
フクとイロの物語|青の色憑
あらすじ
大阪刑務所の独居房で、僕にだけ見えていた不思議な女性・フクは、突然別れを告げた。
二十五年間そばにいた彼女は、なぜ消えたのか。
その記憶をたどる先にあったのは、四歳の僕が初めてフクと出会った日のことだった。
大阪へ引っ越してきたばかりの僕は、言葉の違いから笑われたと思い込み、自分だけが違うのだと心を閉ざしていた。
そんな僕にフクが語ったのは、青い牛ブルーノと白い旅人ワイトの物語。
笑われたと思った声も、仲間外れにされたと思った沈黙も、本当にそうだったとは限らない。
これは、胸に憑いた“青”の正体を、少しだけ見つめる物語。
第1話 青の色憑
「あなたには、もう私は必要ないわ」
フクは、そう言った。
そこは、夢の中なのか、現実のどこかなのかも分からない場所だった。
空は灰色だった。
けれど、本当に空があるのかも分からなかった。
地面も灰色だった。
けれど、本当に地面があるのかも分からなかった。
空と地面の境目がない。
上も下も、前も後ろも、どこまでも同じ色で塗りつぶされているような場所だった。
その真ん中に、フクが立っていた。
真っ白なワンピース。
裸足。
長い黒髪。
シワ一つない服も、細い足首も、背中まで流れた髪も、僕の知っているフクのままだった。
フクは、僕に背を向けていた。
僕は声を出そうとした。
けれど、喉がうまく動かなかった。
手を伸ばそうとした。
けれど、腕も上がらなかった。
フクは振り返らないまま、もう一度言った。
「私には、そういうことがすぐに分かるの」
声は、昔と同じだった。
優しいわけでもない。
冷たいわけでもない。
ただ、そこに置かれた石のように、静かだった。
「坊っちゃん、さようなら」
やめて。
そう言いたかった。
待って。
そう言いたかった。
まだ、何も分かっていない。
まだ、何も返せていない。
まだ、僕はあなたに聞きたいことがある。
けれど、僕の口は動かなかった。
フクの白い背中が、灰色の中に溶けていく。
白が、薄くなる。
輪郭が、にじむ。
髪の黒だけが少し残って、それもすぐに消えた。
あとには、灰色だけが残った。
「あなたには、もう私は必要ないわ」
その言葉だけが、頭の奥で何度も鳴っていた。
僕は目を開けた。
いや、違う。
目を開けたのではなかった。
ずっと開いていたことに、ようやく気づいただけだった。
目の前には、くすんだ天井があった。
白かったはずの天井は、湿気と時間に負けて、灰色に近い色になっていた。
無機質な蛍光灯が、何の感情もなくそこにぶら下がっている。
横を向くと、内側からは開かない鉄の扉が見えた。
足元には、剥き出しの便器。
その少し横に、申し訳程度の洗面台。
どこにも、フクはいなかった。
そこは、大阪刑務所の独居房だった。
僕はしばらく、天井を見ていた。
ここに来るのは、初めてではなかった。
そう言ってしまうと、自分の人生がひどく簡単なものに聞こえる。
けれど、実際そうだった。
僕は何度か、同じような天井を見上げてきた。
同じような扉を見てきた。
同じような朝を迎えてきた。
ただ、その日の朝だけは、何かが違っていた。
フクが、いなかった。
二十五年間、僕にだけ見え、僕にだけ声を聞かせていた人が、初めて消えた。
子どもの頃は、誰にでもそういう人がいるのだと思っていた。
自分にだけ見えるお姉ちゃんのような人。
自分にだけ話しかけてくる、不思議な人。
けれど、そんなものは誰にでもいるわけではなかった。
それを知ってから、僕はフクのことを誰にも話さなくなった。
話せば、変な子だと思われる。
笑われる。
病院へ連れていかれるかもしれない。
だから、僕はフクのことを自分の中にしまった。
しまったまま、大人になった。
それなのに、フクはずっといた。
僕が子どもでも。
僕が少年でも。
僕が、自分でも嫌になるような大人になってからも。
フクだけは、変わらなかった。
白いワンピース。
裸足。
長い黒髪。
そして、僕を呼ぶ時の言葉も変わらなかった。
坊っちゃん。
思春期の頃、僕はその呼び方が嫌で仕方なかった。
もう坊っちゃんじゃない。
そう何度も言った。
けれどフクは、少しも気にしなかった。
「そうね」
そう言って、次の日も同じように僕を坊っちゃんと呼んだ。
そのフクが、いなくなった。
「あなたには、もう私は必要ないわ」
僕は天井を見ながら、その言葉を何度も繰り返した。
必要ない。
本当にそうなのだろうか。
僕は、何かを失ったのか。
それとも、何かをようやく手放したのか。
その答えは、まだ分からなかった。
ただ、胸の真ん中に、誰かが小さな井戸を掘って、そのまま蓋をせずに帰ってしまったような感覚だけが残っていた。
フクの声を思い出しているうちに、僕はずっと昔のことを思い出していた。
初めて、フクに会った日のことだ。
僕が四歳の頃だった。
僕たち家族は、東京の方から大阪へ引っ越してきた。
正確に言えば、僕には東京という場所の記憶はほとんどない。
ただ、周りの大人たちがそう言っていたから、僕は自分が東京の方から来たのだと知っていた。
大阪の町は、僕には少し大きすぎた。
道の幅。
人の声。
商店街の匂い。
自転車の多さ。
知らない言葉の速さ。
全部が、僕の知らない速さで動いていた。
大人たちは、楽しそうに話していた。
けれど、僕には何を言っているのか、よく分からない時があった。
怒っているのか。
笑っているのか。
ただ話しているだけなのか。
それすら、うまく分からなかった。
幼稚園でもそうだった。
先生は優しい人だったと思う。
友達も、たぶん悪い子たちではなかったと思う。
でも、その時の僕には、みんなが同じ国の人で、自分だけが別のところから来たように感じていた。
ある日、先生が僕に言った。
「これ、ゴミほってきて」
僕は、手に持った紙くずを見た。
ゴミを、ほる。
掘る。
どこに。
園庭に穴を掘るのだろうか。
どのくらい深く掘ればいいのだろうか。
スコップは、どこにあるのだろうか。
僕が固まっていると、周りの子たちが笑った。
先生も、少し困った顔をした。
「ちゃうちゃう。捨ててきてってこと」
捨ててきて。
それなら、分かる。
でも、僕の胸の中には、その説明よりも先に、笑い声の方が残った。
みんなは知っている。
僕だけが知らない。
先生も、みんなと同じ言葉を使っている。
僕だけが、違う。
その日から、僕は言葉を少し怖がるようになった。
けれど、それよりもはっきり覚えているのは、ジャンケンのことだった。
園庭の端で、何人かの子どもたちが遊んでいた。
僕も、その輪の中に入れてもらった。
何を決めるためだったのかは、もう覚えていない。
鬼ごっこの鬼を決めるためだったのかもしれない。
遊具の順番を決めるためだったのかもしれない。
ただ、みんなで手を出すことだけは分かった。
誰かが言った。
「いんじゃん、ほい」
みんなが手を出した。
僕だけ、少し遅れた。
僕は、いつものように言った。
「じゃんけん、ぽい」
その瞬間、何人かが笑った。
「なにそれ」
「じゃんけんぽい、やって」
「もう一回言って」
その声に、悪意があったのかどうかは分からない。
今なら、たぶん分かる。
その子たちは、ただ面白かっただけなのだと思う。
知らない言い方を聞いて、珍しいと思っただけなのだと思う。
けれど、四歳の僕には、そんなことは分からなかった。
笑われた。
そう思った。
僕だけが違う。
僕だけが変だ。
僕だけが、ここにいてはいけない。
そんなふうに思った。
次のジャンケンで、僕は声を出さなかった。
その次も、出さなかった。
やがて僕は、その輪から少しずつ離れた。
誰かが僕の名前を呼んだ気がした。
けれど、僕は聞こえないふりをした。
園庭の隅に行って、砂を指でいじった。
誰も来なかった。
来なかったのではなく、僕が来ないような空気を出していたのかもしれない。
でも、その時の僕には、そんなことは分からなかった。
僕は仲間外れにされた。
そう決めた。
決めてしまうと、世界はその通りに見える。
子どもたちの笑い声は、全部僕を笑っている声に聞こえた。
先生の大阪弁は、僕を置いていく言葉に聞こえた。
園庭の明るさまで、僕には少し意地悪に見えた。
その日の夕方、僕は家の近くの狭い空き地にいた。
引っ越してきたばかりの家の裏に、小さな空き地があった。
雑草が伸びていて、古いブロック塀があって、誰が置いたのか分からない植木鉢が三つ並んでいた。
僕はそこで、一人で遊んでいた。
遊んでいた、というより、そこに座っていただけだった。
膝を抱えて、地面を見ていた。
空は、夕方になる少し前の色をしていた。
青でもない。
灰色でもない。
でも、その時の僕には、全部が青く見えた。
空も。
ブロック塀の影も。
植木鉢の土も。
自分の膝も。
本当に青かったわけではない。
ただ、胸の奥にある何かが、世界の色を変えていた。
その時だった。
「坊っちゃん」
声がした。
僕は顔を上げた。
ブロック塀の前に、女の人が立っていた。
真っ白なワンピースを着ていた。
裸足だった。
長い黒髪が、風もないのに少しだけ揺れていた。
知らない人だった。
でも、不思議と怖くはなかった。
「誰?」
僕が聞くと、その人は少しだけ首をかしげた。
「フクよ」
「フク?」
「そう。フク」
「お姉ちゃん?」
「そう見えるなら、そうでいいわ」
その言い方は、少し変だった。
でも、僕はそれ以上聞かなかった。
その人は僕の横にしゃがみ込んだ。
しゃがみ込んでも、白いワンピースには土がつかなかった。
僕はそれが不思議で、じっと見ていた。
「坊っちゃん」
「僕、坊っちゃんじゃないよ」
「そう」
「名前あるよ」
「知っているわ」
「じゃあ、なんで坊っちゃんって言うの」
フクは、僕の顔を見た。
「そう呼びたいから」
それだけ言って、フクは僕の胸のあたりを指さした。
「今の坊っちゃんには、青い色が憑いているわ」
僕は自分の胸を見た。
そこには、何もなかった。
服も普通だった。
手も普通だった。
体のどこにも、青いものなんてついていなかった。
「青なんてないよ」
「見えない青よ」
「見えないのに、あるの?」
「あるわ」
フクは、当然のことのように言った。
「見えないものほど、人に強く憑くことがあるの」
僕には、その意味が分からなかった。
けれど、フクの声を聞いていると、胸の奥が少しだけ静かになる気がした。
「青い色ってなに?」
僕が聞くと、フクは僕の隣に腰を下ろした。
「坊っちゃん。少し、私の話を聞いてみて」
「イロイロ星という星のお話をしましょう」
「イロイロ星?」
「そう。宇宙のどこかにある、小さな星よ」
フクは、遠くを見るように目を細めた。
「その星には、ワイトという白い旅人がいました」
僕は膝を抱えたまま、フクの横顔を見た。
その日から、フクは僕に物語を聞かせるようになった。
でも、その時の僕は、もちろんそんなことは知らなかった。
ただ、知らない女の人が急に現れて、宇宙の星の話を始めた。
それだけだった。
フクは、静かに話し始めた。
「ワイトと、青い牛ブルーノのお話よ」
宇宙のどこかに、イロイロ星という小さな星がありました。
イロイロ星には、赤い森がありました。
黄色い川がありました。
緑の湖がありました。
紫の雨が降る谷も、白い風だけが吹く砂原もありました。
その星を、ワイトという旅人が歩いていました。
ワイトは、白い旅人でした。
背は低く、頭は少し大きく、手足は細く、目は丸い。
けれど、怖い姿ではありませんでした。
ワイトはいつも、小さな袋を一つだけ持って旅をしていました。
ワイトの胸には、大きなハートがありました。
でも、そのハートには、まだ何の色もありませんでした。
白い体に、白いハート。
だからワイトは、いろいろなものを見ても、それが自分の中でどんな色になるのか分かりませんでした。
ある日、ワイトは青い海のそばを歩いていました。
海は、とても静かでした。
波が寄せては、返っていきます。
寄せては、返っていきます。
何度も、何度も、同じ場所まで来ては、また遠くへ戻っていきます。
ワイトは、その波を見ながら歩いていました。
すると、海辺の岩のそばに、一頭の牛がいるのを見つけました。
その牛は、青い牛でした。
体は大きく、角も太く、背中は丸く盛り上がっていました。
ほかの牛よりも、ずっと強そうに見えました。
けれど、その牛は少しも強そうに立ってはいませんでした。
海の方を向いて、ただ黙っていました。
ワイトは近づいて言いました。
「こんにちは」
青い牛は、返事をしませんでした。
「ぼくはワイト。旅をしているんだ」
青い牛は、少しだけ耳を動かしました。
でも、やっぱり返事をしませんでした。
ワイトは、牛の隣に座りました。
しばらく、ふたりは海を見ていました。
波が寄せて、返っていきます。
寄せて、返っていきます。
波が何度も戻ったあとで、青い牛が言いました。
「ぼくに話しかけない方がいい」

その声は、とても低い声でした。
地面の奥から響くような、太くて重い声でした。
ワイトは言いました。
「どうして?」
「ぼくは、変な牛だから」
青い牛は、海を見たまま言いました。
「ぼくはブルーノ。丘の上にいた牛だ」
ワイトは、海の向こうではなく、背中の方を見ました。
少し離れた場所に、なだらかな丘がありました。
その丘の上には、たくさんの牛たちがいました。
白いところ。
黒いところ。
丸い模様。
雲のような模様。
どの牛も、少しずつ違う模様をしていました。
けれど、遠くから見ると、みんなよく似ているように見えました。
でも、ブルーノは違いました。
ブルーノの体は、夜のように深い色をしていました。
体も大きく、足も太く、角も立派でした。
そして鳴き声も、ほかの牛たちとは違いました。
丘の牛たちが、
「モー」
と鳴くなら、ブルーノの声は、
「ブモォー」
と低く響きました。
ブルーノは、その声が嫌いでした。
夜のような体も。
大きな角も。
低すぎる声も。
ブルーノには、その全部が「違うもの」に思えました。
「ぼくは、あそこにいる牛たちと違う」
ブルーノは言いました。
「みんなには模様があるのに、ぼくだけない。みんなはやわらかい声なのに、ぼくだけ変な声だ。みんなと同じように立っていても、ぼくだけ目立つ」
ワイトは、何も言いませんでした。
ブルーノは続けました。
「ある日、子牛たちがぼくの鳴き声をまねしたんだ」
ブルーノの目が、少しだけ細くなりました。
「ブモォー。ブモォーって」
ワイトは、丘の上の子牛たちを見ました。
小さな牛たちが、草の上を跳ねるように走っていました。
「その時、みんなが笑った」
ブルーノは言いました。
「子牛たちも笑った。大きな牛たちも笑った。みんな、ぼくの声を笑ったんだ。ぼくの体を笑ったんだ。ぼくがみんなと違うことを、笑ったんだ」
ブルーノの足元に、波が届きました。
水は、ブルーノの足を濡らして、すぐに引いていきました。
「ぼくは、それから鳴くのをやめた」
ブルーノは言いました。
「鳴けば、また笑われる。歩けば、また見られる。群れの中にいれば、また比べられる。だから、丘を降りた」
ワイトは、ブルーノの体を見ました。
青い色は、上から塗られたようではありませんでした。
夜のように深い毛の奥から、少しずつ青がにじみ出ているようでした。
「ここには、誰も来ない」
ブルーノは言いました。
「海は笑わない。波も、ぼくを見ない。だから、ここにいる」
ワイトは、海を見ました。
海は静かでした。
けれど、どこまでも青く、どこまでも遠く、どこまでもひとりぼっちに見えました。
「ブルーノは、どのくらいここにいるの?」
ワイトが聞きました。
ブルーノは答えませんでした。
ただ、波を見ていました。
波が寄せて、返っていきます。
寄せて、返っていきます。
何度も、何度も。
「たぶん、ずっとだ」
ブルーノは言いました。
「最初は、一日だけのつもりだった」
一日だけ、丘を離れるつもりでした。
でも、次の日になると、戻るのが少し怖くなりました。
きっと、みんなはまた笑う。
きっと、いなくなったことも笑う。
きっと、戻ってきたことも笑う。
そう思うと、ブルーノは丘へ戻れませんでした。
また一日、海を見ました。
次の日も。
その次の日も。
ブルーノは、海の音を聞きながら、あの日の笑い声を何度も思い出しました。
ブモォー。
ブモォー。
子牛たちの声。
そのあとに聞こえた、みんなの笑い声。
一度思い出すたびに、ブルーノの体は少し青くなりました。
二度思い出すと、もう少し青くなりました。
三度思い出すと、青は胸のあたりまで広がりました。
何度も、何度も思い出しているうちに、ブルーノはすっかり青い牛になっていました。
「丘には戻らないの?」
ワイトが聞きました。
「戻らない」
ブルーノはすぐに言いました。
「どうして?」
「戻っても、同じだから」
「同じ?」
「ぼくの体も、声も、変わらない」
ブルーノは、自分の足元を見ました。
「みんなと違うものは、笑われるんだ」
ワイトは、しばらく黙っていました。
それから、ゆっくり立ち上がりました。
「どこへ行くんだ」
ブルーノが聞きました。
「丘へ」
ワイトは言いました。
ブルーノは、少しだけワイトの方を見ました。
「やめた方がいい」
「どうして?」
「みんな、ぼくのことを笑うから」
「ぼくは、まだ聞いていない」
ワイトは、丘の方へ歩き出しました。
「だから、聞いてくる」
ブルーノは何も言いませんでした。
ワイトは、丘へ向かって歩きました。
海辺の砂を抜け、短い草の道を通り、ゆるやかな坂を登っていきました。
丘の上に近づくと、牛たちがワイトに気づきました。
一頭の牛が言いました。
「見ない顔だね」
「ぼくはワイト。旅をしているんだ」
ワイトは言いました。
「ブルーノのことを聞きたい」
その名前を出すと、牛たちは顔を見合わせました。
一頭が言いました。
「ブルーノを見たのか?」
「海辺にいたよ」
ワイトが答えると、牛たちはざわざわしました。
「海辺にいたのか」
「ずっと探してたんだぞ」
「急にいなくなるから、びっくりしたんだ」
「怒ってるのかと思った」
「なにか嫌なことをしたのかな」
ワイトは、牛たちの顔を見ました。
誰も笑っていませんでした。
一頭の大きな牛が、困ったように言いました。
「あいつ、あの日からいなくなったんだ」
「あの日?」
ワイトが聞きました。
「子牛たちが、ブルーノの声をまねした日だよ」
別の牛が言いました。
「あれは、悪気があったわけじゃないんだ」
子牛の一頭が、耳を下げて言いました。
「ブルーノの声、大きくてかっこよかったから、まねしただけだよ」
別の子牛も言いました。
「遠くまで聞こえるから、すごいと思ったんだ」
大きな牛が続けました。
「みんなが笑ったのは、子牛たちが必死に低い声を出そうとして、変な顔になっていたからだ」
「ブルーノを笑ったのではないの?」
ワイトが聞きました。
牛たちは、そろって首を振りました。
「違うよ」
「ブルーノの声は、よく響く」
「雨の日でも聞こえる」
「迷った子牛を呼ぶ時は、あいつの声が一番頼りになる」
「深い色の体だって、遠くからすぐ分かるから助かるんだ」
一頭が、丘の端を見ながら言いました。
「でも、あいつは自分だけ違うことを、ずっと気にしていたのかもしれないな」
牛たちは、少し黙りました。
それから、別の牛が言いました。
「帰ってくればいいのに」
「草の柔らかい場所、まだ空いてるんだ」
「誰も使ってないの?」
ワイトが聞きました。
「ブルーノの場所だからな」
その牛は、当たり前のように言いました。
ワイトは、丘の端から海を見下ろしました。
青い海のそばに、小さくブルーノが見えました。
大きな体なのに、とても小さく見えました。
ワイトは丘を降りました。
海辺に戻ると、ブルーノは同じ場所にいました。
波を見ていました。
「聞いてきたよ」
ワイトが言いました。
ブルーノは、すぐには返事をしませんでした。
「やっぱり、笑ってただろ」
「笑っていた」
ワイトは言いました。
ブルーノの体の青が、また少し濃くなりました。
「ほら」
「でも、ブルーノを笑っていたわけではなかった」
ブルーノは、海を見たまま動きませんでした。
ワイトは続けました。
「子牛たちは、君の声をまねしたんだ。変だと思ったからじゃない。大きくて、遠くまで届く声だと思ったから」
「うそだ」
ブルーノは言いました。
「大きな牛たちは、子牛たちの顔を見て笑ったんだ。ブルーノの声を笑ったんじゃない」
「うそだ」
「丘の牛たちは、君を探していた」
「うそだ」
「草の柔らかい場所を、まだ空けていた」
ブルーノは、そこで初めてワイトを見ました。
「どうして」
「ブルーノの場所だから」
ブルーノは、何も言いませんでした。
波の音だけが聞こえました。
寄せて、返っていく音。
寄せて、返っていく音。
「ぼくは、戻れない」
ブルーノは言いました。
「どうして?」
「戻ったら、聞かなくちゃいけない」
「何を?」
「本当は、どう思っていたのか」
ブルーノの声は、さっきより小さくなっていました。
「もし、本当にぼくのことを変だと思っていたら、どうするんだ」
ワイトは言いました。
「その時は、悲しくなるね」
ブルーノは黙りました。
「でも、聞かないままだと、ブルーノはずっとここで、同じ笑い声を聞き続けることになる」
ブルーノは、海を見ました。
波は何度も戻ってきます。
けれど、ブルーノは丘へ戻れませんでした。
「ぼくも一緒に行くよ」
ワイトは言いました。
「一緒に?」
「うん」
「ぼくが笑われても?」
「その時は、ぼくも聞くよ」
「何を?」
「何を笑ったのか」
ブルーノは、長い間、黙っていました。
それから、ゆっくり立ち上がりました。
青い体から、砂が少し落ちました。
ブルーノは大きな牛でした。
立ち上がると、ワイトの何倍も大きく見えました。
けれど、その足は少し震えていました。
ブルーノは、一歩、丘の方へ進みました。
すぐに止まりました。
また一歩、進みました。
波の音が、少し遠くなりました。
砂の道を抜け、草の道に入り、丘の坂を登りました。
丘の上の牛たちが、ブルーノに気づきました。
子牛たちが先に走ってきました。
ブルーノは、びくっと体を固くしました。
子牛の一頭が言いました。
「ブルーノ」
別の子牛が言いました。
「どこ行ってたの?」
ブルーノは答えませんでした。
大きな牛たちも近づいてきました。
「海辺にいたんだってな」
「心配したぞ」
「戻ってきたのか」
その声は、ブルーノが想像していた声とは少し違いました。
笑っている声ではありませんでした。
責めている声でもありませんでした。
ただ、ずっといなかった牛に話しかける声でした。
ブルーノは、口を開きました。
けれど、声が出ませんでした。
鳴くのが怖かったのです。
また、あの声が出る。
また、笑われる。
そう思うと、喉が固くなりました。
ワイトが、ブルーノの足元に立っていました。
何も言いませんでした。
ただ、そこにいました。
ブルーノは、ゆっくり息を吸いました。
そして、小さく鳴きました。
「ブモォー」
低い声でした。
少しかすれていました。
長く使っていなかったので、前より少し不器用な声でした。
子牛たちは黙りました。
大きな牛たちも黙りました。
ブルーノは、体を固くしました。
次に来る笑い声を待ちました。
でも、笑い声は来ませんでした。
子牛の一頭が、目を丸くして言いました。
「やっぱり、ブルーノの声だ」
別の子牛が言いました。
「遠くまで聞こえるやつだ」
大きな牛が言いました。
「海まで届きそうだな」
その声に、からかう響きはありませんでした。
ブルーノは、何度かまばたきをしました。
「ぼくの声、変じゃないのか」
ブルーノが聞きました。
大きな牛は、少し考えて言いました。
「変わってはいるな」
ブルーノの体が少し固くなりました。
すると、その牛は続けました。
「でも、悪くはない」
別の牛が、ゆっくりと言いました。
「ブルーノ。お前が思っているほど、みんなはお前を悪く見ていないよ。たぶん、お前がいちばん、自分を悪く見ていたんだ」
ブルーノは、何も言えませんでした。
自分が思っていた言葉と、実際に聞こえてくる言葉が、あまりにも違っていたからです。
笑われると思っていました。
責められると思っていました。
戻ってきたことを、また馬鹿にされると思っていました。
けれど、丘の牛たちは誰も笑いませんでした。
子牛たちも、大きな牛たちも、ただブルーノを見ていました。
その目は、ブルーノが海辺で何度も思い出していた目とは違いました。
「でも……」
ブルーノは、ようやく声を出しました。
「ぼくは、みんなと違う」
大きな牛は、少しだけ首をかしげました。
「そうだな」
ブルーノは、また体を固くしました。
でも、大きな牛は続けました。
「違うな」
それから、丘の向こうを見ました。
「でも、みんな同じじゃない。模様も、歩き方も、声も、本当は少しずつ違う」
ブルーノは、丘の牛たちを見ました。
白いところが多い牛。
黒いところが多い牛。
片方の耳だけ黒い牛。
しっぽの先だけ白い牛。
今まで同じに見えていた牛たちは、よく見ると、少しずつ違っていました。
別の牛が言いました。
「白黒の牛ばかりの中に、お前がいると、遠くからでもすぐ分かる」
子牛の一頭が言いました。
「ブルーノの声は、大きいから遠くまで聞こえる」
別の子牛も言いました。
「だから、迷子になった時、ブルーノが鳴いてくれると安心する」
ブルーノは、自分の喉のあたりに力を入れました。
ずっと嫌いだった声。
隠したかった声。
出してはいけないと思っていた声。
その声を、誰かが安心すると言いました。
ブルーノは、うつむきました。
丘の草が、風に揺れていました。
海辺の草より、柔らかそうな草でした。
「ぼくは……」
ブルーノは言いました。
「ぼくは、ずっと海辺で考えていた」
誰も口を挟みませんでした。
「みんなが、ぼくを笑ったんだと思っていた。ぼくの体が違うから。声が変だから。みんなと同じじゃないから」
ブルーノの青い体が、少しだけ揺れました。
「でも、本当は……」
言葉が止まりました。
その先を言うのは、とても怖いことでした。
自分が間違えていたかもしれない、と口にすることは、笑われることよりも怖い時があります。
ワイトは、ブルーノのそばに立っていました。
何も言いませんでした。
ただ、そこにいました。
ブルーノは、もう一度、息を吸いました。
「本当は、ぼくがぼくのことを嫌いだったのかもしれない」
その言葉が出た時、丘の上が少し静かになりました。
風の音だけが聞こえました。
遠くで、波が寄せて、返っていく音も聞こえました。
大きな牛が言いました。
「そうかもしれないな」
ブルーノは、その牛を見ました。
大きな牛は、静かに続けました。
「でも、嫌いだったなら、少しずつでいいんじゃないか」
「何を?」
ブルーノが聞きました。
「慣れていけばいい。自分に」
ブルーノは、何も言えませんでした。
自分に慣れる。
そんなことを考えたことがありませんでした。
自分を変えなければいけないと思っていました。
みんなと同じにならなければいけないと思っていました。
高くもなく、低くもない、同じような声で鳴けるようにならなければいけないと思っていました。
でも、大きな牛は言いました。
自分に慣れていけばいい。
その言葉は、ブルーノの中にゆっくり落ちていきました。
子牛の一頭が、少し前に出ました。
「ブルーノ」
ブルーノは、その子牛を見ました。
「この前、まねしてごめん」
子牛は、小さく頭を下げました。
「馬鹿にしたんじゃなかったけど、いやだったなら、ごめん」
ブルーノは、しばらくその子牛を見ていました。
それから、小さく頷きました。
「うん」
それだけしか言えませんでした。
でも、それで十分でした。
別の子牛が、遠慮がちに聞きました。
「もう一回、鳴いてくれる?」
ブルーノは、驚いて顔を上げました。
「どうして」
「聞きたいから」
「笑わない?」
「笑わない」
子牛は、少し考えてから言いました。
「笑いそうになったら、がまんする」
それを聞いて、大きな牛たちが少しだけ笑いました。
ブルーノも、少しだけ口元を動かしました。
笑ったのかどうかは、自分でも分かりませんでした。
けれど、海辺でしていた顔とは違いました。
ブルーノは、ゆっくり息を吸いました。
そして、鳴きました。
「ブモォー」
低くて、太くて、少しかすれた声でした。
その声は丘の上を渡り、草を揺らし、牛たちの間を通り抜け、海の方まで届いていきました。
誰も笑いませんでした。
子牛たちは、目を丸くして聞いていました。
大きな牛たちは、静かに耳を動かしていました。
しばらくして、一頭の牛が言いました。
「やっぱり、いい声だな」
ブルーノは、下を向きました。
その言葉を受け取るには、まだ少し時間がかかりそうでした。
でも、逃げませんでした。
丘の上に、ブルーノがよく座っていた場所がありました。
柔らかい草が生えている場所でした。
ブルーノが海辺へ行ってからも、誰もそこを使っていませんでした。
ブルーノは、その場所へゆっくり歩いていきました。
一歩。
また一歩。
海辺にいた時より、足が少し重く感じました。
けれど、その重さは嫌な重さではありませんでした。
戻る時の重さでした。
ブルーノは、柔らかい草の上に座りました。
子牛たちは少し離れたところに座りました。
大きな牛たちは、また草を食べ始めました。
誰も大げさに喜びませんでした。
誰も泣きませんでした。
誰も抱きしめませんでした。
誰も、ブルーノを特別な牛のようには扱いませんでした。
ただ、一頭の牛が言いました。
「腹、減ってるだろ」
ブルーノは、少しだけうつむきました。
それから、草を食べました。
海辺の草より、ずっと柔らかい草でした。
ブルーノの体は、まだ青いままでした。
でも、その青は、海辺にいた時の青とは少し違っていました。
冷たい青ではありませんでした。
丘の風を含んだ青でした。
戻るのが怖かった足の青でした。
聞くのが怖かった声の青でした。
それでも、少しだけ自分に慣れてみようと思えた青でした。
ワイトは、その様子を見ていました。
すると、ワイトの胸の白いハートに、ほんの少し青がにじみました。
それは、寂しさだけの青ではありませんでした。
何度も聞き直してしまった笑い声の青。
確かめる前に、ひとりで閉めてしまった扉の青。
そして、誰かと一緒なら、もう一度戻れるかもしれないと思えた時の青でした。
フクはそこで、話をやめた。
空き地には、夕方の風が吹いていた。
いつの間にか、周りの音が少し静かになっていた。
僕は、フクの顔を見た。
「ブルーノは、悪くないよ」
僕が言うと、フクは頷いた。
「そうね」
「でも、牛たちも悪くない?」
「そうね」
「じゃあ、誰が悪いの?」
フクは少しの間、黙っていた。
それから言った。
「悪い誰かを探すと、青は濃くなるわ」
僕は意味が分からなかった。
「じゃあ、どうするの?」
「正体を見るの」
「正体?」
「その青が、どこから来たのかを見るの」
フクは、僕の胸のあたりをもう一度指さした。
「坊っちゃんの青も、きっと誰かが無理やりつけたものではないわ」
僕は少しだけむっとした。
「でも、笑われた」
「そうね」
「みんな笑った」
「そうね」
「僕のこと、変だって思った」
「それは、坊っちゃんがそう思ったのね」
フクは、否定しなかった。
でも、肯定もしなかった。
その間の場所に、言葉を置いた。
僕は何も言えなくなった。
フクは続けた。
「明日、坊っちゃんから話しかけてみるといいわ」
「誰に?」
「今日、笑った子に」
「いやだ」
「そう」
「また笑われる」
「そうかもしれないわ」
「じゃあ、いやだ」
「でも、違うかもしれないわ」
フクは、僕を見た。
「確かめないと、青は勝手に濃くなるの」
それだけ言うと、フクは立ち上がった。
「帰るの?」
僕が聞くと、フクは少しだけ首をかしげた。
「坊っちゃんがそう思うなら、そうね」
「また来る?」
「必要なら」
「明日も?」
「必要なら」
「フクねえちゃん」
僕がそう呼ぶと、フクは初めて少しだけ笑った気がした。
本当に笑ったのかは分からない。
けれど、その時の僕には、笑ったように見えた。
次の日。
僕は幼稚園に行きたくなかった。
お腹が痛いと言おうかと思った。
熱があると言おうかと思った。
でも、熱もなかったし、お腹もそこまで痛くなかった。
母に手を引かれて、僕は幼稚園に行った。
園庭には、昨日の子たちがいた。
僕は少し離れたところに立っていた。
その子たちは、僕を見ると手を振った。
僕は、手を振り返さなかった。
でも、逃げもしなかった。
それだけで、僕にはずいぶん大きなことだった。
しばらくして、またジャンケンをすることになった。
誰かが言った。
「いんじゃんで決めよ」
僕の胸が、少しだけ固くなった。
昨日の笑い声が戻ってきた。
いんじゃん、ほい。
じゃんけん、ぽい。
みんなが僕を見る。
みんなが笑う。
僕だけが違う。
そうなる気がした。
僕は、フクの言葉を思い出した。
確かめないと、青は勝手に濃くなるの。
僕は、手の中で指を握った。
昨日、園庭の隅でいじっていた砂の感触が、まだ爪の間に残っている気がした。
それから、小さな声で聞いた。
「いんじゃん、ほいって、なに?」
一人の子が、僕を見た。
そして、少し笑った。
昨日なら、その笑いだけで僕は逃げていたと思う。
でも、その日の笑いは、昨日より少し怖くなかった。
「ジャンケンやん」
その子は言った。
「大阪は、いんじゃんって言うねん」
「じゃんけんじゃないの?」
「じゃんけんでもええで」
別の子が言った。
「じゃあ、お前はじゃんけんでええやん」
「いっしょに出したらええねん」
誰かがそう言って、手を前に出した。
僕も、ゆっくり手を出した。
「いんじゃん、ほい」
みんなが言った。
僕は少し遅れて、小さく言った。
「じゃんけん、ぽい」
また、誰かが笑った。
けれど、その笑いは、僕を外に押し出す笑いではなかった。
少なくとも、僕にはそう聞こえた。
僕はグーを出していた。
相手はチョキだった。
「勝ったやん」
誰かが言った。
僕は、自分の手を見た。
グーの形をした、小さな手。
その手が、昨日より少しだけ、自分のものに見えた。
その日の帰り、僕はまた空き地に寄った。
フクは、そこにいた。
昨日と同じように、白いワンピースで、裸足で、ブロック塀の前に立っていた。
「話したよ」
僕が言うと、フクは頷いた。
「そう」
「いんじゃんって、ジャンケンだった」
「そう」
「笑われたけど、昨日と違った」
「そう」
「でも、まだちょっといやだった」
「それでいいわ」
僕はフクを見た。
「青、消えた?」
フクは僕の胸のあたりを見た。
それから、静かに言った。
「消えてはいないわ」
僕は少しがっかりした。
「消えないの?」
「すぐには消えないわ」
「じゃあ、だめじゃん」
「だめではないわ」
フクは、僕の隣にしゃがんだ。
「青は、悪いものではないの」
「でも、いやな気持ちだよ」
「いやな気持ちでも、悪いものとは限らないわ」
僕には、まだその意味が分からなかった。
フクは、僕の胸を指さした。
「坊っちゃんは今日、自分の青を少し見たの」
「見えないよ」
「見えなくても、見たの」
「分かんない」
「今は、それでいいわ」
フクは立ち上がった。
夕方の空は、昨日と同じような色をしていた。
でも、昨日より少しだけ、広く見えた。
青は、まだあった。
胸の奥に、小さく残っていた。
でも、その青は昨日のように、世界全部を塗りつぶしてはいなかった。
空は空で、ブロック塀はブロック塀で、植木鉢は植木鉢だった。
僕は、そのことに少しだけ安心した。
「フクねえちゃん」
「なに?」
「明日も、来る?」
フクは僕を見た。
「必要なら」
「必要だよ」
僕がそう言うと、フクは何も答えなかった。
ただ、いつものように、静かにそこに立っていた。
その時の僕は知らなかった。
それから二十五年もの間、フクが僕のそばにいることになるなんて。
そしていつか、フクの方から僕に別れを告げる日が来るなんて。
あの日の僕には、何も分からなかった。
ただ、ひとつだけ分かったことがあった。
笑われたと思った声も。
仲間外れにされたと思った沈黙も。
自分だけが違うと思った景色も。
その全部が、本当にそうとは限らない。
僕の胸に憑いていた青は、誰かが僕に塗った色ではなかった。
確かめる前に、僕が閉めてしまった扉の色だった。
その扉は、とても重かった。
けれど、少しだけなら、自分で開けることもできる。
そのことを、僕は四歳の終わりに、フクねえちゃんと青い牛から教わった。
END
ご覧いただきありがとうございます。
この作品『フクとイロの物語』は、連載小説です。
ただし、一話ごとに短編としても読めるように作っています。
今回の「青の色憑」は、主人公が初めてフクと出会い、自分の胸に憑いた“青”と向き合う物語でした。
物語が進むにつれて、主人公がなぜ大阪刑務所にいるのか。
フクとは何者なのか。
なぜ二十五年間も主人公のそばにいたのか。
そして、なぜフクは突然「あなたには、もう私は必要ないわ」と告げたのか。
その謎が、少しずつ明かされていきます。
イロイロ星で語られる色憑たちの物語は、どれも小さな寓話です。
けれど、そのひとつひとつが、主人公の人生や、フクとの記憶につながっています。
気軽に読める。
でも、読み終えたあとに少しだけ心に残る。
そんな物語を目指して書いています。
次の色憑の物語も、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。