
プリンの食べ過ぎで、痛風になる? プリン体の真実
はじめに
私は幼児期、大のプリン好きで、毎日のようにおやつでプリンを食べていました。しかし小学生のとき、親戚の叔父が痛風で足指の切断手術を受けたことを機に、プリンを一切口にしなくなりました。なんでも大人たちが、プリン体過剰摂取で痛風になると会話しているのを耳にし、プリンは危険な食べ物だと思い込んだからです。
その後、中学生になって英語を学ぶや、おやつ・デザートのプリンは「pudding」、プリン体は「purine」のことで、両者は日本語での韻は同じでも、全く別物であることを理解して安堵し、プリン愛が復活しました。
いかにもおバカなエピソードだと自嘲しますが、世の中には、プリン体に関して、これと同レベルの低次元の誤解が蔓延しています。自称専門家のブログ記事においても、明らかに誤ったことが書いてあったりします。
ここで、プリン体にまつわる誤解例をいくつか列記しましょう。
① プリン体は、高級な肉や魚に多く含まれ、痛風は美食家に好発する贅沢病である
② プリン体やその代謝物である尿酸は、主にタンパク質(アミノ酸)由来である
③ ビール以外にも、日本酒や焼酎もプリン体の含有量が多い
④ 激しい運動をすれば、プリン体が消費され痛風予防になる
⑤ 大豆や納豆にもプリン体が多いので、摂取を控えたほうがいい
正解をご存じでしょうか?今回は、最近の科学的エビデンスに基づき、誤解に満ちたプリン体や尿酸、痛風にまつわる正しい情報をお伝えします。長めのやや専門的な記事になりますが、確実性や有益性が高い内容であると自負しています。なお、記事の最後にこれら誤解例の正解と、「プリンの食べ過ぎで、痛風になる?」という問に対する回答を載せておきます。結論だけ知りたい方は、「おわりに」までワープして下さい。
プリン体と尿酸の関係
痛風の原因として知られる「プリン体」は悪いものと認識される傾向にありますが、そもそもプリン体は、全ての生物の細胞内に存在する、生きるための必須の成分です。プリン体とは、分子構造である「プリン環(purine ring)」を持つ物質の総称で、細胞の核酸(遺伝子DNAやRNA)の構成成分であり、生物のエネルギー源であるATPの構成成分(アデノシン)でもあるのです。
体内のプリン体は、自身の体内にもともと存在するプリン体の再利用の形で合成されるものが約8割をしめ、残り約2割が「食事」の形で摂取します。体内の細胞は日々新しく生まれ変わっており(新陳代謝)、運動時にはエネルギーが消費されます。この過程で古くなったプリン体は、主に肝臓に運ばれ、酵素の働きによって尿素に分解されます。尿素は、体内におけるプリン体の老廃物であり、約7割が腎臓から尿として、残り約3割が便や汗として排泄されます。
通常、体内での合成や食事により摂取されるプリン体と、分解され尿酸の形で排泄されるプリン体のバランスは一定に保たれていますが、このバランスが崩れ、血液中の尿酸濃度が高くなった状態を「高尿酸血症」と呼び、それが関節で結晶化して激痛を伴う炎症を起こしたものが「痛風」です。
プリン体や尿酸はアミノ酸由来、という誤解について
高タンパク食が「プリン体多過の原因」といった記載をしばしば見かけますが、これは正しくありません。というのも、前述のとおり、プリン体は核酸(DNAやRNA)およびATPに由来するものであり、タンパク質(アミノ酸)自体に由来するものではないからです。
ここで少し脱線しますが、プリン体やその代謝物である尿酸が、アミノ酸由来だとの誤解が蔓延する要因について触れておきます。おそらく誤解の背景には、中学・高校生物の影響があると考えます。
生物学好きであれば、「動物の体内でアミノ酸の分解によって生成される有害なアンモニアを、魚類はそのまま体外に排泄するが、他の動物は尿素や尿酸の形に変換してアンモニアを排泄する」「動物から排出された尿素や尿酸は、土壌微生物の働きによって再びアンモニアへと分解され、最終的には硝酸態窒素の形で植物に吸収される」といった知識を中学・高校時代に学んだ記憶があるのではないでしょうか。
このような理解を前提とすれば、尿酸=アミノ酸の代謝物だと早とちりしやすいことがうなずけます。しかしここには落とし穴があるのです。確かに、爬虫類や鳥類には、アンモニアを尿酸に転換する酵素が存在し、アミノ酸由来の老廃物を尿酸の形で排泄します。恐竜ちゃんも同じだったはずです。他方で、人間を含め多くの哺乳類には、アンモニアを尿素に転換する酵素は存在すれどアンモニアを尿酸に転換する酵素は存在せず、尿素の形でアミノ酸由来の老廃物を排泄するのです。
爬虫類や鳥類と異なり、多くの哺乳類では、排泄される尿酸は、もっぱらプリン体に由来するものであり、アミノ酸とは全く無関係ということになります。尿素と尿酸は名前が似ていて紛らわしいですが、似て非なるものです。参考までに、両者の相違を整理しておきましょう。

なお、ちょっと専門的な議論になりますが、ヒトの体内でプリン体をゼロから新しく合成する(デノボ合成)プロセスの途中で、一部のアミノ酸(グルタミン、アスパラギン酸、グリシン)がプリン体の部品として消費されることがあります。ただし、一般的な健康維持や栄養学の文脈において、「摂食したアミン酸が直接そのまま尿酸に変わる」ということはありません。
食品中に含まれるプリン体の量を決定づける要因
痛風患者(予備軍)向けに、プリン体が多い食品やプリン体が少ない食品を列記したブラックリストやホワイトリストをしばしば見かけます。この手のリストには、かなり数の食品が掲載されていて、自分のような頭の悪い人間には覚えるのが一苦労で、もっとシンプルに整理したいものです。ていうか、単なる食品名とプリン体の量の羅列リストは、プリン体が多い理由、少ない理由についての根拠が明確でなく、科学的じゃないんだよね。
実は、食品中の単位重量あたりのプリン体の量の多寡は、次の4つの条件で決まります。この条件さえ理解すれば、いちいち食品表示を見たり、個別の食品名を覚える必要はありません。
① 細胞の密度
食品の重量に対して、「細胞がどれだけ過密に詰まっているか」がプリン体の量の最大の規定要因です。代謝が非常に活発な部位(肝臓などの内臓・レバー)や、組織が細かく密集している小魚(煮干しやシラス)、細胞分裂が盛んな部分(魚卵や魚の精巣、ブロッコリースプラウトや豆苗のような植物が急成長する「芽」の先端部分)は、単位重量あたりの細胞数が膨大になるため、比例してプリン体が多くなります。
他方、植物の果実(リンゴやミカン)、キャベツやニンジンのような大部分が水分や食物繊維の入った「液胞(細胞の隙間)」で占められてる野菜は、単位重量あたりの細胞数が非常に少ないため、プリン体は極めて少なくなります。
② 水分量(乾燥による濃縮度)
食品が「どれだけ乾燥しているか」という物理的状態も、プリン体量を大きく規定します。「魚の干物(カツオ節や煮干し)」や「干し椎茸」のように、乾燥させて水分を飛ばすと、グラムあたりの成分が何倍にも濃縮され、生肉や生のキノコに比べて圧倒的に高プリン体になります。
③ 筋肉におけるATPの保有量
プリン体は、エネルギー物質である「ATP」の含有量が多い筋肉部位で含量が多くなります。常に泳ぎ回る回遊魚(マグロ、カツオ、マイワシ)や、よく動かす動物の筋肉(赤身肉)には、運動のエネルギー源となる「ATP」とその代謝物が大量に蓄えられていることから、プリン体の含量が多くなります(繰り返しますが、筋肉におけるタンパク質成分の分解産物がプリン体なのではありません)。
他方で、動物性食品であっても、筋肉ではない「脂肪(バラ肉の脂身やラード)」には、ATPや核酸はほとんど含まれないため、プリン体は極めて少なくなります。
④ そもそも「細胞」であるかどうか
そもそもその食品が、生物の「細胞そのもの」か「細胞が作った分泌物」かという、根本的な生化学的違いによります。「卵(鶏卵)」は100gあたり1個〜2個の巨大な1細胞にすぎないため、核の数が極端に少なく、プリン体はほぼゼロです。また、「牛乳・ヨーグルト・チーズ」は牛の体から分泌された液体であり、細胞ではないためプリン体をほぼ含みません。
以上をまとめると、細胞密集、乾燥、高ATPの食品においてプリン体が多く、低密度、非細胞、非筋肉の食品のプリン体は少ない傾向です。ここまでの説明をChat-GPTに図表を作成してもらったので、貼り付けております。

アルコール摂取が高尿酸血症を招く理由
アルコール摂取が、高尿酸血症の原因となることは知られていますが、その理由について掘り下げましょう。
ビールは、極めてプリン体が多い食品の1つですが、その理由は、醸造に使われる「ビール酵母」は細胞そのものが小さく、単位重量あたりの細胞数が圧倒的に多い上に、細胞分裂(増殖)のスピードが劇的に早く、大量の核酸が含まれるからです。ちなみにノンアルコール・ビールも、プリン体が多いことでは普通のビールと違いありません。
一方で、日本酒やワインなども蒸留酒であり、ある程度プリン体を含有していますが、ビールほどではありません。他方で、焼酎やウイスキーのような蒸留酒は、蒸留過程でプリン体が除去されることから、お酒自体にはプリン体はほとんど含有されていません。
であれば、日本酒、ワイン、蒸留酒の飲酒は、高尿酸血症や痛風のリスクが低いかというと、そうでもないのです。何故なら、①お酒の種類を問わず、アルコール摂取量が多くなると、肝臓でアルコールを分解するために、大量のエネルギー(ATP)が消費され、ATPの分解産物としてプリン体が合成されるからです。
また、②アルコール分解により乳酸が生成されますが、血中に乳酸が蓄積すると腎臓からの尿酸排泄が競争的に阻害され、血液中に尿酸が蓄積してしまいます。さらに、③アルコールにより利尿が促進され、結果として血中の水分が減少し尿酸が濃縮されます。
アルコール飲料中のプリン体の量の如何によらず、このような複数の生理学的メカニズムにより飲酒は高尿酸血症を誘導されるので、痛風患者やその予備軍には飲酒を控えることが勧められるのです。帝京大学薬学部 臨床分析学研究室の図がわかりやすいので、転載いたします。

アスリートやボディービルダーが痛風になりやすい理由
過酷な運動を行うアスリートやボディービルダーは、痛風のリスクが高いことが知られています。具体的には、以下のようなメカニズムの相互作用によりリスクが増大します。
①激しい運動(無酸素運動)と筋肉の分解
ハードな運動により筋肉の細胞が壊れると、細胞内にある「プリン体」が大量に放出され、肝臓で分解されて尿酸が生成されやすくなります。また、高強度の運動はATP(エネルギー)を大量に消費するため、その分解産物であるプリン体が増加します。
②乳酸の蓄積による尿酸の排泄低下
無酸素運動を行うと筋肉に乳酸が蓄積されます。腎臓は尿酸よりも乳酸の排泄を優先するため、尿酸の排泄が滞り、血液中に尿酸がたまって高尿酸血症になりやすくなります。
③食習慣と水分不足
アスリートやボディービルダーは、鶏胸肉、魚類、レバーなどの高タンパク食を好みますが、これらはプリン体の含量が多く、過剰摂取によりプリン体過多となります。また、激しいトレーニングによる発汗で脱水状態になると、血液中の尿酸濃度が相対的に高まります。
①ATP大量消費によるプリン体生成の促進、②乳酸の蓄積による尿酸の排泄低下、③血中の水分減少により尿酸濃度が上昇する、という高尿酸血症の誘発メカニズムは、激しい運動とアルコール摂取とで共通します。
筋トレマニアが、高タンパクを追求してプリン体の含量の多い食品やサプリを積極摂取し、激しい運動の後にはビールをガブ飲みする、というライフスタイルは痛風リスクという観点からは最低・最悪の生活習慣です。
アスリートやボディービルダーの皆さんには、痛風予防として、
・水分補給: トレーニング前中後は意識して水分を摂り、尿酸の排泄を促す
・適度な有酸素運動: 筋トレ後にウォーキングなどを取り入れ、乳酸の分解を促進する
・飲食のコントロール: 高タンパク食至上主義を見直し、飲酒を制限する
などの対応が望まれます。
食事と高尿酸血症の関係についての最近の知見
食事と高尿酸血症の関係については、単に食品中のプリン体の量だけで決まるのではないことが近年の研究で明らかとなってきました。
食事から摂るプリン体に関しても、「肉の赤身」や「魚の干物」などはプリン体が高めですが、「植物性のプリン体(とりわけ大豆や納豆のような豆類)」や「乳製品(牛乳やヨーグルト)」は、むしろ尿酸の排出を促し、痛風のリスクを下げることが分かってきました。
また、清涼飲料水や菓子類、加工食品に多く含まれる「果糖(フルクトース)」の過剰摂取が、体内のプリン体合成を急激に活発化させ、尿酸値を上げることもわかってきました。肥満やインスリン抵抗性(糖尿病)と痛風の関連が強いことも解明されてきました。
おわりに
今回は、ダラダラとプリン体と尿酸、痛風にまつわる知見を紹介してきました。記事のまとめとして、冒頭に挙げた、5つの誤解例について、念のため正しい説明を加えておきましょう。
① プリン体は、高級な肉や魚に多く含まれ、痛風は美食家に好発する贅沢病である
→肉や魚は概してプリン体の含有率が高いものの、食品によって含有率は異なり、食材が高級かどうかは直接関係ありません。
② プリン体やその代謝物である尿酸は、主にタンパク質(アミノ酸)由来である
→プリン体や尿酸は、核酸(DNAやRNA)やATPに由来するもので、タンパク質(アミノ酸)に直接由来するものではありません。
③ ビール以外にも、日本酒や焼酎もプリン体の含有量が多い
→日本酒はプリン体の含有量は低く、焼酎にはほとんど含有されていません。しかし飲酒行為によって、ATP大量消費によるプリン体増大や、乳酸の蓄積による尿酸の排泄低下を招き、高尿酸血症が誘発されます。
④ 激しい運動をすれば、プリン体が消費され痛風予防になる
→激しい運動は、筋肉のATP大量消費によるプリン体増大や、乳酸の蓄積による尿酸の排泄低下を招き、結果的に尿酸値が上昇し、痛風の増悪因子となります。
⑤ 大豆や納豆にもプリン体が多いので、摂取を控えたほうがいい
→大豆や納豆は、プリン体が必ずしも多くなく、むしろ尿酸の排出を促し、痛風のリスクを下げる作用が期待されます。
最後の最後に、記事タイトル中の「プリン食べ過ぎで、痛風になる?」という問の正解を記載しておきます。
プリン(pudding)の主な原材料は、卵、牛乳、糖類で、卵や牛乳には微量のプリン体(purine)が含有されていますが、痛風を懸念するレベルではありません。牛乳にはむしろ、尿酸の排出を促し、痛風のリスクを下げる成分が含まれています。一方で、市販のプリンには甘みづけや食感の調整として「果糖」が用いられることが多いですが、果糖の過剰摂取は体内のプリン体合成を活発化させ、尿酸値を上げ、痛風発作を誘発するリスクがあります。
すなわち、プリン(pudding)自体はプリン体(purine)の濃度は低いですが、市販のプリンに添加されている果糖は痛風のリスク因子となるので、痛風が心配の方は、プリンを食べる頻度を落とすか、果糖含量の少ないプリンを自作することが勧められます。