが急に立ち止たった。

    「埅っお」

    䞊着の内ポケットをたさぐり、くしゃくしゃの玙を取り出す。  
    倧孊ぞの運搬のずき、い぀の間にか玛れ蟌んでいた曞類の控えだった。

    汚れたカヌボン玙に、かすれた文字が残っおいる。

    **搬入元西条研究所仮  
    保管補助拠点湟岞第䞃码頭・旧東和ビル**

    「なんやこれ」
    「この前の控えや。たぶん博士んずこの別拠点」
    「なんで今たで気づかんねん」
    「ポケットに督促状ずレシヌトず割匕刞いっぱい入っずったから」

    远われながら、二人は顔を芋合わせた。

    「眠かもしれんで」
    「でも、行く䟡倀はある」
    「譊察より先に蚌拠芋぀けたら」
    「少なくずも、蚀い分はできる」

    向かったのは、枯近くの叀い雑居ビルだった。  
    窓ガラスは䜕枚か割れ、倖壁は朮颚で癜く荒れおいた。  
    人の気配はない。

    䞭に入るず、最近たで䜿われおいた圢跡があった。

    剥き出しの配線。  
    埃をかぶった机。  
    持ち出されずに残った小型プリンタ。  
    電源の぀いたたたのノヌトパ゜コン。  
    壁のホワむトボヌドには、消しきれなかった日付ず倧孊名。

    「最近たで誰かいたっぜいな」
    「撀収、間に合わんかったんや」

    二人は、バカで䞍運だった。  
    だが空き巣経隓のおかげで、他人の郚屋を勝手に持る胜力だけは高かった。

    マコトがノヌトパ゜コンを開く。  
    ゞュンがプリンタ暪の玙束を匕き抜く。

    そこに印字されおいたのは、

    『○○倧孊 第䞉実隓棟 爆砎蚈画』

    の文字だった。

    さらに、

    『埡堂教授ぞの圧力』  
    『成果デヌタの隠滅』  
    『搬送圹は身元䞍安定者を䜿甚』

    ず続く。

    最埌の䞀文を芋た瞬間、二人は無蚀になった。

    「  俺らのこずやな」
    「うん、俺らやな」

    マコトはパ゜コンのフォルダを開き、動画ファむルを芋぀けた。  
    そこには西条博士自身が、第䞉実隓棟の研究成果ず埡堂教授ぞの執着を語る蚘録が残っおいた。  
    支離滅裂なようで、犯行の動機だけははっきりしおいた。

    「これ、やばない」
    「やばい」

    沈黙。

    「どうする」

    マコトは即答した。

    「テレビ局行こう」
    「譊察ちゃうん」
    「譊察行ったら、俺ら先に逮捕されるやろ」
    「それはそうやな」
    「でもテレビに出たら、蚌拠ごず消されにくい」

    ゞュンは数秒考えたあず、うなずいた。

    「じゃあ、いちばんでかいずこ」
    「おたえ、そういう時だけ刀断速いな」
    「癟䞇円の時も速かったで」
    「そこは反省せえ」

    その時、䞋の階で扉の閉たる音がした。

    远手だった。

    「来たな」
    「行くで」

    二人は玙束ずノヌトパ゜コンを抱え、非垞階段ぞ走った。

    その姿は、远われる容疑者ずいうより、  
    孊校で宿題を忘れたたた職員宀ぞ走る生埒に近かった。

    第六章 英雄ず前科者


    ニュヌスは䞀倜で倉わった。

    『倧孊爆砎事件の黒幕逮捕』  
    『決定的蚌拠を持ち蟌んだのは、指名手配䞭の二人組』

    テレビ局ぞ駆け蟌んだ二人は、受付で最初こそ止められたが、  
    「これ爆砎事件の蚌拠なんで」ず蚀い切っお隒ぎを起こし、  
    結果的に䞀番面倒な圢で蚌拠を䞖に出すこずに成功した。

    報道が出るず、譊察も動いた。  
    西条博士は枯近くの宿泊斜蚭で確保された。  
    爆砎蚈画曞、動機を語る動画、倧孊ぞの恚みを蚘したデヌタ。  
    蚌拠は十分だった。

    そしおもちろん、二人も逮捕された。

    爆発物運搬幇助。  
    䞍法䟵入。  
    窃盗未遂。  
    医療費䞍払い。  
    車䞡匷取未遂。  
    その他、现かい眪が山ほど぀いた。

    留眮堎でニュヌスを芋ながら、コメンテヌタヌが蚀った。

    「これは、ある意味“矩賊”では――」

    マコトが聞き返した。

    「ギゟクっお䜕」
    「知らん」

    そこは知らなくおいい気もした。

    裁刀が始たった。

    匁護士は、開廷前から疲れおいた。  
    打ち合わせで䜕床も頭を抱えおいた。  
    圌の髪が少し薄くなっお芋えたのは、気のせいではなかったかもしれない。

    法廷で匁護士は蚀った。

    「被告䞡名は、犯眪ぞの認識が著しく䜎く――」

    マコトが補足した。

    「芁するに、バカだったずいうこずです」

    法廷が静たり返った。

    裁刀長が咳払いした。

    「被告人、反省しおいたすか」

    「しおたす」

    「どの点を」

    マコトは少し考えた。

    本圓に少しだけ、考えた。

    「刺身です」

    再び、法廷が静たり返った。

    だがそのあず、マコトは珍しく、ちゃんず続けた。

    「  自分ら、ずっず、目先のこずしか芋おたせんでした。金ないずか、腹枛ったずか、远われおるずか。  
    でも、あの時運んだもんで、人が死んだ。  
    知らんかったで枈たんこずを、知らんたた匕き受けた。  
    そこは、ほんたに反省しおたす」

    ゞュンも頭を䞋げた。

    「俺ら、たずもな人間ちゃいたす。  
    でも、殺人の道具運ぶ偎たで萜ちたくはなかった。  
    気づくの遅かったですけど」

    裁刀長はしばらく二人を芋おいた。

    刀決は、執行猶予付き有眪。  
    加えお、瀟䌚奉仕掻動二癟時間。

    完党な救いではなかった。  
    だが、完党な終わりでもなかった。

    法廷を出る時、ゞュンが小さく蚀った。

    「生き残ったな」
    「しぶずいだけや」

    それでも、マコトは少しだけ笑った。

    ゚ピロヌグ


    秋。

    二人は公園で萜ち葉を掃いおいた。  
    瀟䌚奉仕掻動だった。

    オレンゞ色のベスト。  
    軍手。  
    竹がうき。  
    䌌合っおはいなかったが、䞍思議ず前よりはたしに芋えた。

    「俺ら、なんでこうなるんやろな」

    マコトががやく。

    ゞュンは空を芋䞊げた。

    「でも、死なんかったやん」
    「それはそうやけど」
    「自転車盗たれお、アニサキスで、闇金来お、爆砎事件に巻き蟌たれお、ガス挏れで、川飛び蟌んで――党郚、生きずる」
    「改めお䞊べるず、途䞭で䞀回くらい死んでおええな」

    ゞュンは笑った。

    「せやけど、残った」
    「  それっお運ええんか」
    「どっちやろな」

    しばらく無蚀で萜ち葉を掃いた。

    颚が吹いた。

    掃いたばかりの萜ち葉が、党郚散らばった。

    マコトが深いため息を぀く。

    その時、ゞュンのスマホが鳎った。

    画面を芋お、目を茝かせる。

    「マコト、いい仕事あるで」
    「  いくら」
    「癟五十䞇」

    沈黙。

    前より五十䞇増えおいた。  
    成長ず呌ぶには、方向が悪すぎた。

    マコトは箒を肩にか぀ぎ、空を芋た。

    「やめずけ」
    「やめずこか」

    二人は、たた黙っお萜ち葉を掃き始めた。

    今床は少しだけ、前より䞁寧に。

    颚だけが、ずっず笑っおいた。

    ――了――


    あずがき
    䞻人公を二人にしたのは、䞀人だず反省しすぎるからだ。二人いるず、どちらかが流されお、気づいたら取り返しの぀かない堎所たで来おいる。それが䞀番リアルな転がり方に思えた。
    構成は「小さい灜難から倧きい灜難ぞ」ずいう順番だけを守った。䞀぀ひず぀は笑える話でも、積み重なるず笑えなくなる。その境目を意識しながら曞いた。
    ゚ピロヌグで二人は䜕も劇的には倉わらない。ただ、萜ち葉を少しだけ䞁寧に掃く。人間が倉わる時は、だいたいそれくらいの単䜍だず思っおいる。
    敎理ず肉付けはAIに手䌝っおもらった。あらすじず構成の骚は自分で組み、文章ずしお通るかどうかを䞀緒に確かめた。こういう䜜り方もある、ず思っおもらえれば。​​​​​​​​​​​​​​​​

     
     
    筆の赎くたた、思い立ったずきに執筆䞭。 以前の毎日曎新から、今はのんびり気たたな䞍定期曎新ぞシフトしたした。物語や日々の蚘録をのんびり眮いおいきたす。

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