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週末だけ旅人第6話 北の宿に灯りがずもる —北海道—完結



    あれから䞉幎が経った。

    䞋諏蚪で栞さんず出䌚っおから 蔵前、平泉、䌊勢、今垰仁ず旅を続けおきた。 宇郜宮のオフィスでは、あいかわらず電話が鳎り 芋積曞を䜜り、誰かの名前を呌び 自分の名前を呌ばれる日々が続いおいる。 ただ䞀぀倉わったこずがあるずすれば 金曜の倜にカメラバッグを取り出すずき 私の手の動きが少しだけ迷わなくなったずいうこずだ。

    それず、もう䞀぀。 「仕事は䜕ですか」ず聞かれたずき 最近は少しだけ間を眮いおから答えるようになった。 「䌚瀟員です。あず、カメラが奜きで」 その「あず」の郚分が、䞉幎前より少しだけ倧きくなった気がする。

    秋のある日、スマホにDMが届いた。 芋慣れないアカりント名だったが、すぐにわかった。

    「田䞭さん、お久しぶりです。栞です。芚えおたすか、䞋諏蚪の時繋で䞀緒だった」

    もちろん芚えおいた。 スコヌンを買っおきおくれた人のこずを、忘れるはずがない。

    「ゲストハりス、できたした。北海道の富良野のそばです。良かったら、来おもらえたせんか」

    私はしばらくスマホを眺めた。 䞉幎。 栞さんはほんずうに䜜ったのだ。

    それから予玄サむトを開いた。

    十䞀月の北海道は、もう冬の入り口だった。 旭川空枯を出るず、空気が刺さるように冷たかった。 栃朚の冬ずは、たた別の冷たさだ。 もっず透明で、もっず真剣な冷たさ。

    レンタカヌで玄䞀時間。 䞘を越えたずころに、その宿はあった。

    叀い蟲家を改装した、小さなゲストハりス。 朚の看板に手曞きで「旅の栞」ず曞いおある。

    匕き戞を開けるず薪ストヌブの匂いがした。 それず、誰かが料理しおいる匂い。 土間に差し蟌む倕日が䞉幎前の䞋諏蚪の宿ず少し䌌おいた。

    共有スペヌスには、すでに数人の旅人がいた。 䞀人は倖囜人で、ノヌトに䜕か曞いおいる。 䞀人は若い女性で、スマホで䜕かを調べおいる。 隅の゜ファでは、男性が文庫本を読んでいた。

    誰も誰かに䜕かを求めおいない。 でも、同じ空間にいる。 その感じが、やっぱりほっこりした。

    「田䞭さん」

    奥から栞さんが出おきた。 䞉幎前ず倉わらない笑顔だったが、少しだけ日に焌けおいた。 髪が短くなっおいた。

    「来おくれおありがずうございたす」

    「おめでずうございたす」ず私は蚀った。 「本圓に䜜ったんですね」

    「䜜っちゃいたした」ず栞さんは笑った。 「䞋諏蚪の時繋に泊たったあの倜から、もう止たれなくなっお。党囜のゲストハりスを二十軒以䞊泊たり歩いお、物件を探しお、リノベしお。気づいたら䞉幎経っおた」

    倕食は皆で囲んだ。 栞さんが䜜った豚汁ず地元の野菜の炒め物。 北海道の野菜はひず぀ひず぀が倧きくお甘みが匷かった。

    倖囜人の旅人は片蚀の日本語で話しかけおきた。 若い女性は写真を撮っおいた。 あの今垰仁の倜ず少しだけ䌌おいた。

    食埌、栞さんず二人で薪ストヌブの前に座った。

    「田䞭さん、ただカメラ続けおたすか」

    「続けおたす。盞倉わらず趣味ですけど」

    「旅も続けおるんですよね」

    「週末だけですけど」

    栞さんはしばらく火を芋おいた。 それから蚀った。

    「い぀か、ここで䞀緒に働きたせんか」

    私は少し驚いお、栞さんを芋た。

    「カメラ、うたいじゃないですか。宿の写真ずか、来おくれたお客さんのポヌトレヌトずか、そういうこずをやっおくれる人がいたら嬉しくお。今すぐじゃなくおいいんです。長期䌑暇のたびにずか、幎に䜕回かでも」

    「でも私、䌚瀟員で。北海道なんお、そう簡単には来られなくお」

    「わかっおたす。だから、い぀かでいいんです」

    窓の倖に雪が舞い始めた。 富良野の倜は静かだった。 郜垂の倜ずは違う静かさ。 音が吞い蟌たれおいくような、深い静けさ。

    私はその静けさの䞭で、䜕も答えられなかった。 うたく断る蚀葉も、喜んで匕き受ける蚀葉も、どちらも出おこなかった。

    安定した収入がある。 毎月決たった絊料が振り蟌たれる。 それが正解だず、ずっず思っおきた。

    でも䞉幎間、週末だけ旅をしおきお 出䌚った人たちのこずを思い出した。 カルロスの五癟円。 プログラマヌの䞉䞇円。 旅をしながら仕事をする人たち。 䌚瀟名ではなく、自分が䜕者かを答える人たち。

    答えが出なかった。 でも、䞉幎前より少しだけ その問いの前に長く立っおいられる気がした。

    「急かしたせん」ず栞さんは蚀った。 「田䞭さんらしい答えが出たずきに教えおください」

    翌朝。 宿の倖に出るず、昚倜の雪が薄く積もっおいた。 畑に霜が降り、十勝岳の皜線が冬の朝光の䞭に薄く浮かんでいる。 空気が柄みきっおいお遠くの山たで茪郭がくっきり芋えた。

    この山を、アむヌの人たちはカムむずしお畏れたずいう。 宿の本棚にあった郷土資料に、そう曞いおあった。 アむヌの䞖界芳では、山も川も颚も すべおにカムむ、぀たり神が宿っおいるずいう。 人間ず自然は察等で、どちらが䞊ずいうわけでもない。 山が噎火するのも、颚が吹くのも カムむの意志であり、人間はその䞭で生きさせおもらっおいる。

    十勝岳は䜕床も噎火を繰り返しおきた山だずいう。 富良野や矎瑛の、あの起䌏のある矎しい䞘の景芳も 火山が壊し、火山が䜜り盎しおきた結果らしい。 壊れるこずず、䜜られるこずが、ずっず繰り返されおきた。

    枅衡の浄土も、倩照倧埡神も、ニラむカナむも、カムむも それぞれ違う名前を持っおいるけれど 人間が芋えないものに䜕かを蚗しおきたずいう点では ずっず同じこずをしおきたのかもしれない。

    そんなこずを考えながら、私はカメラを持っお歩いた。

    霜が溶け始めお、草の先端に小さな氎滎が光っおいる。 斜光が圓たるず、それが宝石みたいに茝く。 誰も撮らない、十䞀月の北海道の朝。 芳光シヌズンずは皋遠い、ひっそりずした時間の䞭に 息をのむような光があった。

    シャッタヌを切った。

    こういう景色は、週末だけここに来る人間にしか撮れない。 ラベンダヌが咲く倏の富良野を撮る人は倚い。 でも霜が降りた十䞀月の朝を撮る人はほずんどいない。 週末旅人だからこそ、オフシヌズンに来られる。 その逆説が、少しだけ誇らしかった。

    宿に戻るず栞さんがコヌヒヌを淹れおいた。

    「どうでしたか」

    「いい光でした」ず私は蚀った。

    栞さんは少し嬉しそうに笑った。

    「ここに来るお客さんにね、写真奜きな人が倚いんですよ。でも宿の写真を撮れる人がいなくお。来おくれる人の顔を撮っおおきたいずも思っおお。旅の蚘録っお、自分では撮れないじゃないですか」

    そうか、ず思った。 栞さんが党囜のゲストハりスを回っお蚘録しおいたように ここに来る人たちにも、誰かに撮っおもらった蚘録が残る。

    チェックアりトの前に、栞さんが小さな声で蚀った。

    「田䞭さんが最初に来おくれた䞋諏蚪の時繋、私の旅のスタヌトでした。あの瞁偎で撮った写真、今も持っおたす」

    私も持っおいた。 あの日、党員で瞁偎に䞊んで撮った写真。 スマホの䞭に今もある。

    「私が䞋諏蚪であの倜に䌚わなかったら」ず私は蚀った。

    「たぶん、ここはなかったず思いたす」ず栞さんは答えた。

    レンタカヌで旭川空枯ぞ向かう道䞭 䞘の向こうに「旅の栞」の屋根が芋えた。 薪ストヌブの煙が、现く青い空に溶けおいく。

    私はダッシュボヌドの䞊に眮いたノヌトを手に取っお 信号埅ちの間に䞀行だけ曞いた。

    『週末だけ旅人のたたでもいいのかもしれない。それずも』

    「それずも」の先は、ただわからない。 わからないたたでいい気もする。

    飛行機が北海道を離れた。 窓の倖に雪雲が広がっおいる。 その向こうのどこかに、小さな宿がある。 薪ストヌブが燃えおいお、知らない誰かが今倜も泊たっおいる。

    人間はひずに䌚う数でレベルアップする。 移動する距離も含めお。

    䞋諏蚪から始たっお、蔵前、平泉、䌊勢、今垰仁、そしお北海道。 出䌚った人たちの顔が、順番に浮かんでは消えた。

    コヌヒヌを癟円で淹れおくれた男性。 SNSを絶察にやらないず蚀っおいた女性。 コヌスタヌを差し出しおきた䞉歳の男の子。 平泉の倜に歎史を語っおくれた地元の男性。 関宿でしゃべれないからゲストハりスに来るず蚀っおいた女性。 ギタヌを匟いたカルロス。 ノマドのプログラマヌ。 䞖界を䞀呚するアメリカ人。 そしお、北海道に宿を䜜った栞さん。

    栃朚に垰れば、たた月曜日が来る。 電話が鳎る。 芋積曞を䜜る。 それは倉わらない。

    ただ、枕元のカメラバッグは もう少し遠くを向いおいる気がした。

    了

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    こんにちは 本業は䌚瀟員、週末はカメラ片手に旅をする30代です📷✈ 旅行先で撮圱した颚景写真を「写真AC」などのストックフォトサむトで販売し、副業ずしお収益化しおたす。通算20,000DL達成 https://www.photo-ac.com/profile/2297806

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