
カメラを買った社長より、プロンプトを書いた社長の方が、動画が増えた
「動画、うちもやらないとまずいよね」。そう言って立派なカメラを買った社長を、私は何人も見てきました。機材は一級品なのに、動画は一本も増えません。一方で、カメラを一度も手に取らず、パソコンに文章で指示を書いた社長のほうは、月に数本のペースで発信を続けています。違いは機材ではありませんでした。動画を「撮るもの」と思うか、「組み立てるもの」と思うか。分かれ道はその一点だけです。今日はこの発想の転換を、私自身の体験と支援先の光景からお話しします。

動画は必要、でも作れない——三つの壁の正体
「うちも動画で発信したほうがいい」。この認識を持っていない経営者に、私はもうほとんど会いません。採用サイトに動画があるかないかで応募数が変わる。取引先は会社の雰囲気を映像で見たがる。SNSは文字より動画が伸びる。頭では全員が分かっています。それでも作れない。なぜか。ここには、多くの人が言葉にできていない三つの壁があります。
一つ目は「撮影の壁」です。動画といえばカメラを回すもの、という前提が抜けません。すると機材選び、撮影場所の確保、天気やスケジュールの調整が一気に押し寄せます。社員に手伝ってもらう段取りも要る。この準備の重さで、多くの計画が最初の一歩を踏み出せずに止まります。
二つ目は「編集の壁」です。撮った素材は、そのままでは動画になりません。要らない部分を切り、順番を整え、字幕を載せ、音を調整する。この作業に慣れている経営者はまずいません。外注すれば費用がかさみ、自分でやろうとすれば専用ソフトの操作を覚えるところで力尽きます。
三つ目は「出演の壁」です。会社の顔である社長自身が、カメラの前で話すのは想像以上に気が重い。台本を覚え、噛まずに話し、表情をつくる。何度も撮り直すうちに嫌になって、「また今度」になります。
やっかいなのは、この三つの壁が、それぞれ独立しているように見えて、実際には連鎖して効いてくることです。撮影の段取りに気を取られているうちに、編集の重さを思い出して腰が引ける。編集を外注しようと見積もりを取れば、今度は費用の壁が立ちはだかる。そして最後に、自分が映る覚悟が決まらない。一つ崩しても次が現れる。だから、個々の壁を根性で乗り越えようとするやり方は、たいてい途中で息切れします。
そして、止まっている間にも時間は進みます。同じ業界で、動画で発信を始めた会社は、採用でも取引でも少しずつ前に出ていきます。うちも早く、と焦る気持ちだけが募り、でも壁は高いまま。この「必要だと分かっているのに動けない」状態こそ、いちばん消耗します。作らないという判断を、社長が下したわけではないのです。ただ、入口が重すぎて、決断の手前で止まっている。それだけの話です。
この三つが重なると、動画計画は三脚を立てたところで凍りつきます。カメラは買った、場所も決めた、でもその先に進めない。見積もりだけ取って半年寝かせている、という話は本当によく聞きます。壁の正体は、才能でも予算でもありません。「動画は撮って編集するもの」という古い設計図です。この設計図のまま頑張るから、しんどい。設計図そのものを描き替えれば、壁は壁でなくなります。

私は撮らずに、三分の動画を組み立てた
設計図を描き替えるとどうなるか。私自身の話をします。私は先日、自分の顔写真を一枚と、テキストで書いた指示だけを用意して、三分の解説動画を作りました。正確に言えば、私が「作った」のではありません。パソコンの中の司令塔役——私はClaude Codeという道具を使っています——に、作らせたのです。
このとき、私はカメラを一度も回していません。撮影もしていなければ、編集ソフトも開いていません。ナレーションは私の声ではなく音声合成AIが読み上げ、場面ごとの挿絵は画像生成AIが描き、それらを一本の動画に組み立てる工程は司令塔が動画処理の道具を操作して進めました。私がやったのは、写真を一枚渡し、「こういう内容を、こういう順番で、こんな雰囲気で」と文章で伝えたことだけ。所要時間の大半は、撮影ではなく「何を伝えるか」を言葉にする時間でした。
作りながら気づいたのは、私自身がずっと「動画イコール撮影」だと思い込んでいたことでした。写真は静止画、動画は動いている映像、この二つはまったく別の技術だと信じ込んでいたのです。ところが実際に組み立ててみると、動画は静止画とナレーションを時間の流れに乗せたものだと、身体で分かりました。難しかったのは技術ではなく、頭に染みついた前提を外すこと。「撮らなくていい」と自分に許可を出した瞬間、作業はふっと軽くなりました。この一枚の写真から動画が立ち上がっていく感覚は、機材をそろえていた頃には想像もしなかったものです。
はっきり申し上げておきたいことがあります。司令塔役の道具それ自体に、動画を生み出す機能はありません。これは魔法の箱ではなく、あくまで「指揮する」役です。台本を書き、挿絵の担当に絵の指示を出し、音声の担当に読み上げを頼み、最後に組み立ての道具を動かす。人間でいう監督兼まとめ役です。「AIに一言入れたら完成品が飛び出す」という話ではありません。ここを誤解すると、後で必ずつまずきます。
私がこの体験でいちばん驚いたのは、出来上がりの質より、「撮らなくてよかった」という身軽さでした。撮影の予定を組まなくていい。話し方を練習しなくていい。気に入らなければ、文章の指示を直してもう一度組み立て直すだけ。この身軽さこそが、発信を続けられるかどうかの分かれ目だと、作ってみて初めて腹落ちしました。
ここからは、支援先で私が繰り返し見てきた光景を、一社のモデルケースとして再構成してお伝えします。特定の実在企業の話ではありません。複数の支援先で見た光景を、1社のモデルケースとして再構成しています。
従業員四十七名ほどの、地域密着の警備会社の社長さんの話です。人手が足りず、採用が長年の悩みでした。若い応募者に「この会社、どんな雰囲気なんだろう」と感じてもらう材料が、文字の求人票しかない。そこで採用向けの会社紹介動画を作ろうと、制作会社に見積もりを取りました。返ってきた金額は一本で数十万円。しかも撮影の日程調整が必要で、社員の勤務シフトと撮影の段取りが噛み合わず、話は半年ほど宙に浮いたままになっていました。カメラマンを呼ぶ日を決めるだけで、これほど動かないのかと、社長さんはため息をついていました。
この半年、その会社の採用が完全に止まっていたわけではありません。求人票は出し続け、面接もしていました。ただ、応募のきっかけになる「会社の空気が伝わる何か」が、ずっと欠けたままでした。若い応募者は、給与や勤務地だけでなく、どんな人が働いているか、職場は清潔か、上司は信頼できそうか、といった空気を見て応募を決めます。文字だけの求人票では、そこが伝わりません。動画があれば埋められるはずの溝が、見積書を眺めている間、ずっと開いたままだったのです。動かない理由は、やる気でも予算でもなく、入口の設計にありました。
私がお伝えしたのは、たった一つでした。「その動画、撮らずに組み立てましょう」。現場の様子は既にスマホで撮りためた写真がある。伝えたいことは社長さんの頭の中にある。足りないのは、それを一本の流れにまとめる段取りだけです。撮影という重い前提を外した瞬間、半年止まっていた計画が、その週のうちに動き始めました。社長さんが最初の一本をモニターで再生したとき、「これ、うちの会社だ」とつぶやいたのを、私はよく覚えています。派手ではないけれど、自分たちの誠実さがちゃんと伝わる。それが、外注の見積書を眺めていた半年間には、どうしても手に入らなかったものでした。
そこからの動きは早いものでした。一本目ができると、社長さんの中に「作れる」という手応えが生まれます。二本目は現場で働く先輩社員の一日を紹介する内容、三本目は会社の安全への取り組み、と、伝えたいことが次々に言葉になっていきました。撮影という重い儀式がないので、思いついたテーマをその週のうちに形にできる。半年で一本も出せなかった会社が、気づけば動画で語れる会社に変わっていました。変わったのは予算でも人員でもなく、動画への向き合い方、ただそれだけです。撮る動画から、組み立てる動画へ。この一点の転換が、止まっていた歯車を回し始めたのです。

動画づくりは、まず「何のために作るか」を言葉にするところから始まります。ここが曖昧なまま素材を集めると、必ず途中で迷子になります。次のプロンプトは、経営者自身が話しかけながら頭の中を整理するためのものです。音声入力で話しかけても構いません。パソコンやスマホで、動画を作り始める前の一番最初に使ってください。
あなたは、経営者の頭の中を整理する動画プロデューサーです。
これから私(中小企業の経営者)に、作りたい動画について質問してください。
一度に1問ずつ、私が話しやすいように短く聞いてください。
以下の3点が私の口から具体的に出てくるまで、掘り下げる質問を続けてください。
1. この動画を「誰に」見せたいか(採用候補者/取引先/既存顧客 など、一人の顔が浮かぶ粒度まで)
2. その人に「何を」伝えたいか(会社の一番の強み・安心材料を1つに絞る)
3. 見たあとに「どうしてほしいか」(応募・問い合わせ・来社 など、次の行動を1つ)
【ここで私が話す内容を聞き取ってください】
最後に、3点を1枚のメモにまとめ、「この動画の目的は◯◯です」と一文で言い切ってください。動画を四つの部品に分ける、という考え方
では、撮らずに組み立てるとは、具体的にどういうことか。ここで発想を一段変えます。動画を「一つのかたまり」として見るのをやめて、「四つの部品の組み合わせ」として見るのです。この分解ができると、途端に自作の見通しが立ちます。
一つ目の部品は「構成台本」です。誰に、何を、どの順番で伝えるか。動画の設計図にあたります。二つ目は「場面ごとの静止画」です。動画といっても、実は一枚一枚の絵が連なってできています。その絵を、画像生成AIに描いてもらう。三つ目は「ナレーション音声」です。原稿を音声合成AIに読み上げてもらえば、社長がカメラの前で話す必要はありません。四つ目は「組み立て」です。静止画と音声を時間の流れに乗せ、一本の動画ファイルにまとめる工程で、ここは動画処理の道具が担います。
大切なのは、この四つが独立している、という点です。台本が気に入らなければ台本だけ直せばいい。挿絵が硬ければ絵だけ描き直せばいい。声が速ければ音声だけ調整すればいい。一枚のかたまりだと全部を撮り直すしかありませんが、部品なら悪いところだけ交換できます。この「部品ごとに差し替えられる」ことが、後で効いてきます。
この分解は、心理的な面でも効きます。「動画を一本作る」と考えると、途方もない大仕事に見えて手が止まります。ところが「台本を一枚書く」「絵の指示を四つ出す」「原稿を読み上げてもらう」と分ければ、一つひとつは今日の午後にでも片づく小さな作業です。大きな塊は人を怯ませますが、小さな部品は人を動かします。動画が増えない会社の多くは、能力が足りないのではなく、動画を「一つの重い塊」のまま抱えているところでつまずいています。分けて見た瞬間に、初めて手が動き出すのです。

そして、この四つの部品を誰がまとめるのか。ここに、私が最もお伝えしたい比喩があります。動画づくりを、一つの制作現場だと思ってください。社長であるあなたは「監督」です。「こういう作品にしたい」という意図を持つ人。司令塔役の道具は、現場の「編集室にいる統括デスク」です。監督の意図を受け取り、各担当に段取りよく仕事を割り振り、上がってきたものを一本にまとめる。そして画像生成AIや音声合成AIは、それぞれの「専門スタッフ」です。絵を描く人、声を吹き込む人。
この構図で見ると、経営者がやるべきことがくっきりします。監督は、カメラを回しません。編集ソフトも触りません。監督の仕事は「どんな作品にしたいか」を言葉で伝え、上がってきたものに「ここはこう直して」と方向を示すこと。それだけです。手を動かす細かい作業は、統括デスクと専門スタッフに任せる。あなたが書く文章の指示、つまりプロンプトが、そのまま現場を動かす台本になります。だから、カメラを買った社長より、プロンプトを書いた社長のほうが、動画が増えるのです。
この役割分担には、もう一つ良いところがあります。監督が扱うテーマが変わっても、現場の回し方は変わらない、という点です。今日は採用動画の監督、来月はサービス紹介の監督、と、あなたが意図を差し替えるだけで、同じ制作現場が別の作品を生み出します。撮影スタッフを毎回集め直す必要も、編集ソフトを一から覚え直す必要もありません。一度この現場を持てば、あとは監督としての意図の質だけを磨いていけばいい。同じ道具立てで、いくらでも作品を変えられる。これは、一本ごとに外注していては決して手に入らない身軽さです。

監督方式に慣れてくると、四つの部品は毎回ゼロから作るものではなく、自社の「型」として溜まっていきます。一度うまくいった台本の流れ、しっくりきた絵の雰囲気、聞き取りやすい声の設定。これらは会社の資産として残り、次の動画は前回の型を下敷きにして、中身だけ入れ替えれば作れます。回を重ねるほど、作るのは速く、うまくなっていく。撮影のたびに段取りをゼロに戻す外注とは、ここが根本的に違うところです。
監督方式の要になるのが、二つ目の部品「構成台本」です。ここが決まれば、残りの部品は台本にぶら下げていくだけになります。次のプロンプトは、伝えたいことを三分の流れに落とし込むためのものです。会社紹介や採用向けの動画を作りたい経営者が、目的を整理した直後に使ってください。
あなたは、中小企業の会社紹介動画を専門にする構成作家です。
以下の条件で、約3分(合計180秒)の動画の構成台本を作ってください。
■ テーマ:【ここに動画のテーマを書く(例:警備会社の採用向け会社紹介)】
■ 伝えたい3点:【1つ目】【2つ目】【3つ目】
■ 見た人に取ってほしい行動:【例:採用ページから応募】
出力は次の3ブロックに分け、各ブロックの冒頭に「秒数の目安(◯秒)」を必ず付けてください。
・オープニング:つかみの一言と、この動画が誰のためのものかを提示
・本編:伝えたい3点を1点ずつ、具体的な場面とナレーション案をセットで
・締め:取ってほしい行動を、押しつけがましくない言葉で1つだけ
ナレーションは、専門用語を使わず、聞いて一度で意味が分かる長さの文にしてください。台本のナレーションは、そのままでは少し硬いことがあります。文章として正しくても、耳で聞くと分かりにくい、という現象です。動画は目ではなく耳で理解される場面が多いので、話し言葉への変換が効きます。次のプロンプトは、書き言葉の原稿を、聞いて分かる言葉に整えるためのものです。台本ができた経営者や広報担当が、音声を作る前のひと手間として使ってください。
あなたは、耳で聞いて分かる話し言葉に整えるナレーション監修者です。
以下の原稿を、動画のナレーション用に書き直してください。
【ここに、書き言葉のナレーション原稿を貼る】
書き直しのルール:
・1文は、一息で読める長さ(目安40文字前後)まで短く区切る
・「〜における」「〜に関して」などの硬い言い回しを、話し言葉に置き換える
・数字は、耳で聞いて分かる読み方をふりがなで添える(例:47名→「よんじゅうななめい」)
・専門用語には、その場で分かる短い言い換えを一言添える
出力は、書き直したナレーション本文だけにしてください。続いて、三つ目の部品にあたる場面の静止画です。台本の各場面に、どんな絵を添えるか。ここも監督が全部描く必要はなく、画像生成AIへの「指示文」を用意すればスタッフが描いてくれます。次のプロンプトは、台本を渡すと、場面ごとの絵の指示文を一気に書き出すためのものです。自社の雰囲気や色味を揃えたい経営者・広報担当が、台本確定後に使ってください。
あなたは、動画の各場面に添える静止画(イラスト)の指示文を書く演出家です。
以下の構成台本を読み、各ブロックに1枚ずつ、画像生成AIへ渡す指示文を作ってください。
【ここに、構成台本を貼る】
各指示文には、次の要素を必ず含めてください。
・その場面で映すもの(人・場所・状況を具体的に)
・自社の雰囲気(例:誠実で落ち着いた、地域に根ざした、清潔感のある)
・色の指定(例:コーポレートカラーの濃紺と白を基調に)
・文字は入れない、実在の人物・ロゴは描かない、という注意書き
出力は「場面①:指示文」の形で、台本のブロック順に並べてください。部品が揃い、統括デスクが一本に組み立てたら、最後は監督の試写です。ここを飛ばして公開すると、社名の読み間違いや数字の誤りが、そのまま外に出てしまいます。次のプロンプトは、完成した動画を経営者が五分で検品するための観点リストを作るものです。公開ボタンを押す前に、どんな会社の責任者でも使えます。
あなたは、公開前の動画を最終チェックする品質管理担当です。
完成した動画を、経営者が5分で検品するためのチェックリストを10項目つくってください。
【ここに、動画のテーマと想定視聴者を書く】
必ず次の観点を含めてください。
・事実に誤りがないか(社名・所在地・創業年・実績の数字)
・社名や人名の読み方(ナレーションの発音)が正しいか
・数字の言い方が、聞いて誤解されないか
・肖像・音楽・イラストに、権利上の問題がないか
・伝えたい3点が、見た人の記憶に1つでも残るか
出力は、チェックボックス形式(□)の10項目リストにしてください。
最後に「1つでも□が埋まらなければ公開しない」という一文を添えてください。ここまでで、「豪華な映像を生成するAI」と何が違うのか、と思われたかもしれません。世の中には、文章を入れると本物のような動画そのものを生み出すAIも登場しています。技術としては素晴らしい。ただ、経営者の発信でほしいのは、多くの場合「豪華な映像」ではなく「伝わる説明」です。部品方式のよさは、台本も絵も声も、一つずつ人間の目で確認して差し替えられること。事実の誤りを直せること。同じ型で来月も再来月も量産できること。丸ごと一発で生成する方式では、この「確認する・差し替える・積み重ねる」がやりにくい。地味でも伝わる動画を、続けて出していく。中小企業の発信に効くのは、こちらの設計だと私は考えています。
もう一つ、部品方式には見落とされがちな利点があります。それは「説明できる」ことです。丸ごと自動で生成された映像は、なぜその絵になったのかを人間が説明しにくい。一方、部品方式なら、この場面はこういう意図でこの絵にした、とひとつずつ根拠を言えます。採用や取引の場面で会社が出す動画には、責任が伴います。何かを指摘されたとき、どの部品をどう作ったのかを説明できることは、地味ですが経営者にとって大きな安心材料です。豪華さより、確かさ。中身に自分で責任を持てること。私が部品方式を勧める理由は、ここにもあります。
外注一本きりと、部品方式の続く発信
ここで、モデルケースの警備会社の前と後を並べてみます。数字はあくまで一例として読んでください。
以前の姿は、こうでした。動画は制作会社に外注する高価な一大イベント。見積もりは一本で数十万円。撮影の日程調整に社員のシフトを合わせる必要があり、話は半年止まる。仮に一本作れても、内容を変えたくなれば、また撮り直しと追加費用。結果として、動画は「いつか作る特別なもの」のまま、採用サイトは文字だけ、という状態が続いていました。作るハードルが高すぎて、そもそも回数が増えないのです。
部品方式に変えた後は、こう変わりました。撮影がないので、日程調整という一番重い工程が消えます。伝えたいことを言葉にし、台本・絵・声・組み立ての四部品を回せば、一本が仕上がる。気に入らなければ、悪い部品だけ差し替える。だから二本目、三本目が驚くほど軽い。採用向けだけでなく、サービス紹介、社長のあいさつ、と横に広げていける。半年で一本も出せなかった会社が、月に数本のペースで発信を積み上げられるようになりました。
見てほしいのは、一本あたりの出来栄えよりも「回数」です。発信は、一本の傑作より、続く十本のほうが効きます。応募者は何本も見て会社の空気を感じ取り、取引先は更新され続けるページに信頼を寄せます。外注一本きりでは、この積み重ねが構造的に作れません。部品方式は、質を落とさずに回数を増やせる。ここが、いちばんの違いです。
もちろん、外注が悪いという話ではありません。会社の看板になる勝負の一本は、プロの手を借りる価値が十分にあります。ただ、その一本を待っている間に、日々の発信が止まってしまうのはもったいない。勝負の一本は外注に、ふだんの発信は部品方式で自作に。こう役割を分ければ、費用をかけるべきところにかけながら、発信の量そのものは落とさずに済みます。ゼロか外注かの二択で悩んでいた会社ほど、この使い分けで一気に前に進みます。

経営者へ——手を動かす人から、意図を伝える人へ
私が経営者のみなさんにお伝えしたいのは、道具の使い方の話ではありません。役割を変えましょう、という話です。これまで動画は、撮る人・編集する人という「手を動かす人」がいないと作れませんでした。だから外注するか、諦めるかの二択でした。いまは違います。あなたが「監督」として意図を言葉にすれば、統括デスクと専門スタッフが手を動かしてくれる。
監督業に必要なのは、機材の知識でも編集の技術でもありません。「誰に、何を、どうなってほしくて伝えるのか」を、はっきり言葉にする力です。これは、経営者がふだんの仕事でいちばん鍛えている力そのものです。方針を決め、人に伝え、上がってきたものを判断する。動画づくりは、その延長線上にあります。カメラを構える練習より、意図を一文で言い切る練習のほうが、はるかに役に立ちます。
最初の一本は、きっと完璧ではありません。それでいいのです。部品方式なら、次の一本で気になった部品を直せばいい。大事なのは、半年止めないこと。三脚の前で固まるのではなく、まず言葉にして、組み立ててみる。その一歩を踏み出した会社から、発信は静かに積み上がっていきます。

おわりに
カメラを買った社長より、プロンプトを書いた社長のほうが、動画が増えた。この見出しは、皮肉でも大げさでもありません。私が現場で何度も見てきた、ただの事実です。分かれ道は、動画を「撮るもの」と思うか「組み立てるもの」と思うか。設計図を描き替えた瞬間、三つの壁は低くなり、半年止まっていた計画が動き出します。
高価な機材も、撮影の段取りも、カメラの前で話す度胸も、もう入口の条件ではありません。必要なのは、伝えたいことを言葉にする力と、部品に分けて考える発想だけ。今日ご紹介した五つのプロンプトは、その入口を開けるための鍵です。まずは目的を仕分けるところから、気軽に試してみてください。あなたの会社の誠実さは、撮らなくても、ちゃんと動画にできます。
鈴木章裕
株式会社コミクス 代表取締役