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青を増やす跳躍


    私の住む古いアパートには、お気に入りの場所がひとつあった。

    お風呂場だ。

    外から見ればどこにでもある古い建物なのに、そのお風呂だけは妙に広かった。

    天井も高く、浴槽に浸かって見上げると、まるで小さな体育館のように感じることさえあった。

    その日も私は機嫌が良かった。

    湯気の中で立ち上がり、なんとなくぴょんと飛んでみる。

    すると体がふわりと浮いた。

    思ったより高く。

    そしてゆっくりと。

    まるで水の中でジャンプしたようだった。

    落ちてくるまでの時間が少し長い。

    重力が半分になってしまったみたいだった。

    面白くなって、もう一度飛ぶ。

    ふわり。

    またゆっくり落ちる。

    その途中で、天井近くの壁にある出窓のようなくぼみが目に入った。

    普段は気にも留めない場所だった。

    次のジャンプで、その高さまで顔を近づけてみる。

    すると、そこには海があった。

    小さな水族館の展示窓のような空間。

    ガラスの向こうで静かな海が揺れている。

    そして一匹の魚。

    小さな青い魚だった。

    海の色よりも鮮やかで、宝石を溶かして作ったような青。

    その魚が泳ぐだけで、海全体の青まで深くなったように見えた。

    私は思わずもう一度飛んだ。

    窓の中を覗く。

    すると魚が増えていた。

    一匹だったはずなのに、今度は二匹。

    不思議だったけれど、それ以上に楽しかった。

    だからまた飛んだ。

    その瞬間だった。

    私の足元から小さな音符がこぼれ落ちた。

    ♪ ♫ ♩

    目には見えるのに、触れようとすると湯気のように消えてしまう。

    音符たちは空中に散らばりながら、ころころと可愛らしい音を鳴らした。

    まるでジャンプそのものが音楽になったみたいだった。

    私は笑いながら何度も飛んだ。

    ふわり。

    ♪ 

    着地。

    また飛ぶ。

    ♫

    今度はもっと高く。

    ♩

    音符は増え続けた。

    青い魚も増え続けた。

    飛ぶたびに窓の向こうの海は広がっていく。

    岩が現れ、海藻が揺れ、小さな魚の群れが生まれる。

    最初はただの小さな水槽だった場所が、少しずつ本物の水族館になっていった。

    私は何度も何度もジャンプした。

    音符を散らしながら。

    海を育てるように。

    青い魚を増やすように。

    そして気づけば、窓の向こうは魚たちで満たされていた。

    海の青と魚の青が溶け合い、どちらが色を作ったのか分からなくなっていた。

    海が青いから魚が青いのか。

    魚がいるから海が青いのか。

    最後の一回だけ、私は高く飛んだ。

    足元からたくさんの音符が舞い上がる。

    それはまるで祝福の紙吹雪のようだった。

    ガラスの向こうでは、完成した水族館が静かに揺れている。

    魚たちは私を見ているようにも見えた。

    そして私はゆっくりと床へ降りた。

    音楽は消えた。

    けれど海だけはそこに残っていた。

    私が跳ねた回数だけ、少しずつ完成した青い海が。

     
     
    昨日見た夢をAIと共に残す。  絵本と小説のあいだ 「夢から生まれた幻想短編集」

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