40年越しに、またベースを弾き始めた話 ― Stingに憧れていた高校生が、ついに「MC940」を手にするまで ―
高校時代、私は友人たちとバンドをやっていた。
当時コピーしていたのは、LED ZEPPELINやU2なんかもやったが、メインは THE POLICE。
もちろん、私が憧れていたのはバンドのフロントマン、Stingだ。
独特の"間"、フレーズ。
シンプルなのに存在感のあるベースライン。
歌いながら弾いているのに、なぜあんなにうまいのか。
高校生だった私は、完全に夢中になっていた。
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私が当時使っていたベースの一本が、IbanezのMC924だった。
いわゆる「Musician」シリーズ。

メイプルとウォルナットを惜しげもなく何層も重ねたスルーネック、真っ黒なエボニーの指板、マホガニーとアッシュのトップバックのボディの美しい木目、ブラス削り出しの堅牢なブリッジ。
いまとなっては少し考えにくいくらい贅沢なつくり。
だから非常に重く、硬派で、FenderやGibsonにも負けない、という気概を感じる、いかにも“70〜80年代の日本製”という雰囲気のある楽器だった。
ただ、その頃の私にとってStingが使用していた(と思っていた)フレットレス版であるMC940は特別な存在だった 。
※ちなみにStingが使用していたIbanezのダークステインのフレットレスベースはMC940ではなく、MC900のフレットレス版
Stingが実際に使用したMC940は、メイプル指板でナチュラル仕上げのモデル
同じMusicianシリーズでも、924よりさらに上位。
タマも少なく、924もだったが、当然ながら高価で簡単には買えない。
だから当時の私にとって940は、
「いつか欲しいベース」
のままだった。
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それから40年以上経った。
不思議なもので、長く弾いていなかったはずなのに、 ある時からふたたび、高校時代の仲間たちとスタジオへ入ることになった。
最初の頃は、後年手に入れた、Fender Jazz Bassを弾いていた。
何度か音を出しているうちに、 昔の感覚が少しずつ戻ってきた。
すると、頭の中でずっと鳴り始める音があった。
やっぱり、あの頃の、私のイメージ通りのStingの音に近づきたい。
そう思ってしまったのだ。
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そこから、再びMusicianシリーズが気になり始めた。
まず手に入れたのは、かつて使っていたMC924だった。
40年近く経って、もう一度同じベースを持つ。
それだけでも不思議な感覚だった。
でも、それで終わらなかった。
高校時代に手が届かなかったMC940が、 どうしても気になり始めたのだ。
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実際に手にしてみると、驚いた。
もちろん924も素晴らしい。
でも940は、さらに独特だった。
押弦する、というより、
“触る”
ような感覚。
フレットという「境界線」がない分、自分の指先の微細なニュアンスがダイレクトに音の波になって返ってくる。
1980年製のこの楽器は、40年以上の歳月を経て木材が完全に乾ききっているせいか、驚くほど鳴りが深く感じる。
ネックのバランスや反応も含めて、 とにかく弾いていて身体が自然に動く。
うまく言葉にしづらいのだけれど、
「演奏させてくれる楽器」
のような感覚があった。
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一方で、最近はフジゲンのプレシジョンベースタイプのフレットレスも弾いている。
これも結局、Stingへの憧れから来ている。
THE POLICE初期のライブなんかで聴く、 あの独特なフレットレスのFenderプレシジョンベースの音。
私が手にしたフジゲンのカスタムメイドと思われる個体も、そのStingのPBを彷彿とさせる、美しい木目のアルダーボディ、メイプル指板・ネックの1本だ。

音のニュアンスも、かなり好みに近い。
でも、もちろん同じ音にはならない。
でも、あの空気感へ少しでも近づきたい。
たぶん今でも、その感覚を追いかけているのだと思う。
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面白いのは、そこから少しずつ演奏への興味も広がってきたことだ。
最初はTHE POLICEをもう一度やりたかった。
でも、スタジオへ入り、ベースを弾き、リズムを感じているうちに、
「せっかくなら、ジャズやファンクのセッションにも参加してみたい」
と思うようになってきた。
ベース演奏ではロック一辺倒だった私が、そこまで意識していなかったグルーヴや音の隙間、 リズムの気持ちよさが、 今になって少しずつわかるような気がしている。
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若い頃の憧れを、 歳を重ねた今の身体で、もう一度弾き直している。
私は今、 単に昔を懐かしんでいるわけではない。
気のおけない仲間やすばらしい楽器のおかげで、あの頃には見えていなかった音楽の面白さを、 もう一度ゆっくり拾い集めているのだと思う。
