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小さな酒場の大きな秘密 |エンタメ小説|【創作大賞2026】【エンタメ原作部門】第5章

    夫婦で営む実在する小さな居酒屋。そこには、地球を守る常連客たちの“もう一つの顔”が隠されていた。

    あらすじ

    町の片隅にある、夫婦で営む昔ながらの実在する居酒屋「きぶん家」。

    大将の手料理、女将の笑顔、常連客たちの他愛ない会話。
    そこは、誰もがほっと息をつける、どこにでもありそうな小さな酒場だった。
    しかし、その店には誰にも知られていない“もう一つの顔”がある。
    常連客たちは、ただの酔客ではない。
    大将も女将も、ただの店主ではない。

    彼らは、地上と地下世界をつなぐ秘密を守り続ける、名もなきスパイ団だった。地下深くには、古くから地球を支えてきた文明「地下帝人」が存在している。だが今、人の悲しみや恐怖に引き寄せられる“影”の勢力が、再び地上へ忍び寄ろうとしていた。

    何も知らず「きぶん家」を訪れた夫婦・のりとてつは、常連客たちの不思議な行動、店の奥で起こる異変、そして地下世界から迫る脅威に巻き込まれていく。

    やがて明かされる、きぶん家の正体。
    日常のすぐ裏側に隠されていた、地球をめぐる戦い。
    そして、普通の人間だと思っていた自分たちの中に眠る「共鳴の力」。

    これは、特別なヒーローだけが世界を救う物語ではない。

    誰かを想う気持ち。
    隣にいる人を信じる力。
    ささやかな日常を守りたいという願い。

    その小さな想いが、世界の運命を動かしていく。
    小さな酒場から始まる、静かで熱い新感覚スパイ小説。

    あらすじ

    第5章 目覚めの共鳴

    夕方。
    二人は結局また「きぶん家」の暖簾をくぐっていた。

    つね「いらっしゃい!今日も待ってたわよ」
    大将「おう、座れ。ちょうどいい頃合いだ」

    のり「え、頃合い?」
    てつ「な、なんの?」

    蒲谷が低く答えた。
    蒲谷「『影』はすでに動き出している。
    日常に紛れて、もうすぐここにも顔を出す」

    リカは笑顔で肩を叩く。
    リカ「大丈夫。怖くても笑えばいいの。笑いは影に効くから」

    奈月は静かにギターを弾く。
    奈月「始まるよ。『戦い』がね」

    きみは盃を掲げながら、さらりと言った。
    きみ「出汁巻き玉子の日は『構える』合図。
    でも今夜は『肉じゃが』。これは『集まれ』の合図よ」

    のり「集まれ?」
    てつ「ほんまに料理で暗号回しとったんかい!」
    きみ「ふふ。冗談みたいだけど、日常に紛れるものほど強い暗号はないの」

    その瞬間、階段の奥から「ドンッ」と地鳴りが走った。
    盃の水面が大きく波紋を描き、天井の灯りが震える。

    シゲ「来やがったな!」
    ミサ「香りを! 揺らぎを和らげるのよ!」
    久栄「境目を閉じるでも今夜は強い」
    神尾「音が割れるイノ!」

    イノが立ち上がり、深い声を響かせた。
    イノ「恐れるな。灯りを絶やすな!」

    大将「全員、構えろ! きぶん家は戦場だ!」

    盃が一斉に掲げられる。
    その音と笑いと歌が、影に抗う結界となった。

    のりとてつはただ席で息を呑む。
    だが胸の鼓動は、確かに仲間たちと揃っていた。

    これが、『戦いの始まり』だった。

    階段の奥から、黒いざわめきが押し寄せた。
    形を持たぬはずの影が、まるで墨を垂らしたように床へ広がり、畳を飲み込もうとする。

    のり「っ!」
    てつ「ほんまに出てきよった!」

    盃の水面は激しく波紋を描き、店の灯りが不規則に明滅した。

    大将「全員、響きを合わせろ!」

    シゲが最前に立ち、腕を広げて壁のように構える。
    シゲ「筋肉は盾だ! 俺が通さない!」

    ミサが香を焚き、甘い煙が黒い影に重なる。
    ミサ「匂いを乱して、影の輪郭を散らす!」

    奈月がギターの弦をかき鳴らす。
    奈月「影よ、声で砕け!」

    リカが笑顔で両手を広げる。
    リカ「笑って! 口角を上げれば、闇は退くんだから!」

    のぶゆきは水面の揺れを読み取る。
    のぶゆき「三方向から来てる! 右が一番速い!」

    蒲谷「全員、視線を逸らすな! 恐怖を映すな!」

    久栄がふっと姿を消し、次に現れた時には影の背後に立っていた。
    久栄「見られていると思えば、奴らは形を保てない」

    神尾が盃を弾き、澄んだ音を放つ。
    神尾「響け!」

    そこにイノが低く声を重ねる。
    イノ「音を拾い、無音を塞ぐ!」

    二つの音が重なり、店内に透明な波紋が広がった。

    肥塚が全体を見渡し、短く声を発する。
    肥塚「調停左を押しすぎだ、バランスを戻せ! 揃えろ!」

    中里がすぐに応じる。
    中里「心を合わせて! 迷いは隣に渡せ!」

    その声に呼応するように、全員の呼吸がひとつに揃った。

    大将「盃を掲げろ!」
    つね「笑って、飲んで! それが一番強いのよ!」

    全員が一斉に杯を合わせる。
    カチン!

    盃の音が結界を広げ、きぶん家全体を覆う巨大な円となった。

    のりとてつはただ座っているだけなのに、胸の奥から強い震えが広がっていった。
    恐怖で震えているはずなのに、その震えは仲間の声や音と溶け合い、一定のリズムに変わっていく。

    のり「怖いのに、泣きそうなのに体が揃っていく!」
    てつ「俺もや心臓が、みんなと一緒に鳴っとる!」

    リカがちらりと二人を見て笑った。
    リカ「ほら、もう立派な『共鳴手』の顔になってる」

    階段の奥からの黒いざわめきが、次第に弱まっていった。

    香と歌と笑いと音すべての響きに押され、影はゆらゆらと後退する。

    イノ「退くぞ。今夜は『試し』だった」
    肥塚「だが次は、本気で来る」

    最後にひときわ大きなうねりが走り、影は階段の奥へと吸い込まれて消えた。
    店内に残ったのは、酒と料理の匂いと、張り詰めた余韻だけだった。

    大将「よし、結界は保ったな」
    つね「はいはい、おつかれさま。影なんかより、このオムライスの方が強いんだから!」
    シゲ「お前、どんな理屈やでもうまそうだな」

    笑い声が再び広がり、緊張はゆるやかにほどけていく。

    のりとてつは、胸の鼓動がまだ仲間と揃っているのを感じていた。
    もはや「ただの客」ではいられないその実感が、静かに芽を出していた。

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    小さな酒場の大きな秘密 登場人物

    続きはこちらから 第6章 きぶん家からの出撃


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