
【W杯48カ国を歴史で斬る ①】なぜ「6/11」を「11/6」と読む国が43カ国もあるのか?
はじめに
今回のW杯の開会式が行われた「2026年6月11日」。日本人なら誰もが「6月11日」と理解するこの日付、実はW杯出場国の中には、日本とは日付の順序が異なる国が43カ国もあることをご存知でしょうか?あるいは、11/06と書かれたチケットを見て、11月6日だと思い込んでしまう日本人もいるかも知れませんね。
たかが日付、されど日付。実はこの「書き方」一つに、その国が歩んできた植民地の歴史、宗教観、そしてプライドが隠されています。今回は、W杯48カ国の「暦」を徹底分析。これを知れば、対戦表の見え方がガラリと変わるはずです。
今回から数回にわたって、最終的には「ワールドカップ48カ国を“国の成り立ち”で分類したら、強豪国の共通点が見えてくる」ことを証明するべく、「W杯48カ国を“歴史の視点”で見ると、世界が一気に分かる」をキャッチフレーズに、W杯48カ国の歴史・政治・宗教・言語を深掘り紹介します。
世界の国々の月名表記と日付フォーマットの特徴
まずは、前回・前々回の記事の要約になりますが、世界の国々の月名表記と日付フォーマットの特徴について振り返っておきます。
世界各国の暦の月の表現の仕方は、日本のように1月、2月と数字で呼ぶ「数詞月名」タイプの国と、January、Februaryのように固有名詞で表現する国とに大別され、さらに後者は、古代ローマ由来の語彙を引き継ぐ国、自国の季節や自然・文化に関連する用語で月名を表現する国(睦月、如月…の和風月名もこのタイプですね)、それから、いろんな要素がちゃんぽんミックスになっている混合型の月名語彙の国に分かれます。
一方、日付の表記の順番(日付フォーマット)は、「2026年6月11日」のように、年(Year)、月(Month)、日(Day)の順に表現するYMD型、11.06.2026の順に書くDMY型、それに6月11日と表記するMDY型の3パターンが世界に存在します。
大きな括りでみると、以下のように整理ができます。
① 日本、中国、韓国、北朝鮮、モンゴルのように、古代中国文明の影響を受けてきた国々は、大昔からずっと月名を数字で表現し、日付の順も共通してYMD型です。そして、デジタル社会では、このスタイルがグローバルスタンダードになりつつあります。FIFAのチケットの販売は、各国の慣習に合わせた日付を設定していますが、基幹システムは「2026-06-11」の表記で統一的に処理されています。
② イギリス、フランス、イタリア、スペイン、オランダなどの西欧諸国で、古代ローマの末裔を自認する人たちは共通して、古代ローマ由来(ラテン語)の語彙を引き継ぐ固有名詞で月名を表現し、日付フォーマットはDMY型です。
③ かつて西欧諸国の植民地支配を受けてきた国々では、宗主国の影響を強く受け、宗主国の言語の語彙で月名を表現し、日付フォーマットはDMY型です。ただし、固有名詞での月名表記は面倒とのことで、数字での表現が好まれる国もあります。
④ 西欧諸国に武力で支配されたり脅されたからではなく、むしろ歴史上のある時期に西欧に憧れを抱き西欧文化を自発的・積極的に取り入れた国では、西欧と同じスタイルで、古代ローマ由来の語彙を引き継ぐ固有名詞で月名を表現し、日付フォーマットはDMY型です。ロシアやアラブ諸国では、ロシア語やアラブ語で月名を表記しますが、その語彙は、ラテン語を自国語に翻訳したものです。
⑤ 米国は例外的で、月名はイギリスと共通の英語の語彙を用いますが、日付フォーマットはMDY型です。MDY型は世界では非常にマイナーです。
暦の体系
以上の知識を前提として、2026W杯出場48カ国の月名表記や日付フォーマットについて横断的に解説していきますが、その前に、暦の体系についても、ここで簡単に触れておきます。

2026年というと、これが西暦であることは世界中の常識ですが、世界には、「何を基準にするか(科学的理由)」と、「どの宗教や文化を重んじるか(歴史・文化的理由)」によって、様々な種類の暦が存在しています。歴史的に暦は、宗教や政治の権力・権威を有するものが、空間のみならず、時間を支配する力を有していることを誇示するためのツールであり、暦の改変は権力者の専権事項であったのです。主な暦について、見ていきましょう。
① グレゴリオ暦(現在の世界基準)
太陽の動き(公転周期の約365.24日)に合わせた太陽暦で、イエス・キリストの誕生年が起点であり、もともとはカトリック(ローマ教皇)が定めたものです。農業や気候(季節)のサイクルと完全に一致するため、世界中で国際基準として広く使われています。
なお、グレゴリオ暦以外にも、起点やうるう年の調整の仕方が異なる太陽暦が存在します。現在でもイランで用いられるペルシア暦、インドのサカ暦、エチオピアのコプト暦、古代のエジプト暦などの例があります。
② 太陰暦
太陰暦は、月の満ち欠け(自転周期の約29.5日)で一ヶ月を区切るものです。こちらは、新月・三日月・満月…と空の月を眺めることで把握しやすい、というメリットがあり、世界の至る所で使用されてきました。しかし、公転周期との差が生じることから、その調整に時の支配者は頭を悩ませて、結果として緻密な天体観測が発展してきました。「うるう月」を挟むなど、太陽の動きも考慮したハイブリッド型の太陰太陽暦を採用する国や地域も数多く存在します。
イスラム暦(ヒジュラ暦)はコーランの教えに忠実で、純粋な太陰暦です。太陽の動きを完全に無視するため、約33年かけて春夏秋冬を一回りします。インドやその周辺国では、地域や宗教ごとに数多くの伝統暦が存在します。伝統的には、太陰暦や太陰太陽暦を用いてきた国でも、現在ではビジネスや日常生活では西暦(グレゴリオ暦)を用い、宗教行事や占い、冠婚葬祭のときだけ、伝統的な暦を使用するというパターンが一般的です。
③ 即位紀元(Regnal year)
王(君主)が変わるたびに年数のカウントを「1年(元年)」にリセットする即位紀元の仕組みは、新しい王が、過去の王の時代が終わり自分の時代が到来したことを領民に誇示し、自らの正統性をアピールするため、世界中で広く採られてきました。
古代中国文化圏(中国、日本、朝鮮、ベトナムなど)の、漢字二文字の名前を即位のたびに付ける元号制度が有名ですが、中世イギリス、インド、古代中国などでも幅広くみられました。
④ グレゴリオ暦ベースの独自紀元
日数の数え方やうるう年のルール(カレンダーの構造)はグレゴリオ暦と100%同じだが、独自の歴史や思想に基づいて『紀元(0年・1年とする起点)』だけが異なる暦」が存在します。
これは、グレゴリオ暦のシステムをそのまま維持した上で、「自分たちのアイデンティティ(民族の起源や伝統)」を誇示するために、数字のスタート地点だけを変えるという手法であり、統治機構・権力者が民衆支配と社会統合のツールとして世界中で広く使われてきました。
日本の皇紀(紀元前660年が元年)、韓国の檀君紀元(紀元前2333年が元年)、タイの仏暦(紀元前543年が元年)、イタリアのファシスト紀元(西暦1922年が元年)などの例があります。
W杯出場48カ国における暦体系
ここまでの説明を踏まえ、W杯出場48カ国を横断的に解析していきます。まず、各国において、どのような暦体系が使用されているかを見てみましょう。
結論からいえば、全48の国において、西暦(グレゴリオ暦)が日常的に使われています。ただし、その中で、西暦以外の暦が使われることが皆無(あるいはほとんど無い)の国は37カ国で、それ以外の11の国々では、伝統的な独自の暦がTPOに応じて使用されることがあります。

独自暦を併用する11の国の内訳ですが、そのうちの8カ国が中東・北アフリカのイスラム圏の国々で、それ以外の3つは、日本、韓国、イランです。
中東・北アフリカのアラブ系民族の国、具体的にはカタール、モロッコ、チュニジア、エジプト、サウジアラビア、イラク、アルジェリア、ヨルダンの8カ国は、いずれもビジネスや行政の基幹システムでは世界共通のグレゴリオ暦をメインで使用していますが、イスラム暦も「宗教行事(ラマダンや犠牲祭など)の日付を決めるもの」として併用されています。
ちなみに、開会式の行われた西暦2026年6月11日は、イスラム暦では1447年12月25日にあたります。もっとも、国によってイスラム暦の使用頻度には差があり、現在でも公文書などでイスラム暦が比較的使用されるのが、サウジアラビアやカタールです。

日本のことは、日本人向けには説明不要ですが、西暦と和暦(2026年は令和8年)が併存しています。歴史愛好家の間では、皇紀2686年、明治159年、昭和101年とかを使っているかも知れません。
韓国では、伝統的な暦(陰暦・旧暦)が今でも現役で生活に根付いており、国家レベルの名節(旧正月、秋夕の連休)、個人レベルでも誕生日や命日など、誕生祝いや祭祀は陰暦が基準です。
イランでは、独自の太陽暦であるペルシア暦が、日常の仕事、学校、役所の手続きではメインで使用されているようですが、他方で、ラマダンなどイスラム行事ではイスラム暦、国際ビジネスでは西暦(グレゴリオ暦)、と器用にトリプル運用がされています。
W杯出場48カ国における月名体系
48の各国で1月、2月…、12月の月をどう表現するか、ここはめっちゃディープな領域です。
大きな全体的枠組として、東アジア型の数詞月名を伝統的に用いてきた国が日本と韓国の2国、古代ローマのラテン語由来の固有名詞を用いるのが40国、自国語の伝統的な語彙に基づく国がクロアチア、イラン、トルコ、イラク、ヨルダンの5カ国、そして特殊なのがボスニア・ヘルツェゴビナです。

それぞれ、歴史的経緯はかなり奥深いですが、ここでは、「古代ローマにおけるラテン語の語彙に基づく固有名詞を用いる40カ国」とボスニア・ヘルツェゴビナについて触れておきます。それ以外の国については、前々回の記事で解説しているので、関心があればこちらもお読みください。
① 西欧列強や北欧の月名表記
ここで、古代ローマにおけるラテン語の語彙に基づく固有名詞を用いる40カ国の内訳を見ていきましょう。英国、フランス、スペイン、オランダ、ポルトガル、ドイツなど西欧のいわゆる列強諸国の言語は、いずれもラテン語に起源を持ちます。ですので、これらの国における、月を表すボキャブラリーはいずれも、古代ローマのラテン語に由来します。
スウェーデン、ノルウェーといった北欧国も、1月から11月まではラテン語由来の語彙で月を表現します。なので、ラテン語月名に区分していますが、12月だけは例外で固有語を用いています。
スイスは国内にドイツ語、フランス語、イタリア語、ベルギーはフランス語とオランダ語、カナダは英語とフランス語の話者が併存しますが、それぞれの話者が、その言語におけるラテン語で月名を表現します。
② 植民地支配を受けた国々の月名表記
ところで、英国、フランス、スペイン、オランダ、ポルトガル、ドイツなどの列強諸国は、大航海時代から20世紀前半にかけて、世界中で植民地収奪戦を繰り広げました。その結果、世界中で多くの国が、列強国に植民地支配されたり、保護国・属国となりましたが、これらの国々では、宗主国の言語が公用語と位置づけられました。
20世紀後半に独立を果たした後も、宗主国の言語や慣習が色強く残っており、その国の月の表記を見ると、もともとの宗主国がすぐに判明します。
③ ウズベキスタンの月名表記
興味深いのが、ウズベキスタンとアラブ6カ国です。ウズベキスタンは、歴史的に、トルコ、ペルシャ、ロシアとの関係が深く、ウズベキスタン語は、「トルコ語の骨組みに、ペルシア語の肉付けをし、ロシア語の服を着せた言語」だと言われています。それでは、トルコ、ペルシャ、ロシアの影響を受けたウズベキスタンの月表現の語彙は、というと、実は、ラテン語由来の固有名詞なのです。
というのも、ウズベキスタンは、ソビエト連邦が誕生する前の19世紀からロシア帝国の支配下(影響下)にありました。当時、ロシアは西欧文化の積極的吸収をはかり、元々の伝統的なスラブ民族の月名表現を捨て、ラテン語由来の固有名詞を取り入れロシア語表記に転換していたのです。そして、ロシアの文化的影響を受けて、ウズベキスタンにおいても、ラテン語由来の固有名詞をロシア語からさらに翻訳して自国の月名表現として使用してきた歴史があります。
ちなみに、W杯出場国では、クロアチアがスラブ系の民族ですが、ロシアが捨てたスラブ系の自然や季節に由来する伝統的語彙の月名表現を現在でも使用しています。
④ アラブ6カ国のラテン系月名表記
W杯出場国のうちアラブ6カ国、具体的にはカタール、モロッコ、チュニジア、エジプト、サウジアラビア、アルジェリアの6カ国は「アラビア語の西暦月名(ラテン語音訳系)」を用いています。月名の文字自体は、アラブ文字で記述されていますが、原義や読み方は、ラテン語に由来します。
ただし、同じくラテン語由来のアラビア語の月名表記でも、英国の影響が強いエジプトやサウジアラビアなどと、フランスの影響を受けたモロッコ、アルジェリアとでは、語彙や発音に差異があるようです。
ちなみに先ほど、イスラム暦を使用するアラブ国が8カ国あることを説明しましたが、ラテン語由来の月名を使用するのは上記6カ国ですよね。では、残り2国(イラクとヨルダン)は、というと、古代バビロニアやアラム語の伝統を継承したセム語系の月名表現が使用されています。

⑤ ボスニア・ヘルツェゴビナの月名表記
バルカン半島に位置するボスニア・ヘルツェゴビナは、かつてユーゴスラビアを構成していましたが、1992年の独立を巡り、凄惨な内戦が勃発し、泥沼化しました。現在は、ボシュニャク人、セルビア人、クロアチア人の3つの主要民族がなんとか共存していますが、公用語はそれぞれバラバラです。
ボスニア語やセルビア語系の住民は、古代ローマ由来のラテン語系の固有名詞の月名を日常的に用いますが、クロアチア系住民は、スラブの伝統的な語彙を月名に使ってきました。イスラム教徒のボシュニャク人は、宗教行事ではイスラム暦に基づく月名も併用、と複雑です。
このような複雑な背景事情を抱える中で、民族間・言語間の政治的な対立を回避するため、日常会話や、ビジネスの現場では、1月、2月、のように、数字に月(mjesec)を付けた数詞月名が中立的であるとして、現在では高い頻度で用いられているようです。「暦と政治」の結びつきを感じさせる興味深いエピソードです。
W杯出場48カ国における日付フォーマット
ここまで、W杯出場48カ国における暦の体系、月名表記の体系について解説してきましたが、次に、年・月・日の記載の順番である「日付フォーマット」について取り上げます。
全世界を見渡すと、イギリス、フランス、スペインなどの西欧諸国で用いられてきたDMY型(日→月→年の順)で表記する国が、圧倒的多数派です。W杯出場48カ国の中では、実に44カ国において、DMY型(またはMDY型)で日常生活が送られています。

日本のようなYMD型(年→月→日の順)で日付を書いたり発音してきたのは、歴史的には日本や韓国など東アジアの国や、イランなどに留まってきました。
しかしながら、コンピュータの普及・デジタル化の推進の観点から、コンピュータ・システムの領域ではYMD型が国際標準(ISO8601)となり、国によっては、DMY型からYMD型への転換が政策的に進められているところもあります。
言語の特性や、長年の慣習により、政府が音頭をとっても、なかなかYMD型への転換がうまく行かない国も多いようですが、スウェーデンではこの数十年でYMD型への転換がスムーズに進んでいるようです。
他方で、MDY型(月→日→年の順)に日付記載する国は、米国などごく少数派です。米国の6/11/2026と書くと、日本と同じく6月11日を意味していますが、その後に西暦を記載するという、世界では稀な日付表示なのです。誤解を防ぐために、月名を数字ではなく固有名詞(JanとかFebのように、固有名最初の3文字の省略語)で記載することも多いですが、いずれにしても、米国式のMDY型では「6/11」は日本と同じく「6月11日」を指すため、記事タイトルで示した<「6/11」を「11月6日」と読む43カ国(DMY型)>のカウントに米国は含めていません。
MDY型は、W杯出場48カ国では米国以外に、カナダでも一部で用いられることがあります。カナダは公式にはYMDを推奨しつつ、英仏の影響でDMYも混在し、「世界一カオスな日付表記国」と言われることもあります。
おわりに
今回は、W杯出場48カ国における暦体系、月名表記、日付フォーマットについて包括的に整理してきました。 世界には80億人以上の人が住んでいますが、おそらく、こんなマニアックなことをやっている人間は、筆者以外ほとんど存在しないと思われます。ウェブで検索しても、類似の記事は全くヒットしません。
本連載では、今回から数回にわたって、「W杯48カ国を“歴史の視点”で見ると、世界が一気に分かる」をキャッチフレーズに、歴史・政治・宗教・言葉の総合分析を続けていきます。
ふだん、あまり意識することのない切り口ですが、ワールドカップを機に各国の「日付」の裏側を知ることで、これまで馴染みのなかった国にも関心や親近感が湧いてくるかもしれません。対戦カードを眺める際、ぜひこの「暦の視点」を隠し味に、観戦をお楽しみください。

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