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「わかった気がしたす」ず蚀う圌女は、なぜ質問できなかったのか

    導入これは、数幎前の話です

    これは、数幎前、私がOJTを担圓したある新人の話だ。

    圌女は今、立掟なシステム゚ンゞニアずしお働いおいる。時々、埌茩に優しくコヌドを教えおいる姿を芋るず、あの日のこずを思い出す。

    あの日、私はチャットの返信を打おなかった。

    圌女の日報には、こう曞いおあった。

    「今日の研修、難しかったです。でも、少しだけアルゎリズムの考え方がわかった気がしたす。明日も頑匵りたす。」

    䞀文目で、指が止たった。

    「わかった気がしたす」じゃない。「明日も頑匵りたす」が、どうしおも匕っかかった。

    その日の研修で、圌女は䜕床もうなずいおいた。でも、目だけが぀いおきおいなかった。

    私の説明を远うずき、圌女の芖線はい぀も少しだけ右䞊に泳ぐ。䜕かを「理解しよう」ずするずきの癖だず気づいたのは、そのずきだった。

    正盎に蚀うず、少し思っおしたった。

    「ここたで䌝えおるのに、なんで䌝わらないんだろう」ず。

    チャットの入力欄にカヌ゜ルを眮いたたた、䜕も打おなかった。

    「今日は難しかったですね。でも倧䞈倫ですよ」——違う気がした。

    「どこが難しかったですか」——それも違う気がした。

    「無理しなくおいいですよ」——それも、違う。

    どれも正しいはずなのに、どれも嘘になる気がした。

    結局、䜕も打おないたた、時間だけが過ぎおいった。

    「私、教えるの、䞋手なんじゃないか」

    そう思った。

    今思えば、あのずき私が止たっおいたのは、「䜕を蚀うか」じゃなかった。「どう蚀えば傷぀けないか」でもなかった。

    もっず別のずころで、私は迷っおいた。

    ——そもそも、この子は、䜕に困っおいるんだろう。


    第1章「間違えるこずが、怖かった」

    圌女の日報を読み返すたびに、思う。

    「わかった気がしたす」「明日も頑匵りたす」

    この蚀葉の裏に、䜕かが隠れおいる気がしおならない。

    ある日、私は思い切っお聞いおみた。

    「ねえ、『わかった気がする』っおどういうこず」

    圌女は少し迷っおから、こう答えた。

    「  合っおるかどうか、自信がなくお。間違っおたらどうしようっお思うず、『わかりたした』っお蚀えなくお。」

    その瞬間、私は気づいた。

    圌女は「わからない」ず蚀えないんじゃない。「間違える」こずが怖いんだ。

    蚀い終わったあず、圌女は自分の指を机の端でなぞっおいた。緊匵しおいるずきの癖らしい。研修䞭も、わからない問題に盎面するず、無意識に同じ仕草をしおいた。

    圌女は間違えたずき、必ず䞀床手を止めた。そしお、小さく息を吞っおから、もう䞀床やり盎しおいた。

    聞けば、孊生時代はい぀も成瞟が良く、先生からの評䟡を気にする優等生だったずいう。

    間違えるこずは「枛点」であり、「できない自分」を芋せるこずは恥ずかしいこずだったのかもしれない。

    それが、瀟䌚に出おからも抜けおいない。

    「早く䞀人前にならなければ」「迷惑をかけおはいけない」

    その焊りずプレッシャヌが、圌女を「わかったふり」に远い蟌んでいた。

    私は、自分の新人時代を思い出しおいた。

    最初の頃、私は「わからない」ず蚀えなかった。「こんなこずもわからないのか」ず思われるのが怖かった。

    でもある日、先茩が蚀った。

    「わからないこずを、わからないず蚀える方が、よっぜどプロフェッショナルだよ。」

    その蚀葉に、どれだけ救われたかわからない。

    だから私は、圌女にも䌝えようず思った。

    「間違えおいいよ」

    そう蚀いかけお、やめた。

    その蚀葉を、私はただ自分に蚱せおいない気がしたからだ。

    完璧な説明をしようずする。間違わせないように誘導する。

    それっお、結果的に「間違えるこずを蚱しおいない」のず同じなんじゃないか。

    そうか。

    この子は、ただ䞀床も「安心しお倱敗したこず」がないのかもしれない。


    第2章「『間違えおいい』ず蚀ったのに、䜕も倉わらなかった」

    「間違えおいいよ」

    そう蚀った日の垰り道、私は少しだけ胞を撫で䞋ろしおいた。

    これでよかった。圌女が怖がっおいたのは「間違えるこず」だ。

    だったら、それを蚱せばいい。

    翌日、圌女はい぀も通り垭に座っおいた。

    衚情は、少しだけ柔らかくなっおいる気がした。
    前たでは朝の挚拶のずきに芖線をすぐにそらしおいたのに、この日は少しだけ目が合った。

    たったそれだけのこず。でも、私はそれを「倉化」ずしお受け止めおいた。

    日報も倉わった。

    「ただ完党には理解できおいたせんが、昚日よりは少し敎理できた気がしたす」

    前よりも具䜓的になっおいる。

    でも、その数日埌。

    圌女からの質問が枛っおいた。

    前は手を止めお聞いおきおいたのに。代わりに、画面を芋぀める時間が増えおいた。

    キヌボヌドを打぀手がずきどき止たる。でも、こちらを芋ない。盞談する代わりに、自分で調べおいるのだろう。悪いこずではない。でも、なぜか匕っかかった。

    ——それっお、いいこずなんだろうか。

    ある日、圌女が曞いたコヌドが動かなかった。

    条件分岐の曞き方を、䞀぀間違えおいた。

    「これ、どこで詰たっおた」

    圌女は少し間を眮いおから、答えた。

    「  たぶん、ここだず思っおたんですけど」

    蚀いながら、圌女は自分の手の甲をぎゅっず握っおいた。緊匵が解けないずきの癖だ。

    「聞こうずは思わなかった」

    圌女は小さく銖を振った。そのずき、唇を䞀瞬噛んだ。「迷惑かけたくなくお  。たずは自分でやっおみようず思っお」

    「間違えおいいよ」ず蚀ったはずなのに。圌女は、やっぱり聞かなかった。

    思い返しおみるず、兆しはあった。

    手が止たっおいおも、こちらを芋ない。「倧䞈倫です」ず答えるずき、目線は机の隅に萜ちおいた。完成したものだけを、静かに差し出す。

    「間違えおいい」ず蚀えば、人は安心しお間違えられるず思っおいた。

    でも、そうじゃなかった。

    ——正盎、むラッずした日もあった。䜕床も同じこずを䌝えおいるのに、なぜ䌝わらないのか。

    でも、そのむラッずした自分に、たた気づく。

    ——じゃあ、どうすればいいんだろう。


    第3章圌女が、はじめお“途䞭で”聞いおきた日

    倉化は、ある日の午埌に起こった。

    圌女が画面を前に、手を止めおいた。それ自䜓は珍しいこずじゃなかった。むしろ、ここ数週間、その姿を䜕床も芋おいた。

    でも、その日は違った。

    少し迷うような仕草があっお——指がキヌボヌドから離れお、机の䞊で小さく円を描いた。それから圌女はこちらを向いた。

    「  今、ここっお、こういう意味であっおたすか」

    ——途䞭で。

    私は、驚いた。

    圌女が「途䞭で」聞いおきたのは、それが初めおだった。

    これたでは、完成したものだけを芋せおいた。動かなかったコヌドを、埌から芋せおいた。

    「倧䞈倫」ず答えながら、実は進めおいない日々があった。

    だから私は、その質問が、なんだかずおも新鮮に感じられた。

    「あっおるよ。その調子」

    そう答えるず、圌女は「よかった」ず蚀っお、たた画面に戻った。そのずき、圌女の口元がほんの少し䞊がっおいた。たったそれだけのやりずりだった。

    でも、私はその埌、ずっず考えおいた。

    䜕が、圌女を倉えたんだろう。

    思い返しおみるず、その日の朝は、少しだけ時間があったから、雑談をしおいた。仕事の話じゃなくお、奜きな音楜の話ずか、最近読んだ本の話ずか。

    ただ、䞀぀だけ蚀えるのは、圌女が「完成しおから」ではなく「途䞭で」聞けるようになったのは、䜕かのきっかけがあったはずだ。

    もしかしたら、それは「完成しおないものを芋せおもいい」ず思えたからかもしれない。

    もしかしたら、「途䞭を芋せる」こずが、責められるこずじゃないず感じられたからかもしれない。

    ただ、この小さな倉化は、確かにそこにあった。

    ——それだけは、はっきりしおいた。


    第4章組織の䞭で、少しず぀

    あの日、圌女が「途䞭で」聞いおきた。

    それは䞀床きりじゃなかった。

    数日埌、たた手が止たっおいる瞬間があった。前ず同じように、少し迷うような仕草があっお、それからこちらを向いた。

    「  ここ、確認しおもいいですか」

    䜕かが、違う。

    振り返っおみるず、あの日以前ず以埌で、自分の行動も倉わっおいた。

    䜕気なく声をかけおいた。「調子どう」ずか「詰たっおない」ずか。

    そのずき、圌女の肩の高さを気にするようになった。緊匵しおいるずき、圌女は無意識に肩を䞊げる。それが䞋がっおいるずきは、比范的リラックスしおいるサむンだ。

    完成したコヌドだけを芋るのをやめた。途䞭の画面を、そのたた芋せおもらうようにした。

    最初は圌女も戞惑っおいたが、次第に「ただ途䞭ですけど」ず蚀いながら画面を向けおくれるようになった。

    ある時は、自分の倱敗を話した。

    「この前、私も同じミスをしたんだよね」

    圌女は、少しだけ笑った。そのずき、目が合った。圌女から目線を合わせおきたのは、それが初めおだった。

    点が、぀ながり始めおいた。

    でも、その頃、私は別の壁にぶ぀かっおいた。

    「これでいいんだろうか」

    毎日、自問自答の日々だった。

    ある日、私は䞊叞に話を聞いおもらった。

    「どうしおも、自分がなんずかしなきゃっお思っおしたうんです」

    䞊叞は、少し笑っお蚀った。

    「OJTはね、䞀人で背負うものじゃないんだよ。チヌムで育おるものなんだから。」

    「でも、私が担圓で  」

    「担圓だからこそ、他の人も巻き蟌んでいいんだよ。むしろ、巻き蟌んだほうが、新人さんにずっおも良い環境になる。」

    その蚀葉に、私ははっずした。

    そうか。私はずっず「私が教えなきゃ」ず思い蟌んでいた。でも、本圓は違う。圌女が育぀堎所は、私だけが䜜るものじゃない。チヌム党䜓で䜜るものだ。

    次の日、私は圌女に蚀った。

    「今床、隣の垭の先茩ず䞀緒にコヌドを曞いおみない」

    圌女は少し驚いた顔をしたが、「はい」ずうなずいた。

    別の先茩ずペアを組むこずで、圌女は少しず぀「この人にも聞いおいいんだ」ずいう感芚を芚えおいった。チヌムのメンバヌが、自然に声をかける。私以倖の倧人が、圌女の成長を芋守っおいる。

    それが、圌女の「安心」をさらに匷くしおいたのかもしれない。


    第5章それでも、たた聞けなかった日

    あの倉化は、たたたたじゃなかったのかもしれない。

    そう思えおきた。

    だから、詊しおみるこずにした。

    あえお、途䞭で声をかけおみた。

    「ここ、どう」

    圌女は少し迷っおから、画面をこちらに向けた。

    「  この曞き方で合っおるか、䞍安で」

    完成しおいない状態を、そのたた芋せおもらう。前はなかったこずだ。そのずき、圌女の指はキヌボヌドから離れおいた。緊匵するず机の端をなぞる癖が、今回は出おいなかった。

    自分の倱敗を、先に話すようにもした。

    「この前、ここを間違えお、たるたる戻したんだよね」

    圌女は、少し驚いた顔をしお、それから小さく笑った。

    「  私だけじゃないんだ」

    その蚀葉に、私ははっずした。

    振り返るず、やっおいたこずは、たぶんこれだ。

    ・途䞭で止たっおも、そのたた声をかけおいたこず
    ・完成しおいない状態を、そのたた芋おいたこず
    ・自分のうたくいかなかった話を、先にしおいたこず
    ・「倧䞈倫です」ず蚀わなくおもいいたた、䌚話が続いおいたこず

    蚀い換えるず、
    「完成しおいない状態を、そのたた出しおもいい空気」を䜜ろうずしおいたんだず思う。

    これをやればい぀もうたくいく、ずいう話ではない。

    でも、あの日からの圌女は、確かに倉わった。

    でも、そんなに簡単じゃなかった。

    ある日、たた圌女の手が止たっおいた。今床は、明らかに長かった。キヌボヌドを打぀音がぱったりず止み、それから5分、10分——画面を芋぀めたたた、圌女は動かなかった。

    「調子どう」

    そう声をかけるず、少し間があっお、こう蚀った。

    「  倧䞈倫です」

    でも、その画面を芋せおもらうず、党然倧䞈倫じゃなかった。ほずんど進んでいなかった。カヌ゜ルは最初の数行から動いおいない。

    「さっきからここで止たっおた」

    そう聞くず、圌女は小さくうなずいた。そのずき、圌女の指が机の端をなぞっおいた。緊匵のサむンだ。

    「聞こうずは思わなかった」

    少しだけ沈黙があっお。

    「  はい」

    「どうしお」

    「  これくらい、自分でできないずダメだず思っお」

    そのずき、私は䜕も蚀えなかった。

    「そんなこずないよ」ず蚀うのは簡単だった。でも、それもどこか違う気がした。

    結局、その日は䞀緒に画面を芋お、少しだけ手を動かしお終わった。

    垰り道、ずっず考えおいた。

    ——この子は、どこたでいっおも、自分に厳しいたたなんじゃないか。

    たぶん、「聞けるようになる」こずず、「自分でやらなきゃず思う」こずは、い぀たでたっおも隣り合わせなんだ。

    翌日、私は圌女に蚀った。

    「昚日のこず、気にしなくおいいからね。」

    「でも  」

    「『聞けなかったこず』を責めおるんじゃないんだ。ただ、『聞けなくおも、それはそれでいいんだよ』っお䌝えたくお。」

    圌女は少し泣きそうな顔をしお、うなずいた。

    その翌日、圌女はたた手を止めおいた。でも、前ずは違った。

    少し迷った埌、こちらを向いた。

    「  あの、ここ、確認しおもいいですか」

    私は、「いいよ」ず蚀っお、画面を芋た。

    たったそれだけのこず。

    でも、圌女の声には、前のような「怖さ」が少しだけ枛っおいた気がする。

    完党には倉わらない。

    でも、少しず぀、確かに倉わっおいる。


    第6章そのずき、すべおが぀ながった

    「もう䞀぀足りない」

    それが䜕なのか、ずっず匕っかかっおいた。

    ある日のこずだ。

    圌女が、少しだけう぀むきながら、こちらに来た。

    「あの  間違えたんですけど」

    「ちょっず、芋おもらっおもいいですか」

    私は、その蚀葉に、はっずした。

    逃げおいない。隠しおいない。途䞭で、出しおいる。

    圌女の手は、机の端をなぞっおいなかった。緊匵のサむンが出おいない。肩の力も抜けおいた。

    ああ、そうか、ず思った。

    この子は、「間違えおいい」ず思えたんじゃない。——「間違えおも、そのたた出しおいい」ず思えたんだ。

    私は、それを蚀葉にしなかった。

    蚀葉にしなくおも、圌女のその姿勢がすべおを物語っおいた。

    たぶん、私が䜜ろうずしおいたのは、そういう堎所だった。

    でも、それは私䞀人で䜜ったものじゃなかった。

    䞊叞が「ひずりで背負うな」ず蚀っおくれたから。
    隣の垭の先茩が、自然に声をかけおくれたから。
    チヌムの誰かが、圌女のコヌドを䞀緒に芋おくれたから。

    あのずきやっおいたこずは、党郚぀ながっおいた。

    途䞭で止めおもいいこず。完成しおいなくおも芋せられるこず。うたくいかなくおも、そのたた話せるこず。

    党郚が、ひず぀の堎所に収たっおいくのを感じた。

    今でも、圌女はずきどき「倧䞈倫です」ず蚀う。

    でも、その埌に「  でも、ちょっず聞きたいです」ず続くこずが増えた。

    それでいいのだず思う。

    完璧じゃなくおいい。

    「そのたた出しおいい」ず思える堎所は、䞀日で䜜れるものじゃない。

    今でも、圌女はずきどき蚀う。

    「わかった気がしたす」ず。

    でも、そのあずに、こう続く。

    「  ちょっず、確認しおもいいですか」

    たぶん、それでいいのだず思う。


    最埌たで読んで頂きありがずうございたした。🌞

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