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倀札の぀いた人生―グルメ・リポヌト線―『明日は、もっず、いいもん食おう』#

    第話「回る、皿」

    䞖界を救った翌朝、俺たちは二人そろっお無職になった。人生に倀段が぀かなくなった䞖界で、必芁なのは金ず飯。だから俺たちは未来から東京ぞ飛び、“うたい”を売っお食っおいく。


    曞庫の倩井には、星があった。

    正確には、星じゃない。人類がこれたでに憶えた蚘憶の、ひず粒、ひず粒が、暗闇に無数に瞬いおいる。その䞋で、九条が、巚倧なスクリヌンを芋䞊げおいた。

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    「芋たたえ。昚日のそば。――反響が、すごい」

    画面を、未来の芖聎者の声が流れおいく。

    『口の䞭が、勝手に濡れた。これは、䜕の珟象だ』

    『“うたい”ずいう感芚を、思い出した気がする』

    『あの黒い汁を、探しおいる。どこで飲める』

    「みんな、よだれの出し方を、忘れおたんだな」ず、ナナ。

    「思い出させた、っおわけだ」九条が頷いた。「灰街でも、ひずり、屋台を開けた者がいる。だしの匂いが、久しぶりに街角に立ったそうだ」

    灰色のあの街に、湯気が戻り始めおいる。俺たちのたった䞀杯が、䜕かをほんの少し溶かしたのかもしれない。

    「で」ず、俺。「芖聎数は」

    九条の肩が、ぎくり、ず跳ねた。

    「  たあたあ、だ。そこそこ。ほどほど、だね」

    「数字を、蚀え」

    「蚀うほどのものじゃ、ないさ。ほら、今日の経費」

    九条が、硬貚を数枚寄越した。

    俺の目が、勝手に起動する。“査定――芖聎者の反応の芏暡。察しお、この報酬――”

    「  少なすぎる」

    「気のせいだ」

    「桁が、二぀。いや、䞉぀、合わない」

    「ぜんぜん、合っおる。誀差だよ、誀差。四捚五入の範囲だ」

    その時。スクリヌンの隅で、数字がぐるぐる跳ね䞊がっお、ずんでもない桁になっおいた。

    九条が、ぱっ、ず袖で隠した。「いやあ。人類のためだ。金なんお、僕は二の次でね」

    そしお、小声で。「――初回で、この䌞び  ふふ、悪くない  これは、化けるぞ  」

    「聞こえおるぞ」ず、ナナ。

    「気のせいだ」

    ナナが、にやり、ずしお、俺の脇腹を肘で突いた。「レむ。あい぀、絶察、儲けおる」

    「査定の結果も、そう出おいる。確床、九割八分」

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    「人聞きの、悪い!」九条が、わざずらしく咳払いをした。「さあ! 次のダむブだ。今日の店は――皿が、回っおる」

    「皿が  回る? なぜ、回す。意味が――」

    「行けば、わかる。ほら、座っお。いっおらっしゃい!」

    こめかみに、冷たいケヌブルが挿さる。露骚に話をそらしたな。九条の指が、操䜜卓を叩いた。䞖界が、暗転する。

    最埌に、ちらっず芋えた。九条の顔が、にんたり笑っおいた。


    次に目を開けるず、ベルトコンベアの䞊を、皿が回っおいた。

    ぐるり。ぐるり。寿叞を乗せお、果おしなく回っおいる。

    「  ナナ。皿が、回っおいる」

    「だから、蚀ったろ」

    目の前を、たぐろが流れおいく。えびが流れおいく。そしお、その皿には、色が぀いおいた。赀。金。黒。

    俺の目が、かちり、ず起動した。

    「――わかったぞ。皿の色。あれは、倀段だ。赀が安い。金が高い。店が色で䟡倀をランク付けしおいる」

    「  たあ、そうだけど」

    「これは、ラむフマヌケットず同じ構造だ。人生にランクを぀けた、あの垂堎ず――」

    「同じじゃ、ねえよ」

    ナナが、俺の埌頭郚をはたいた。

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    「向こうは、勝手に倀札を貌られる。こっちは、奜きな皿を自分で取る。逆だ」

    「  逆?」

    「お前が、遞ぶんだよ。誰にも決められず。食いたいものを、奜きなだけ」

    俺は、黙った。回るレヌンが、さっきず違っお芋えた。


    その時。目の前を、新幹線が走った。

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    「  ナナ。寿叞が、新幹線に乗っおきた」

    「特急レヌンだよ。あの端末の画面で頌むず、届く」

    「すごい。完党に自動化されお――」

    「いいから。䜕が食いたいかで、遞べ」

    食いたい、もの。食いたい、もの。

    「  わからない。“食いたい”で遞んだ履歎が、ない」

    ナナが、ふっず笑っお、画面を぀぀いた。「じゃあ、気になったや぀、党郚頌も。それで、わかる」

    卓䞊に、緑の塊があった。

    「これは」

    「わさび。少し、぀けろ」

    「“少し”が、わからない。基準倀を――」

    俺は、海老をずっお、たっぷり塗った。口に入れた。

    瞬間。錻の奥が、爆発した。

    「――っ、!?」

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    「だから、少しっお、蚀ったろ!」

    涙目の俺の前で、ナナが腹を抱えお笑った。こんなに笑うナナを芋るのは、初めおだった。

    がりを攟り蟌む。じんわり、蟛さが匕いおいく。

    「  この生姜。無料か」

    「お代わり、自由だよ」

    「無料。無制限。――このシステムは、評䟡できる」

    「お前、がりで腹、膚らたすな」


    「で。次の寿叞は」ず、ナナ。「どれ、取る」

    「赀い皿が、コスパ最良。原䟡率を考えるず――」

    「金の皿、取れよ」

    「华䞋。費甚察効果が、悪い」

    ナナが、ため息を぀いお、流れおきた金の皿に、すっず手を䌞ばした。うに、だった。

    「黙っお、口、開けろ」

    無理やり、抌し蟌たれた。

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    身構えおいた。俺が知っおいる海の味は、真空パックのツナマペだけだ。封を切っおも、い぀も同じ。冷たくお、均䞀で。

    でも、これは、ぜんぜん違った。

    舌に觊れた瞬間、぀めたい。けれど、生きおいる冷たさだ。噛む必芁もない。ほろり、ず厩れお、舌の䞊でずろけおいく。

    そしお――銙りが来た。錻の奥ぞ、朮の匂い。獲れたおの海が、たるごず駆け抜けおいく。

    ずろけたあずに、ねっずりず甘い。砂糖の甘さじゃない。呜の甘さ、だった。

    “査定――この金の皿の――”

    浮かんだ数字を、俺は自分で握り぀ぶした。

    「  うたい」

    二十四幎、ツナマペを食っおきお、俺は知らなかった。海が、こんなに甘い匂いをするなんお。

    「だろ」

    ナナが、にやりずしお、赀い皿のいわしを寄越した。

    銀色の皮が、灯りをはじいお光っおいる。その䞊に、おろし生姜ず、刻んだねぎ。

    䞀貫、口ぞ攟り蟌む。

    うにずは違った。今床は、脂だ。きゅっずしたった身から、柄んだ脂が、じゅわりずにじみ出す。生臭さは、たるでない。生姜が、぀ん、ず錻を抜けお、ねぎのしゃきっずした銙りが远いかける。そのあずに、いわし本来の青いうたみが、ふわっず広がった。

    安い、赀い皿のくせに、口の䞭がいっぺんに海になった。

    「  これも、うたい。倀段ず関係なく、うたい」

    蚀っおから、はっずした。

    赀でも、金でも、うたいものはうたい。色なんか、関係なかった。

    「  ナナ。俺、今」

    「気づいたか」

    ナナが、湯のみを䞡手で包んで笑った。「倀段で決たらないんだよ。うたいかどうかは。――どの皿も、その䞀貫の味で勝負しおる」

    胞の奥が、熱くなった。指先が、ちらり、ず明滅する。

    「レむ」

    すかさず、ナナが名を呌んだ。「ここに、いる」

    明滅が、止たる。

    「  お前。名前、呌ぶの、早すぎ」

    「お前が、すぐちら぀くからだろ。手のかかる男だ」


    俺たちは、皿を積んだ。赀。黒。金。たた、赀。色はばらばら。ただ、ぜんぶ「食いたいから」取った。それだけ。

    ポケットの硬貚を出す。九条の、ケチな経費。

    「これ、絶察、あい぀、ピンハネしおる」ず、ナナ。

    「査定では、そう出おいる」

    腹が満ちお、䞖界がゆるみ始める。

    「次は、決めおない」ナナが、䌞びをした。「明日の気分で決める。――うたいもん食っお、あったかい堎所で寝お、明日、たた考える」

    そんな生き方があるこずを、俺は二十四幎、知らなかった。

    明日は、もっず、いいもん、食おう。

    䞖界が、癜くがやけおいく。舌に、ただ金の皿の味が残っおいた。

    そしお、たぶん、曞庫の向こうで。九条が今日も、こっそり、にんたり笑っおいる。

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    第話・了

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    番倖線では、䞖界を救ったあずのレむずナナが、“うたい”を探す旅に出たす。けれど本線で圌らが壊したのは、人生そのものに倀段を぀け、人を蚘憶ごず消す残酷な䞖界でした。レむずナナがなぜ出䌚い、䜕を倱い、䜕を遞んだのか――二人の始たりが気になった方は、本線ぞどうぞ。


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    誰かに぀けられた倀札や数字から心をほどき、日垞に埋もれた小さな幞犏をすくい䞊げる物語を曞いおいたす。

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