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朝の3分で人生は変わる《シロクマ文芸部》 ショートショート | ぽてぽたのよしなしごと #29

    ぽていとぽたあと

    洗面所で顔を洗う。

    タオルを手に取り、顔を拭き、顔を上げる。

    目の前の鏡の中に今洗ったばかりの自分の顔を見つけて、自分自身と目を合わせる。

    毎日、朝起きてからやることだ。

    1日を通して、私が文字通りちゃんと「自分と向き合う」時間は、この朝の時間しかないかもしれない。

    ひとたび洗面所を出れば、そこは情報とテクノロジーにまみれた社会だ。

    だからこそ、社会へ送り出される前のこの時間は、少しだけ儀礼じみている。

    いつの間にか洗面所には、波の音や風を想起させるようなホワイトノイズが流れている。

    ゆっくり息を吸い、吐いて、ホワイトノイズが体に馴染むのを感じる。

    鏡は、私の睡眠データや表情、肌のコンディションを分析して調光し、特殊なライティングを通して肌や髪を健やかな状態へ導いてくれる。

    鏡の両側に埋め込まれている吹き出し口からはミスト状のものが噴出され、肌を優しく保湿する。

    同時に、レモングラスのような爽やかな香りが鼻腔に流れ込んでくる。

    すべて、私が3ヶ月ほど前に導入した、「ミラーコーチング」という鏡のAI機能によるものだ。

    ミラーコーチングは朝の3分間、光や音、香りといった五感にアプローチする方法で、私の調子を整えてくれる。

    この時間のおかげで、私はその日1日を前向きに過ごすことができるのだ。

    私は、ミラーコーチングの明らかな効果を実感していた。


    * * *


    「朝の洗面所」という現代人に残されたわずかな可処分時間に目をつけたのは、新鋭のスタートアップ、株式会社ミラーコーチングだった。

    代表の朝霧あさぎり啓けいは『朝の3分で人生は変わる』という本を出版し、その中でサービス概要や企業理念について丁寧に語った。


    ミラーコーチング™ について

    現代で唯一アルゴリズムに最適化されていない「朝の洗面所」を、コーチングと自己対話を行う空間へと変えます。

    ご自宅の洗面所に、当社独自の技術によって開発されたAI搭載の鏡「ミラーコーチング」を導入いただくことで、あなた専用の「朝の儀式」をお創りします。

    たったの3分間。朝の洗面所で心を整えるだけで、人生は驚くほど楽に、豊かになります。

    『朝の3分で人生は変わる』(著・朝霧啓)より抜粋


    ミラーコーチングはSNSで少しずつ話題を集め、発売開始から半年で、国内ユーザーは20万人を超えるまでとなった。

    海外ではすでに同様のシステムが生活インフラとして定着し始めているという噂も、その追い風になった。

    煩わしいAIとの対話は必要ない。

    ミラーコーチングは自律的にユーザーデータを分析し、毎朝最適なアドバイスと励ましを、言葉ではなく体感を通して伝えてくれる。

    気に入った音楽や香りは、ミラーコーチングに手のひらをかざすだけで、簡単に購入し、洗面所の外にもその癒しを連れて出ることができる。

    ミラーコーチングが勧める商材を選ぶ人は、少しずつ増えていった。


    * * *


    株式会社ミラーコーチングの本社では、代表の朝霧あさぎり啓けいが大手ECサイトの運営会社の経営陣を招き、新規提案を行なっていた。

    20万人のユーザーがミラーコーチングを介して商品を購入する売上マージンは、サービス自体の収益に迫る勢いで伸びていた。

    朝霧は商談相手を見渡し、商材の種類を大胆に増やす計画について、ゆっくりとした口調で話し始める。

    「ユーザーが購入に至るコンバージョン率は、ミラーコーチングの利用開始から時間と共に上昇します。利用半年のユーザーに絞ると、平均で18%と異例の高さとなっています」

    彼の背後のスクリーンには、5年後、10年後を見据えたビジネス拡大のロードマップが大きく映し出されている。


    「資料の海外導入事例をご覧ください。

    当社システムを洗面所のような生活インフラに導入した場合、ほとんどのユーザーは離脱することができなくなり、半永久的に使い続けます。

    平均購入金額にも上昇傾向が見られます。

    私たちは、ユーザーの毎朝の3分間を、半永久的に獲得したのです。

    ミラーコーチングのコア機能は、AIを活用した単純な商品レコメンデーションではありません。

    他社の侵入を許さないエコシステムを創り出し、そこに意思決定力を失ったユーザーを囲い込むことこそが、当社製品の強みです。

    朝のたったの3分という時間が、ユーザーひとりひとりの1日、1週間、1ヶ月を定義していきます。

    私たちは、朝の3分で、彼らの人生を変える主導権を手に入れたのです。

    そして私の著書は、今後あらゆる商材を売る企業にとってバイブルになります」


    そう言いながら、朝霧は机の上に積まれている自らの著書を指し示した。


    『朝の3分で人生は変わる』(著・朝霧あさぎり啓けい)




    おはようございます。

    最近、記事のタイトルを間違えがちなんだよね。
    でおなじみのぽてぽたです。

    ショートショートなのに、記事タイトルに「ショートショート」って書いてなかったりしてね。

    朝投稿して、夜になるまで気がつかなかったりするんですよ。

    で、慌てて直していますよ。

    読者の皆さんを騙すつもりは、本当にないんですよ。
    ガチで忘れるじゃがいもなんです。
    お許しくださいね。

    今回もまた  #シロクマ文芸部 に参加しましたよ。

    • お題:洗面所


    さすがに洗面所は何も思い浮かばないわ。
    と、思っていたんですけどね。

    毎日必ず、1日1回は行く洗面所というプライベートな空間を、テクノロジーで囲い込まれたらやだな。

    終わるな。

    朝起きて顔を洗っているときに、そんなふうに思っていたら、こんな恐ろしい話が出てきました。

    『朝の3分で人生は変わる』

    って、ユーザーひとりひとりが自分の人生を「変える」んじゃなくて、「変えられちゃう」っていうお話でしたよ。

    おー怖い怖い。


    🥔・🥔・🥔


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    ぽてぽたの「よしな、仕事!」じゃないですよ。「由無し事」です。



     
     
     
    アニメや小説などの感想・考察を書いています。現在、ほとんどが「葬送のフリーレン」です。「ぽんこつチャッピーくん It’s you, obviously」というシリーズ(ChatGPTについて)も書いています。作品についての考察を書いている場合、構造の話が多め、ネタバレありです。

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