
ハート#7|狂気のお姉さん
「今日宮田さんお店に来るから」
店長の言葉に胸の内は揺れたが、何事もないように振舞う。
昼下がりの穏やかな空気は、先程までの慌ただしさを感じさせない。
考案したばかりの羊のラテアートは好評だったらしく、スマホを向けて写真撮影する姿があちこちで見られた。
人で賑わっていた店内も、14時を過ぎる頃には落ち着きを取り戻し、数人の客がコーヒーを片手に思い思いの時間を過ごしていた。
「宮田さんは何しに来るんですか?」
動揺を悟らせないように質問する。
「テイクアウト用のカップのデザインについて打ち合わせに来るんだよ。うちのカップは無地だから味気なくてね」
本社に掛け合って依頼したとのことで、デザインは各店舗ごとに制作するようだ。
店長も流行りに乗りたいらしく、SNS映えを目指して集客に繋げようとしている。
「宮田さん来るの分かってたなら事前に教えてくださいよ!」
普段通りのメイクにヘアセットで出社した私を数時間前の私が殴りたい。
「ごめんごめん、でも何でそんなに知りたいの?」
「この店がお世話になっているデザイン会社の人が来るんだから、失礼が無いよう軽食の用意はしないといけないじゃないですか」
恋心を悟らせないように適当な言い訳を述べたが、そもそも店長は鈍感な男で気づくことはない。
「こんにちは~」
扉が開き見慣れた顔が現れた。
優しそうな表情で会釈をする宮田さん。
どこか寂しげな陰りも潜める彼はミステリアスな雰囲気がある。
店長と雑談を交えつつ打ち合わせに入った宮田さんにチーズケーキとカフェラテを渡す。
「よかったらうちのケーキ召し上がってください。美味しいですよ」
「いいんですか!? チーズケーキ大好きなんですよ」
子どものようにくしゃっと笑う宮田さんに胸が高鳴る。
休憩中のゆり姉を叩き起こし、余りのケーキを用意させたかいがあった。
西日が二人の座るテーブルを照らす。
さっきとは打って変わって真剣な表情で説明している宮田さん。
テーブルに置かれたカフェラテには、ハートの模様が浮かんでいた。