メインコンテンツへスキップ
見出し画像

なぜ東京エレクトロンなしで、半導体は作れないのか

    キオクシアの「記憶」も、ソニーの「眼」も、東芝が手放した宝も——実は全部、同じ一社の装置を通って生まれている。
    しかもその会社は、テレビ局(TBS)から生まれた。日本半導体シリーズ、今回はその“種明かし”だ。


    これまでの3社には、共通の「上流」がいた

    このシリーズで、キオクシア(記憶)、東芝(手放した記憶)、ソニー(眼)と、日本の半導体の物語をたどってきた。

    実はこの3社、全員に共通する“上流”がある。半導体そのものではなく、半導体を「作る機械」を作る会社——東京エレクトロン(TEL)だ。

    キオクシアの四日市も、ソニーの熊本も、TSMCもサムスンも。世界の半導体工場は、この会社の装置なしに動かない。

    日経平均が6万円台へ駆け上がる相場でも、AI・半導体の主役級として名前が挙がり続ける。なぜ、装置屋がそれほど強いのか。源流までさかのぼると、思いがけない名前が出てくる。


    始まりは、TBSに間借りした小さな商社

    1963年11月、東京・港区。日商岩井(現・双日)出身の2人の商社マン——久保徳雄と小高敏夫が、小さな会社を興した。名は「東京エレクトロン研究所」。

    出資したのは、意外な相手だった。

    TBS(東京放送)が、500万円を出資した。 オフィスはTBS社屋への間借り。扱う商品は、VTRとカーラジオの輸出入だった(The社史/TEL公式沿革)。

    小高が日商岩井時代にTBSを担当していた縁だった。つまり東京エレクトロンは、テレビ局が育てた、ラジオの輸出商社として生まれている。

    転機は翌1964年。小高が渡米し、米サームコ社の半導体製造装置(拡散炉)などの代理店契約を獲得した。「売る会社」から始まり、やがて「作る会社」へ。60年後、この小さな商社が世界の半導体生産を握ることになる。

    ちなみに——本社は今も、赤坂のTBS敷地内(1994年〜)。TBSは現在も約3.2%を持つ大株主だ(2025年3月末・現代ビジネス)。生みの親との縁は、60年たっても切れていない。


    何で稼いでいるのか——半導体の「印刷所」

    半導体づくりは、よく「印刷」にたとえられる。シリコンの板(ウエハ)の上に、ナノメートル級の回路を何層も“刷って”いく。

    この印刷で、露光装置(オランダのASML)が「焼き付け機」だとすれば、東京エレクトロンが握るのは**「塗って、現像する」工程**——感光液(フォトレジスト)をウエハに塗り、焼き付けた回路を現像する装置(コータ/デベロッパ)だ。

    そして、ここが核心。

    この塗布・現像装置の世界シェアは、約9割(2022暦年・EE Times Japan)。事実上の独占である。

    先端半導体は、この工程を通らずには作れない。派手な“焼き付け機”はASMLが握るが、その前後の**「関所」**を握っているのが東京エレクトロンだ。ほかにもエッチング(削る)、成膜(積む)、洗浄と、前工程の主要装置を面で押さえ、装置を売った後も保守・サービスで稼ぎ続ける。

    数字で見る、いまの東京エレクトロン

    FY2025(2026年3月期)の通期決算は、こうだ。

    • 売上高:2兆4,435億円(前期比 +0.5%・過去最高)

    • 営業利益:6,249億円(-10.4%)

    • 純利益:5,744億円(+5.6%・過去最高)

    増収・最高純益なのに、営業減益。理由は研究開発費の増加と、宮城・熊本での拠点整備だ(共同通信)。これをどう読むか——「未来を買っている」のか、「ピークの兆し」なのか。会社側の答えは強気だ。

    2027年3月期・上期の会社予想は売上1兆5,700億円(前年同期比+33.1%)=半期で過去最高。 主因はAIサーバ向け最先端投資。シェア9割の塗布・現像装置は、通期で+50%増収を見込む(決算説明会)。

    生成AIの波は、NVIDIAのようなチップ設計者だけでなく、チップを作る装置の側にも利益を運ぶ。しかもTELは、どのメーカーが勝っても装置が売れる“胴元”の位置にいる。


    世界「装置ビッグ5」の中の日本代表

    半導体製造装置の世界は、5社の寡占だ。

    • ASML(オランダ):露光装置をほぼ独占。時価総額は装置業界の王

    • アプライドマテリアルズ(米):総合装置の最大手

    • ラムリサーチ(米):エッチングの雄

    • KLA(米):検査・計測

    • 東京エレクトロン(日本):塗布・現像ほぼ独占+前工程の総合力

    米蘭勢に伍する唯一の日本企業として、世界3〜4位の座を守っている。

    逆風も、はっきりある

    第一に、シリコンサイクル。 装置業は半導体メーカーの投資意欲そのものが売上になる。市況が冷えれば、真っ先に投資が止まる=キオクシアの回で見た“振り子”を、装置側はさらに増幅して受ける。

    第二に、中国リスク。 売上の3〜4割規模を中国が占める時期もあり(四半期で変動)、米国の対中輸出規制が強まれば直撃する。同時に、中国は装置の国産化を国策で進めており、将来の競合にもなる(EE Times Japan)。

    第三に、日本の装置産業全体の地盤沈下という文脈。個社として健闘するTELも、この潮流と無縁ではない。


    この会社から、何を持ち帰るか

    東京エレクトロンの本質は、**「関所の経営」**だ。

    スポットライトを浴びる主役(NVIDIA、ASML)ではなく、全員が必ず通る地味な一点——「塗って現像する」——を押さえ、9割を握った。誰が勝っても通行料が入る。前回のソニーが「表舞台を降りて裏方で世界一」だったのと、同じ韻を踏んでいる。

    主役を競うな、全員が通る「関所」を握れ。

    そして、もう一つ。この会社の源流がテレビ局の出資したラジオ商社だったという事実は、キオクシア(発明者の冷遇)や東芝(からくり人形)と同じことを教えてくれる。60年後に何の王者になっているかは、始まりからは分からない。分かるのは、時流に合わせて商売を作り替え続けた者だけが生き残る、ということだ。


    一言まとめ

    東京エレクトロンは「TBSに間借りした輸出商社から、世界の半導体の“関所”になった会社」。

    キオクシアの記憶も、ソニーの眼も、この会社の装置から生まれる。日本半導体シリーズの全員の上流に、TBS生まれの装置屋が立っていた——これがこのシリーズの、最初の種明かしだ。

    次回予告

    次は、あなたのiPhoneに1,000個入っている部品の会社——村田製作所。AIサーバの電力を支える“京都の利益率の鬼”は、なぜ世界を獲れたのか。


    ⚠️ 免責:本記事は事実と論点の整理を目的とした情報提供であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。数字は変動し、本記事は調査時点(2026年7月)の情報に基づきます。投資判断はご自身の責任で行ってください。

    出典

    あなたへのおすすめ