
そのAIの答え、誰が書いたか言えますか。──「指定した名前と答えるモデルが違う」が公式告知になった週に、社長が分けた「銘柄指定の仕事」と「おまかせでいい仕事」
「同じ頼み方なのに、先週から答えが雑になった気がして。私の頼み方が下手になったんですかね」。月曜の午後、ホテルの会議室でそう言われました。私が返したのは一言です。頼み方の腕なのか、答えた相手が替わったのか、切り分ける記録がなければ、どちらとも言えません、と。この9月、指定した名前と実際に答えるモデルが食い違いうることが、公式告知にも観測報告にも出ました。社長が手を打つべきなのは全部の仕事ではなく、差が金額に出る、ほんの数個だけです。

指定した名前と、答えるモデルが違う
この週に起きたことを、公式に確認できたことと、まだ確認が取れていないことに分けて並べます。ここを混ぜると、社内の説明がいきなり怪しくなります。
確認できたほうから。DeepSeek は9月10日に V4.1 Flash を公式発表しました。画像の理解を含むマルチモーダルに対応し、エージェントとしての性能と処理効率を改善し、ウェイトも公開しています。ただ、企業にとって効くのは性能の話より、同じ告知に添えられた切り替えの予定です。公式告知では、9月14日12時(北京時間。日本時間では13時)以降、旧 deepseek-v4-pro へのリクエストも V4.1 Flash へ切り替えるとしています。こちらは何も変えていない。同じモデル名を指定して、同じ頼み方をしている。それでも処理の実体が入れ替わる。使っている業務があるなら、出力の品質を確かめ直す価値があります。
もう一方は、確認が取れていない話です。「最上位を頼んでも、下位でコスパ重視の GPT-6 Sol に振り分けられているのではないか」という観測報告が出ています。ただし OpenAI の正式発表や公式のモデル案内では、GPT-6 Sol の正式提供も、自動で切り替える仕組みも裏づけられていません(公式に載っている GPT-5.6 Sol とは別の名前です)。画面に見えるモデル名らしき表示や、答えの傾向が変わった感触だけでは、実際にどのモデルが処理したのかも、どんな条件で切り替わるのかも確定できません。社外向けに説明するなら「観測報告はあるが、公式の確認は取れていない」と書くのが正確です。
背景として、需要が計算資源を超えている気配もあります。9月10日、担当者の発言を引用した報道で、Astra への需要による計算資源の負荷を理由に、月額200ドルの Pro プランの新規申し込みを一時停止していると説明されました。ChatGPT 全体が止まったわけでも、既存の Pro が止まったわけでもありません。再開の時期も確認が取れていません。ただ、資源が足りない場面で事業者が何を考えるかを想像するには、十分な材料です。
そもそもこの月初は更新が重なった週でした。9月1日から3日にかけて Anthropic・Google・Meta・OpenAI の最上位モデルの更新が集中し、「もう驚きにくい」という声も出ています。9月1日の Claude Fable 5.1 / Mythos 5.1 は長時間の問題解決を強化しました。キャッシュ読み出しの料金引き下げで、典型的な処理は約25%、エージェント処理では最大約45%の低減を見込むと公式に説明されています(全部が一律に45%安くなるという意味ではありません)。9月2日の Gemini 3.8 Flash は多段階の推論を強化し、100万トークンあたり入力0.75ドル・出力3.75ドルという導入価格を2026年12月31日まで置いています。同じ日の Muse Spark 1.3 は長時間の作業と複数案件の管理を改善。9月3日の GPT-6 Astra は、PC操作やブラウザー操作を含む複数のソフトを横断する仕事を強化しました。9月8日には Meta が個人向けエージェントの Muse を米国から展開し始め、Qwen3.8 も27Bなどが Apache 2.0 表記で公開されています。

「私の頼み方が下手になったんですかね」
ここから先は、私が支援してきた複数の会社の事例を1社のモデルケースとして再構成したものです。社名も人物も特定できないように変えてあり、数字はあくまで一例として読んでください。
宴会場を1館持つホテル。従業員62名。F社長は40代後半で、宴会営業4名にフロント、調理部門を見ています。AIの使い方はすでに整理されていました。宴会の提案書づくりと、海外のお客様への英文メール返信には最上位のモデルを月額で契約。フロントの定型返信と館内案内文の下書きには、安いプランを当てている。判断としては筋がいい。私が顧問として入ってからも、その配分は触っていませんでした。
9月14日、月曜の午後。定例の顧問ミーティングでの第一声が、これでした。
「同じ頼み方なのに、先週から答えが雑になった気がして。私の頼み方が下手になったんですかね」
私はこう返しました。
「頼み方の腕か、答え手が替わったのか。切り分ける記録が無いと、どちらとも言えません」
F社長は少し黙ってから、「記録、ですか」と言いました。何を記録するのか、ぴんと来ていない顔でした。無理もありません。頼み方を変えていないのだから、変わりうるのは自分の腕か、相手の機嫌くらいだと思ってしまう。私も、AIを使い始めた頃はそう考えていました。答えが悪い日は自分の書き方を疑い、頼み方の本を買い、言い回しを直す。それで改善したように見えることもあるので、余計に自分の腕の話だと思い込みます。
そこで私は、この週の出来事を2つ並べました。ひとつ目。DeepSeek では、今日の昼から、旧モデル名を指定したリクエストも新しいモデルへ切り替わると公式に告知されている。名前だけ同じで、答える中身が入れ替わる。ふたつ目。最上位を頼んでも下位に振り分けられているのではないか、という観測報告が別の事業者について出ている。ただしこちらは公式の確認が取れていないので、事実として扱ってはいけない。
「……つまり、頼んだ相手と答えた相手が、同じとは限らないと」
そうです、と答えました。しかも片方はもう公式告知になっている。いや、正確に言うと、公式告知になったのは今回が初めてではないのかもしれません。ただ、経営者が知っておくべき話として並んだのは、この週が初めてだったと思います。答え手が替わることは、もう普通の週の出来事になった。
ここで大事なのは、F社長の会社で起きた「雑になった」の原因を、この場で特定していないことです。切り分ける記録が無いのだから、特定できない。私は特定を諦めた顔をせず、正直にそう言いました。「原因は分かりません。ただ、次に同じことが起きたときに分かる状態にはできます」。経営者に対して「分かりません」と言うのは勇気が要るのですが、ここで適当な犯人を作ると、そのあと全部が嘘になります。
白板を縦に割った日
私は会議室の白板に縦線を1本引いて、左に「差が金額に出る仕事」、右に「差が手間に出る仕事」と書きました。
物差しはひとつだけです。答えが一段悪かったとき、金額の抜けになるか、一回の手直しで済むか。宴会の見積提案は左です。オプションの拾い漏れ、サービス料の掛け違い、持ち込み料の書き忘れ。どれも、そのままお客様に出れば金額の話になります。館内案内文の下書きは右。言い回しが硬くても、担当者が一度直せば終わる。
F社長に、宴会営業とフロントが今AIに投げている仕事を思いつく順に挙げてもらいました。出てきたのは20ほど。それを2つに振っていきます。迷ったものは「その答えが一段悪いとき、最初に困るのは誰か」を聞きました。お客様や取引先が困るなら左、社内の誰かが困るなら右。この一問で、ほとんど片づきました。
面白かったのは、F社長が最初に左へ置こうとした仕事のうち、3つが右に移ったことです。どれも社長自身が手をかけている仕事で、思い入れの分だけ重く見えていた。「これは、僕が最後に必ず読みますよね」と本人が気づいて、自分で右へ動かしました。社長が読むなら、一段悪い答えは社長の手間になって止まります。金額までは出ていかない。
左に残ったのは6つでした。宴会見積の提案書、海外団体の英文の契約確認、婚礼の見積説明、法人宴会のキャンセル規定の案内、アレルギー対応の確認文、団体の支払い条件の整理。
「6つだけでいいんですか」
F社長の声には、拍子抜けと不安が半分ずつ混じっていました。私は答えました。
「6つだけだから守れます。20全部を銘柄指定にしたら、担当者はすぐに守らなくなります。守られない決まりは、決めていないのと同じです」
ここは少し言葉を足しました。全部を銘柄指定にすると高いプランを人数分ぶら下げて費用が跳ねるし、担当者は毎回どのモデルかを確認する手間で仕事が遅くなるし、遅くなれば結局こっそりおまかせで済ませて、決まりだけが紙に残る──という流れを、いくつもの会社で見てきました。逆に全部をおまかせにすれば費用も手間も軽いのですが、一段悪い答えが金額の抜けとして社外に出ていくのを止める仕組みが、どこにもなくなります。
その日の夕方、F社長の机には3枚の紙が置かれていました。1枚目は銘柄指定の仕事の一覧、6行。2枚目は、頼み方の末尾に貼る「答えたのは誰か」の前置き文。3枚目は、おまかせの仕事を抜き取って見るための記録表です。
翌朝の火曜、朝礼で宴会営業に「この6つは設定を固定します」と伝える予定になりました。伝えるのはF社長本人です。私が言うより、社長が言ったほうが長く続きます。そういうものです。

差が金額に出る仕事を数える
最初にやることは、モデルの調査でも、費用の比較でもありません。自社の仕事を左右に振って、左の数を確定させることです。
これは社長がひとりで、15分で終わります。パソコンの前に座る必要もない。スマートフォンの音声入力で、自社の仕事を思いつくまま話せば足ります。分類はAIにやらせて、社長は出てきた表を見て「これは違う」と直すだけ。判断を人がやり、作業をAIがやる。この順番を崩さないでください。
次のプロンプトを、そのまま使えます。移動中の車の中で、営業から戻ったその足で試してみてください。
あなたは中小企業の業務設計に詳しいコンサルタントです。
私はこれから、自社でAIに任せている仕事を思いつくまま10個話します。
【ここに仕事を10個話す/貼る】
この10個を、次の2列に仕分けて表で返してください。
- 差が金額に出る仕事: 答えが一段悪いと、見積の抜け・契約条件の誤り・値引きの見落としなど、金額に直結する損が出る仕事
- 差が手間に出る仕事: 答えが一段悪くても、一回の手直しで済む仕事
出力は次の表形式のみ。前置きと感想は書かないでください。
| 仕事 | 差が出る先 | そう判断した根拠(1行) | 一段悪い答えが出たとき最初に困る人 |
最後に「差が金額に出る仕事」だけを抜き出し、影響の大きい順に番号を振った一覧を付けてください。出てきた表の「根拠」欄を読むと、自分がなぜその仕事を重く見ていたのかが言語化されます。担当者に説明するとき、この1行がそのまま使えます。
答えたのは誰かを残す
左が決まったら、次は記録です。F社長が答えられなかった「先週は誰が答えたのか」を、来週は答えられるようにする。
やることは2つ。設定でモデルを固定できるサービスなら固定して、その設定画面の控えを残す。そして出力の末尾に、使ったモデル名と設定と日付を書かせる。ただし後者はAIの自己申告なので、目安として扱います。正として残すのは、設定画面を開いて撮った控えです。この順序を間違えると、AIが名乗った名前を信じて、存在しない安心を買うことになります。
サービスによっては、そもそもモデルを固定する欄がないこともあります。その場合は無理に固定しようとせず、「固定できない」と仕分け表に書いてください。書いてあれば、次に答えが変わったとき、原因の候補としてすぐ思い出せます。書いていないと、また社長の頼み方が疑われます。
まず、決めたことを1枚に落とす雛形です。共有フォルダの一番上に置いて、決めた日を必ず書いてください。
# 銘柄を決める仕分け表(<会社名> / 記入日: 2026-__-__)
| 仕事 | 差が出る先(金額/手間) | 銘柄指定 or おまかせ | 固定した設定と控えの置き場所 | 決めた日 |
|---|---|---|---|---|
| 宴会見積の提案書づくり | 金額 | 銘柄指定 | モデル: ____ / 控え: 共有フォルダ「AI設定」 | 2026-__-__ |
| 海外団体の英文契約確認 | 金額 | 銘柄指定 | モデル: ____ / 控え: ____ | 2026-__-__ |
| 館内案内文の下書き | 手間 | おまかせ | — | 2026-__-__ |
| | | | | |
※「銘柄指定」は最大6件まで。7件目を足したいときは、どれか1件を「おまかせ」に戻してから足す。次が、銘柄指定にした6つの仕事で毎回使う前置き文です。担当者には「この文を頼み方の末尾に貼ってから送ってください」とだけ伝えます。
【毎回、頼み方の末尾に貼る一文】
この回答の最後に、次の3点を必ず書いてください。
1. あなたが使ったモデル名(分かる範囲で)
2. この会話で有効になっている設定(モデル選択・思考の深さ・ツール利用の有無)
3. 今日の日付
書式は「使ったモデル: ○○ / 設定: ○○ / 日付: 2026-__-__」の1行で。
不明な項目は「不明」と書き、推測で埋めないでください。
※ここで返るモデル名はAIの自己申告であり、目安として扱います。
正として残すのは、サービスの設定画面を開いて撮った控え(画面の画像または設定値のメモ)です。そして、F社長が月曜に言った「答えが雑になった気がする」を、来週は切り分けられるようにするプロンプト。先週と今週の出力を両方とっておくことが前提になるので、前置き文の運用とセットで動きます。
あなたは業務システムの不具合切り分けを専門とする分析役です。
同じ仕事を、先週と今週、同じ頼み方でAIに任せました。答えの質が変わった気がしています。
【先週の頼み方(原文をそのまま貼る)】
【先週の答え(原文をそのまま貼る)】
【今週の頼み方(原文をそのまま貼る)】
【今週の答え(原文をそのまま貼る)】
次の3点を、この順で出してください。
1. 二つの答えの違いを、観察できる事実だけ箇条書きで(長さ・項目の有無・数字の扱い・言い回し)
2. その差の原因の仮説を「頼み方の差」「答え手(モデル・設定)の差」「入力データの差」の3つに分け、それぞれの根拠と確からしさを1行ずつ
3. どちらが原因か確かめる手順を、明日30分でできる形で3ステップ
断定はしないでください。この情報だけでは確定できない場合は、そう書いてください。最後の一文がこのプロンプトの肝です。AIは聞かれれば必ず原因を答えてしまう。確定できないときに「確定できない」と言わせる指示を入れておかないと、もっともらしい犯人を毎回連れてきます。
おまかせの仕事は週に1回、抜き取る
残りの仕事はおまかせのままでいい。ただし、放置とおまかせは違います。安く速く回しながら、一段悪い答えが金額の話に化けていないかを、定期的に抜き取って確かめる。

抜き取りは、先週のおまかせの出力から3件だけ。全部を見ようとした瞬間に続かなくなります。3件を見て、金額に効く差が混ざっていたら、その仕事を銘柄指定へ格上げする。格上げしたら、6件の枠から1件を外す。枠を増やさないのが、この仕組みが長くもつかどうかの分かれ目です。
3件は無作為に選びます。担当者に「よく書けたものを持ってきて」と言うと、当然いいものが出てきて、抜き取りの意味が消えます。選ぶ人を毎週交代させるのも同じ理由です。社長がずっと選んでいると、社長が気にしている仕事ばかりが見られて、気にしていない仕事が死角になります。
格上げを決める前に、社長が自分で○をつける確認事項を挙げておきます。
銘柄指定を決める前チェックリスト(社長が○をつける)
- [ ] この仕事の答えが一段悪いと、金額の抜け・誤りが出る
- [ ] その抜けに気づくのは、社外の相手(お客様・取引先)である
- [ ] 直すのに、担当者だけでなく私(社長)の判断が要る
- [ ] 過去1年で、この種の抜けが実際に1回以上起きている
- [ ] この仕事は月に3回以上ある
- [ ] 使っているサービスで、モデルや設定を固定できる
- [ ] 固定できない場合の代替手段(人の二重確認など)を書いてある
- [ ] 固定した設定の控えを、誰でも見られる場所に置ける
- [ ] 担当者が「今日は別のを使った」と言える空気がある
- [ ] 銘柄指定の仕事の合計が、6件以内に収まっている
全部に○がつかないものは、まず1か月おまかせのまま動かして様子を見る。次が、抜き取りそのものです。判定はAIにやらせて、格上げの決断だけ人がやる。
あなたは品質検査の担当者です。厳しめに見てください。
先週、おまかせ(モデルを固定していない状態)で作らせた出力を3件貼ります。
【出力1】
【出力2】
【出力3】
【この3件が使われた仕事の説明(1〜2行ずつ)】
各件について、次の3段で判定してください。
- A: このまま社外に出せる
- B: 手直し1回で出せる(手直しの内容を1行)
- C: 金額に効く差がある(どの数字・条件がどう危ないかを1行)
判定の後に、次の2つを出してください。
1. Cが1件でもあった仕事を「銘柄指定へ格上げ」の候補として名前を挙げる
2. 格上げの代わりに、頼み方の書き換えで防げるものがあれば、その書き換え案を1つ
3件ともAだった場合は「格上げ不要」とだけ書いてください。もうひとつ、担当者側から上がってくる導線も要ります。F社長の「雑になった気がする」は、本来なら現場から先に上がっているはずの声でした。上がってこなかったのは、担当者が原因を説明できないと報告してはいけないと思っていたからです。原因は書かなくていい、と最初に決めておきます。
# 品質が落ちたと感じた日の報告(担当者記入・所要3分)
- 仕事の名前:
- 使ったサービスと、画面に見えていたモデル名:
- 頼み方(原文をそのまま貼る):
- いつから変だと感じたか(日付・おおよそで可):
- 答えの何が変わったか(短くなった/数字が抜けた/言い回しが硬くなった 等、見えた事実だけ):
- 設定の控えはあるか(ある/ない/探したが見つからない):
- 次にすること(先週の出力と並べて比べる/設定画面を開いて控えを取る/社長に報告):
※原因の推測は書かなくて構いません。見えた事実だけで十分です。月曜の朝と、同じ日の夕方で変わったこと
月曜の朝の時点で、このホテルにあったのは契約と請求書だけでした。どの仕事にどのモデルを当てているかは、社長の頭の中にありました。誰がいつ、どのモデルの答えをお客様に出したかは、どこにも残っていない。だから「先週から雑になった」と感じても、比べる相手がいませんでした。
同じ日の夕方、机の上には3枚の紙があります。6行の一覧には、守る仕事の名前が書いてある。前置き文には、答えたのが誰かを名乗らせる指示が書いてある。記録表には、これから毎週1行ずつ足していく空欄がある。
変わったのは、原因が分かったことではありません。分からないままです。変わったのは、次に同じことが起きたときに、分かる側に立てるようになったことです。
抜き取りは、続く形にしておかないとすぐに消えます。曜日と時間を先に決めて、社長と担当者1名で15分。月に1回だけ、費用の見え方を揃える行を足します。
# 抜き取り読み合わせ(毎週◯曜 朝15分・出席: 社長+担当1名)
進行
1. (3分)先週の「おまかせ」の出力から3件を無作為に選ぶ。選ぶ人は毎週交代する
2. (7分)3件をA/B/Cで判定する(物差しは抜き取り検査の3段)
3. (3分)Cが出た仕事を銘柄指定に格上げするか決める。格上げしたら6件の枠から1件を外す
4. (2分)下の記録表に1行足して終わる
| 日付 | 見た3件 | A | B | C | 格上げした仕事 | 外した仕事 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2026-__-__ | | | | | | |
月に1回だけ、次の行を足す(同じ仕事を別の候補に渡して比べるときの共通の物差しになる)
| 月 | AI利用料 | 人の確認・修正にかかった時間 | 合格した成果物の件数 | 1件あたりの費用(利用料+人件費)÷件数 |
|---|---|---|---|---|
| 2026-__ | | | | |この1行が効いてくるのは、次に乗り換えを考えるときです。同じ過去案件を各候補に渡して、AIの利用料と人の確認・修正の費用を足し、合格した成果物の件数で割る。カタログの単価ではなく、仕事を1件仕上げるまでの費用で比べられます。安いモデルが結局は人の手間を増やして高くつく、という逆転も、この割り算なら見えます。

社長にしか決められないのは、数を絞ることだけです
AIの導入で社長がやることは、だんだん減っています。ツールを選ぶのも、使い方を覚えるのも、現場のほうが速い。277社の支援でそれは何度も見てきました。
それでも社長にしか決められないことが、ひとつ残ります。守る仕事の数を絞ることです。
現場は基本的に、増やす方向に動きます。大事な仕事はどれかと聞けば、全部大事だという答えが返る。それは誠実な答えで、間違ってもいません。ただ、全部を守ると決めた会社は、実際には何も守れません。20の仕事すべてでモデルを固定し、控えを残し、毎週点検する。ほどなく形骸化します。そして形骸化した決まりがあると、社内は「守っているつもり」になり、かえって危なくなる。
6つに絞るのは、14を捨てる決断です。捨てる側の責任を取れるのは社長だけです。「この14は、一段悪い答えが出ても一回の手直しで済む。手直しの手間は会社が飲む」と言い切れるのは、費用と信用の両方を背負っている人だけだからです。
現場にこの線引きをさせると、必ず甘くなります。甘くなるのは能力の問題ではなく、立場の問題です。担当者にとって、自分の担当を「守らなくていい側」に置くのは、自分の仕事を軽く見せる行為に近い。だから全部が左に寄る。社長が線を引いて初めて、担当者は安心して右に置けます。「これは社長が右だと決めた仕事だから、手直し前提でいい」と言えるようになる。線を引くのは、現場を縛るためではなく、現場を軽くするためでもあります。
もうひとつ。答え手が替わりうる時代に効いてくるのは、モデルの目利きではなく、自社の仕事を左右に振る物差しを、社長が自分の言葉で持っていることです。目利きはすぐに古くなりますが、物差しは古くなりません。物差しさえあれば、来月また新しい名前が出ても、振り直すのは6行だけで済みます。名前を追いかけるのをやめて、6行を守る。それが、この週のニュースから経営者が受け取るべき、たったひとつの実務です。
答え手が替わっても、会社の答えは替わらないように
この記事を書いているのは水曜、9月16日の朝です。F社長の6つがうまく回るかどうかは、まだ分かりません。火曜の朝礼でどう伝わったかも、私はまだ聞いていない。
余談ですが、この原稿を書きながら、自分の会社の仕分け表を引っ張り出したくなっています。
分かっているのは、月曜の昼に「私の頼み方が下手になったんですかね」と言ったF社長の机に、同じ日の夕方、3枚の紙が置かれているということだけです。原因はまだ分かりません。それでも、次に答えが雑になったと感じた日、あの会社は「先週は誰が答えたのか」に答えられます。
指定した名前と、答えるモデルが違う。これは今週限りの珍事ではなく、これから何度も起きます。窓口の向こうで誰が答えているかを、こちらが完全に握ることはできません。握れるのは、どの仕事だけは握ると決めること。その6行を書くのに、必要なのは最新の知識ではなく、自社の仕事を思い出す15分です。
今日の夕方、机に置く紙は何枚になりますか。
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鈴木章裕
株式会社コミクス 代表取締役