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✴︎1800…♾️✴︎

    一人暮らし初心者……と言ってもまだ実家と行き来していた若い頃。

    23区のはずれで自活することで私は親離れして独立したと真剣に思っていた時期。
    そんな日々の中で、スーパーにある1800円のマンゴーを見て「こういうのをなんの抵抗もなく買える人になりたいな」と思った。

    古くて広めのアパート。
    金属の螺旋階段を上がると、ドアスコープではなく郵便受けのような覗き窓がついた鉄のドアがあり、玄関なのかどうかわからないスペースに続く赤い市松模様の床の4畳ほどある昭和のキッチンには小さい冷蔵庫だけ。
    右手はガラスの引き戸に古いタイルのお風呂と、何故か天井がお風呂と繋がったトイレがあって
    奥に行くと5.5畳の和室の襖を外してパソコン机や本棚に改造したスペースと、実家から持ってきたカリモクのソファとテーブル、ビンテージショップなのかリサイクルショップなのかわからないところで買った変な形の大きなスタンドライトと棚でカフェのようにした部屋がある。
    その奥の6畳は実家でもほとんど使わなかった、形だけのオイルヒーターとスプリングだけ持って来たベッドなのかマットレスなのかわからない寝床をベージュで統一した寝室兼生活部屋になっていた。

    当時にしては珍しく、テレビは観ないのでない。
    ガラスに針金の入ったサッシの窓を開けると隣はマンションの壁で、どこからも覗けない構造だったためカフェ部屋からプロジェクターで隣んちをモニター代わりにしても誰からも怒られることもなく
    アパートの住民は皆騒ぐこともなく生活しているが何かしらの楽器をやっているようで、たまに弾く音がした。
    仕事が終わって帰宅し、ご飯とお風呂を済ませた後はお茶の時間。
    当時は紅茶にハマっていたので買い集めた沢山の茶葉の中から選んで大きなポットに入れ、貰い物や適当に買ってきたコンビニで100円くらいのクッキーなど食べながらCDウォークマンで音楽を聴いて本を読むともう夜中になっていた。

    こんな時期が永遠に続けばいいと思いつつも、いつかはあのマンゴーを毎日でも買える大人になるぞと野望も持ち
    当時働いていた、美容室にしては珍しく労基に怒られないくらいにちゃんとした会社でも真剣に働いていたら指名やら資格やら教える残業やらで20代真ん中なわりには余裕のある暮らしをしていた。

    チップやご祝儀などももらえる職場だったため、ある日、箱に入れてしまっておいたのを数えたらけっこうな額になっていた。
    会社からもらった賞金と合わせて給料一カ月分くらい。
    そろそろボーナスも出る……
    マンゴーは買えるけど、私のことだから気付いたら無くなってたなんて使い方をしてしまいそうだ……。

    記念に何か残るものを買おうと思い、デパートの外商さんに相談すると2割引期間があるからその時にと言われて考えて考えて考えた結果、半分は自腹で出すことにしてロレックスのデイトジャスト10ポイントダイヤにした。

    仕事ではお客さんのマダムからお土産に貰ったシンプルなスウォッチをあの美容師がよくつけてるウエストポーチにつけていたので使うタイミングがなかなかないまま、ボーダーシャツにぺたんこ革靴にステンカラーコートの私にそのダイヤの時計はあまり似合わない。

    その時から私の目標は1800円のマンゴーから、10ポイントダイヤのロレックスの似合う大人に変わった。

    ──あれから、私はいつの間にかその時計に違和感がないくらい大人になった。
    1800円の買い物も迷わずできるくらいにはなった。
    けど、あのボロボロの螺旋階段を上がった先にある変な部屋で生活していた頃の若さはなく、野望に燃えて100円のクッキーと紅茶で時間を忘れる日々には戻れないことはわかっている。

    わかっているけど……あの頃の自分が憧れたこの時計をつけていると、まだ間に合うと本気で思う自分もいる。
    だって…あの頃の私が今の私に託した時計はまだまだ動いてる途中なんだぜ。


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    noteと関係ないところなので見てないだろうけど、とある友人の過去と未来の節目に際しておめでとうの意味を込めて🌸

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