
54歳になってから、漫画家を目指す中年男のエッセイ
早いもので、私が東京のアニメーション専門学校を卒業して、30年経つ。
学校と言っても名ばかりで、卒業したからと言って、プロになれるわけでもなければ、アシスタントになれるわけでもない。
所詮は業界の金儲けなんだな。
学校で習うことと言えば、漫画家を目指している人間であれば、誰でも知っているし、変な話だが、優秀な生徒ほど、学校には来なかったと思う。
私は授業料が勿体ないので、一応、全ての講義には出席したが、役に立ったことは、ほとんどない。
結局は自分の手でプロ・デビューを勝ち取らなければならないのだ。
今年で54歳になったが、未だにデビューはしていない。
生活のためにやっているバイトが本業になり、年に3~4回、雑誌に投稿できれば良い方だ。
描いた作品が賞をとれば、一応、賞金も貰えるし、デビューも近づく。
残念ながら、私は賞の受賞経験もない。
なので、担当編集者もついていないし、一人で時間が余った時、漫画を描いている程度だ。
1年前、地元の病院でパートをした。
その時、漫画家になりたかったと面接で言ったら、患者さん向けに笑える4コマを描いて欲しいと上司に頼まれた。
元々、4コマ漫画でデビューを狙っていたので、基本はできている。
起承転結、ラストのオチで笑いを取るのが基本。
描いてみると、わりと評判が良かったらしい。
商業漫画雑誌に投稿すると、絵が古い、時代遅れだと、よく言われたが、世間一般の人には、そんなことはどうでも良いらしい。
少々、絵が下手でも、笑えたので受け入れられたようだ。
だからと言って、プロではないので、原稿料は貰えない。
時給の最低賃金が基本給だ。
まぁ、飯は食えるので、不満はない。
もし、雑誌デビューしていたら、締め切りに追われて、過労死していたかも知れないし、合間の時間にちょいと漫画を描いて、読者に笑ってもらう程度が幸せなのかも知れない。
本当は普通のストーリー漫画を描きたかった。
実際に何作か描いて、雑誌に送ったが、全てボツ。
世の中は甘くはないと痛感したものだ。
精神的に少し病んだこともあったが、大したことはない。
普通に健康的な生活を送っているので、自分は幸せなのだと思う。
現在は自動車部品工場で働いている。
時々、漫画を描いて投稿するが、相変わらず、賞の選考には残らない。
無料でホームページを作って、何作か公開もしてみた。
だからと言って、仕事の依頼が入るわけでもないので、単なる自己満足だ。
イラストも描いている。
趣味程度だ。
そう簡単に絵でお金が稼げるわけがない。
若い頃、スポーツ選手の似顔絵を描いて賞金を貰ったことがあるが、もちろん職業ではない。
素人の投稿コーナーだ。
素人にしてみれば上手いと思われる程度で、プロの世界では全く通用しなかった。
だいたい2000枚くらいは描いたかな?
途中で気に入らなくなって捨てた原稿は、その3倍くらいはあると思う。
漫画を描くのはシンドイが、自分の思い通りの物語が描けた時の喜びや
充実感というのはある。
苦労は多いが、1度、その充実感を味わうと辞められなくなるのだ。
パートやアルバイトは、飽きるとさっさと辞めて転職したが、漫画だけは辞めなかった。
いつか雑誌に載ればいいなという、ささやかな夢があったし、作品を読んでもらって、「面白かった」と言われるのは嬉しいこと。
プロではないが、そういった創作の楽しみは知っているのだ。
漫画のネタは、いくらでも思いつく。
普段から映画や小説をよく読んでいるので、頭の中は漫画脳になっているのだ。
だから、ネタを考えるのに、苦労したことはない。
同じ漫画家志望の連中には、「話を考えるのが苦痛で・・・」と言っている奴がいた。
彼は絵は上手かったが、漫画的な発想ができない人間なので、漫画家に向いていなかったのだと思う。
漫画より、アニメやゲームに夢中で、投稿活動などしていないらしい。
そういう人生を本人が選んだのだから、それはそれで幸せなのかも知れない。
自費出版すれば、何冊か本が出せるくらいの枚数は描いているが、誰も買わないと思う。
SNSで絵を公開したら、「何、コレ、昭和の漫画?」「絵が下手過ぎる」と酷評されたので、親しい人間にしか作品は見せていない。
まぁ、それでも「面白い」と言ってくれる人間はいるので、絵だけが素人レベルなのかも知れない。
漫画原作者になることも考えてみたが、やはり苦労しても自分の絵で描きたいという気持ちは強い。
40~50代の読者であれば、私の漫画はウケるかも知れないな。
友人によくエロ漫画を描いて欲しいと頼まれる。
・・・が、私の描く女の子は、お世辞にも可愛いとは言えない。
性格的には魅力的なキャラクターが描けるのだが、いかんせん、今風の美少女キャラとは程遠い画風なのだ。
私も独身で性体験は少ないので、エロ漫画を描けと言われても、あまり読者が喜ぶエロ漫画は描けないと思う。
ギャグは多くの友人が面白がって読んでくれた。
基本的に絵が下手だと、ギャグに行くのかな?
若い頃は、北斗の拳のようなリアルな劇画を描きたいと思っていたが、ああいう劇画を描くは相当な体力がいるのだ。
元々、身体が強くない私には向いていない。
絵柄を簡略化して、気軽な感じで笑えるモノを描くのが向いていると思う。
今も、働きながら、そういった感じのギャグ・コメディを描いている。
完成したら、どこかの雑誌に投稿するつもりだ。
投稿する度にボツになっているので、今更、賞を落選してもショックはない。
それより、描いた自分だけは、絶対に笑えるモノを描きたい。
自分が笑えなければ、読者も絶対に笑えないと思う。
今のお笑い芸人を批判するわけではないが、あまり笑えるネタを作っている人はいないと思う。
彼らには失礼だが、自分の漫画のネタの方が面白いと思うことがある程だ。
今のお笑い芸人のネタは、何だか無理があるんだよなぁ・・・
無理矢理、笑わせているような気がして、痛々しいとすら思ってしまう。
昔の昭和の漫才師の方が面白かったと思う。
自分の考えとしては、誰がどう考えても笑えるネタが好きだ。
難しく捻って、よく考えなければ解らないネタは好きじゃない。
そういう意味で、自分の素人ぶりが強みになることはあるかも知れない。
芸人が毎晩、頭を悩ませて必死で考えたネタより、近所の小学生が気軽に冗談半分で言っていることの方が、笑えることもよくある話だからだ。
テレビのコント番組では、出演者が無理矢理、ネタを盛り上げて笑っているような雰囲気があるので、不自然に感じる。
普通の日常生活で暮らしていると、もっと自然に笑える場面には出くわすと思う。
面白さって、無理矢理、捻り出すものではないような気がするなぁ・・・
話が脱線したが、あ、そうそう、私は漫画を描いているんだ。
だから、面白いと思うことは貪欲に吸収している。
自然と、お笑いに対する目も厳しくなりがちだ。
プロでもないくせにね。
でも、プロであろうと、素人であろうと、漫画の世界は面白いモノを描いた人が勝ちだ。
そうでなければ、こんな世界には飛び込まないと思う。
ある意味、漫画の世界は物凄くフェアと言って良いかも知れない。
面白いか、面白くないかそれだけだからね。
もちろん、ある程度、絵も上手くはなければならないが、読者に解る範囲内の絵が描ければ、それで良いと思う。
いくら絵が上手くても、つまらなければ駄目なのだから、必要なのは、面白さを伝えられる才能だと思う。
でもコレは、普通に努力すれば、誰もが身に付くことなので、業界に飛び込むのを、あまり恐れる必要はないと思う。
誰もが手塚治虫になれるわけではないし、世間にいる普通の人の方が、漫画描きとして長生きしているように思う。
私はまだプロデビューもしていないし、トシだけ取ったただの独身漫画家志望だが、一応、作品は描いているので、漫画家志望と名乗る資格はあると思う。
世の中には、描かない漫画家ってのがいて、「俺、漫画家になるんだ」と言いながら、「じゃ、描いたの見せてよ」と聞いたら、「描いたの、ありません」という人、結構いるのだ。
口だけ漫画家志望という連中だ。
凄く多いので、コレを読んで、漫画でも描いてみようかなと思った人は、絶対にそういう人間にはならないで欲しい。
まぁ、雑誌に載らなくても、ちゃんと描いて、SNSとかで発表している人は立派だと思う。
描かないくせに、他人の漫画を偉そうに批判する人は多いが、こういう人は一切、無視して欲しい。
彼らは結局、読者の位置から、離れられない、可哀想な人間だと思った方が良いのだ。
それが不幸だとも思わないし、むしろ漫画なんてシンドイ仕事などせず、気楽に読者の立場でいる方が幸せなのかも知れない。
ただ1度でも漫画を描いて、読者を笑わせたことがある人間にとっては、これ程、魅力があって、やり甲斐のある職業はない。
世間的には、誇れる職業ではないかも知れない。
でも、楽しい仕事だからね。
なので、漫画を描きたいと思った人は挑戦して欲しいな。
50代で、自動車部品工場で働いている独身男でも挑戦できる職業だからね。
私も人生後半に入るが、希望だけは持っている。
人生、面白く生きなきゃつまらない。
好きなことをやろう!
死ぬ時、後悔しても遅いからね。