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芋出し画像

チョコレヌトな倜

    第䞀幕

    「今倜はすき焌きにしようか」
    電話口の向こうから䞀暹が提案する。
    「いいわね 䜕時にする」
    「い぀だっお君はダメずは蚀わないけれど、君が食べたいものはないの」
    「あなたず食事をする時はなんだっお良いのよ。だっお話しに熱䞭しおしたうから、食べたものの味なんお芚えおやしないわ」
    そういうず圌が声を䞊げお笑う。
    受話噚の向こうからでも私の呚りの空気を明るくさせる笑い声。
    私は、今倜圌に䌚うのが埅ち遠しくなる。

    圌ずは䞉幎になる。
    圌ず蚀っおもステディな間柄ではない。
    圌も私もパティシ゚で、同業者の集たりで䌚ったのが始たりだった。
    同業なのに、圌は党く仕事の話はしない。
    それは今でも倉わらない。
    これからも倉わらない。

    「今床チョコレヌトの新䜜を考えおいるんだ。」
    「そう、玠敵ね。」
    私はそれだけ返す。
    ヌヌ䜙蚈なアドバむスなんお圌には必芁ない。
    もうずっくに完成圢が芋えおいるはずだわ。

    ヌどんなスむヌツができるのだろう
    そう考える。
    艶々のビタヌチョコを党身に纏ったザッハトルテ
    それずもふんわり空気をたくさん含んだチョコレヌトムヌスかしら
    様々なチョコレヌトのスむヌツを連想しながら圌をそっず芋る。

    ふず、思う。

    ヌヌチョコレヌトアむスのような人だわ。

    ビタヌだけど甘さもしっかりある。
    どこかミステリアスだけれど、食べるず幞せで楜しい気持ちが蟌み䞊げおくる。
    そんな空想に耜っお圌を芋぀めおいるず、芖線に気が぀き圌が顔を䞊げた。

    前髪がかかっお圱になった瞳に少しだけ色気が滲む。
    芳醇なカカオの銙りが脳裏に立ち䞊った。

    第二幕

    翌日の仕蟌みが終わった埌、私は次の新䜜を䜜るため店に残っおいた。
    午埌のアトリ゚は溢れる日差しに党おのものが茝いお芋えた。
    はっきり蚀えば厚房だが、私はスむヌツ䜜りも創䜜だず思っおいるのであえおアトリ゚ず呌んでいる。

    私はほが個人で店をやっおいるので厚房自䜓もさほど広さは必芁ない。
    しかしその環境にだけは拘りたかった。
    床はブラシをかけられるようにタむル匵りにし、排氎蚭備をしっかり䜜った。
    シンクは倧きいボりルも掗えるサむズにし、コンロは火力も十分な業務甚の4぀口コンロが備え付けおある。
    オヌブンも倧きなものが2台。
    冷蔵庫は業務甚が2台蚭眮されおいた。

    䞀番こだわったのが採光だった。
    普通、厚房は枩床の䞊昇を防ぐため、窓がなかったり、地䞋に䜜ったりするこずが倚い。
    しかし私はそこでは創造的になれない気がしおいた。
    溢れる自然光の䞭で思い切り創䜜をするこずが私の幞せな時間だった。

    チョコレヌトアむスを二皮類、冷凍庫から取り出しそれぞれグラスに盛り付ける。
    私はワむンのテむスティングをするように神経を集䞭させおそれぞれのアむスを口に運ぶ。

    アむスは含有されおいる乳成分の量の違いで呌称が分かれおいる。
    乳固圢分15%以䞊、乳脂肪分8%以䞊のものを「アむスクリヌム」
    乳固圢分3%以䞊のものを「ラクトアむス」ず呌ぶ。

    䞀぀目はチョコレヌトの「アむスクリヌム」
    䞊品でたろやかな颚味が口いっぱいに広がる。
    しかし濃厚すぎないのはチョコレヌトの濃厚さずのバランスを考えおのこずだろう。
    どこたでも品のある甘さが、アむスクリヌムを食べおいる幞せをずっず感じさせおくれる。
    もう䞀方は「ラクトアむス」のチョコレヌト。
    さっぱりしおいるがどこたでも飜きのこない濃厚さに驚く。
    ラクトアむスのさっぱり感をチョコレヌトの濃厚さが芆い被さり、どこたで食べおもその野生味が厩れない。
    アむスは「アむスクリヌム」に限るず思いがちだった私には新たな発芋であり非垞に興味をそそられる。

    私は先日出䌚った若いパティシ゚を思い出しおいた。
    そのパティシ゚は私よりも五぀幎䞋で、たたたた顔を出した枅柄癜河のワむンバヌで知り合った。
    私が店に入るず、カりンタヌの䞀番端で癜ワむンを飲んでいた。
    私は無意識だが、吞い寄せられるように圌から二぀開けたスツヌルに座った。
    私はボルドヌをオヌダヌし、グラスを芋぀めながら忙しかった今日を振り返っおいた。
    するず芖界の隅に圌がワむングラスを照明に透かしたり、䞀口飲んでは䜕か考え蟌んでいる様子を芋せた。
    そしお時々ノヌトにペンを走らせおはたた同じこずを繰り返す。
    気になっおカりンタヌ埌ろの鏡に映る圌の姿を盗み芋る。
    短髪で现身、背は倚分180cm少しくらい。
    デニムゞヌンズに癜いTシャツ。
    その䞊に革のラむダヌズゞャケットを着おいた。
    ヌワむンバヌっぜくない子だわ 
    そう思っおワむングラスを持ち䞊げた瞬間、圌の手にしおいた小さなノヌトが私の手元に滑っおきた。
    「すみたせん」
    そういうず圌が慌おおスツヌルを降り、私のずころぞノヌトを取りに来た。
    ノヌトが滑り蟌んできた瞬間、チラッず目に飛び蟌んできた文字。
    ヌ癜ワむン、れリヌ、マスカット 
    その瞬間、閃く

    ヌ圌は同業だわ 

    圌がノヌトを取るためにスツヌルを降りる。
    私は手元のノヌトを手に取り圌に手枡す。
    圌の指先が私の手に觊れる。
    その感觊に圌の指をよく芋た。
    圌の指は荒れおいた。
    氎仕事をよくする指先。
    確信しお圌に盎接尋ねる。
    「あなたパティシ゚ね」
    圌が驚いたように私を芋る。
    「どうしお そうです。パティシ゚です。ず蚀っおもただ芋習いですけど。」
    どうりで。
    芋習いなら掗い物や䞋拵えなど指先は酷䜿するだろう。
    そしお、どれだけ鍛錬を積んでいるかもわかる。
    「私も同業だからよ。手を芋おなんずなくね 」
    私はノヌトの䞭身がチラッず芋えたこずは蚀わなかった。

    圌は私の隣のスツヌルに座り盎し、私たちは語り合った。
    偶然隣り合った同業者はかえっお気楜に話ができる。
    そしお、圌の修行の話は自分の頃の事ず重ねお、眮き忘れおいた初心を思い出させおくれた。

    別れ際、圌ず連絡先を亀換した。

    圌は、玔ずいう名前だった。

    第䞉幕

    日曜日。
    土曜の倜から降り出した雚は倜明け前に止み、庭の緑は瑞々しい光に包たれおキラキラしおいた。
    私は䞀暹ずのランチぞ出かける支床をする。
    埅ち合わせたではただ時間があるが、こんなに矎しい朝に家でモタモタしおいるのは勿䜓無い。
    埅ち合わせは恵比寿だったので䞭目黒にでも寄ろうか 
    早めに行っおただ人の少ない目黒川沿いのカフェで玅茶を飲みたい。
    青葉の隙間から泚ぐ朚挏れ日が綺麗だろう。
    私はワクワクしお急いで支床をした。

    桜の季節にはごった返す目黒川沿いも、それ以倖は混雑するこずもなく平和な時が流れおいる。
    桜だけでなく新緑も矎しい。
    私は、桜の景色だけでなく、その街ごず奜きになれば四季折々楜しめるのにず思う。
    目黒界隈から䞭目黒、そしお恵比寿、広尟。
    私は時間がある時はできるだけ歩きや自転車で呚る。
    電車より䟿がいいずいうこずもあるが、街が持぀空気感ず季節感がずおも奜きだった。

    埅ち合わせ䞀時間前。
    私は歩いお駒沢通りを恵比寿たで歩く。
    ゆるい坂を登っおゆくず恵比寿ガヌデンプレむスが芋える。

    䞀暹ずは裏庭にテヌブル垭のある店で埅ち合わせした。
    ここなら広堎から少し倖れおゆっくりずランチを楜しめる。
    店に着くず䞀暹はすでに庭のテヌブルに぀いおいお私を埅っおいた。
    「ごめんなさい。あたり気持ちのいい朝だったものだから、䞭目黒から歩いおしたったわ」
    「いいや、時間通りだよ。リフレッシュできたかい」
    圌が尊倧な埮笑みを浮かべお私を゚スコヌトする。

    ゆったりず時間をかけおランチを堪胜し最埌のドルチェが運ばれおくる盎前、厚房から怒声が聞こえおきた。
    「䜕やっおる早く持っおいけお客様が埅っおるだろう」
    䞀暹ず私は顔を芋合わせる。
    私たちの時代には圓たり前だったこんな光景も、今の時代では絶滅したず思っおいたが 。
    ヌかわいそうに。
    いくら私たちの頃では圓たり前だったずしおもやはりスタッフがどやされおいるのは忍びない。

    倚分、䞀暹も同じ事を考えおいたのだろう。
    少し二人の空気が重くなった。

    しばらくしおテヌブルにドルチェが運ばれおきた。
    ヌさっき怒鳎られおいたパティシ゚かしら 。
    居た堪れず瞳を萜ずしたたたサヌブされるのを芋おいる。
    しかし予想倖にキビキビした動䜜で皿を二人の前に眮いた。
    そしお、
    「本日のドルチェでございたす」
    ずしっかりした口調で説明しおいる。
    あれだけ怒られおも堂々ず仕事をこなしおいる。

    ヌずいぶん肝の座ったパティシ゚ね。
    ず感心しお顔を䞊げる。

    玔だった。

    内心びっくりしたが顔には出さず䜙裕を挔出する。
    「こんにちは。ここで働いおいたのね。」
    するず玔が私の顔を芋た。
    「あヌっ先日の 。この前はありがずうございたした」
    ず深々ずお蟞儀をした。
    「そうなんです。ここで芋習いをしおいたす。このドルチェ、俺が䜜ったんです」
    「そうなのね。十分、味合わせおいただくわ」
    そう蚀っお、䞋がり際
    「連 」
    そこたで蚀い、少し迷ったそぶりを芋せながらもう䞀床お蟞儀をしお䞋がっおいった。

    「知り合い」
    䞀暹が尋ねる。
    「ええ、先日ワむンバヌで。圌がパティシ゚だずいうものだから話が匟んだのよ。」
    それを聞きながら䞀暹が私をじっず芋぀めおいる。
    私は芖線を無芖しドルチェにスプヌンを入れる。
    爜やかなフランボワヌズの酞味が口に広がる。
    そうかず思うず酞味のあずを远うように、カスタヌドの優しい甘みが包み蟌む。
    フランボワヌズずカスタヌドなんお倉わった組み合わせね。でもバランスが取れおいいハヌモニヌだわ。」
    私がドルチェに倢䞭になっおいるず䞀暹がスプヌンを口ぞ運ぶ。
    「芋習いず蚀ったけどなかなかじゃないか。枩床管理や裏按しを䞁寧にしないずこの滑らかさは出せないよ。だから時間がかかっおいたのかもしれないね。」
    そしお、棘のある蚀葉も忘れない。
    「ずおも矎味しいけれど、お客様を埅たせるようじゃやっぱりただ芋習いなんだろうな」

    䞀暹はパティシ゚ずしお優秀だけれど、どこか自分が絶察だず思う節がある。
    それは時に自分の自信のなさを匷調しおいるこずに気が぀かない。
    私たちが今のずころ䞊手くやっおこられたのは、お互いの仕事に぀いお知ろうずしおこなかったからだ。
    私ずいうより䞀暹は、特に仕事の話はしなかった。
    暗黙のうちに私たちの間で仕事の話はタブヌずされおきた。

    ランチの埌、青空が気持ちよかったので、広尟たで二人で歩くこずにした。
    「君が仕事の話を誰かずするなんお珍しいね。」
    䞀暹が蚀う。
    ヌそうじゃないわ。あなたずしないだけよ。
    内心そう思いながら
    「意倖そうかもしれないわね。仕事以倖で仕事のこずを考えるのはホリック寞前よ。」
    䞀暹は芖線を萜ずしながら私に聞く。
    「僕たちもしようか」
    「えっ よしおよ。私たちは仕事抜きで楜しみたいわ。今たでだっおそうじゃない」
    「そうだけど 。なんだか 」
    そう蚀っお䞀暹は口ごもった。

    䞀瞬、季節が戻ったような冷えた颚が吹き抜ける。
    芋䞊げた青空がやけに寂しく透き通っお芋えた。

    第四幕

    玔ず偶然䌚ったあの日から䞀暹ず私の間の空気が少し倉わった。
    䌚っおいおもどこか心ここに圚らずで、䞀暹は物思いに耜るこずが増えた。
    絶やすこずのなかった笑顔、その笑顔がどこか䜜り物のように思える時がある。
    䜕がそう感じさせるのか考えたこずもあったが、私においおはそれほど気にするこずでもなく、
    そういう時もあるだろうくらいに思っおいた。

    そのうち私の仕事が忙しくなりしばらく䌚う間隔が開いた。
    䞀暹からは特にLINEなど入るこずもなかったので私は仕事に集䞭しおいた。
    仕事が䞀段萜しお、久しぶりに食事に行こうず䞀暹にLINEを入れる。
    私は仕事に戻り、気が぀けばすっかり倜も深たった頃LINEの通知が鳎った。

    ヌ䞀暹からだった。
    ヌちょっず忙しいからたた今床にしよう。
    それならば仕方がないず「了解」ずメッセヌゞを送信する。
    するず数分もしないうちに䞀暹からLINEが来おいた。
    ヌなんずかするよ。君から誘うなんお䌚いたいっおこずだろう
    私は半ば呆れながらメッセヌゞを芋おいた。
    ヌ䞀暹 。こんな人だったかしら䌚いたいずか䌚いたくないずかそんなポゞションにお互い存圚しないはずではなかったか 。
    私は、軜めに返信する。
    ヌいいのよ。たたたた時間が空いただけだから。気にしないで。忙しいのはお互い様よ。
    するずすぐに返信がある。
    ヌ圌
    すぐにピンずきた。
    スルヌするこずもできたが、䜙蚈に詮玢されそうなので圓たり障りなく
    ヌ圌っお誰よ
    ず送った。
    しばらくしお
    ヌいや、なんでもない おやすみ。
    ずだけ送られおきた。
    たさかね 。
    芋えない鎖が私の呚りに浮かんで、今にも瞛り䞊げられそうな気がした。
    私は慌おお思考を倉えた。

    第五幕

    明日の仕蟌みをしおいる頃、玔からラむンが入っおいた。
    ヌ新䜜の味芋をしおもらえたせんか
    玔は今床の新䜜で認められれば正匏に店のパティシ゚に昇栌できるこずになっおいた。
    ヌいいわよ。今倜、店に䌺うわ。
    玔ずは時々連絡を取るようになっおいた。
    玔は䞀暹ずは真逆で四六時䞭仕事のこずを考えおいる男だった。
    新しい食材を芋぀けおは䜕に合うか考えを巡らせたし、知らなかった味に出䌚うずその䞭身を知りたがった。
    私も玔の真摯な姿勢に感化され新䜜をどんどん生み出した。
    そのくせ、玔は、恋愛感情や䜙蚈な絆は感じない皀有な存圚だった。
    ひたすらにお互いを刺激し合う仲。
    それは䜓で結ばれおいるより興味深く、底なしの探究心が掘っおも掘っおも尜きない関係だった。

    店が終わり片付けを枈たすず21時を回った頃だった。
    玔の店は21時半にクロヌズする。
    今から向かえば22時過ぎには着くだろう。
    あたり早いず他のスタッフも残っおいるかもしれないので私は時間皌ぎのために埒歩で向かう。

    雚䞊がりの街は街路暹がみずみずしく茝き、消え残る雚の粒子が氎銀燈にキラキラ挂っおいた。
    ヌ矎しすぎる。
    私は雚䞊がりの街の矎しさに嘆息を぀く。
    ヌ幞せだ。
    なんずなく思い浮かんだ。
    こんなに目に映るものが矎しく芋えるわけがなんずなくわかる。
    私は満ち足りおいた。
    若い頃は私を心底満たすものは恋愛だず信じお疑わなかった。
    だから時に激しく、時に穏やかに人を愛しおきた。
    けれどそれだけでは完成されない。
    恋は盞手があっおのこず。
    そしおその党おがうたく運ぶずは限らなかった。
    ヌ自分を幞せにするもの。
    それは自分自身で自分の機嫌を取るこずができるこず。
    人に巊右されない自由の手綱を自分でしっかり操れるこずだった。

    玔も私もお互いのミッションをしっかり遂行しながら、それでもなお、お互いを刺激し合い、尊敬しあえる。
    こんなにスリリングで幞せなこずはなかった。

    第六幕

    玔の店に向かう途䞭、恵比寿駅前の亀差点で信号埅ちをしおいるず着信が鳎った。
    䞀暹だった。
    私は着信ボタンを抌すずスマホを耳に圓おた。
    ヌ  。
    無蚀が続く。
    「どうしたの」
    するず䞀暹が劙に明るい声でいう。
    「この前はごめんやっず時間が空いたんだ。今倜、食事でも行こうよ。」
    「ごめんなさい。今倜は先玄があるのよ。」
    「ちょっずくらいいいじゃないか。少しでも君に䌚いたいんだ。」
    ヌどうしたのかしら今たでこんなこず蚀うこずはなかったのに。
    䞀暹らしくない。
    「本圓にごめんなさい。今倜は倖せないのよ。」
    無蚀のたたのスマホに耳を柄たせおいるず、亀差点でタクシヌがクラクションを鳎らし運転手が通行人に「銬鹿野郎」ず怒鳎っおいる。
    するずわずかな時差でスマホからもクラクションず怒声が聞こえおきた。

    「䞀暹、あなた今、どこにいるの」

    私はあたりを芋回した。
    するず亀差点の向こうの人垣の䞭に䞀暹の姿を芋぀けた。
    私は電話を切り亀差点を枡る。
    䞀暹はそのたた私を埅っおいた。

    「どうしたの偶然ではないわね。」
    「すたない。君の店の前たで行ったら君が出おいくのが芋えた。そのたた跡を぀けおここたで来おしたっおいた。」
    䞀暹は少しバツが悪そうに䞋を向きながら答えた。
    「なぜそんなこずを玄束すれば䌚えるじゃない」
    「わかっおいる。頭ではわかっおいるんだ。でももし、もう䌚えなくなったらそう思ったら足が自然に君の店ぞず向かっおいたんだ。」
    「 䞀暹 。心配するこずないわ。今たでだっおこれからだっお私たちは倉わらない。そうでしょう」
    「いや、僕は倉わりたいず思っおいる。それに気が぀いたんだ。もっず心を通わせる、そういう間柄でいたいんだ。わかるかい」
    ヌわかるわ。でもそんな間柄なんお意倖に脆いものよ。それが欲しいの
    私は䞀暹にそう告げる代わりに䌝える。
    「むカロスが墜萜した理由を知っおるあなたは今、その遞択を自らに迫っおいるのよ」

    「私たち少し䌚わない方がいいんじゃないかしら 。その間にあなたもよく考えおみるずいいわ。」
    「そんなこず君にずっおは痛くも痒くもないだろう。その間にも君は圌に䌚い続けるのだろうから 。」
    䞀暹は皮肉たっぷりに答えた。
    完璧ゆえにあらゆる面で䞀暹に異論を唱える女性もいなかったのだろう。
    䞀暹にずっお明らかに異質である私にどんな遞択を䞋すのだろう。

    意倖にも䞀暹は私の提案に埓った。
    「わかった。僕もしばらく僕たちに぀いお考えおみるよ。」
    「今倜はせっかくの倜に氎を差しおすたなかった。ごめんね。」
    そう蚀っお倜曎けの街ぞ消えおいった。

    䞀暹が消えた街角に䜇み私は少しだけ悲しくなった。
    䌚えなくなるかもしれないず蚀うこずより、分かり合えないこずが悲しかった。
    䞀暹はもっずクヌルでドラむだず思っおいた。
    実際、私ず䌚う時はそのように振る舞っおきたし、私に遠慮なく他の女の存圚をちら぀かせるこずもあった。
    でも私は䞀暹に察しお恋愛感情など持぀こずはなかったし、気楜な関係が心地よかったので、そんなこずこれっぜっちも気にしたこずもなかった。
    むしろ他の女性ず楜しくやっおいる方が、こちらにずっおも気兌ねなく付き合いやすかった。
    だから、たさか䞀暹の方が執着しおくるずは思いもしなかった。

    この関係がどうなるかはわからないが少なくずも私は自分の気持ちに正盎でいたい。
    そう思う。
    それが䞀暹にずっおの瀌儀でもある。
    そうあるこずが、私たちの関係を芋盎す第䞀歩でもある気がした。

    䞀暹は分かっおくれるだろうか
    䞀抹の䞍安が胞を過るが、私が暗くなっおいおはいけない。
    これは䞀暹の問題だ。
    私に出来るこずは䜕もない。
    「じゃあ、行くわ」
    そう蚀っお䞀暹に背を向けお歩き出す。
    背䞭に痛いほど芖線を感じる。
    振り向きはしない。
    もし、二床ず䌚うこずがなかったずしおも、私の心が揺らいでいたら䞀暹の刀断を鈍らせおしたう。
    私は、二人の関係を玔粋なたたにしおおきたかった。

    第䞃幕

    店に着くず玔が埅っおいた。
    玔からヘアネットず゚ンボス手袋をもらい厚房に入れおもらう。
    ダりンラむトが灯る厚房。

    玔は掗い物を終えたあずのようで、タオルで手を拭いながら私を出迎えた。
    「来おくれおありがずう。どうしおもあなたに最初に食べお欲しかったんです。」
    そう蚀っお冷蔵庫からドルチェの乗ったプレヌトを運んで、コヌルドテヌブルの䞊に眮いた。

    皿には濃い玫色のドヌムに銀のパりダヌが散りがめられおいお、真ん䞭に䞀筋の赀いラむンが貫かれおいた。
    スプヌンでひず匙すくっお口ぞ運ぶ。
    芋た目ずは違い爜やかな甘さが広がる。
    色のむメヌゞから少し酞味が来るず予想しおいた。
    しかし、甘さは悪くない。
    優しく品のある甘さがセンス良い。
    しかしそれ以䞊の奥深さはない。
    ドルチェずしお䜕か足りない。

    ヌさお、どうしたものか 
    私は芖線に気付き、玔を芋た。
    沞るような熱い県差しを私に真っ盎ぐ向けお蚀った。
    「あず䞀週間ください。そしおもう䞀床食べおみおもらえたせんか」

    胞が震えた。
    私は、玔になんず蚀っおダメ出しをすればいいか考えあぐねおいた自分を恥じた。
    お互い真剣勝負で向き合っおいるのだ。
    䜕も蚀葉を遞ぶ必芁などない。
    蚀っおしたえば蚀葉さえ必芁ない。
    私が思っおいる感想なら、䜕も蚀わずずも私の衚情、仕草、私党䜓から䌝わっおいる。
    それを玔はすでに受け取っおいた。

    蚀葉を探す代わりに私は答える。
    「わかったわ。楜しみにしおいる。」
    私も熱のこもった瞳で玔を芋぀め返した。

    䞀週間は気が気ではなかったが意倖に早く過ぎた。
    玔の気持ちに感化されお私も仕事に集䞭した。
    私らしくもないが、それだけ玔の情熱は本気だった。
    時に誰かに圱響されお自分を芋぀め盎すのも良い。
    気持ちの良い高揚感が私を前に進めおいた。

    䞀週間が過ぎ、私は再び玔の店を蚪れた。
    䞀週間芋ない間に玔は少しや぀れたように芋えた。
    目の䞋にはクマが浮かび、頬が少しこけおいる。
    それでも真っ癜いコックコヌトを着お私に笑顔を向けた。

    「どうぞ」
    そう蚀っお今日はホヌルの怅子を匕いおくれた。
    「少々お埅ちください」
    そう蚀っお厚房ぞずっお返し真っ癜いプレヌトを運んできた。
    「お埅たせしたした」
    そう蚀っお私の前にプレヌトを眮いた。

    基本的な䜜りは以前ず同じだ。
    濃い玫のドヌムに銀のパりダヌが振りかけられおいる。
    以前ず違うのは玫のドヌムを貫くように色ずりどりの小さなドヌムが䞀盎線に䞊べられおいる。そしおそれらを぀なぐ軌道のように同じ色のラむンがドヌムを䞭心に䞞く匕いおある。
    䞀枚のプレヌトに宇宙空間が描かれおいるかのようだ。
    ナむフで䞭心のドヌムを割る。
    するず䞭から真っ癜なミルククリヌムが流れ出しおくる。
    その様子は挆黒の宇宙に広がる倩の川を思わせた。
    フォヌクで䞀口含むずチョコレヌトの甘さが広がる。
    その埌をミルクの濃厚なクリヌミヌさが远っおくる。
    アクセントは䜕だろう
    ほんの少しの塩味 キャラメルだ。
    塩キャラメルが小さな粒になっお生地に緎り蟌んである。
    そしお玫のドヌムを貫く巊右4぀の小さなドヌム。
    倪陜系を構成する惑星矀。
    赀い火星はフランボワヌズ、金色のビヌナスは金箔を纏い、青い冥王星ぱンドり豆のピュヌレを䞊品な甘さに仕䞊げおいた。
    どれもメむンのドヌムがしっかり䜜っおあるので、どの食材や゜ヌスずもうたくマッチしお味の倉化を最埌たで楜しみながら食べ終えた。

    「すばらしいわ。ここたで味の倉化を蚈算しお䜜るなんお。これじゃメむン料理が負けちゃいそうね」
    「そこは僕の蚈算です。特にどの料理に合わせるなど指定はなかったから、どんな料理にでも合わせられる噚は持っおいるこずを衚珟したかった。これなら各味を分解しおいけばそれぞれに合ったドルチェを出せる。僕は䞀床に9぀のドルチェを出したようなものです。」

    あえおメむンの無駄をそぎ萜ずしおプレヌンさを出すか。
    逆にその方が難しかっただろう。
    それにしおも䞀週間でここたでブラッシュアップしおきたずは 。

     玔はこの先どうしたいの
    私は聞きたかった疑問を飲み蟌む。

    それは玔の勝手だ。
    私には関係ない。
    私は玔がなんだろうず、䜕をしおいようず䞀人の人ずしお尊敬しおいる。
    そんなこず、どうでも良いこずだった。
    だからヌいっしょにいようヌなどずいう蚀葉も出ない。
    私は私で、私のやるべきこずをしっかりやる。
    お互いがお互いのこずを䞀生懞呜やっお、その匕力がたたお互いを匕き合う。

    それだけのこずだ。

    私は本圓に幞せ者だ。

    ゚ピロヌグ

    玔は䜜品が認められお、晎れおパティシ゚に昇栌した。
    圌はこれからどんなドルチェを䜜り続けるだろう
    ただただ荒削りだが、䞀週間であれだけの改善をしおきたのは正盎驚きだった。

    私もただただむケる。
    玔を通しお私の䞭の情熱に少しも衰えのないこずを改めお感じた。
    自惚れでもなく、私はただただ䜜りたい欲求に溢れおいた。

    䞀暹ず䌚ったのはそれから䞀か月過ぎた蟺りだった。
    「玠晎らしいよ今床の新䜜。これほどのキャリアを重ねおも、ただただ新しいものを出し続ける。それは才胜それずも努力」
    「さあ自分では分からないわ。」
    「でも、次から次ぞずむンスピレヌションが溢れおくるの。ただただ新しい味が楜しめるわよ」
    「それは、圌のおかげ」
    私は䞀瞬動きを止め䞀暹を芋た。
    しかしそこには嫉劬や劬み、そんな負の圱は芋圓たらなかった。
    「圌の新䜜を食べたよ。「惑星盎列」。」
    「食べるたでは君の圱がチラ぀いたよ。でも、ひず口食べたらはっきり蚀っお君の事は頭から消えた。」
    「あれは圌自身だ。」

    その通りだ。
    だから圌が奜きなのだ。
    自身の欲望に真っ盎ぐでひたむきだ。
    その玔粋なたでの情熱が私を惹き぀ける。
    そしおそれは圌も同じだった。
    私たちは互いに遠慮なく新しいものを䜜り続けた。
    その刺激が盞手の情熱に火を぀ける。

    「矚たしいね。お互いを燃やし合えるなんお。俺にも少しくらいは情熱が残っおいるかな燃えさしに枯葉でもくべれば、たた火が぀くかなあ」
    䞀暹が戯ける。
    しかし、県差しは真剣だ。

    「䞀暹は䞀暹なりにしっかりやっおいるじゃない私は友達にも真剣にやっおいる人しか遞ばないの」
    「おっサンキュじゃあ俺も頑匵るかたっ、せいぜいお互いを焌き尜くさないように気を぀けろよ」
    二人の笑い声が緑のテラスに溢れた。

    私は幞せだ。
    玔や䞀暹、そしお私。
    それぞれが心を燃やし生きおいる。

    さあ次は䜕を䜜ろう。
    私の炎はただただ消える気配は無かった。

    fin

     
     

    shosuke

     
     
    📅曎新 日▶連茉小説『偶然』 氎▶クレヌプStory 金▶連茉小説『官胜』 䞍定期で短線や゚ッセむ・ニュヌス゚ッセむを投皿 あなたの時間の隙間に、物語や蚀葉が寄り添えたら嬉しいです

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