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Photo bynoouchi

"外面"がいい私と"内面"がいい夫 ある日のひとコマ 2026年春、病院にて

    「診察券持った?」

    「マイナンバーカードはお財布に入ってるよね?」

    私はパートの仕事から帰り、その日ようやく休みで家にいた夫に声をかけた。




    夫はここ数日、肩の激痛で苦しんでいた。

    元々、疲れるとよく肩に痛みが出るタイプだが、今回は、結婚前(10年くらい前)に病院にかかった時のレベル感の激しい痛みとのこと。

    さすがに心配で、「皆体調不良の時は絶対あるから、ここは無理せず、仕事休みな」と声をかけたものの、責任感のある夫は、痛みを抱えながらも仕事を休まずこなし、やっと休日を迎えた。

    病院嫌いの夫なので、普段ほとんど病院にかからない。

    よほどのことじゃないと「病院に行く」とは絶対言わない夫。

    でも今回は、「今から病院行く?」と聞いたら、「今の時間もやってるかな?行っておく」と答えたため、これはよほどのことだ。




    目星をつけていた病院へ、2人で向かう。


    受付に行くと、まさかの事態。
    緊急オペが入ってしまい、外来の受付を停止しているとのこと。

    そ、そんな〜。

    直前にもホームページを見て、外来のスケジュールや診療時間、受付時間はしっかり確認して来た。

    病院だから、きっとそんなことも日常茶飯事なのだろう。予定通りにいくとは限らない、か。

    がーん。

    私もげっそりしたが、並々ならぬ痛みを抱えて、ただでさえ病院嫌いの重い腰を上げて、足を運んだ夫は、受付での会話の中で診察を受けられないと悟った時点で、もうすでに出口に向かって歩き出していた。

    背中から、なんとも言えない憤りと苦しみと諦めと、呆れたような負の感情が漂ってくる。

    「あーあ、こりゃ大変だ」と私は心の中で思いつつ、追いかけて恐る恐る声をかける。

    夫は、「だから病院は嫌なんだよ。もう何があっても絶対ここには来ない」と、この一件で完全にヘソを曲げ、すね散らかしている。

    このまま病院に行くこと自体を諦めて、帰宅するつもりだ。


    私は急いで、Googleマップで近くの整形外科を検索する。

    「ここは名前聞いたことあるし、いいかも!」と、早速ホームページを見てみる。

    およ?午後の診療は予約の患者様のみ...?

    おそらくダメな匂いがしていたが、夫の気力はもうもたない。せっかく外に出たんだ。どうにか病院にかからせてあげたい。

    えいや!と電話をかける。

    病院だからきっと忙しいだろうし悪いな、と思いつつ、でももうホームページを詳しく読み込んでる時間の猶予はない。

    電話対応は丁寧で、不満は全くないのだが、やはり予約の方でいっぱいで、受付は難しいとのことだった。

    ですよね〜。


    ...やばいな。夫の気力がもうもたん。



    Googleマップよ、頼む。我々にいい検索結果を出してくれ。




    そしてもう一つ、整形外科の入ってる病院を見つけた。

    ホームページを疾風の如くスクロールし目を通していくと、どうやら今日は診療している!!


    でも、もう信じられないので、向かう前に電話をした。


    医療機関で働く人たちには忙しいところ申し訳ないけど、直接足を運んだのち、受付で断られるのはもうごめんだ!

    電話をすると、「普通に○時までなら受付してますけど?」的な、なんでわざわざこんなことで電話してくるのか不思議なんですけど?という心の声が溢れ出ているご対応だった。

    でも、こちらとしては、そんな細かい話し方のニュアンスとかはどうでもいいくらい、それこそ「待ってました〜!」のベストアンサーだった。

    受け付けてもらえると確証を得て、安心してその病院へ向かった。




    その病院はわりと新しくて、まあ綺麗。

    自分自身もほぼ病院にかからないので、病院に関するイメージも、やや時代遅れになっているところがある。

    番号で呼び出されるモニターや、自動精算機で支払いにカードが使えるとか、再来機...?
    デジタル関連の進化には驚かされる。


    とりあえず、初めてだし、勝手に機械で受付はできなそうなので、総合受付へ向かう。

    (こういう時皆分からなかったらとりあえず総合受付に行きそうだから、忙しいだろうなと容易に想像できる)



    まず、問診票を記入することになった。

    「座って書きな」と促したが、夫は壁の近くに立ちながら、実に面倒くさそうに記入し始めた。

    書いてるところを覗いてみると、まあ字が汚いこと。投げやり。これぞ、ザ、殴り書き。ストレスが字に出てる。


    夫の名誉のために言っておくと、いつもはもう少し綺麗な字を書くのだが、激痛を抱え、絶不調の体調と、日々の疲れやストレス、ここに至るまでのあれこれがあったので、もうご機嫌は斜めすぎるほどに斜めである。

    「どうせマイナンバーカード通すんだからこんなのわざわざ書く必要なくない?」


    ええ、こちらにそう言われましても、こんなに詳細のことはさすがにマイナンバーでも出ないでしょう。


    大して内容を読まずに適当に済まそうとしているので、命に関わる内容だとよろしくないので項目を一緒に確認しながら、何とか記入終了。

    やれやれ。


    その後、受付にある機械にマイナンバーカードを通すことになった。

    私が率先して夫のカードを定位置に置き、夫の横でご案内をするスタッフのようになっていた。

    顔認証の時に、マスクを外さないと反応しなかったので一度やり直した。
    そんな些細なことですら今の夫には刺激となる。

    「病院だからしょうがなくマスクしてるのに、これで外さなきゃいけないの、意味ないじゃん」

    はいはい、そうだね〜。嫌だったね〜。
    私が言ったから嫌々マスクしてくれたんだもんね〜。偉かったね〜。頑張ったね〜。ありがとね〜。

    (別に意味がないってことはないでしょ。もうプリプリし過ぎて、何でもかんでも突っかかってくるじゃん。ストレスが大爆発してるわ)





    案の定、後から問診票の個人情報の欄について、スタッフの方から再確認が入った。

    私も夫の問診票を確認すると、知ってると読めるけど、知らない人が見たらどうともとれる怪しい数字がたくさんあった。

    そこはのぞき見してた私のチェック不足でもあった。私がスタッフでもこれは確認するわ。後々何かあった時に困るやつ。

    スタッフの方には、夫に代わって「再確認の手間をかけてごめんなさいね」と伝えた。



    私には子がいないので、子育て未経験の身で誠に勝手ながらの感想だが、反抗期と思春期真っ只中の15歳の男子を病院へ連れて行く母の気分を味わえた気がした。




    その後、診察の順番が来るまで、待合イスに座って待った。


    モニターに診察中の方の番号、この後呼ばれる予定の番号が表示されている。

    最初は自分たちの番号の表示がなく、少し心配になったが、しばらくすると後ろの方に出てきた。
    あと4人か。


    先ほども書いた通り、院内は新しくて綺麗。

    30数年生きてる自分が、今までの経験も踏まえてイメージしている病院よりも清潔感があり、かつ空いている。

    病院と言えば、待合室に人がぎっしり、とにかく待ち時間が長くて、半日コース、下手したら結局丸一日コースなことだってあるだろう。

    そのイメージがあったので、この空間この状況での待ち時間は、私にとってはそこまで苦ではなく、むしろ「病院にしては待ち時間少なめな方でラッキーでは?」と思っていた。

    人も近くにいないので、座ってくつろいで、noteを読んだりして。こちらは付き添いなので、呑気なものである。




    一方、夫はこの待ち時間に、さらに不満を募らせていた。

    痛みがあったり、体調が悪かったら、パブリックな空間で、ただじっと座ってるのもしんどいだろう。

    モニターで何となくの順番は把握できても、具体的にあと何分なのか、いつ呼ばれるか分からない。

    早く診てもらって早く帰りたい。それは病院にかかる多くの人がそうだろう。


    でも、病院側の大変さも何となく想像できる。

    少ない人数でやっていて、それなのにたくさんの患者さんが毎日押し寄せて来て、ギリギリかもしれない。

    なんだかな、医療って...。
    働く側も、患者側も、双方に不満がないといいんだけど、そんな上手い話はないのかな...。


    「うーん。長すぎる。だから病院は嫌なんだよ」と夫が下を向いてまたポロリ。

    しばらく診察室からの出入りがピタッと止まり、夫は痺れを切らして、「外に出よう」と言った。

    「私がここに残って、モニター確認して直前になったら連絡するから出ておいで」とも話したのだが、「いや、絶対しばらく呼ばれないから大丈夫だよ」と根拠はないが、夫のさしせまったような気迫に圧倒され、応じてついて行った。

    お坊っちゃま(夫)は、お腹が空いたとのことで、近くのコンビニに向かった。

    私は内心、こういう時に限って意外とぽんぽん呼ばれて、自分たちの診察の順番が来てるんじゃないかと思って、ヒヤヒヤしてた。

    店内を物色しながら、おかず、サラダ、あったかいフライドチキンを選んだ。


    この短時間の出来事なのに、病院からのコンビニは、何となくいつもに増して解放感みたいなものがあった。

    健康のありがたみ、自由に動き回れるありがたみを感じた。



    病院へ戻ると、案の定、自分たちの番号はすでにモニターから消えていた。

    やっちまった〜。

    そんな気がしたんだよな...。

    丁重にスタッフの方に声をかけて、席を外してしまっていたとお詫びをした。

    (夫に代わって私ばっかり動いてるよ。保護者?"息子"よ、頼むよ〜)





    そして、紆余曲折ありまして、無事、診察に辿り着きましたとさ。


    私も同席して、先生の話を聞いた。

    幸いなことに、とても良い先生で、診察が進むにつれて、段々と、疲れ果てていた夫も心を開いていったのが分かった。

    一人当たりにかけられる診察時間の縛りとかもありそうだが、そんなことを感じさせない雰囲気で、「何か聞きたいことはありますか?」とこちらをちゃんと見て聞いてくださり、ありがたかった。

    病院って、緊張するし構えてしまったりするから、聞きたいことをその場で聞きそびれることも多いから、その一言にとても救われた。


    私は、いや、きっと私たちは、ちょっとばかしホクッとした気持ちで診察室を出た。



    そして、ほどなくして会計も機械で済まし、病院をあとにした。


    処方箋があったので、その足で薬局に寄り、またそこで一連の受付をした。問診票にマイナン...(割愛)
    もちろんさっきと同じように私が先導してね?




    でも、おかげさまで、帰る頃には、"ほぼ15歳児"の夫の機嫌はコロッとよくなり、「良い先生だった!また〇〇先生に診てもらう!」と手のひらを返したように態度を変え、この先生の虜になっていた。

    単純ですね〜。

    実に面白いですね〜。



    そして、コンビニで買った食べ物たちをゆっくり味わって食べた。

    まだチキンもほんのりあったかくて、ジューシーでじんわり身にしみて美味しかった。




    私は"おかん"的な要素は持ち合わせてないと思っていて、世の中の"肝っ玉母ちゃん"や世話焼きな母性溢れる女性たちを見ていて羨ましく思っていた。

    でもこの時、気難しい年頃の息子を病院に連れて行く母の気分みたいなものを味わえて、ちょっと新鮮で面白かった。

    帰ってから疲れがどっと来た私は、夜爆睡した。




    その後、肩の方は、薬も効いているのか、痛みは和らいでいるようで良かった。






    そもそも言ってしまえば、夫は、外面(そとづら)が悪い。

    今回は特に病院嫌いな上に、痛みを抱えてるので尚更だ。MAXの外面の悪さだった。


    人は体調不良の時、気持ちも落ち込むし、滅入る。他人様に気を遣ってる余裕はなくなる。


    外面が悪いというより、余計な愛想を振りまかない、という言葉の方がしっくりくるかもしれない。

    外でその時だけ少し関わる程度の人たちには、特別愛想を振りまかない。媚びない。

    本人曰く、「気を遣いすぎると疲れるから、わざわざそこにパワーを使わない。必要最低限にとどめる」とのこと。

    意外と人の些細な感情も感じ取りがちな夫なりの処世術かもしれない。


    でも、ある程度長く深めに関わって、信頼が構築されてくると、一気に気を許す。大事にする。愛情深い。



    おこがましいけど、その最上級が私なんだと思う。(お?)


    ここだけの話、家の中ではわりと、ニコニコにやにやデレデレな一面もある。

    仕事でのイライラは家に持ち込まない。
    八つ当たりはされたことがない。



    久しぶりに、外の世界であれだけピリピリした感じの悪い外面を目の当たりにして、逆に、妻である私には、よっぽど気を許してるんだということがよく分かった。

    悪い気はしなかった。

    (ヒヤヒヤするからもうちょい大人な対応はしてほしいものだけど...)



    夫は職場でも、「最初は怖い人かと思ってたけど、話すと意外と気さくで面白い人なんですね」的なことをよく言われるらしい。




    一方、私は外面が良いタイプ。

    今回で言うと、病院への電話や、その場での対応も感じが良い。

    自分で言うのもどうかと思うが、その力が、外面の悪い夫をカバーしたと言っても過言ではない。

    角が立ってしまうところを丸くおさめた気がする。

    人見知りだけど、ある程度仕事の時みたいなオン状態になると、挨拶やコミュニケーションはとれる。ニコニコ感じ良くできる。


    hsp気質もあり、外で必要以上に空気を読み、感じとり、無意識に多方面に気を遣いすぎてるのか、家の中でオフになった時、どっと疲れがくる。

    オフの時は、ネガティブ大爆発で、社会でやっていく自信がなくなったりする。

    かれこれ13年ほどの付き合いで、気を許した夫の前で、ついつい素の自分が出て、負の感情を自分で制御しきれず、不機嫌で感じが悪くなってしまう。

    "内面"が悪いのは私だ。


    それってどうなのかなって思った。


    本来、大事な人の前でこそ、ニコニコ機嫌が良い方がいいはずだ。

    なのに、私は外面ばかり気にして、無意識に頑張る。頑張りすぎる。その皺寄せが家の中にいる大事な人にくる。

    そんなのおかしくない?


    外面も内面も良いなら良いに越したことはない。


    でもどちらかしか選べないなら、どちらかのせいでどちらかに影響が出るなら、内面が良い方がいいのではないか。


    とはいえ、ある程度外面を良くしておく方が純粋に気分がいいし、後々自分にとってメリットもある気がする。

    結局、「無理して頑張りすぎない」のがポイントなのかもしれない。

    私はもっと内面の方を意識して生活したいと思う。大事な人を大事にしたい。



    私たち夫婦は、夫婦でもあり、時には親友のようでもあり、時には親子のようでもある。
    場面によって形を変える。


    自分のことを棚に上げてるように見えるかもしれないけど、私も空腹や眠さ、体調気分、暑さ寒さ、単純なことで簡単に機嫌が悪くなるので、夫にお世話になってる部分が相当ある。

    日々の生活で圧倒的に私ばかり面倒かけてると思ってたので、今回のことで、「お互い様」と思えたのは良かった。
    「私だって実は夫を支えてるんだ」と改めて思えた。

    お互いの苦手や弱みを、得意と強みで補い合って、支え合って、この世の荒波にもまれても、笑い合って生きていくんだ。

     
     
    30代前半 愉快な夫と2人暮らし パート主婦 日常で感じたこと、家族、夫婦、仕事のことなど、じんわりもモヤモヤも、振り返りながら楽しく自由に書いています。 エッセイ的なものとたまに日記を。一文が長くなりがちな人。 マガジンに今までの記事をざっくり分類しています。最近は植物に夢中。

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