
『小春日和の喫茶室』ー小春のご褒美 シリーズー「アンティークシルバーを磨く夜」
閉店後の喫茶室。
静けさの戻った店内で、
小春は棚の奥から小さな箱を取り出した。
中には、趣味で少しずつ集めているアンティークシルバー。
繊細な透かし模様のティースプーン。
蔦の彫刻が入ったシュガートング。
丸みの美しいティーストレーナー。
銀器は、どれも時代を越えてきたものなのに、不思議なくらい品がある。
小春は特に、“細工の美しさ”に惹かれていた。
「昔の職人さんって、本当にすごいよねぇ…」
灯りに透かすと、細かな模様がやわらかく浮かび上がる。
ただ眺めているだけでも、心が静かになる。
けれど今日は、少しだけ銀が曇っていた。
小春はクロスを手に取り、静かに磨き始める。
くるくる。
くるくる。
無心で磨いていると、不思議と頭の中のざわつきが消えていく。
昼間は、人の話をたくさん聞く。
頑張りすぎて疲れた人。
自分を責めてしまう人。
人生に迷っている人。
その言葉を受け取るたび、小春の心にも少しずつ何かが積もっていく。
銀を磨く時間は、何かを生み出す時間ではない。
でも、
小春にとっては大切な“自分を整える時間”。
磨き終えた銀器を灯りにかざす。
曇りが取れた銀は、静かな光を返してくれた。
ただ、少し整えるだけで、本来の光はちゃんと戻ってくる。
小春はお気に入りのティーポットに紅茶を淹れた。
今夜のご褒美は、
“心を静かに磨く時間”。
春の夜は、ゆっくり更けていった。